いしわたり淳治のWORD HUNT

誰も聞いたことのない言葉遊び GOOD ON THE REEL『背中合わせ』の新しさ

音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。この連載では、いしわたりが歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。今月は次の4本。

 1 “背中合わせ 合わせられる距離なら 向かい合えるはずだった”(GOOD ON THE REEL『背中合わせ』歌詞)
 2 “今日から俺は!!”(西森博之)
 3 “非まじめ”(森政弘)
 4 “その人を三つのワードで例えられたらいい”(ファーストサマーウイカ)

最後に日々の雑感をつづったコラムも。そちらもぜひ楽しんでいただきたい。

いしわたり淳治 今気になる四つのフレーズ

誰も聞いたことのない言葉遊び GOOD ON THE REEL『背中合わせ』の新しさ

映画『酔うと化け物になる父がつらい』の主題歌、GOOD ON THE REELの『背中合わせ』の歌詞がすばらしかった。サビの「背中合わせ 合わせられる距離なら 向かい合えるはずだった」というフレーズが特にいい。

聞いた瞬間、誰もがちゃんと意味が分かって、それでいてまだ誰も聞いたことのない言葉遊びがなされていて、頭の中に思い当たるエピソードがひとつふたつ思い浮かんで、しかも心が温まる。こういう歌詞はいざ書こうと思っても、なかなか書けるものではない。このフレーズを見つけられた彼らのセンスと努力を心から称賛したい。
ステイホーム期間、世間ではコロナ離婚なんて言葉もよく耳にした。おそらく今この瞬間も、一つ屋根の下で背中合わせで暮らしている人たちが、たくさんいるのだろうと思う。この歌がそんな人たちの耳に届いたら何かが変わるかもしれない。こういう歌は、世の中を少し良い方に変えられる力を持っているのではないかしらと、ふと思った。

誰も聞いたことのない言葉遊び GOOD ON THE REEL『背中合わせ』の新しさ

一昨年のドラマが好評だった伝説のツッパリ漫画『今日から俺は!!』の劇場版のCMや番宣などをこのところよく目にする。私は、この『今日から俺は!!』というタイトルを見るにつけ、なんと素晴らしいタイトルだろうと心の中でいつも思っている。

本来なら一番肝心な部分であるはずの、「今日から俺は」の後が、空白になっているというのが、ものすごい発明というかすばらしい表現だなと思うのだ。

ここには“何を”“どうする”のかは一文字も書かれていないのに、「!!」の記号だけで、昨日までの俺と決別したい、生まれ変わるんだという切実な願いのような、ポジティブで熱い衝動をバリバリに感じる。根拠のない自信やでっかい夢や希望や憧れだけを胸に詰め込んで生きていた青春そのものという感じがする。

青春時代に青臭いギターロックバンドでデビューした私も、気がつけばもう42歳。青春の思い出は日ごと薄れていき、気を抜けば老後の話を始めてしまうような年頃である。

ある日、『今日から俺は!!』のCMを見ながら、ふとその後ろに自分なりに言葉を付け足してみようと思いついた。咄嗟(とっさ)に出た言葉は、「今日から俺は……酒を減らす!」だった。なんて辛気くさい決意だろう。こんなにも健康を気にしてるんだなあ、と自分でも笑ってしまった。

それ以来、会った人に「“今日から俺は”の後ろに、自分なりに言葉を続けてみて」とたずねる遊びを始めてみた。急に聞くと、その人の深層心理が見え隠れするというか、妙にピュアなことを口に出すから面白い。「今日から俺は、貯金する!」だの、「今日から俺は、スクワット100回!」だの、「今日から俺は、やさしくなる!」だの。

ふと、まだ青春も経験していない5歳の息子にもたずねてみると、返ってきた答えは「きょうからおれは、そのままでいる!」だった。すばらしい自己肯定感。これが本物のポジティブというものなのだな、と感心した。

誰も聞いたことのない言葉遊び GOOD ON THE REEL『背中合わせ』の新しさ

ロボット研究の第一人者である森政弘さんの著書『「非まじめ」のすすめ』が面白かった。私はこれまで、「まじめ」の反対側には「不まじめ」があって、その中間にはどちらともつかない、いわゆる「ふつう」みたいなゾーンが幅広くあって、すべての人はそのグラデーションの中のどこかに存在しているのだと思っていた。でも、そういった直線的な観点の外側に、「非まじめ」という観点があるのだと気がついた。

ここでいう「非まじめ」とはどういうものかというと、たとえば学生に“揺れる電線に鳥が落ちずに止まっていられるのはなぜか”という問題を出した時、まじめな学生なら、“落ちそうになったらしっぽや首や羽などを動かして体の重心をずらして……”というようなことを答える。不まじめな学生なら、大して考えもせず“それが鳥だから”などと答えるだろう。

では、「非まじめ」はどうかというと、“飛べるから”と答える。もし人間が電線に立とうものなら恐怖で体が硬直して簡単に落下してしまう。でも、鳥はもしもの場合は飛べるし、そもそも“いつでも飛べばいい”という心の余裕があり、体も心も柔軟だから失敗せずに止まり続けていられるのではないだろうか、と考える。

言われてみれば、たしかに人間がもし二足歩行できなかったら、日々の暮らしの中でこんなにも立って暮らしてはいないだろうと思う。私たちは無意識で「もしもの場合は、歩けばいい」と知っているから、立っていられるのかもしれない。

そして、それはつまり人生においても同じことが言えるような気がする。仕事で何か上手(うま)くいかないことがあって、強い向かい風が吹いていたとしても、転びそうになったら前でも、横でも、後ろでも、歩き出せばいいという心の余裕があることが大切なのではないか、と。絶対にここで転んではいけない、一歩たりとも後ろに下がってはいけない、などと思えば思うほどに体も心も思考も縮こまって、むしろ失敗をしてしまうものなのかもしれない。

基本的にロボットというのはバカ正直といってもいいくらいに、非常に「まじめ」な動きをするものである。柔軟な遊び心みたいなものは人間ならではのものなのだろう。第一線でロボット制作に携わる人の目線で語る「非まじめ」の話は、人間とは何かを探るような興味深い話だった。誰も聞いたことのない言葉遊び GOOD ON THE REEL『背中合わせ』の新しさ

7月7日放送のテレビ東京「あちこちオードリー〜春日の店あいてますよ?〜」で、ファーストサマーウイカさんが自身の下積み時代から現在までについて話していた。彼女いわく、売れている人を研究した結果、「その人を三つのワードで例えられたらいい」という法則のようなものを見つけたのだそう。オードリー春日さんなら「ピンクのベスト、1:9分け、トゥース」というように。そこで彼女は「かきあげ前髪・関西弁・ヤンキーキャラ」と並んだ時に自分が連想されるように、自分自身をアイコン化していったのだそう。群雄割拠のアイドル戦国時代を生き抜いてきた彼女らしい視点だなと感心した。

私もかつて新人アーティストをプロデュースするときなどに、同じようなことを考えたことがあって、よく「どんなランキングでもいいから1位をとろうぜ!」と言っていた。それが「Apple Music デイリーロックチャート、1位」とかならもちろん最高だけれど、そんな大そうなものでなくても、「カップラーメンを待つ時間に聞きたい曲1位」でも、「鼻毛を抜きながら聞きたい曲1位」でもいい。いや、そんなランキングがあるかは知らないけれど。でも、どんなランキングであれ、「1位」というワードには、ちょっと聞いてみようかなと思わせる不思議なパワーがあることは確かだ。

とはいえ、どんなランキングであれ、順位は操作できるものではないので、1位をとるための明確な手立てがなく、結局はとにかくいい曲を作ろうぜ、みたいな漠然とした着地になってしまうだけだった。

その点、彼女の「三つのワードで」というのはよくできている。まず、自分自身でやり方を完全にコントロールできるのがいいし、さらに「三つ」というのが柔軟でいい。「かきあげ前髪といえば誰?」「関西弁といえば誰?」「ヤンキーキャラといえば誰?」という、それぞれのランキングのどれも1位でなくてもいいのである。10位でも20位でもいい。その三つを“合わせた時”に思い浮かぶのが自分一人であればいいのである。これは明日から誰もが試せる「人の印象に残る自分」を手に入れる方法のひとつだなと思った。

<<mini column>>
無駄話をしましょう

仕事の打ち合わせがZOOMで行われることも増えて、出かけなくてもいいだなんてあら便利と素直に思う半面、少しの寂しさを感じるようにもなってきた。

ZOOMで打ち合わせをすると、基本的には誰かが喋(しゃべ)ったら、それを皆が聞く形になってしまう。ちょっとした相槌(あいづち)ひとつでも、相手の音声を途切れさせる原因になるから、無言でうなずくなどして意思表示をする。でも、そうなると極めて薄い無音のリアクションの中で自分一人だけが喋ることになって、心細くなって、どんどん余計なことは言わなくなり、必要最低限のことしか、言わなくなってくる。結果的に雑談ゼロのソリッドな打ち合わせになったりする。

でも残念ながら、人の個性というのは事前に用意したまじめな発言よりも、とっさの無駄話の方にこそ多く現れる。私は普段からテレビをよく見ているけれど、テレビを見る習慣のない人からすれば、テレビを見る時間なんて「無駄」だと思うだろう。でも、テレビを通して私は世の中を定点観測している感覚なので、私にとっては無駄でも何でもなく、自分の個性のひとつくらいに思っているのだけれど、ZOOMで打ち合わせでは、自分だけが「昨日のあの番組見ました?」なんて無駄話を言いだすのははばかられる感じがする。

以前なら、作詞家という仕事は自宅作業がほとんどなのだから、東京で暮らす意味もないのではないかと思っていたけれど、こうして実際にZOOMで打ち合わせをするようになって、最近はむしろ東京にいたいと思い始めている。気軽に誰かの“無駄”な部分に触れたいし、自分も“無駄”な話をしたいから、さっと会って話せる距離にまだしばらくは “無駄”に居続けたいような気がしている。

 

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PROFILE

いしわたり淳治

1997年、ロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビュー。全曲の作詞とギターを担当。2005年のバンド解散後は、作詞家としてSuperfly、SMAP、関ジャニ∞、布袋寅泰、今井美樹、JUJU、少女時代、私立恵比寿中学などに歌詞を提供するほか、チャットモンチー、9mm Parabellum Bullet、flumpool、ねごと、NICO Touches the Walls、GLIM SPANKYなどをプロデュース。現在オンエア中のコカ・コーラCM曲「世界はあなたに笑いかけている」(Little Glee Monster)や、情報番組『スッキリ』(日本テレビ系)のエンディングテーマ曲「Electric Kiss」(EXO)の作詞も担当するなど、さまざまな音楽ジャンルを横断しながら通算600曲以上の楽曲を手掛ける。

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