一眼気分

コロナに翻弄(ほんろう)され、天気に翻弄されたスーパーGT2020開幕戦

新型コロナウイルスの感染拡大は、全てのイベントに大きな影響を与えている。本来なら4月に開幕する予定であった自動車レース「スーパーGT」の2020年シーズン開幕戦が7月17~18日、静岡・富士スピードウェイで“無観客”という前代未聞の環境の中、3カ月以上も遅れて開催された。

待ちに待ったシーズンの開幕だが、今年ばかりは勝手が違う。今もなお感染者が増えつつある状況下でのイベント開催は、主催者にも参加者にもリスクが伴う。だから関係者は2週間前から毎日検温をして提出、当日もゲートで検温を済ませ、メディアセンターへの入館はソーシャルディスタンスを確保するため、70名に限定された。

コロナに翻弄(ほんろう)され、天気に翻弄されたスーパーGT2020開幕戦

コロナに翻弄(ほんろう)され、天気に翻弄されたスーパーGT2020開幕戦

イベント開催の是非をここで語るつもりはないが、メディアのメンバーにもどことなく緊張感が漂っていた。サーキットでの滞在時間を限りなく少なくし、滞在先も含め会食などは禁止。見事にサーキットとホテルの往復だけという取材環境は、色々な経験をしてきた僕でも初めてのことだった。

個人的な話だが、シーズンオフの2月に最新の機材(Canon EOS-1D X MarkⅢ)を2台導入していた。しかし、5カ月間使用する機会もなく防湿庫で眠っていた。ようやくこのレースで使うことになったわけだが、いつもなら新しい機材を導入するとモチベーションが上がるのに、取材環境も含め今回はなんとなく気分が盛り上がらない。こんな状態で果たして納得できる写真が撮れるのだろうか? と不安になった。

そんな心配を抱えながら、長い準備期間を乗り越えてようやくたどり着いた富士スピードウェイは、僕の苦手な梅雨らしい空模様。マシンの搬入日、土曜のフリー走行は霧と雨で各レース車両は思うように走れない。今回から予選と決勝をワン・デイで行うスケジュールなので、忙しさは半端じゃない。

コロナに翻弄(ほんろう)され、天気に翻弄されたスーパーGT2020開幕戦

コロナに翻弄(ほんろう)され、天気に翻弄されたスーパーGT2020開幕戦

またメディア用のシャトルバスもなく、各自で最寄りのパーキングに車を止めて、撮影する。それってむしろ楽じゃない?と思うかもしれない。だが通常はコースサイドに入るとフォトグラファーはワン・ウェイで、コース上を移動しながら撮影をする。しかし、今回はパーキングからゲートを抜けて撮影ポイントまでを往復しなくてはならず……ロスタイムが多く、必然的に撮影ポイントも限られてくる。

週末の天気予報では雨の予報が出ていたこともあり、僕はウェットでの撮影を基本にシミュレーションを重ねた。移動時間を最短に、撮影時間を最長にするためにはどう動けばよいか。そのために今回は撮影しない(できない)ポイントもでてくるが、それは仕方がない。そして自分なりにおおよそのレース中の動き方がまとまったのだが……。

コロナに翻弄(ほんろう)され、天気に翻弄されたスーパーGT2020開幕戦

コロナに翻弄(ほんろう)され、天気に翻弄されたスーパーGT2020開幕戦

迎えた日曜日。なんとも皮肉なもので予選が始まる頃には路面が乾きだし、決勝のスタート直前には「真夏の富士」が帰ってきた。となれば雨を前提にしていた撮影ポイントも変更するしかない。

あとは勘と閃(ひらめ)きの勝負!

この限られた時間と環境の中、少しでも違うアングルを求め、歩いては撮影を続ける。無観客のコース沿いを、夏の日差しを浴びながら歩いているとなんとも不思議な感覚に陥った。自分がいるのはいつものサーキットだが、見知らぬサーキットにいるような気分になった。ふと我に返り、いつも以上に時間を気にしながら撮影を続ける。

コロナに翻弄(ほんろう)され、天気に翻弄されたスーパーGT2020開幕戦

コロナに翻弄(ほんろう)され、天気に翻弄されたスーパーGT2020開幕戦

次のコーナーまで行ったら引き返そう、そう思ったコーナーでまるでご褒美のような斜光線の場面に出会った(冒頭の写真)。

歩いてきてよかった! 撮影していてよかった! この瞬間はフォトグラファーだけが知る快感だろうと思うが、こんな小さな喜びでも達成感はあるし、自己満足かもしれないが納得できる撮影だった。

観客のいないサーキットは最後まで不自然だったが、レース・イベントは滞りなく終えた。そして、どんなエンターテインメントでも観客がいることが大前提に成り立っていると実感した。正直に言えば、僕の気持ち的にはやはり盛り上がりに欠ける。だが感染拡大のリスクを考えると、こんな状態でもレースができたことを素直に喜ぶべきであろう。

コロナに翻弄(ほんろう)され、天気に翻弄されたスーパーGT2020開幕戦

コロナに翻弄(ほんろう)され、天気に翻弄されたスーパーGT2020開幕戦

メディアセンターに戻ると、久しぶりの撮影で心身共に心地よい疲労感が襲ってきた。撮影後のデータを開き、セレクトをしながら自らの頭の中で今日の撮影を思い起こす。そして次のレースの撮影に想(おも)いを馳(は)せる……。

そう、今シーズンはコロナの影響で使用するサーキットが限定され、あと3レースもこの富士スピードウェイでの開催が予定されている。毎回異なる画(え)を提供していきたいという思いはあるけれど、撮影ポイントは限られてくる。

新しい表現方法や普段はあり得ない観客席からの撮影など、色々と想像を巡らせるが実に悩ましい。この与えられた環境でどんな画を撮るのか? フォトグラファーのアイデアと引き出しの多さが勝負になる。その意味においてはチャレンジングで楽しみでもあるのだが。

できれば一日も早くコロナ禍が収束して、観客で埋め尽くされたグランドスタンドを眺めながら、いつものようにレースシーンの撮影ができることを願わずにはいられない。

コロナに翻弄(ほんろう)され、天気に翻弄されたスーパーGT2020開幕戦

PROFILE

宮田正和

東京浅草生まれ。1984年のロサンゼルス・オリンピックをはじめ、NBAバスケットボール、各種世界選手権、テニスのグランドスラム大会、ゴルフの全英オープンなどスポーツを中心に世界を舞台に撮影を続ける。1987年、ブラジルF1グランプリを撮影。マシンの持つ美しさ、人間模様にひかれ、1988年よりフランスのパリ、ニースに4年間ベースを移し、以来F1グランプリ、オートバイの世界選手権、ルマン24時間耐久レースなどモータースポーツをメインテーマとして活動を続ける。AIPS(国際スポーツ記者協会会員)A.J.P.S(日本スポーツプレス協会会員)F.O.P.A(Formula One Photographers Association会員)

ピットにたたずんだアイルトン・セナ 写真の魅力を実感した一枚

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