パパ友がいない

「他人の意思で日常が変わるのが嫌だった」子供を増やすことへのためらい

連載「パパ友がいない」は、3歳と0歳の二児を育てる小説家・白岩玄さんが、新しい父親像を模索するなかで感じたことを思いのままにつづります。自分と同じように、親として悩みや葛藤を抱えるパパたちに呼びかけるように――。

#04 二人目を持つのを迷った理由

第二子である娘が生まれて二カ月が経つ。3歳と0歳、二人の子どもの世話をするのはそれなりに大変ではあるが、初めての子どもという気負いがないせいか、一人目のときに比べると、いくらか余裕を持って育児をすることができている。何より日中、娘がきちんとまとまった時間昼寝をしてくれるのがありがたい。長男は新生児の頃からとにかく寝ない子どもだったので(昼間は三十分以上寝たことがなかった)、二人目にして初めて一般的な赤ちゃんの生態を目の当たりにしているというか、こんなに寝るものなんだと驚いている。

正直に言うと、二人目を持つことについてはかなり悩んだ。妻はずっと欲しがっていたのだが、ぼくがあまり乗り気ではなかったのだ。単純にお金の心配もあったし、普段から育児をしていると、子どもを育てることの大変さが身にしみてわかっている。だからなかなか賛成できなくて、「たしかにもう一人増えたら楽しいとは思うけど、一人でもこんなに大変なのに難しくない?」とずっと断り続けていた。

でも、今考えると、それは半分本当で半分嘘だったと思う。なぜなら、実際は育児が大変そうであることよりも、他人の意思で自分の日常が変わるのを嫌がる気持ちの方が大きかったからだ。

これは自分の悪いところだと自覚しているのだが、ぼくはもともと変化を好まない傾向がある。毎日似たような生活をするのがあまり苦にならなくて、とにかく家にいるのが好きだし、人に会ったり、遊びに行ったりするのが苦手だ。同じ理由で、旅行にも行きたいと思わないので、それが何よりの楽しみである妻とよくケンカになる。現地に行ってしまいさえすればそれなりに楽しめるし、揉めたりもしないのだが、旅行当日の朝の、今ここにある日常から追い立てられる感じが好きじゃないのだ。決して安くはないお金を払って、なぜ居心地のいい場所から離れなければいけないんだと思ってしまう。

もっとも、全部が全部そうというわけではなく、自分が望む変化については、あっさり受け入れたりもする。同じ子どもを持つことでも、上の子のときは反対しなかったのは、もともと一人は子どもが欲しいと思っていたからだ。それに、自分が面白いと思ったものには、誰が何と言おうと踏み込んでいく無鉄砲なところもある(でなければ、ものを書く仕事なんてできるわけがない)。要は自分の気が乗らなければ、とにかく今いる場所から一歩も動きたくない人なのだと思う。

そんな具合なので、それなりに安定していた自分の日常が、妻の希望で不安定なものに変わってしまうのが嫌だったのだ。特に子どもは、一度産んだら取り返しがつかない上に、一生付き合っていくものでもあるので、余計に慎重になっていた。

じゃあ、なぜ、そんなぼくが二人目を持つ気になったのかと言えば、ひとつはやはり妻のことだ。実際に子どもを産む側である彼女が欲しいと言っているのに、ぼくのわがままでその望みを断ってしまうのはどうなんだというのは、絶えず気になっていた。子どもは産むなら早く産んだ方がいいのだし、仕事のキャリア的にもこのタイミングを逃すとこの先どうなるかわからないと言われていたので、妻のそういった切実な声を無視して我を貫くのは忍びなかった。

もうひとつは、ぼくの「望まない変化を拒もうとする性格」が、実は他人に対する支配欲と密接に関係しているのではないかと以前から思っていたからだ。これは昔から抱えている自分の弱さなのだが、ぼくは臆病であるがゆえに、目の前にいる人や場を支配したがる傾向がある。それなりに説得力があるような言葉や態度で相手の言い分を御し、自分の枠の中におさめることで安心しようとしてしまうのだ。望まない変化を受け入れることも、支配できていないことと同義なので、居心地が悪くなってしまう。本当に恥ずかしいのだが、自覚していても折に触れて露呈する自分のダメな部分だから、これからも継続して改善できるように努めていくしかないのだろう。

なので、もし二人目をためらう理由がこの悪癖に起因するのなら、なおさら自分の主張は引っ込めるべきだと思ったのだ。ちっぽけな支配欲で、自分の考える枠の中に家族を閉じ込めようとするくらいなら、どうなるかわからない不安を抱えたまま、新しい子どもや、より大変になる家族との関係の構築に悪戦苦闘している方がずっといい。他人を受け入れ、辛抱強く付き合っていくことが、人の度量を大きくしてくれるのだ。特にぼくのような、小心者で、人と人との関係性から逃げがちな人間は、ちょっと楽になったり、安心したりするたびに、支配欲を疑うくらいでもいいと思う。

今、ぼくは二児の父親として、妻と協力しながら子育てに追われているが、二人目を持ったことを後悔したことは一度もない。娘はかわいい。最近、ぼくらの顔を見つけると笑うようになって、ますますかわいくなった。付き合っている時間の長さの問題なのか、まだ息子の方が結びつきが強い感じはするし、女の子だからといってデレデレになったりもしていないのだが、大事な存在であることに変わりはない。

でも、それはそれとして、ぼくは自分自身に目を向け続けなければならないと思うのだ。家族と気持ちよく付き合っていく上で、他人を自分の枠内に閉じ込めようとする支配欲はどうしたって邪魔になる。もちろん変化を拒むことのすべてを支配欲と結びつける気はないし、やりたくないことを無理してやる必要はないのだが、自分の心の安寧のために家族の自由を奪うようなことはしたくない。変わらなくていい部分と、変わるべき部分を見極めながら、日々の生活をいい意味で予想外のものにしていきたいものだ。

「他人の意思で日常が変わるのが嫌だった」子供を増やすことへのためらい

(イラスト・Tomomi Takashio)

★次回記事「面倒くさい趣味」はこちら

【連載目次】

PROFILE

白岩玄

1983年生まれ。京都市出身。2004年、小説『野ブタ。をプロデュース』で文藝賞を受賞し、小説家デビュー。同作は芥川賞候補作になり、テレビドラマ化。70万部のベストセラーになった。著書に『空に唄う』『愛について』『未婚30』『ヒーロー!』『たてがみを捨てたライオンたち』など

「歯を食いしばれ」涙と疎遠になった言葉に縛られて

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