パパ友がいない

時間にもお金にも余裕がないけれど……子育て中も続ける二つの趣味

連載「パパ友がいない」は、3歳と0歳の二児を育てる小説家・白岩玄さんが、新しい父親像を模索するなかで感じたことを思いのままにつづります。自分と同じように、親として悩みや葛藤を抱えるパパたちに呼びかけるように――。

#05 面倒くさい趣味

家庭に小さな子どもがいると、趣味の時間を持つのが難しいなとつくづく思う。独身の頃は、自分が望めばいくらでも趣味にお金と時間をかけることができたわけだが、子育てという、趣味以上にお金と時間を必要とするものが日常の大半を占めるようになると、どうしたって個人の趣味なんてものは、隅に追いやられてしまうからだ。

といっても、ぼくは「趣味はなんですか?」と訊(き)かれたら、いつも「特にないっすね」と答えるくらいには無趣味なのだが、自分の生活を振り返った際に、他のことに比べて比較的よくやっていることが二つあるので、今回は子どものいるぼくが、父親になっても続けている趣味(のようなもの)を紹介したい。筋トレとゲームだ。

筋トレについては、ぼくと実際に会ったことがある人なら、おまえのどこにそんな筋肉がついているんだ?と訝しむかもしれない。たしかにぼくは痩せ型で、一般的な男性に比べても腕や脚は細いと思う。長年水泳をやっていたため、胸まわりの筋肉が体形の割に発達していたりはするが、いずれにしても筋肉質とは言えない体だ。

そんなぼくが、家でちょくちょく筋トレをしている。腕立て伏せやダンベル運動をする程度なのだが、20代の頃は熱心にジムに通っていたこともあった。でも結局のところ、ずっと続けているわけではなく、やったりやめたりを繰り返している。冒頭ではっきり趣味だと言えなかったのも、それが理由だ。

たぶんぼくは、筋トレ自体、あまり好きではないのだろう。多くの人にとってのダイエットみたいな感じかもしれない。しばらくやっていないと、自信を持って人前に立てないような気がしてしまうのだ。だから、ある程度やってその不安が解消されると、自分を甘やかしてやめてしまう。よく知られているように、筋トレは続けないと筋肉が落ちてしまうので意味がないのだが、それを知識として知っていても継続することができないのだ。

加えて、ぼくの場合は、根気がないだけでなく、筋トレをする自分自身に疑念を持っていたりする。ぼくはどこかで「筋肉質な体」に憧れを持っているから筋トレをしていると思うのだが、その半面、そうした体に憧れるのは、男としての自信を欲しがっているからだろうな、とも思うのだ。がっしりとした体は、わかりやすい「強さ」の象徴なので、それを手に入れることで自信を得ることができる。でも、そうして得た自信は、どちらかと言うと、他人に見せるための自信であって、むしろ見栄(みえ)に近いだろう。そんなものを手に入れるために日々筋トレをするのかと思うと、なんだか虚(むな)しくて情熱を向けられなくなってしまう。

まぁ、そんなことを言っておきながら、しばらくやっていないと心もとなくなるのが情けないところだが、そういう事情もあって、もう必要ないと割り切れずにずるずると続いているのが、ぼくにとっての筋トレだ。

時間にもお金にも余裕がないけれど……子育て中も続ける二つの趣味

唯一ストレスを感じない意外なこと

さて、もう一つの趣味である「ゲーム」について。こちらは筋トレとは違い、子どもの頃からやっていたし、特にここ数年は、本当の趣味になりつつある。そういう意味では(続けるのが楽だからというのもあるが)、ゲームをすること自体は好きなのだと思う。

ちなみにジャンルとしては、RPGやアクション、シミュレーションなどいろいろやるが、近頃はもっぱら「PvP」という、世界中のプレーヤーとオンラインで対戦するものが多い。有名なタイトルで言えば「フォートナイト」がそうだ。100人のプレーヤーが、一つの島に降り立って、最後の1人(もしくは1チーム)になるまで戦う。インターネットが当たり前のように普及した現代ならではのゲームと言えるだろう。

PvPの面白さは、何よりも相手が人間であることだ。目の前に現れる敵がコンピューターではなく、実際に人が動かしているので、動きの読み合いが生まれるし、だからこそ倒したときの快感も大きくなる。さらには友達とチームを組んで協力することもできるので、そのあたりは完全にスポーツのチームプレーと同じだ。ゲーム内のチャットで喋(しゃべ)りながら連携をとり、戦いを制して最後の1チームになれたときはかなり嬉(うれ)しい。

ただ、ゲームの構造上、どうしても弱肉強食の世界になってしまうため、そこがときどきしんどく感じることはある。下手な奴(やつ)をとことん下に見る世界というか、負けた相手をばかにする「煽(あお)り」と呼ばれる行為がよく見られるし、動きのおぼつかない初心者が嫌がられることも少なくない。相手の顔が見えないオンラインゲームだからこそ、陰湿さが増す部分もあるのだろう。ぼく自身は経験したことがないが、チーム戦で自分が足を引っ張ってしまった場合、一緒にプレイした顔も知らないプレーヤーから「下手くそ、やめろ」とメッセージが送られてくることもあるらしい。

もっとも、そういうのが気になってしまう人は、正直あまりPvPのゲームは向いていないのだと思う。下に見られるのが嫌なら、練習して上手(うま)くなればいいというのが、おおかたのプレーヤーたちの考えだからだ。ただ、わかってはいるのだが、ため息が出ることもある。遊びにしてはやや心労が多いので、自分の子どもがもしやりたいと言い出したら、そこはちょっとためらうところだ。

仕事や家事育児に追われる中、ただでさえ少ない余暇を使ってやっている趣味なのだから、もう少し気楽に楽しめることをした方がいいんじゃないかと自分でも思うことはある。でも、そうやって考えていくと、ぼくが何のストレスもなくやれるのは、家の掃除くらいになってしまって(ぼくは掃除が大好きなのだ)、趣味の時間まで家中を掃除する謎の男ができあがるので、どうもそこには踏み出せずにいる。

ちなみに、筋トレもゲームも、ぼくはそれらをしている姿をあまり息子に見せたくはない。7割方見栄のためにやっているトレーニングなんて全然格好のいいものではないし、テレビゲームについては、あまり小さい頃からやらせたくはないからだ。

ただ一方で、この原稿に書いた、ぼくが筋トレやゲームに対して感じている「ためらい」については、大人になるまでに息子には一度くらい考えてみてほしいなと思う。趣味の時間が、それをしているあいだは自分のことが好きになれるようなものであるなら何も言うことはないが、自分より下を作って安心したり、他人を征して悦に入ったりすることが多いものになっているのであれば、それは人としてちょっと危ないからだ。

うーん、やはり掃除をするのが一番いい気がしてきた。

時間にもお金にも余裕がないけれど……子育て中も続ける二つの趣味

(イラスト・Tomomi Takashio)

★次回記事「息子にしたい性教育」はこちら

【連載目次】

PROFILE

白岩玄

1983年生まれ。京都市出身。2004年、小説『野ブタ。をプロデュース』で文藝賞を受賞し、小説家デビュー。同作は芥川賞候補作になり、テレビドラマ化。70万部のベストセラーになった。著書に『空に唄う』『愛について』『未婚30』『ヒーロー!』『たてがみを捨てたライオンたち』など

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