シネマコンシェルの部屋

#06 恋人が音信不通になり、気持ちに整理がつきません(コンシェルジュ:FROGMAN)

読者の皆さまから寄せられた相談やお悩みに、映画を愛する様々な分野の方々が寄り添い、最適の作品を紹介する隔週連載。

コンシェルジュは映画コメンテーター/タレントのLiLiCoさん、CGクリエーター/映画監督のFROGMANさん、カラテカ・矢部太郎さん、Base Ball Bear・小出祐介さんの4人です。今回のコンシェルジュはFROGMANさんです。

<01> 疎遠になってしまった友人とあの頃のような関係に戻るには<01> 疎遠になってしまった友人とあの頃のような関係に戻るには

#02 中年になっても終わらぬ自分探しの「旅」(コンシェルジュ:FROGMAN)

FROGMAN

映像クリエイター、声優、監督。長年、実写映画・ドラマの世界に身を置く。2006年DLE入社。07年9月より取締役就任(現任)。06年に「秘密結社 鷹の爪」を地上波で発表した後、07年には劇場公開。その後、テレビ・映画シリーズを次々と公開。その他「古墳ギャルのコフィー」や「土管くん」などオリジナルIPを多数創出。独自の世界観とプロデュース手法が人気を呼び、「島耕作」シリーズ、「天才バカボン」等の有名原作のパロディー化によるリプロデュースにも従事。08年度ニューヨーク国際インディペンデント映画祭にて、「アニメーション部門 最優秀作品賞」「国際アニメーション最優秀監督賞」をダブル受賞。12年4月、しまねコンテンツ産業振興アドバイザー(しまねだんだん★メディアアドバイザー)就任。13年11月、松江市観光大使就任。

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<相談者プロフィール>

高橋雅子(仮名) 28歳 女性

東京都在住 Webデザイナー

 

アメリカの大学在学中にハワイを訪れ、アメリカ本土へ戻る途中、飛行機が大きな嵐に遭(あ)い、ハワイの小さな孤島に取り残されました。

対応に追われるカウンターには長蛇の列、一番後ろに並んでいた在米モロッコ人の男性もまた、島に取り残された一人でした。

何しろ長い列だったので、お互いの身の上話をしつつ、航空会社が用意したホテルへも一緒に移動。その後、雄大な星空の下、「昔から知っていた親友にまた巡り合ったようだ」と、告白されました。

当時交際していた人がいたので、その場は断り、留学先の街に戻りました。しかし、悩んだ末、私も彼のことを同様に大切に思っていることに気付き、以前より交際していた彼と別れ、付き合うことになりました。

米国内での2500kmの遠距離を乗り越え、互いになくてはならない存在だと言い合うほどに関係性を育んで行きました。

その後、私の就職を機に日米間での国際遠距離恋愛になりました。休みを調整し彼を訪ね、一緒に山奥の温泉や湖に出かけ、二人の時間を大切に過ごしていました。私が喜ぶことを一番に考えてくれる思いやりのある人でした。日本で働いてしばらくしたら、私もアメリカに戻ろうと決心していました。

ところが、1年ほど前、突然彼と音信不通に。彼の会社の業績が良くないことは知っていましたが、職場の電話も繋(つな)がらず、個人の電話もアプリも何もかもが繋がりません。

何がなんだかわからない、気の休まらない日々が続きました。やっと電話回線だけ通じるようになっても返信はなく、今も行方がわかりません。

自分の人生の中で、かけがえのない人だったので、いきなりいなくなったショックは計り知れず、付き合った3年間は何だったのかと、いまだに心はグルグルとした渦の中にいます。次にまた恋ができるのかも、今はわかりません。ですが、今回のことを受け止め前を向いて元気になりたいという気持ちはあります。

そんな私が少しでも元気になれるような映画があれば、ぜひ教えてください。

失恋の思い出も、いつかは映画のような存在に

いやぁ、今時こんな出会いってあるんですね。まるでドラマか映画みたい。

私の周りではすでにマッチングアプリで出会いを求めるのは普通みたいで、今や恋愛も効率の時代に。

そりゃ1年以上会えない今でも、相手を想(おも)う気持ちが収まらないのも無理はありません。まさに運命の人。

でも人とのつながりって本当に時と共に移ろうもので、永遠の愛を誓ったパートナーですらあっさり別れたり、どっちかが先に死んだり、かならず別れを経験しなくちゃなりません。

そのつらさを、コートみたいにさっと脱ぎ捨てられたら……。

そんなあなたに処方するのがこの映画。ミシェル・ゴンドリー監督の『エターナル・サンシャイン』(2004)。ちょっとベタかもしれませんが、やっぱりこの作品にいきつきました。

決して遠距離恋愛を扱ったものではありませんが、愛(いと)しいゆえに忘れたい、でも忘れがたい。そんな男女の揺れ動く心を映像の変態、ミシェル・ゴンドリー監督と同じく脚本の変態、チャーリー・カウフマンが空前絶後の恋愛ファンタジーに仕上げました。

物語はあの顔面ゴム男ジム・キャリーとは思えないくらいの、覇気のないけだるい表情のアップから始まります。彼の名前はジョエル。ここでは憂鬱(ゆううつ)な理由は見ている側に明かされませんが、会社をさぼっていつもとは逆方向の列車に飛び乗り、真冬のモントークの砂浜へ一人訪れます。

そこで出会ったのは青い髪をした奔放な女性クレメンタイン。これを『タイタニック』で、ディカプリオと共に風を受けたケイト・ウィンスレットが演じます。

偶然出会った二人はどんどん引き寄せられて恋仲に。このまま幸せなカップルが次第に険悪になり、様々なドラマが生まれるのかと思いきや、いきなり物語は時系列を飛ばし始め、ジョエルが泣きじゃくる映像になって見ている側を混乱させます。

クレメンタインが働く書店にプレゼントを渡しに行くジョエル。しかしクレメンタインは他の男とキスをしていた上に、あろうことかジョエルのことも忘れてしまっていたのです。いったい何が起きたのか!? 混乱するジョエルのもとに現れたのは「ラクーナ社」の男たち。依頼人の記憶消去を生業(なりわい)とする彼らは、なんとクレメンタインからジョエルの記憶を消してしまったというではないですか。

どうして自分の記憶を消したのか?

ジョエルは狂いそうになりながらも、自分もクレメンタインの記憶を消そうとラクーナ社に依頼するのです。記憶を消す眠りにつきながら、安っぽい装置で思い出の品と共に彼女の記憶を消していくジョエル。

彼女との思い出はいい思い出だけではありませんでした。些細(ささい)なことから喧嘩(けんか)した思い出だったり、奔放な彼女の行動に振り回され閉口する思い出だったり。

しかし凍った湖上で永遠の愛を誓った記憶に至って、ジョエルは記憶を消す眠りの中で心変わりするのでした。彼女との思い出を消したくない!

深層心理の中で二人は、自分たちの記憶を消されないための逃避行を続けます。ここからがミシェル・ゴンドリーの本領発揮。ケミカル・ブラザーズやカイリー・ミノーグのMVで世界を驚愕(きょうがく)させた手腕を遺憾なく発揮していきます。この辺りは理屈抜きでお楽しみください。

で、なんやかんやありまして……

二人は、いっぱい傷つけ合ったにもかかわらず、再びお互いを求める道を選んでいきます。

結論としてはハッピーエンドなんですが、きっとこの二人、今後もいっぱい傷つけ合ったり、罵(ののし)り合ったりするんだろうなと思える終わり方。でも、だから恋愛なんじゃん、と、妙に納得する映画でした。

しかし恋の思い出とは、どうしてこうも忘れ難いものなんでしょうか。

決して未練ではなく、なんとなく鑑賞用になっていくんだと思うんです。思い出の断片を大事に布でくるんで押し入れに仕舞い、そして時々なにかのはずみで引っ張り出して、こっそり眺める存在じゃないかと(少なくとも私は)。

そしてその思い出はワインかウイスキーの原酒みたいに、時を経れば経るほど、味わいを増していくという妙な効果もありますよね。

だから要らないから消すとか、必要だから覚えておくみたいなものではなく、恋の思い出は決して誰の目にも晒(さら)されない、頭の中の自分専用Netflixだと考えてみてはどうでしょうか。

自分の映像ライブラリーに、新しい映画が増えたと思ってみてください(今はまだ無理かな?)。

この『エターナルサンシャイン』の素晴らしいところは、そうやって記憶を当事者が傍観者の視点で一つ一つ吟味する姿勢なんですね。

失恋に押しつぶされそうになった時には、そんな視点に早くなれれば、きっと立ち直りも早いんじゃないかと思います。

そうは言っても、私は大失恋した時、2年くらい引きずりましたが。

FROGMANさん推薦の映画

エターナル・サンシャイン

監督:ミシェル・ゴンドリー

PROFILE

「シネマコンシェルの部屋」ライター陣

LiLiCo、FROGMAN、矢部太郎、小出祐介

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