天才人語

大根仁を魅了する3人の天才 「ジャンルの神様」と渡り合う各界の傑物たちの物語

映画「モテキ」や「バクマン。」などで知られる演出家・映画監督の大根仁。サブカルチャーの世界で自意識に縛られる男子を描く名手だ。

監督作品には、森山未來、妻夫木聡、福山雅治らそうそうたる顔ぶれが並ぶ。邦画を彩る俳優たちの新たな一面を引き出してきた大根にとって、「天才」とはどういう存在なのか。その問いに対し、大根は自身に多大な影響を与えた3人の名前を挙げた。

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北野映画の一つの極みに達した『ソナチネ』

――数多くの才能をご覧になってきたと思いますが、こと天才というと?

大根 パッと思いつくのは、やっぱり(ビート)たけしさんかな。僕らの世代は多いと思いますよ。出会ったタイミングが小学校5、6年生でしたから。人格形成において一番の礎というか。

――当時のたけしさんはどの時期にあたりますか。

大根 漫才ブームじゃないですか。テレビの黄金期に子供時代を送っていたけど、ベタとか普通とかそういう価値観を全部ひっくり返されたというか。目線を与えられた感じ。毒舌な人っていうのはそれまでもいたんでしょうけど、裏読みをしたり、批評性を持って本当はこうだよっていうのを言ってしまえる人って他にいなかったと思う。しかも、ものすごくキャッチーで、ポップスターでっていう。

――その後、大根さん自身が作り手となってからも、たけしさんは意識しましたか。

大根 もちろん。まず職業柄、映画監督・北野武というのは大きな存在ですね。異業種監督でここまで実績を残した人はいないでしょう。才能で言えば、異業種監督でも、キャストやスタッフほか様々な職人の力を借りれば、現場は何とかなるんです。ただ、自分でやっていても思うけど、監督の個性がいちばん出るのって「編集」なんじゃないかと。たけしさんの編集は、それまでの映画の文法とはまったく違っていた。暴力シーンの説明のしなさかげんとか発明レベルだと思う。

大根仁を魅了する3人の天才 「ジャンルの神様」と渡り合う各界の傑物たちの物語

北野武さん/2017年7月6日、篠田英美撮影

――持って生まれたテンポみたいなものも関係しているんですかね。

大根 それもあると思う。画角というか、アングルにしても普通じゃない。そういう北野映画の天才性って、『ソナチネ』で一つの極みに達した気がする。

――ただ、当時の観客にはそれがすぐには理解されなかったと思うんです。

大根 僕は、たけしさんの映画は公開したらすぐ見に行くことにしていて、『ソナチネ』も公開日に新宿の映画館で見たんです。客は3人でした。でも、映画は素晴らしくて、「ああ、これは絶対に世界にいけるな」と。2週間ぐらい経って、もう一回見に行こうとしたら、もう打ち切り。それぐらい国内では受け入れられていなかったですよね。その後、旅番組の取材でカンヌ映画祭に行ったんです。ちょうど何かのタイミングで『ソナチネ』を上映していて、「キタノはすごい!」ってことになってました。

――現役で世界で評価されている日本人監督って、そんなにいないですもんね。

大根 安っぽい言葉ですけど、「映画の神様」とか言うじゃないですか。僕自身、そんなものがいるとは思わないけど、『ソナチネ』までの北野映画は、現場に映画の神様が現れているのにあえて追っ払ってるというか(笑)。中田(秀子)さんっていう北野映画に記録で携わってた方に聞いたことがあるんですよ。「海を撮影してたら、たまたま魚が跳ねた。普通なら思いがけずいいショットが撮れたなってなるところ、たけしさんはそういうショットを全部排除していくんです」って。

――普通なら、舞い降りるだけでありがたい映画の神様を(笑)。

大根 「こっち来るなバカヤロウ!」って感じなんでしょう(笑)。

大根仁を魅了する3人の天才 「ジャンルの神様」と渡り合う各界の傑物たちの物語

――大根さんも演出を務めた『いだてん』の現場では、たけしさんはどうだったんですか。

大根 もう、レジェンド。なのに、すごくサービス精神もあるんですよ。寄席のシーンでエキストラのお客さん相手に小噺(こばなし)で笑わせて、現場を温めてから芝居を始めてくれる。それも毎回必ず。「エキストラといえども客を前にしたら笑わせないと気が済まない」って言ってましたけど(笑)。

狂気と笑いが同居する石野卓球

――もう少し世代が近い天才となるといかがでしょう?

大根 (石野)卓球さんかな。まごうことなき天才。

――大根さんは電気グルーヴのドキュメンタリー映画(『DENKI GROOVE THE MOVIE? ~石野卓球とピエール瀧~』)も監督しているくらいで、比較的近くから卓球さんをご覧になっていますよね。

大根 そもそも「天才」ってめったにいないはずなのに、わりと軽々しく使われる言葉じゃないですか。よく使われるのが、「若くして天才」とか。でも、若いうちから才能が花開くのって、僕はそうじゃなかったけど、まあまあ、あるでしょ? 本物の「天才」って、そこからやり続ける人なんですよね。しつこいぐらいに。エクストリームなことをアップデートできる人っていうか。

――たしかに卓球さんは、地元の静岡時代から現在まで常に表現が更新されていってますね。

大根 クリエーティブな才能はもちろんだけど、僕の中ではたけしさんと同じで、狂気と笑いが同居している人です。

――どのあたりにそれを感じますか。

大根仁を魅了する3人の天才 「ジャンルの神様」と渡り合う各界の傑物たちの物語

大根 普段会ってても、おかしいですよ。一切まともなことを言わない(笑)。毒づくことがスタンダード。その場で思いつくかぎり最悪のジョークを言って、こっちもいかに引かないかっていうのが卓球さんと会う時のマナー(笑)。しかもそれが2〜3時間ずっと止まらない。常に頭の中で4つ打ち(テクノなどで使用されるリズム)が鳴ってるというか。

――Twitterでの大根さんの写真イジリも、毎回手が込んでますよね(笑)。

大根 ホントしつこいでしょ? 僕自身ですら、もはや何を見せられてるのかわからない(笑)。

――瀧さんの薬物事件への対応も見事でした。

大根 あの一連のことにしても、謝る必要は本当にないし、そんなこと当たり前なんだけど、クソみたいなツイートにも律義に対峙(たいじ)して瀧さんを擁護……でもないか(笑)、ユーモアがあって、しかも理路整然と打ち返して。

――ワイドショーのあしらい方もすごかったですね。

大根 去年の6月ぐらい、瀧さんの判決が出る前日に「明日Basement Jaxxの前座でDJやるんだけどさ――」って電話がかかってきたんです。「午前中に瀧の判決が出るから、絶対ワイドショーのやつら来るでしょ? 一発仕込んだから、大根さんちょっと撮ってよ!」って言うから、「いいっすよ!」って。で、翌日行ったら、卓球さんが車の中でいきなり獣神サンダー・ライガーのマスクをかぶるんです。「これで入るから!」って(笑)。その模様をワイドショーのやつらに撮らせる。それをさらに後ろから僕が撮るっていう。

――かぶりものっていうチョイスに、若干たけしイズムを感じました。

大根 それはあるかも(笑)。で、かぶって入るんだけど、ワイドショーの人たちも何が起きたのかわからなくて、ポカーン。でも、出る時には30人ぐらい取材陣が、「卓球さん! 卓球さん! なんで今、獣神サンダー・ライガーなんですか!?」って、大真面目に聞いてくるっていう(笑)。

――その画だけで、ワイドショーの人たちがいちばん滑稽だということが伝わりますもんね。

大根 そのまま会場を出てすぐに、「瀧に電話しようぜ!」って。それで卓球さん、「裁判どうだった?」とかは一言も聞かないで、「瀧! いま最高だったぜ!」って瀧さんに伝えるんですよ(笑)。

――なんていい話だ。

 
 
 
 
 
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「描き続ける」天才・ちばてつや

大根 あと天才と言えば、ちばてつやですね。「日本の漫画の父は手塚治虫、母はちばてつや」っていう言葉があって。あのプライドの高い手塚治虫でさえも、唯一、「自分以外に漫画で新しいものを生み出したのは、ちばてつやだけだ」と言っている。

――ちば作品との出会いとなると?

大根 ビートたけしを知ったのと同じぐらいの時期でしょうね。小中学校の頃に相当影響を受けました。『あしたのジョー』も好きだったけど、『のたり松太郎』という相撲のマンガがとにかく好きで。ちばてつやのマンガって、『ジョー』も『松太郎』もそうなんだけど、意外とボクシングとか相撲といったマンガのテーマである競技のシーンよりも、その合間の日常風景とかの方が抜群におもしろくて(笑)。

大根仁を魅了する3人の天才 「ジャンルの神様」と渡り合う各界の傑物たちの物語

ちばてつやさん/2019年2月27日、緒方雄大撮影

――日常のささいな描写が本当にうまいですよね。

大根 ちょっとしたセリフのやりとりとかね。その人たちが本当に生きて暮らしてる空間のディテールを作るというか。僕が映像で、部屋の散らかり方とか、洋服のエイジングとか、靴の汚れ方とか、そういう生活空間の匂いにまでこだわるのは、ちばてつやの影響が大きいと思います。ちば先生、ちょうどコロナ禍の自粛期間に、NHKの『ノーナレ』ってドキュメンタリー番組に出てたんですよ。今また連載をやってるじゃないですか?

――『ひねもすのたり日記』(ビッグコミックススペシャル/小学館)ですね。自身の活動初期を振り返る自伝漫画で。

大根 あれの創作ドキュメンタリーなんです。ちばプロはずいぶん前に解散していて、ご自宅の仕事場に誰もいないんですね。閑散としてるけど、そこで漫画を描けばいいじゃないですか。でも、わざわざ自分が「あしたのジョー」の頃から描いていた狭くて暗い屋根裏部屋に一人こもって、ずっと描いてるんです。

――何十年も前の出来事なのに、描写も細かいですしね。

大根 だから思ったのは、ちば先生が天才なのは、「ずっと描いている」っていうことなんです。辞めない。たけしさんの映画の神様じゃないけど、漫画の神様が辞めさせてくれない(笑)。これは、たけしさんにしても、卓球さんにしても、ちば先生にしても同じで、ジャンルそのものと対峙して、ジャンルの神様とずっと渡り合っている感じがする。僕は天才じゃないし、天才にはなれないけど、せめて見習うところがあるとすれば、しつこく辞めないこと。辞めないことはマネできるかな、と。

大根仁を魅了する3人の天才 「ジャンルの神様」と渡り合う各界の傑物たちの物語

――ちなみにちば先生とお会いしたことは?

大根 監督した映画『バクマン。』の関連で対談させてもらったことがあります。映画の最後、倒れた主人公の部屋に、連載仲間たちが集まってきて続きを描くっていうシーンがあって、これは原作にはないんですね。実はちば先生が連載中に大きなケガをしたとき、トキワ荘の漫画家が助けてくれたっていうエピソードを勝手に拝借して。おわびも兼ねて対談でその話をしたら、「いや、うれしかったよ!」と言ってくれて。

――ちばさんもその話をブログに書かれていましたね。

大根 そのとき、ちばさんのマンガが大好きで、という話をしたら、後日『のたり松太郎』で僕が一番好きな西尾のじいさんっていうキャラクターを色紙に描いて、わざわざ送ってくれたんですよ。「こんな神様みたいな人がいるのか!」と思いましたね。

――それは家宝ですね。

大根 ちば先生にしても、たけしさんにしても、卓球さんにしても、サービス精神がすごいですよ。ちば先生なら、「マンガで楽しませたい」。たけしさんなら「目の前の人を笑わせたい」。卓球さんなら、「フロアで踊らせたい」。けっして「俺のストイックな表現を見ろ」っていうことじゃない。

――たしかに皆さん共通していますね。「どんどん水が湧いてますからどうぞ」みたいな(笑)。「これは一生懸命くんできた水!」っていう感じではなく。

大根 そう、求道者スタイルのラーメン屋を見ると、入りたくもねえっていうか。それよりは街中華のほうが好き……ってこんなこと言ってると関係ない話になりそうだけど(笑)。まあ、才能っていろんなカタチがありますけど、僕の思う天才はサービス満点。気前がいいのにどこよりもうまいって最高じゃないですか。

(文:九龍ジョー 撮影:南阿沙美)

プロフィール

大根仁を魅了する3人の天才 「ジャンルの神様」と渡り合う各界の傑物たちの物語

大根仁(おおね・ひとし)
映像ディレクター、1968年生まれ。東京出身。主な監督作品に「モテキ」(11年)、「恋の渦」(13年)、「バクマン。」(15年)、「SUNNY 強い気持ち・強い愛」(18年)、NHK大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」(19年)など。最新作ドラマ「共演NG」が今秋からテレビ東京で放送。

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