シネマコンシェルの部屋

夢は漫画家 覚える劣等感に待ってくれない現実(コンシェルジュ:カラテカ 矢部太郎)

読者の皆さまから寄せられた相談やお悩みに、映画を愛する様々な分野の方々が寄り添い、最適の作品を紹介する隔週連載。

コンシェルジュは映画コメンテーター/タレントのLiLiCoさん、CGクリエーター/映画監督のFROGMANさん、カラテカ・矢部太郎さん、Base Ball Bear・小出祐介さんの4人です。今回のコンシェルジュはカラテカ・矢部太郎さんです。

<01> 疎遠になってしまった友人とあの頃のような関係に戻るには<01> 疎遠になってしまった友人とあの頃のような関係に戻るには

#03 ペットの病気 思い出す父との時間(コンシェルジュ:カラテカ 矢部太郎)

矢部太郎

吉本興業所属。1977年生まれ。お笑い芸人としてだけでなく、舞台やドラマ、映画で俳優としても活躍している。初めて描いた漫画作品『大家さんと僕』で第22回手塚治虫文化賞短編賞を受賞、同書は80万部超の大ヒットに。シリーズ累計では120万部を突破。現在、絵本作家である父・やべみつのりとの幼少期の思い出を綴る『ぼくのお父さん』(小説新潮)を連載中。

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<相談者プロフィール>

作古 夏雲(仮名)14歳 女性

和歌山県在住 学生

 

小学生のころからずっと胸に抱いている夢があります。それは漫画家になることです。

小学生の時、休憩時間をすべて漫画を描くために使っていました。

漫画といってもそんなにすごいものではなくて、コピー用紙をホチキスで留めて、そこに鉛筆でさらさらと描いていくものです。そうして描いたものを友達に見てもらうのが楽しくて、いつしかこれを仕事にしたいと思うようになっていました。

そう思っているうちに時は過ぎ、漫画も自由に買える年齢になりました。買った漫画をじっくりと読んでみると、いままで自分が描いてきたものと全然違うことに驚きました。コマ割りに工夫を持たせる、登場人物の心理描写をする、などなど……。

小学生の時は全く意識していなかったことを全国の漫画家さんは考えて描いていたのだと、そのときにやっと知りました。

このままでは漫画家になんてなれない、そう思い私は漫画を描くことをいったんストップさせ、話の作り方や魅力的なコマ割りの仕方などを勉強しました。

それだけでなく、新人賞をとった人の漫画を読んだり、世界的に有名な映画を見たりもしました。

ですがそこで劣等感を覚えるようになりました。

期待の若手漫画家、天才子役、作り込まれた脚本、そうしたものを見ていると、本当に自分にこんなものが作れるのか?と不安になり、漫画を描くことがだんだんつらくなっていき、今では人の才能に嫉妬してばかりで漫画が描けなくなってしまいました。

バンド活動や勉強をすることで自ら漫画を描く時間から逃げ続けています。

誰でもはじめからうまくなんていかない、練習あるのみと思って始めたのに、うまくいかないことが怖くなりました。

気づけばもう中学三年生で進路も決めないといけない年です。

漫画家を目指したい気持ちもあるのですが、このままでは一生漫画なんて描けません。

背中を押してくれる映画を教えてほしいです。

芸術をやっている、そのことが全てだ

小学生の頃から漫画家になることを夢見ているけれど、うまくいかないことが怖い。進路も決めないといけない。このままでは一生漫画なんて描けない。背中を押してくれる映画を教えて欲しいです。というお悩みをいただきました。

この連載の担当の方からのメールにも「背中を押してあげられる映画を届けられたら」とありました。でも、あなたの背中を押すことが果たして、あなたのためになるのかどうか僕にはわかりません。背中を押して良いのでしょうか。夢を追えと言ってしまって良いのでしょうか。

僕の大好きな北野武監督の『アキレスと亀』という映画を紹介させてください。

主人公、真知寿はとても裕福な家庭に生まれ絵を描くことが大好きで、勉強もしないで毎日ずーっと絵を描いている少年です。でもお父さんの会社が倒産してしまい、親戚に預けられて辛い暮らしをすることになります。それでも毎日ずーっと絵を描いています。大人になってもずーっと絵を描いています。絵は売れません。あきれた娘は家出してしまい、奥さんも出て行ってしまいます。それでも絵を描き続けています。いつまでも絵は売れません。売れない画家。きっとこの映画の主人公のようにはなりたくないなぁ……と思っちゃってますよね。

僕にはこの映画はなんだかとても幸せに思えるんです。一枚も売れないけれど真知寿が絵を描いているシーンは全て幸せに見えるんです。

子供時代、村の子供のような大人、又三と並んで絵を描くシーンの幸福な時間。理解者である妻と出会い、一緒に前衛的な作品を作るシーンのくだらないけれどそこにある愛。妻と勝手に商店街のシャッターに絵を描いて、怒られて白ペンキで塗り直しさせられているシーンでさえ僕には幸せに見えました。

良いものが必ず評価されるとも限らない。作品が売れる、評価されるなんてことは二の次で、宝くじに当たるようなこと。芸術をやっている、そのことが全てだ。それだけで満たされる。

「漫画家を目指したい」ということですが、僕はこう思うんです。

あなたはもう漫画家です。

小学生の時にあなたがコピー用紙に描いてホチキスで留めた漫画は立派な作品です。今のあなたにも描けない、世界でその時のあなたにしか描けなかった唯一の作品です。

誰かから認められなければ漫画家ではない、売れなければ漫画家ではない、そんなことはありません。

結果ではなく過程こそを楽しいと思えること。

誰かに評価してもらえたり、たくさんの人の目に触れたりすればそれはもちろんうれしいですが、自分自身が描きたい、楽しいから描くということこそが全てだと思います。無理せず描きたい漫画ができた時にまた漫画を描き出したら良いと思います。

なぜなら、あなたは漫画家だから。

矢部太郎さん推薦の映画

アキレスと亀

監督:北野武

PROFILE

「シネマコンシェルの部屋」ライター陣

LiLiCo、FROGMAN、小出祐介

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