キネマの誘惑

三吉彩花×阿部純子 映画『Daughters』で見せた、令和を生きる20代の女性像

人生は、たった一つの出来事で大きく変わる。女性であれば、妊娠や出産がその代表例であり、出産までに様々な決断や準備が必要になる。その時、身近にいる人は、どう支えることができるのか。

映画『Daughters』は、20代の働く女性2人が主人公だ。2人は中目黒でルームシェアをし、仕事や遊びに忙しい毎日を謳歌(おうか)する中、片方に妊娠が発覚する。シングルマザーになることを決意する女性と、それを支える親友。2人の人生と心の移ろいを、繊細な心理描写と美しい映像で見せるヒューマンドラマだ。妊娠した親友を支える小春役を三吉彩花さん、シングルマザーになる彩乃役を阿部純子さんが演じる。20代を代表する女優2人が等身大で演じるこの物語は、令和時代を生きる女性の強く潔い在り方を映し出している。

三吉彩花×阿部純子 映画『Daughters』で見せた、令和を生きる20代の女性像

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彩乃を演じている間は、ずっと気を張っていたかもしれない(阿部)

20代といえば、就職に仕事、恋愛、人によっては結婚と、ライフステージでも動きが出てくる時期だ。仕事での学びやステップアップを重ね、軌道に乗り始めたころに、もし妊娠してしまったら。小春と彩乃、それぞれを演じた役の印象を2人はこう振り返る。

三吉 台本を読んだ段階では、共感できる部分は少なかったです。それぞれの背景が想像できず、気持ちをどう汲(く)み取って表現するかが難しいと思いました。純ちゃんが彩乃としてそこにいて、私が小春を演じていくうちに「親友が妊娠して隣にいたとしたら、こんな感じになっていくのかなあ」と肌で感じました。その微妙な感じが、とてもリアルだなと感じました。

妊娠した親友を支える小春を演じた三吉彩花さん

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阿部 彩乃を演じている間は、ずっと気を張っていたかもしれない。そういう意味では、私は彩乃のように一人で決断し、消化できるタイプではないのかなと思いました。私はどちらかと言うと、まわりの人に話を聞いてもらって結論を出すタイプなので。その決断力に憧れますし、今の私にはない部分かもしれないです。

【動画】三吉彩花さん、阿部純子さんインタビュー「映像全体で楽しんで」

舞台は、東京でもいわゆる“業界人”が多く住むイメージがある中目黒。ルームシェアをしながら、小春はイベントデザイナー、彩乃はファッションブランドのプレスとして働く。潔く、てきぱき仕事をする姿がリアルで「こういう人、業界にいそうだな」と感じるほどだ。この役づくりには、監督夫妻の存在が大きかったという。

阿部 津田(肇)監督の奥様がプレスの仕事をされていて、話を2、3時間伺いました。ウェブ媒体の売り出し方や現場での働き方を聞き、撮影でプレスの現場に行かせてもらえるチャンスもあり、その空気感を自分なりに演じてみました。とはいえ、実際に自分の仕事としてやるとなると、恐れ多いです(笑)。ファッション業界で働くには流行に敏感でないといけないと思いますが、私はマイペースなタイプなので、まだまだ勉強中です。

三吉 私はモデルの仕事をさせていただいていることもあって、イベントデザインやディスプレーの仕事に関わる知り合いが近くにいたので、イメージはしやすかったです。津田監督はイベントの演出をされていたこともあり、別のイベントでお世話になったこともありました。監督の仕事を小春が、監督の奥さんの仕事を彩乃が重ね合わせていることになりますね。分からないところは、監督にその都度話を聞ける環境はありがたかったですが、実際にやる側になって動いてみると難しかったです。

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「こうじゃなきゃいけない」ではなく、フラットに親友を支えたい(三吉)

小春と彩乃の親密な空気感も印象的だ。休日は朝から一緒にランニングをし、仕事終わりにも飲み屋で落ち合う。スクリーンでは息ぴったりの2人だが、三吉さんと阿部さんは本作が初共演。同じ事務所でありながら「会議室の廊下ですれ違ったくらい」という距離感から、どう関係性を築いたのか。

三吉 リハーサル前に2人がルームシェアする部屋で、1日2人だけで過ごしたんです。ご飯を食べたり、ソファでごろごろしたり、たわいない話をしたり。その1日が、結構大きかったと思います。純ちゃんは、最初の印象より意外とたくさん話してくれる人だなあと。私の方が年下なのに、ファッションとかメイクのことを聞いてくれて。明るくて、素敵な人だなと思いました。可愛いので、隣にいてくれるだけで目の保養になります(笑)。

シングルマザーになる彩乃を演じた阿部純子さん

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阿部 それは私のセリフです(笑)。三吉ちゃんは、女性から見てもほれぼれしてしまう人。私が台本で悩んだ時も、相談に乗ってくれる頼りがいのある人です。自分のことも役者の仕事のことも話を聞いてくれるので、頼れるお姉ちゃんみたいな存在です。本作でも2人で過ごす時間が圧倒的に長かったので、撮影していない空気感も、もしかしたら映画に影響するかもしれないと思いました。でもそんな心配することもなく、プライベートで食事に行くなど楽しく過ごせたので、それが役にも映画にも良い影響を与えてくれたと思います。

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妊娠・出産を一人で乗り越え、シングルマザーになることを決断する彩乃。突然の告白に驚きつつも、支えることを決意する小春。彩乃の心身の変化に伴い、親密だった2人も近づいたり離れたりしながら関係を築き直していく。決して簡単ではないそれぞれの決断を、じっくり受け止めながら演じていたという。

三吉 自分だったら小春と同じようにするかと聞かれると、ちょっと違うかもしれないと思いました。シングルマザーの親友を支えるとなると、こちらも労力を使うし、大変なことだと思うんです。私にも親友がいますが、お互いにあまり干渉しないタイプで、常に相手を把握しているわけではなく、気づいたら一緒にいて、他の人には言えない相談をしたり、旅行に2人で行ったり。もちろん、彼女の意見は尊重するけれど、「こうじゃなきゃいけない」という姿勢ではないのかなと。「ヘルプして欲しい時は、何か言って」くらいかなと思います。

阿部 彩乃は自分の役職や社会的地位をすごく大事にしていると思いました。働くことにプライドを持っているからこそ、妊娠・出産によって、働きにくくなると感じたんだと思います。田舎から出てきて、東京で積み上げてきたものがあるからこそ、妊娠した時に産まないという決断はしたくない。産むとしても、自分にあったやり方で産みたいと思ったのかもしれない。その中で、一番信頼できて自分にとって居心地がいい小春に「助けて」とお願いしたのかなと思いました。

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24歳、だんだんオーラがポジティブに変わってきた気がする(三吉)

四季はめぐり、10カ月を経て出産を終えた彩乃と小春。そこには、相手の男性の姿はない。妊娠したことも知らされず、男性不在のまま2人は新たなスタートに立つ。女性の生き方は多様になり、出産にはシングルマザーという選択肢もあるし、男性に役割がない場合もある。自分の生き方は自分で決める、令和を生きる女性はとても主体的だ。

三吉さん、阿部さんにとっての20代はどうか。話題作への出演が続き、絶好調と思いきや、現在に至るまで心境の変化もあったようだ。共通するのは、“ポジティブに楽しむ力”だと声をそろえる。

三吉 20歳になるまで、仕事もそうですし、パーソナルな部分で日常的に悩んでいる時期が続いていました。友達や仕事での新しい出会いを経て24歳になり、だんだん自分がまとっているオーラがポジティブに変わってきている感じがします。今は、とても楽しいですね。前は「失敗しちゃいけない」と思って、勝手にプレッシャーをかけて負担になることが多かったんです。最近は、「最初から完璧にできる人はいない」と分かったので、失敗も怖くなくなってきたし、失敗しても「楽しむことが優先」という感覚になってきました。初めて挑戦することや新しい仕事も、ポジティブに楽しんでいます。

阿部 私も10代の頃はとても悩んでいました。もっと深く考えられる人間になりたいと思っていて。最近になって仕事で会う方と話したり、失敗を積み重ねていったりするうちに、居心地のいい仕事の仕方や、仕事と自分の時間の両立を考えられるようになって。それから、だんだん楽しくやれるようになりました。全然ゆとりもないし、一つの作品ごとに、いっぱいいっぱいになるんですけど(笑)。まわりに助けてもらいながら、仕事は常に楽しんで取り組むのが大切だと思えるようになりました。

『Daughters』には、女性の強さや儚(はかな)さ、潔さ、子どもを身ごもった時の心身の移ろい、命への向き合い方など、あらゆる輝きが詰まっている。それらを体現する2人の美しさも満ちあふれている。宝石箱のようなこの映画が、令和時代の女性がどう生きるか、男性はどう支えるべきなのかを考えるきっかけになってくれるのかもしれない。

(文/武田由紀子、写真/花田龍之介、動画/田中遼平・高橋敦)

三吉彩花(右):ヘアメイク・牧野裕大/スタイリスト・藤本大輔、阿部純子(左):ヘアメイク・DAISHI/スタイリスト・小林洋治郎(Yolken)

三吉彩花(右):ヘアメイク・牧野裕大/スタイリスト・藤本大輔、阿部純子(左):ヘアメイク・DAISHI/スタイリスト・小林洋治郎(Yolken)

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映画『Daughters』作品情報

監督・脚本:津田肇
出演:三吉彩花、阿部純子、黒谷友香、大方斐紗子、鶴見辰吾、大塚寧々
配給:イオンエンターテイメント/Atemo
(c)「Daughters」製作委員会
9/18(金)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
ウェブサイト:https://daughters.tokyo

PROFILE

  • 「キネマの誘惑」ライター陣

    那須千里、西森路代、阿部裕華、武田由紀子、石川智也

  • 武田由紀子

    編集者・ライター。1978年、富山県生まれ。出版社や編集プロダクション、WEBメディア運営を経てフリーに。女性誌や親子雑誌、ブランドカタログの編集・ライティングほか、映画のインタビューやコラム執筆を行う。映画館で好きな席は、中央より少し後ろの端の席

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