インタビュー

「テクニックを教えることに意味はない」 インテリアデザイナー・片山正通の教育論

現代の日本を代表するインテリアデザイナーの一人、Wonderwall®︎(ワンダーウォール)の片山正通さん。世界各地で進行する多くのプロジェクトを抱えて多忙な日々を送るこの人には、もうひとつの顔がある。2011年から武蔵野美術大学空間演出デザイン学科で教職に就く、教育者としての顔だ。

誘いを受けるかたちで44歳で教授に就任したときには「全く気が進まなかった」。ところが、長くは続かないだろうという当初の思いとは裏腹に、今や欠かせない日常の一部だという。

インテリアデザイナーとして世界的な知名度を得ながら、「学生たちに僕の知見や技術を教えることに大して意味はない」と言い切る。片山さんにとって「教える」「学ぶ」とはどういうことなのか。教育者としての実践から見えてきたものを聞いた。

デザインは人から教わるものでもない

武蔵野美術大学で教え始めて今年で10年目になります。でもそもそもは、全く教育に携わる気持ちはなかったんですよ。ましてや大学の教授なんて俺には無理だ!と。僕自身は専門学校の卒業で大学には行っていませんし、社会経験もそこそこの26歳で自分の会社をつくってここまでなんとかやってきました。デザインは人に教えるものでも、人から教わるものでもないと思っているのが大きいですね。

そんな僕が教授職を引き受けたのは、前任でインテリアデザイン界の大先輩でもある杉本貴志さん(故人)にお誘いいただいたから。海外出張も多いなか、週に2~3日小平市のキャンパスまで通うとなるとかなりの時間もとるし、実はお断りしようと決めていたんです。ところが大先輩の前で萎縮して……。断りきれなかったというのが正直なところです。

片山正通さん

片山正通さん

そんな経緯で教育の現場に立ち始めたのだから、当初はものすごく悩みました。“教授になる方法”なんて誰も教えてくれませんし、学生たちを社会に送り出す責任のある職業ですから、その重圧も感じる。悩みすぎてこのままでは心か体を壊してしまう!と思ったほど。このままではだめだ、どのみち引き受けた仕事なのだからなんとか楽しくしないと、と考えて、少しずつ自分なりのやり方を見つけていきました。

 

学生にリアルな仕事の現場を教える

いわゆる「教育者」に対して自分自身が考えていた枠組みを外し、自分にできることを考える。そこからいろいろなものをそぎ落として、自分なりの授業をつくり上げた感じです。

毎年受け持つゼミでやっていることを一言で言うと、仕事のリアルを体験させること。架空のクライアントと敷地を設定したうえで、学生に空間を設計させるんです。

架空といっても、“クライアント”は僕の人脈から、「ウェルカム」代表の横川正紀さん、「中川政七商店」会長の中川政七さん、「Smiles」社長の遠山正道さんなど、実際にショップやホテルを運営している方を招き、彼らのブランドについてのオリエンテーションもしていただきます。そしてこれも僕が知り合いに頼んで、実在する物件を想定現場と設定し、学生たちは現地の見学や採寸、周辺エリアの調査をする。そして実際に設計をして、最終的に“クライアント”にプレゼンテーションまで行うというもの。3年生の後期から1年半続くゼミでは、こうした架空のプロジェクトの設計を5軒ほど行います。

片山ゼミの講義風景。“クライアント”へのプレゼンテーションは模型で行う(写真・上段中央)

片山ゼミの講義風景。“クライアント”へのプレゼンテーションは模型で行う(写真・上段中央)

学生たちはこの授業で、中間講評や最終講評を目指して模型をつくったりプレゼンテーションを準備したりしていきますが、僕はデザインに関してのアドバイスはほとんどしません。インテリアデザインを教える学科でテクニックを教えることは全く意味がないと考えています。デザインやアートは、基本的には人がやっていないことを見つけていくものだし、そこに他人の考えが大きく影響してしまうのは、僕にはいいことだとは思えない。

僕自身の好みじゃなくても、世の中には面白いデザインはいくらでもあります。大切なのは「なぜこうつくろうと思ったのか?」ということなんです。それが「流行だから」とか「片山さんがいいと言ったから」では意味がないんですよ。だからこそ、デザインに入る前のコンセプト設定の段階では、学生たちとじっくり向き合います。何かを教えるというよりは、何かを引き出そうとしている感覚ですね。それぞれの学生たちが出してくるコンセプトの背後にあるもの、そこに彼ら、彼女らの個性があるはずだから。

片山正通さん

片山正通さん

僕らデザイナーの仕事は、社会とプロジェクトが求めていることに、どのように自分のアイデンティティーを乗せて答えを出していくのかにかかっています。テクニックやトレンドなら、ちょっと調べれば誰でもわかる時代。そこではない、デザイナーの仕事のリアルについてならば、何か伝えられることがあるかもしれないと思うんです。

だから、プレゼンテーションの場での話し方や服装については教えたりしますね。「そういう言い方では伝わらない」とか、場にふさわしくない格好をしていたらいけないとか。面白いもので、最初は全く上手に話せなかった学生たちが、回を重ねるごとにうまくなっていくんです。

学生の背中を押すスーパースターの失敗談

もうひとつ大学で続けているのが「instigator」と題した年2回ほどのトークイベントです。これは、学生たちに根源的にクリエーションの面白さや魅力を伝えたいと思って始めた特別講義。誰かに頼まれたわけではなく、僕の思いだけでスタートした講義シリーズです。

僕は仕事柄、学生が聞いたら驚くようなスーパースターにお会いすることがあります。でも彼ら、彼女らだって、初めからスーパースターだったわけじゃない。とんでもない苦労を重ねた時期がいくらでもあるんです。いろんなジャンルのクリエーションに携わるそういうスターたちに、若かった頃、苦労した頃、失敗を重ねた頃のことを、全学生に向けて話してもらう。

着任初年、2011年の12月にアートディレクターの佐藤可士和さんをお招きしてスタートし、去年10月の俳優のムロツヨシさんの回と「スピンアウト」と呼んでいる特別回を合わせると、通算で26回。サカナクションの山口一郎さん、俳優の山田孝之さん、映画監督の是枝裕和さん、ライゾマティクスの真鍋大度さん……。授業後の18時にスタートするのですが、最長はリリー・フランキーさんの約4時間半!(笑)。平均で3時間半くらいのトークです。

ゲストも学生に向けての話だからと、自分の若い頃のことを思い出して本当に熱心に話してくださいます。僕はアポイントから自分でとり、進行役としてシナリオをつくったり、タイムキープしたり。音楽も照明もプロにお願いして……と、とにかく学生が楽しめる場をつくり上げます。終わったあとには本当にへとへとになりますけど(笑)、毎回ものすごく盛り上がるんです。出席は希望者のみということもあり、質問の時間になるとほとんどの学生が挙手しますしね。

教育は決して“してあげる”ものではない。モチベーションが上がって、やりたいことが見つかれば、学生はあとは自分で学ぶと思うんです。「instigator」は、誰もが憧れる人たちの力を借りて、学生たちの背中を押すような場ですね。

特別講義「instigator」は書籍化もされ、すでにシリーズ4巻が刊行されている

特別講義「instigator」は書籍化もされ、すでにシリーズ4巻が刊行されている

学生のアイデアに気づかされることもある

自分が思い描いていた“大学の偉い教授”と実際の教授としての自分の姿は相当違います。でも、あんなにイヤイヤ始めた教授の仕事も、今ではやっていてよかったと心から思います。

時間を共有して、学生の言っていることについて考えたりするのがとても刺激的なんです。僕だったら絶対に出さないようなアイデアを、学生が出してくるとする。それを未熟だと否定するのではなく、必ずそこに何か肯定すべきところがあるんじゃないかと僕も一緒になって考えます。そうすることで見えてくるものがあって、自由な思考をしているつもりで、僕自身がいつの間にか、いろんな可能性を切り捨てていたことに気づくこともあるんですよ。

濃密な時間を過ごすゼミの卒業生は、もう100人を超えました。卒業生たちはインテリアデザインだけではなく、いろんな方向に進んでいます。卒業する学生が「まだ卒業したくない」とかって言うと、「いいだろう、俺はまだずっとここにいられる!」って言ってやるんですよ(笑)。教えるというよりも、彼らと時間を過ごすことを本気で楽しんでいる僕の姿に、何かを感じとって社会に出て行ってくれるといいなと思っています。

(文/阿久根佐和子 撮影/野呂美帆)

片山正通さん

片山正通(かたやま・まさみち)
インテリアデザイナー 、Wonderwall® 代表、武蔵野美術大学 空間演出デザイン学科 教授。代表作に、ユニクロ グローバル旗艦店(NY、パリ、銀座等)、INTERSECT BY LEXUS(青山、ドバイ、NY)、外務省主導の海外拠点事業 JAPAN HOUSE LONDON、2020年開業の虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー(商業施設環境/ARCH)など。2020年、オランダのデザイン誌『FRAME』主催の「FRAME AWARD 2020」で2019年のフィリップ・スタルクに続きLifetime Achievement Awardを受賞。www.wonder-wall.com

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