THE ONE I LOVE

「ヒットチャートの歌詞に危機感を覚えていた」 MONO NO AWAREが選ぶ愛の5曲

こんな時代だからこそ、愛を聴きませんか、語りませんか──。実力派アーティストが“愛”にまつわる楽曲を紹介する連載「THE ONE I LOVE」。

今回は、2019年に『NHK みんなのうた』に書き下ろした楽曲「かむかもしかもにどもかも!」が、早口言葉をモチーフにした絶妙な歌詞の内容でお茶の間を騒然とさせるなど、各所で注目度を上昇させている若手バンド・MONO NO AWAREが5曲をセレクト。彼らの作り出すユニークな楽曲群と同様、一筋縄ではいかない選曲となっている。

&Mでは、玉置周啓(Vo,G)、加藤成順(G)、竹田綾子(B)、柳澤豊(Dr)にインタビューを実施。選曲に込めた思いはもちろん、バンドでの音楽表現における独自のこだわりについても話してもらった。

セレクト曲

1. Vampire Weekend「Harmony Hall」

2.Arctic Monkeys「Only Ones Who Know」

3.シャムキャッツ「Lemon」

4.Elvis Costello & The Imposters「Smile (Japanese A-Side)」

5.MONO NO AWARE「ゾッコン」

■玉置選曲/Vampire Weekend「Harmony Hall」

玉置 この曲が収録されている『Father of the Bride』は、去年一番よく聴いたアルバムでした。「花嫁の父」というタイトルですが、これは「父親が娘を思う気持ちが行きすぎることで逆に娘を不幸にしてしまうことがあって、今の世の中は“(そんな行きすぎた)花嫁の父”だらけじゃないか」ということらしくて。「自分が正しいと思うことを信じすぎるがあまり、他人の信じるものを認められない」みたいなことって、ネット社会も含めて今の世界に蔓延(まんえん) しているじゃないですか。「Harmony Hall」では、怒れる民衆が集まり、盲目的になってしまう状況を「怒りは声を欲し、声は歌を欲する/そして歌い手たちは何も聞こえなくなるまで歌い続ける」と歌っています。

誰もが同じものを大切に思えたら争いは起こらないのかもしれないけど、それは不可能ですよね。ならば、まずは違いを受け入れるというか、そういう社会構造であることを認識することが“愛”なんじゃないかなと。そういうことを考えさせられたアルバムです。この曲に限らず、Vampire Weekendには直接不平不満を言うんじゃなくて、ただ現状を描写することで聴く人の感情に訴えかけるような歌詞が多い。そういうエンパシー(他人の感情を理解する能力)を誘発するような歌詞表現に挑戦したい気持ちはありますね。普段僕が書くものはけっこう説明口調が多く、逆にシンパシー(感情的な共感、同情)寄りだと感じているので。

■加藤選曲/Arctic Monkeys「Only Ones Who Know」

加藤 僕、けっこう夜中に1人で音楽を聴くことが多くて、そういうシチュエーションに合う曲が好きなんです。この曲はArctic Monkeysの中でも全然毛色の違う、音数の少ない曲で。コードもめちゃくちゃシンプルだし、ジャラーンってほぼ全編、ストロークだけで進む中で、淡々と好きだった人のことを歌っている。それがよすぎて(笑)。失恋の歌だし、日本語でこういう感じをやられると冷めちゃうかもなっていう気もするんですけど、この初期のアクモンの感じ、とくにアレックス・ターナー(Vo,G)の感じはすごくいい。

こういう空間的なギターの空気感は好きですね。アクモンに限らずですけど。最近は自分たちのレコーディングでも、ギターに関してはスタジオじゃなくて広い空間で録(と)ったりしてるんですよ。天井がめっちゃ高いところとか。そうすることで音に隙間とか余白が生まれて、曲の世界観を広げるし、強度も上がる。もちろん曲によって合う合わないはあるけど、この空間の感じは今のMONO NO AWAREの強みになってると思っています。ギターの音って吸音されやすいというか、狭いところで録ると一気にピタッと止まっちゃう感じがあって。そこにアンプとかでリバーブを足しても、嘘くさくなっちゃうんですよね。

■竹田選曲/シャムキャッツ「Lemon」

竹田 もともとラブソングって苦手だったんですよ。歌詞がクサいって思っちゃうともうダメで。なんですけど、たしか“島フェス”(「shima fes SETOUCHI ~百年つづく、海の上の音楽祭。~」)で初めてシャムキャッツとライブが一緒になったときに「Lemon」を生で聴いて、「なんだ、これは!」って。歌詞もめっちゃいいし、音もすごくきれいで。とくにサビのメロディーにはギュッと心をつかまれてしまい、そのあとずっと鼻歌で歌っていました(笑)。なので、これが生まれて初めて好きになったラブソングです。

恋愛系の歌詞にありがちな、「抱きしめたい」とか「会いたい」みたいな言葉が歌われるものはちょっと苦手なんですけど、「Lemon」では「一目で恋に落ちたよ まつ毛の先まで」とか「このつま先まで」のように細かいポイントに言及していて。それまであまりそういう歌詞を聴いたことがなかったし、メロディーの一気に上がっていく感じ、抜ける感じとも相まってすごくきれいだなって思いました。演奏も素朴で、優しく染み渡るような曲です。

■柳澤選曲/Elvis Costello & The Imposters「Smile (Japanese A-Side)」

柳澤 オリジナルはチャールズ・チャップリンの映画『モダン・タイムス』で使われていたインストゥルメンタルですけど、僕が最初に聴いたのはこのエルヴィス・コステロのカバーなんです。あとから映画を観(み)て、そこで「Smile」が流れてきたときに「あ、こっちが元なんだ」と知りました。だから、僕の中では「Smile」といえばコステロの曲、みたいなところがあるんです(笑)。思考の流れとしては、「愛の曲といえば『モダン・タイムス』の曲だな」というところから、「『Smile』といえばコステロだ」ということで、この選曲に至りました。

この曲に限らず、普段聴く音楽もそうなんですけど、あまりドラム中心には聴かないですね。参考にするためにテクニカルなドラムを聴くことはもちろんありますけど、リピートして聴きたくなるのはそういうものではなくて。たとえばフランク・オーシャンの『Blonde』とか、ビートはすごいけどそんなに主張してないもののほうが意外と好きになりやすい。自分のプレイ的にも、何かひとつ面白いビートがポンってある感じが好きです。テクニックで魅せるというよりは、楽曲の雰囲気重視でやっていますね。

■MONO NO AWARE「ゾッコン」

玉置 高校3年生のときに作ったので、もう10年近く前の曲ですね。デモだけが残っていて、ずっと演奏はしていませんでした。今回、 映画『海辺のエトランゼ』に提供する候補曲のひとつとして軽い気持ちでデモを送ったら「この曲が一番フィットしている」ということになり。映画に拾ってもらった曲ですね。楽曲は当時のままではなく、かなりブラッシュアップしたんですけど、歌詞はほぼ変えていません。1単語だけ変えたのかな。それくらいしか直すところが見当たらなかったというか、「変えないでくれ」って歌詞が言っていました。

こんなにピュアに、ただただ「好きだ」と迷いなく言える感覚って、今この歳でゼロから書けるかっていうと、ちょっとわからないですよね。世界を知りすぎて、そううまくはいかないことなんかも知りすぎてしまったので。そういう意味でも面白い歌詞だと思います。

加藤 僕は(玉置)周啓と高校が一緒だったんで、当時からこの曲を知っていたんです。具体的な景色が浮かんじゃいますよね、「“2階の廊下を歩く”感じ、わかるー!」みたいな(笑)。だから僕もちょっと恥ずかしかった。

竹田 「高校生の男の子が考えることって、こういう感じなんだ?」みたいな(笑)。音も歌詞もストレートで、MONO NO AWAREとして新境地を開いた曲になったなと思っています。構造もシンプルだし、今になってこういう感じをやれるのは新鮮ですね。

柳澤 こういう言い方はメンバーは喜ばないかもしれないけど、ラブソングらしいラブソングですね。ここまでストレートにガツンと相手に向かっていく気持ちを描いた曲は、少なくともリリースした曲の中にはなかったんじゃないかな。「うじうじ考えずに行動あるのみ!」みたいな感じが今の社会のムードと逆で、励まされる曲だなって。演奏するときも、曲が持つ勢いに任せて演奏してますね。

加藤 レコーディングでは、そのまっすぐな感じを出したいと思って、周啓のギターはシンプルなマーシャルのアンプ一発にしたんです。高校生とか、バンドを始めたばかりの頃ってそうじゃないですか。機材とか全然持ってなくてギターから直接アンプにつなぐだけっていう。そういうところでも、初期衝動的な感じを失わず表現できているんじゃないかなと思っていますね。

■特有の“歌詞っぽくない”歌詞ができるまで

玉置 曲作りはいわゆる「曲先」や「詞先」ではなくて、大事な部分は同時にやっています。メロディーと歌詞が一緒に出てきた部分をランドマークにして、周囲に街を作っていく感じで形にしていくんです。自然と詞と曲が同時に出てくる箇所って、音としても言葉としても完成度が高いというか、無理のないものになっていることが多くて。聴く人の印象に残りやすいのはそういう部分だと思うんです。究極的には、1曲丸ごと最初から最後まで“自然に出てくる部分”だけでできたものにしたい。それが世に言う「降りてきた」っていうことなんじゃないかな。

僕はひねくれた人間なので、2000年代のJ-Popを聴いて育ってきて、ヒットチャートから聴こえてくる歌詞の“死にかけている感じ”にすごく危機感を覚えていました。怖いというか、「こんな言葉遣いだらけの世界になったらどうしよう」みたいな。こうやってしゃべっているときでも「これは今、この場所に出るべき言葉なのか」を常に考えますし、言葉にはものすごく執着して生きている人間だと思います。作詞するときも一般的にあまり歌詞に使われない言葉を選びがちですが、それは曲のため以前に自分のためなんですよ。そうしないと面白くないっていう。

加藤 僕のギターに関してもそういうのは意識していて、“普通”に聴こえないようにというか。さっき言った音作りの話もそうですけど、フレーズに関してもストレートにしたくない感じはありますね。何も考えずにやると僕はどうしてもシンプルな方向に行っちゃうんで、周啓と相談したりしながら試行錯誤して、意識的に気をつけている部分です。単音フレーズが多いのは、周啓のギター、ベース、歌がコードの役割をだいたい担っているので、その上に僕のギターも和音を使うとぶつかっちゃうからっていうのもあります。あと、周啓が作曲の段階でギターのフレーズも作ってくることが多いんで。

玉置 さっきメロディーと歌詞が同時にっていう話をしましたけど、それと同時にドラム、ベース、ギターもすでに頭の中で鳴っていることが多くて。それをDAW(DTMソフト)上で再現していくんですけど、そうすると自然に、音符的にヒマしてる楽器がない状態になっている(笑)。そういうのが好きなんですよね。どれかひとつを際立たせるための引き算の音楽にも憧れるんですけど、どうしてもできない。全員が4番バッターというか、4人全員でバッターボックスに立っているようなイメージです(笑)。

(企画制作/たしざん、取材・文/ナカニシキュウ)

■MONO NO AWAREセレクト「THE ONE I LOVE」プレイリスト

■MONO NO AWARE「ゾッコン」

■Profile

MONO NO AWAREもののあわれ

東京都八丈島出身の玉置周啓(Vo,G)と加藤成順(G)、彼らが大学で出会った竹田綾子(B)、柳澤豊(Dr)からなる4人組ロックバンド。2013年結成。2016年に「FUJI ROCK FESTIVAL」初出演を果たし、2019年に『NHK みんなのうた』に書き下ろした「かむかもしかもにどもかも!」や、映画『沈没家族 劇場版』(加納土監督)主題歌「A・I・A・O・U」などが話題を集める。これまでに3作のフルアルバムを発表しており、2020年9月に映画『海辺のエトランゼ』(大橋明代監督)の主題歌「ゾッコン」を配信リリース。プリミティブなバンドサウンドにこだわりながらも多彩な音楽性をはらむポップな楽曲と、言葉遊びを多用した技巧的な歌詞世界で独自の存在感を発揮している。

【関連リンク】

MONO NO AWARE 公式サイト
https://mono-no-aware.jp/

MONO NO AWARE (@mono_no_aware_) · Twitter
https://twitter.com/mono_no_aware_

MONO NO AWARE(モノ ノ アワレ) | SPACE SHOWER MUSIC
https://spaceshowermusic.com/artist/12313823/

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