最新フェラーリ「ローマ」にイタリアで乗る 新オーナー像の予感

(TOP写真:フェラーリ・ローマ。ドライブの出発点となったイタリア北部ブラにて。以下写真は欧州仕様・オプション装着車)

新型車のコンセプト「ドルチェ・ヴィータ」の困惑

「ローマ」。その名前を聞いた途端、筆者は当惑した。かのフェラーリの新型車というのに。試乗会のインビテーションを受け取った世界のジャーナリストで、筆者ほど冷静だった人間はいなかったに違いない。

フェラーリ・ローマはエンジンをフロント・ミドに搭載するクーペである。2019年11月、先にローマで発表会が行われた。

冷静だったのは、ローマという都市に日ごろ特別な思い入れがないからである。一外国人が物知り顔で言うのは気が引けるものの、同じイタリアでも筆者が住む中部には古代ローマ人よりも先に高度な文化を築いたエトルリア人の遺跡が数多ある。ローマという言葉に神通力は感じない。

社内によるデザインは、1963年のフェラーリ製GTをイメージしたという。エアベントや不必要な装飾を一切排除している

社内によるデザインは、1963年のフェラーリ製GTをイメージしたという。エアベントや不必要な装飾を一切排除している【もっと写真を見る】

メーカーの解説によれば「ラ・ヌオーヴァ・ドルチェ・ヴィータ “LA NUOVA DOLCE VITA”」が商品コンセプトという。英文リリースを訳せば「その独特のセンスとスタイルで、この車は1950~60年代ローマを象徴する、享楽的で楽しい生活を現代的に表現しています」と記されている。そして「フェラーリ・ローマは目の肥えたお客様に“ラ・ドルチェ・ヴィータ”のコンセプトを現代に蘇(よみがえ)らせる繊細さと洗練を提供します」と綴(つづ)られている。

もちろん思い出すのは、フェデリコ・フェリーニによる1960年映画「甘い生活(ラ・ドルチェ・ヴィータ)」だ。ミラーコロ=奇跡といわれた戦後経済成長期、ローマにおける快楽に満ちた生活が描かれている。

しかし、そこには大都市を雲のごとく覆う物悲しさ・けだるさも表現されていることを忘れてはならない。劇中でアヌーク・エーメ演じる富裕な娘マッダレーナは、ローマの喧騒にうんざりし「誰にも会わない街に引っ越したい」と冷ややかに語る。参考までに書いておくが、劇中にキャディラック・エルドラードやトライアンフTR3こそたびたび登場するものの、その他の自動車ブランドは空気のような存在である。そもそも個人的にはフェリーニ作品なら、創作に行き詰まった映画監督を描いた「8 1/2」のほうが同じクリエーターとして感情移入しやすい。

さらに今回は、その新型車の試乗会を北部ピエモンテのブラで行うという。たしかにローマの混沌(こんとん)とした交通環境と大都市独特のセキュリティー事情は、2682万円の車両にふさわしいとはいえない。スローフードの本拠地でもあるブラのほうが、正しいことは容易に理解できるのだが、再び自身のなかで「ローマ」の意味が薄れる。

さまざまな複雑な思いを抱きながら、筆者は北へと向かった。

高度に電子制御されたヴィークル・ダイナミクスは、誰もが快適かつ安全にフェラーリの魅力を楽しめる時代が到来したことを実感させる

高度に電子制御されたヴィークル・ダイナミクスは、誰もが快適かつ安全にフェラーリの魅力を楽しめる時代が到来したことを実感させる【もっと写真を見る】

耽美(たんび)とミニマリズムが共存するスポーツカー

フェラーリ・ローマのエクステリアデザインは、自社デザインセンターによるものだ。1960年代のGTをイメージしたという。たしかに、伸びやかなフロントと締まりのあるテールエンドには、華やかなりし頃のグラン・トゥリズモだけがもつ耽美的ともいえる美しさが漂う。

いっぽう、ディテールの処理を観察すると、未来的であることがわかってくる。「エアベントや不必要な装飾を一切排除した」という解説には、かつて過度なマッスル志向のものがみられたこのブランドの新時代を象徴していて、好感がもてる。車の顔であるフロントマスクでさえ従来とは異なり、パーフォレート(穴)加工によるシンプルなものだ。

シートのレイアウトは「2+」と表現されている。グローバル・マーケティングダイレクターのエマヌエレ・カランド氏に聞くと、「+」を示す後席は、小さな子供を乗せたりバッグを置いたりするスペース、とのコンセプトであると教えてくれた。実際にチャイルドシート用のISOFIX(アイソフィックス)にも対応している。

いっぽうドアを開けると、途端にハイテックなムードがドライバーの目に飛び込んでくる。ドライビンググローブをして大径ステアリングを操っていた60年代のフェラリスタだったら、面食らうだろう。だがデジタルに親しんだ若いカスタマーには、極めて訴求力が高いに違いない。

ドライバー優先の伝統的フェラーリと異なり、助手席にもほぼ同等の構造が与えられ、包まれるコクーン(繭)感覚が強調されている

ドライバー優先の伝統的フェラーリと異なり、助手席にもほぼ同等の構造が与えられ、包まれるコクーン(繭)感覚が強調されている【もっと写真を見る】

インテリアは事実上まったくのオリジナルである。ドライバー優先の伝統的フェラーリと異なり、パッセンジャーシートとほぼシンメトリックなデザインが与えられている。

往年のファンを唸(うな)らせたアナログ式メーターは、完全にディスプレーに置き換えられている。それだけではない。中央にはオプションの8.4インチHDセンターディスプレーが備えられ、助手席側にもオプションの8.8インチのフルHDカラー・タッチスクリーンが据えられている。

ラゲッジスペースは272リットル。注文装備で可倒式リアシートを選択しても345リッターである。カップルでいくつものドレスコードが指定されている旅には、やや小さいかもしれない。だが、昨今トレンドであり、この車のスタイリング・コンセプトのひとつでもある「ミニマリスト」を実践するなら十分だろう。

ボディーシェルとシャシーには最新の軽量化技術が採り入れられ、実にコンポーネンツの7割が完全新設計である。

エンジンはポルトフィーノと同じ3.9リッター8気筒だが、20hp多い620hpを発生する。

エンジンルームを覗(のぞ)く。エンジン燃焼で発生する粒子状物質を捕集する多孔型フィルター(GPF)の採用で、欧州において最も厳しい排出基準「ユーロ6D」に適合している

エンジンルームを覗(のぞ)く。エンジン燃焼で発生する粒子状物質を捕集する多孔型フィルター(GPF)の採用で、欧州において最も厳しい排出基準「ユーロ6D」に適合している【もっと写真を見る】

もはや有名となった統合制御のドライブモード・セレクター「マネッティーノ」は、ポルトフィーノが3ポジションであったのに対して、5ポジション(ウェット、コンフォート、スポーツ、レース、ESC=横滑り防止装置オフ)に進化した。デュアルクラッチ式ATは、ポルトフィーノが7段であったのに対して、新型の8段が与えられている。

なお、オプションでアダプティブ・クルーズ・コントロール、自動緊急ブレーキ、車線逸脱警告、ブラインドスポット検知、サラウンドビューカメラもパッケージで選択できる。実際にバックする際も、リアウィンドーからの目視との併用で、まったく恐れることなく運転できた。

また、今回は最終調整中であるとのことから敢(あ)えてその評価は避けるが、「チャオ、フェラーリ」の呼びかけで起動できるボイスコマンド機能も採用されている。こうしたところにも、ブランドが新時代のスポーツカー像に果敢に取り組んでいることが確認できる。

メーカー発表値によると、ダウンフォース(走行時の空力性能を利用して接地性を向上する力)は、姉妹モデルのポルトフィーノより250km/h時に95kg増加している

メーカー発表値によると、ダウンフォース(走行時の空力性能を利用して接地性を向上する力)は、姉妹モデルのポルトフィーノより250km/h時に95kg増加している【もっと写真を見る】

テクノロジーは安全のために

16インチHDスクリーンは、ひとたびイグニッションONにすると、きらびやかに点灯し始める。このエンターテインメント感は、劇場で幕が開いてオーバーチュア(序曲)が始まり、やがて歌手たちが登場する歌劇の始まりのような感覚に似る。

しかし走り始めてみると、グラフィック・デザインやレイアウトが単なる演出ではなく、いかにドライバーの視線を前方から反らさないために工夫されたものであるかがわかってくる。実際にフェラーリは開発にあたり、最新のアイ・トラッキング技術を駆使しているのだ。

ボディー剛性は、かつてのイタリア製スポーツモデルの水準からすると、極めて高い。さらに前述のマネッティーノを「コンフォート」にセットすると、中世都市の石畳も、昨今の補修予算不足によるイタリアの乱雑な舗装もけっして不快ではない。

スロットルは極めて上品に躾(しつ)けられている。街乗りでは、よくできたドイツ製プレミアムカーを運転するようにペダルを微妙にオン・オフするだけでスムーズに流すことができる。一方、さらに踏み込み続けると、馬に鞭(むち)を当てたがごとく排気音のクレッシェンドとともに加速を開始する。ただし、過度に高ぶる気持ちは、きちんと抑制してくれる。この最新型フェラーリには、もはや標識検知機能まで装備されていて、現在走っている道路の制限速度が随時メーター内に表示されるのだ。

今回230km以上にわたるドライブの大半は「バローロ」「バルバレスコ」といったワインの名産地を周囲に抱くワインディング・ロードだった。マネッティーノを「スポーツ」に切り替える。ローマは常にコーナーを正確にトレースする。勢い余ってハイスピード気味にカーブに飛び込んでしまっても、スロットルペダルをオフにすれば、姿勢は平静を保ち、何事もなかったように抜けてゆく。

メーターしかり、フェラーリにとって電子デバイスは、ドライブする人間を的確にサポートし、かつそのポテンシャルを最大かつ安全に発揮できるためにある。テクノロジーとドライバーをどう楽しく共存させてゆくかは全自動車メーカーの課題だが、伝統あるスポーツカー・ブランドとしての回答を、このローマに見いだすことができる。

「ゼロ・ターボラグ」を目指した効果は、高速道路における俊足なレスポンスで実感できる

「ゼロ・ターボラグ」を目指した効果は、高速道路における俊足なレスポンスで実感できる【もっと写真を見る】

歴史から敢えて引き離した勇気

再び車を降りて考察すれば、ネーミングとしてのローマは歴史的つながりが希薄である。従来のように「マラネッロ」「モデナ」といった発祥の地を示したり、「メキシコ」「カリフォルニア」のように、レースで奮闘した国や、ブランドがもてはやされてきた都市を匂わせたりするものではない。「チャレンジ・ストラダーレ」といったコンペティション風情を盛り上げることもしていない。フェラーリの伝統であった、気筒あたりの排気量を示す数字も付加されていない。

もとを返せば、冒頭で筆者が示した困惑も、このコンテクストの希薄さが原因であった。しかし今の筆者は逆にその心意気を評価したい。美術史を振り返れば、フランス革命のあと、ルーヴルが美術館という新しい鑑賞形式を生み出した。それまでの宗教建築や貴族の館から作品を引き離し、より多くの人々に作品の評価を委ねた。

フェラーリも同じ。過去から敢えて引き離すことにより、新たな地平を拓(ひら)こうとしているのだ。同時に、彼らの歴史をリスペクトしながらも、その過剰なまでのスポーティネスに抵抗感を抱いていたカスタマーに好意をもって迎えられるだろう。1970-80年代のフェラーリ308のような“紳士のフェラーリ”が懐かしい世代の人々にも訴えかけるものがある。

フォルムはクラシカルだが、ディテールには未来感を漂わせる

フォルムはクラシカルだが、ディテールには未来感を漂わせる【もっと写真を見る】

再びエマヌエレ・カランド氏によれば、目下想定している主要市場は、米、英、独、日、豪であるという。いずれも、すでに目利きといえるフェラーリ顧客が十分醸成されている市場だ。そればかりか「フェラーリの頂点は12気筒」といった広く行き渡ったステレオタイプを覆し、敢えて8気筒に乗る賢さのようなものさえも、ローマは醸し出している。

この意欲的なモデルは、新たなフェラーリ顧客層を開拓する可能性をおおいに秘めているとみた。そこで、この試乗記を締めくくるには、名宰相ウィンストン・チャーチルの名言がふさわしい――「私たちは建物を形作る。そのあとは建物が私たちを作る」。フェラーリはローマを造った。ローマがどのようなオーナー像をつくるのか、関心をもって観察しようではないか。

(文 大矢アキオ Akio Lorenzo OYA/写真 Ferrari)

>>フォトギャラリーで【もっと写真を見る】

フェラーリ・ローマ
エンジン 3.9リッター 90°V8 DOHC 32バルブ ターボ
総排気量 3855cc
最高出力 620ps(456kW)@5750-7500rpm
最大トルク 760Nm@3000-5750rpm
全長×全幅×全高 4656×1974×1301mm
ホイールベース 2670mm
車両重量 1570kg(空車)/1472kg(乾燥)
駆動方式 FR
タイヤ (フロント)245/35ZR20 /(リア)285/35ZR20
変速機 8段デュアルクラッチ式AT
性能: 0-100km/h 3.4秒 最高速度 320km/h
燃費 ホモロゲーション取得申請中
価格 2682万円(日本)
試乗開始時の走行距離 7977km
試乗距離 232km

PROFILE

大矢アキオ

コラムニスト。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で比較芸術学を修める。イタリア・シエナ在住。NHK『ラジオ深夜便』レポーター。訳書に『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、著書に『イタリア発シアワセの秘密−笑って!愛して!トスカーナの平日』(二玄社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など

「誰しも、昨日の言葉で今日は語れない」 “時代の鏡”を磨き続ける辞書編纂者・飯間浩明の美意識

TOPへ戻る

あの定番が裏地の剥離をついに克服 パタゴニアの質実剛健な防水ジャケット

RECOMMENDおすすめの記事