トレンドは「より小さく、より手頃に」 イタリアのキャンピングカー見本市

(TOP写真:パルマ「イル・サローネ・デル・キャンパー」会場で。2021年モデルは「より小さく、より手頃に」が全体の傾向。車体色に関していえば、定番のホワイト以外ではワインレッドの車両を数社がディスプレーしていた)

コロナ禍のなか、より安全な旅を求めて

夏休みが一段落する9月、ヨーロッパでは毎年2都市でキャンピングカー専門見本市が開催される。メーカーがニューモデルを発表するのに適しているのと同時に、来場者の多くはバカンスから帰ったばかりで「そろそろ新車が欲しい」と思う時期だからだ。両者にとって絶好のタイミングなのである。

一つはドイツ・デュッセルドルフの「キャラバンサロン」。もう一つは、ここに紹介するイタリア北部パルマの「イル・サローネ・デル・キャンパー」である。

【動画】で見る、パルマ「イル・サローネ・デル・キャンパー」

同展は2020年で第11回。9月12日から20日に開催された。ドイツの「ハイマー」が出展を断念したことで関係者に衝撃が走ったものの、6万1千平方メートルの会場には、約200の出展者がブースやスタンドを展開。9日間の来場者は5万4千人を記録した。

イタリアのキャンピングカー産業は目下好調だ。業界団体「キャラバン及びキャンパー製造業協会(APC)」によれば、キャンピングカーの国内登録台数は、いずれも前年同月比で2020年6月に1.5倍、7月に2.14倍、8月にも2.04倍と大きく伸びている。新型コロナウイルスの収束が見通せないなか、より安全な旅を求める人が増えたことが背景にある。

フォードは、ワンボックス・バン「トランジット」をベースにした、日本でいうところのバンコン「カスタム・ナゲット」を展示

フォードは、ワンボックス・バン「トランジット」をベースにした、日本でいうところのバンコン「カスタム・ナゲット」を展示。価格は55,513.30ユーロ(約681万円)から【もっと写真を見る】

それ以前にイタリアはヨーロッパを代表するキャンピングカー生産国の一つである。APCによれば、7千人の雇用を支え、総売上高は年間15億ユーロ(約1842億円)に達する。

さらにいえば、その生産量の80%は、中部トスカーナ州ポッジボンシという街で造られている。筆者が住むシエナの隣町である。中部トスカーナは、北部ピエモンテとともにイタリア半島屈指の森林資源に恵まれた州である。そのため、ポッジボンシでは世紀を越えて木工技術の伝統が培われてきた。

2020年の「イル・サローネ・デル・キャンパー」の来場者は、5万4千人を記録した

2020年の「イル・サローネ・デル・キャンパー」の来場者は、5万4千人を記録した。一部の展示車両は即納であることも、ファンの関心を高める【もっと写真を見る】

第2次大戦末期、枢軸国ドイツと連合軍フランスによる激しい戦闘に晒されたあと、ポッジボンシの家具職人たちは復興の手段を模索した。やがて、彼らが手がけたシステムキッチンに代表される近代家庭家具は、奇跡的な戦後経済成長に沸くイタリアで、多くの消費者に受け入れられた。南部からの出稼ぎや移住労働者によって、街は活気がみなぎった。当時半島の最南端から移住してきたという筆者の知人は「ポッジボンシは、人々から“小さなミラノ”と呼ばれていた」と振り返る。

そうしたなか1970年代、彼らが次なる産業として選択したのが、家具の製造技術をふんだんに生かせるキャンピングカー製造だったのだ。背景には、ヨーロッパ各国がさらに豊かになったことによるレジャー人口の増加があった。

イタリアのキャンピングカーは、家具製造技術の伝統を受け継ぐ。これは「ローラーチーム・ゼフィーロ・プルス」のベッドルーム部分

イタリアのキャンピングカーは、家具製造技術の伝統を受け継ぐ。これは「ローラーチーム・ゼフィーロ・プルス」のベッドルーム部分【もっと写真を見る】

その戦略は、本来の家具産業が、次第に国内の他地域や、国外の家具メーカーとの競争に晒(さら)されるようになってからも、地元産業を支える手段として極めて正しい選択だった。

今日でも「エルナグ」「モービルヴェッタ」「ローラーチーム」といった有名ブランドが、ポッジボンシとその周辺に工場を構えている。実際に現地には架装を待つ無数のキャビン付きシャシーが並んでいる光景が広がっている。

トレンドはコンパクト・低価格・装備の多様化

日本でいうキャブコン(キャブコンバージョン)型にみられる2021年トレンドは三つだ。

一つは、コンパクト化である。数々のブランドが「全長5.99m」をセールスのポイントとしていた。全幅も、ベース車両のキャビン幅を可能な限りはみださないモデルが強調されていた。フランス「ラピド」社のセールス担当者によると、小型化は、カップルもしくは少人数の家族ユーザーが増えていることが背景にあるという。

コンパクト化にともなう取り回しの良さもアピールする。これは、ヨーロッパ各地で重要だ。多くの旧市街は、中世以来の狭い街路が少なくない。実際に、角を曲がりきれず、必死に切り返しを繰り返しているキャンピングカーを見かける。

取り回しの苦労を避けるため、遠い郊外の駐車場にキャブコンを置いて歩いたり、搭載してきた自転車やスクーターで移動したりするキャンパーは少なくない。また極めて少数ではあるが、コンパクトな車をトレーラーで牽引(けんいん)してくるユーザーさえいる。それらの不便を、小型キャブコンは解決してくれる可能性が高いのである。

フランス「ラピド」のC56型

フランス「ラピド」のC56型。全長×全幅×全高は5.99×2.17×2.75m。ローマの販売代理店に勤務するピエロ氏は、「小型化は、若い顧客層の開拓にも寄与する」と語る【もっと写真を見る】

二つ目は低価格化。標準型が4万ユーロ(約491万円)を切るキャブコンが多くみられた。実際には、あるセールスパーソンが認める通り“人並み”の装備を付加してゆくと、5万ユーロ(約614万円)コースになってしまう。だが、従来キャンピングカーを考えなかった人々には、それなりに訴求力ある戦略であろう。販売店の多くは約10年の長期ローンも用意し、需要の喚起を図る。同時にメーカーとしては、小型で手頃なキャブコンで入門してもらい、その後徐々に大きなモデルに買い替えてもらうことも期待する。

コンパクト化といえば、ワンボックスカーをベースにした、日本でいうところの「バンコン」の選択肢も充実がみられた。たとえばフォードは、小型バン「トランジット」をベースにした「ナゲット」を展示した。担当者は「普通の車同様に毎日使えるうえ、ファン・トゥ・ドライブ性も犠牲にしていない」とそのメリットを挙げる。

そうしたバンコン型のフル・フラットシートの中には、1980年代の日本製ワンボックスカーに似た仕掛けを誇らしげに宣伝しているものを散見する。だが、欧州ユーザーの選択肢が広がることは歓迎すべきだろう。

「ローラーチーム・ゼフィーロ・プルス」のパウダールーム

「ローラーチーム・ゼフィーロ・プルス」のパウダールーム【もっと写真を見る】

三つ目は外装・内装の多様化だ。会場にちりばめられた製品の車体色は、当然のことながら車内温度が高くなりにくい白が主流である。しかし今回は、ワインレッドの車両が数社でみられた。どの程度のトレンドとなるかが興味深い。一方、内装サプライヤー「シージェル」のスタッフによると、同じ木目でも近年は明るい色が圧倒的に人気と証言する。装備では、かつて高級モデル中心だった床暖房が、普及モデルにも搭載され始めているのが確認できた。

前述の「エルナグ」はフォード製キャビン&シャシーをベースに、欧州製キャンピングカーでは珍しいオートマチック・トランスミッション(AT)仕様を展示した。ライバル社のスタッフは「キャンプの目的地に多い坂道や雪道では、やはりマニュアルに勝るものはない」と懐疑的な見解を示した。だが、以前は10%を切っていた乗用車のAT比率が約20%に達したイタリアで、長い目で見れば決して悪くない戦略であろう。

「ローラーチーム・ゼフィーロ・プルス」のベース車両はフォード。イタリアでもようやく普及の兆しが見えてきたオートマチックを装備する

「ローラーチーム・ゼフィーロ・プルス」のベース車両はフォード。イタリアでもようやく普及の兆しが見えてきたオートマチックを装備する【もっと写真を見る】

家族構成にしたがい、柔軟なスタイルで楽しむ伊キャンパー

会場では、トスカーナ州グロセットでキャンパークラブの副会長を務めるアレッサンドロ・ティレンツィ氏(1967年生まれ)から話を聞くことができた。普段は消防士である。「少年時代、叔母がキャンプに連れて行ってくれたのが原点」とアレッサンドロ氏は語り始めた。自らの青年時代は「金が無かったので、バイクの横にテントを張っては、各地を巡ったよ」と話す。子供が生まれてからはバンガローに好んで泊まっていたものの、これも連泊すると出費が痛かった。

「そこで、マッジョリーナ(筆者注:自動車の屋根上に設営するテント)を買って、楽しむようになったんだ」

“マッジョリーナ”と呼ばれるルーフ上に設営するテントは、自分の車で気軽にキャンピングカー気分を味わえる。オーストリア「ジェントルテント」製の空気注入式テントは、2千ユーロ(約24万円)から

“マッジョリーナ”と呼ばれるルーフ上に設営するテントは、自分の車で気軽にキャンピングカー気分を味わえる。オーストリア「ジェントルテント」製の空気注入式テントは、2千ユーロ(約24万円)から【もっと写真を見る】

第2子が生まれたのを機に、初めてキャブコンを買った。39歳のときだった。3人の子供がいる現在は、モービルヴェッタ社製「イカロ」を愛用している。7人乗りというので、筆者が「あと2人産めますね」と言ったら、アレッサンドロ氏は大笑いした。

それはともかく、2台はいずれも中古だった。彼の話を聞いていると、最初から無理をして高価なモデルを買うよりも、家族構成にしたがい、柔軟にスタイルを変えてゆくほうが、よりスマートであることがわかってくる。今回のショーで多くのブランドが強調した小さめのキャブコンも、そうした無理のないキャンピングカー生活を実践するうえで、選択肢となろう。

スロベニア「アドリア・モービル」社の「391 PD」型

今日トレーラー式は少数派。しかし、スロベニア「アドリア・モービル」社の「391 PD」型は、19,000ユーロ(約233万円)の低価格ということもあり、それなりに関心を集めていた【もっと写真を見る】

「愛好者のなかには、車内で油がはねる揚げ物をしてよいか否か、備え付けトイレを使うか使わないかで喧喧囂囂(けんけんごうごう)の議論をする人がいる。しかし、いずれも正解などないのだ。そんなことに時間を要するより、各自が思い通りに楽しめばいいじゃないか」と訴える。

そもそもキャピングカーの醍醐味は、自由にできる小さな家。自車内においては、しきたりなどないのである。これからキャンピングカー生活を始める人にとっては、なんとも頼もしい言葉ではないか。

グロセット・キャンパークラブのアレッサンドロ・ティレンツィ副会長(左から2番目)と仲間たち

グロセット・キャンパークラブのアレッサンドロ・ティレンツィ副会長(左から2番目)と仲間たち【もっと写真を見る】

(文と写真・大矢アキオ Akio Lorenzo OYA、動画・大矢麻里 Mari OYA)

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PROFILE

大矢アキオ

コラムニスト。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で比較芸術学を修める。イタリア・シエナ在住。NHK『ラジオ深夜便』レポーター。訳書に『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、著書に『イタリア発シアワセの秘密−笑って!愛して!トスカーナの平日』(二玄社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など

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