AW2020Asia~ビジネス再定義と社会変革

変わる生活者の意識 広告はどこへ向かうのか?

マーケティングなどをテーマにした世界最大級のイベント「アドバタイジング・ウィーク2020アジア」(AW2020Asia)の開催にちなみ、各界の第一人者が語るリレー企画。最終回は、未来を見据えて広告がなにを目指すべきなのか、エグゼクティブ・プロデューサーを務める笠松良彦さんがつづりました。

Daisuke OTOBEDaisuke OTOBE

変わる生活者の意識 広告はどこへ向かうのか?

笠松良彦

NEC、博報堂、電通を経て2010年に株式会社イグナイトを創業、代表取締役社長に就任。電通とリクルートのジョイントベンチャーである株式会社Media Shakersの社長として、2005年から5年間、R25事業を推進した。2006年カンヌ国際広告祭メディア部門プロモライオン受賞。

「Advertising Week Asia」を東京でやる理由

2015年秋、Advertising Weekの主催者と、「アジア版をどこで開催するべきか?」を協議する中で、私とパートナーが彼らに言ったのは「アジアの広告の中心は日本だと思う」ということでした。そして、その想(おも)いに突き動かされて、まさにゼロからのスタートで翌2016年5月にAdvertising Week Asiaの東京での開催にこぎつけました。

当時、事務局長をしていた私の想いは「業界の会社間の壁を壊す/村意識を壊す」ことでした。そしてその想いは、有志によるアドバイザリーカウンシルのメンバーや、協賛社、さらにはプログラムコンテンツにも反映されています。

日本のマーケティング業界・広告業界は長い間、世界から離れた場所で独自の進化を遂げてきました。今まではそれでよかったかもしれませんが、もうその時代は終わりました。デジタルトランスフォーメーションによって、今までの地理的・時間的制約がなくなってきていることは皆さん実感されているとおりです。

これからはいやが応でも「アジアの中の日本。グローバルの中での日本」を意識することが必要です。大げさかも知れませんが、マーケティング・コミュニケーションをなりわいとする私たちが、世界における日本のブランディングを背負う立場なのだと思っています。だからこそ、まずは自分たちの「壁・村意識」を変えていきたいのです。

私は、Advertising Week Asiaが、そのための「場」となることを目指しています。そして、そのことが、日本のマーケティング・コミュニケーション力・存在価値をグローバルに示す道標になると考えています。

変わる生活者の意識 広告はどこへ向かうのか?

リアルでの開催だった過去の「アドバタイジング・ウィーク・アジア」の様子

Vision : Purpose driven marketing

今回改めて定めたビジョンが「Making an impact with Purpose Driven Marketing」です。Purposeについては、すでにカウンシルメンバーによるコラムで触れていますので、私からは詳細を割愛しますが、“商品を作れば売れる=広告業界も伸びる”という時代は終わりました。商品サービスは街にあふれ、生活者の「幸福・満足」の意識も、「他人との比較による相対評価」から「自分の価値観に対する絶対評価」へと、どんどんシフトしていると実感しています。それは、成熟した社会においては、ある意味必然なのかもしれません。

あらゆるモノ・コト・サービスは、その「存在理由」を問われる時代に確実に変化してきています。そして、「Purpose/存在理由」を重要視する傾向は、コロナによって更に加速しています。

広告は誰のためのものか?

その中で、長い間私たちが「広告」と言ってきたものも変質してきています。かつては「広告=広く告げる=たくさんの人に商品・サービスを知ってもらう」ことが広告でした。それは別の言い方をすると、「広告主・ブランド」が主語のプロダクトアウトの発想でしたし、それが悪いことでもありませんでした。

確かに過去には「広く知ってもらえば売れる」時代もありました。しかし、前に触れたように、あらゆる商品・サービスが街にあふれ、人々が、他人との比較において消費をしなくなりつつある今、広告の主語は、明らかに「生活者である顧客」になっています。これは当たり前のことのようですが、実は非常に大きなパラダイムシフトなのです。

広告の目的

その中で、広告の果たす役割と目的も、明確に変わってきました。かつては「どれだけたくさんの人に伝わったか? 理解してもらったか?」が役割と目的でした。よりたくさんの人に伝われば、それがよい広告だと。誤解を恐れずに言えば、広義の意味ではマーケティングという言葉も「たくさん伝わること=そうすれば売り上げも伸びるはず」と理解されていた感があると思っています。

しかし、今は「どれだけ共感してくれたのか? 熱烈なファンになってもらえたのか?」が最も重要です。1億人に受け入れられなくても、10万人の熱烈なファンがいればよい、そういうビジネスモデル・ケースがどんどん増えています。特に日本のように少子高齢化が確実に進む社会においては、売り上げを構成する「客数」×「単価」×「頻度」の3要素の中で、単価と頻度が最も重要であるのは自明の理です。広告とは、広く告げることではなく、狭くても濃いファンを創ること、になってきています。

変わる生活者の意識 広告はどこへ向かうのか?

©Getty Images

全ては「顧客体験」のために

かつては「商品・サービス」との「認知・購入」の接点でしか見ていなかった「顧客」を、主語が「顧客である生活者」になる中では、「顧客が体験する全ての接点」で広告・マーケティング活動を考えるのは当然の流れです。いわゆる「顧客体験」という視点です。そこにはファンになってもらいたい顧客の毎日の生活の中で、どのようなアプローチ(メディア)で、どのような語り口(コンテンツ)で、どのように接点(タッチポイント)を設計するのか?という視点が必要になってきます。

企業のPurposeも、デジタルトランスフォーメーションも、全ては「より良い顧客体験」のためにあるものです。そして、「より良い顧客体験」を設計するためには、こちらが勝手に「理想の顧客体験・カスタマージャーニー」を描くのではなく、顧客の深層心理を深く洞察(インサイト)して、顧客自身が言語化できていない不満・不安・要望をあぶり出す技術が必要になってきます。

自分自身の日々の行動を振り返っても「あれ? なんであんなことしたんだろう? なんでこの商品を買ったんだろう?」と思った経験は誰しもあるはずです。言語化できていない深層心理。そこを解明できた時、顧客が本当に共感する「顧客体験・カスタマージャーニー」が設計できるようになると私は思います。そして、それこそがプロとしての付加価値だと思うのです。

欧米由来のバズワードはもうそろそろいいでしょ

余談になりますが、とかく広告業界の人は欧米由来のカタカナ言葉が好きですね。新しい解釈を得ることは悪いことではありませんが、そろそろ、バズワードに振り回されるのではなく、正しい日本語で語ることをやりたいと思っています。日本語は美しいと思うのです。何よりもカタカナ言葉よりも理解に差が出ません。先日とあるインタビューで「マーケティングオートメーション」について「知っている」と答えた人たちに、本来の意味をお伝えしたところ、実に8割近くの人が「間違って理解していた」と答えていました。同じようなことが業界でおきていないか心配です。

科学と芸術の高度な融合

私は人も動物だと思っています。約350万年前に人類の祖先である猿人が二足歩行を始め、その後、現生人類に最も近いと言われているホモ・サピエンス(ラテン語で「賢い人間」)が誕生したのが約20万年前と言われています。つい最近のことです。人類の歴史を1メートルの定規で例えれば、現生人類が生まれたのは、わずか6ミリ。つまり私たちは、ほぼ94%猿人なのだと言うのが私の持論です。つまり、どれだけ科学的で論理的なアプローチをしても、動物である人間は、予想もしない反応をする生き物だということです。だからこそ面白い。そこにクリエーティビティーがチカラを発揮するチャンスがたくさんあります。いわゆる「表現だけで何故か人気が出た」という現象です。だから広告・マーケティングは面白い。私はそう思います。

変わる生活者の意識 広告はどこへ向かうのか?

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「広告主=発注者、広告会社=納品者」の関係ではなくなる

マーケティング・広告業界にとっての顧客は、一義的には広告主です。ですが、最終顧客は、まさに「生活者である顧客」つまり、B to B to Cビジネスです。私はこの、B to Bの関係性はこれから変化すると思っています。広告主=発注者、広告会社など=納品者ではなく、これからは協働協業して、「人々の生活をどうやって今より少しだけ良くすることができるのか?」を考えるオープンイノベーションのパートナーであるべきということです。そして運命共同体としての協業の結果、広告主は成果を受け取り、広告会社もその成果を分かち合う。そんなビジネスが増えていくと予想しています。

その時に大事なのは、「最適なチームを作ること」。それぞれの会社や個人の強みを持ち寄って、最適なチームを作り、顧客や広告主の想いに応えること。そして、そのためには、「会社の壁・村意識の壁」を壊す必要があります。Advertising Week Asiaは、そんな想いを共有できる「仲間」を見つける「場」であり続けたいと思っています。

(笠松良彦)

アドバタイジング・ウィーク・2020アジア

10月14日~15日にオンラインで開催

アドバタイジング・ウィーク2020アジア(Advertising Week 2020:Asia)は、オンラインにて、10月14日(水)~15日(木)の 2 日間開催されます。すべてのセッションに参加できるパスは、5,000円。参加申し込みは公式サイトから。

デジタルがビジネスを変える――今こそ「顧客体験」から始まる経営へ

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