小川フミオのモーターカー

優雅なスタイル、時速343キロのスポーツカー ジャガーXJ220

英国のジャガーカーズはおもしろいメーカーだ。高級サルーン(セダン)を作る一方で、スポーツカーでも知られる。1991年の東京モーターショーで発表された「XJ220」はごくわずかしか作られなかったレア度満点のスポーツカーだ。

(TOP写真:美しいスタイリングはジャガー内部のデザイナー、キース・ヘルフェットによるもの)

ジャガーと聞いてすぐ思いつくモデルは? と質問すると、「XJ」とセダンの名を答える人がいる一方、「Eタイプ」とスポーツモデルを真っ先にあげる人もいるだろう。私はもう1台、「XJ220」をつけ加えたい。

90年に生産が始まり94年までに275台が作られた(組み立てはほぼ手作業)

90年に生産が始まり94年までに275台が作られた(組み立てはほぼ手作業)

車名の数字は時速「220」マイル(概算して時速354キロ)を目指したことに由来している。量産スポーツカーとは一線を画す大胆な空力デザインのボディーに、3498ccのV型6気筒ツインターボ。このエンジンは後車軸の前に搭載されて後輪を駆動した。

シャシーはアルミニウムを使ったハニカム構造と凝っていた。目的は剛性と軽量化。実際に車重は1470キロと軽かったのだ。ジャガーが行った走行試験では時速213マイル(概算時速343キロ)を記録したという。

タイヤは前が255/55R17、後ろが345/35R18で、ブリヂストン製

タイヤは前が255/55R17、後ろが345/35R18で、ブリヂストン製

生産は、もとレーシングドライバーをオーナーに持つトム・ウォーキンショー・レーシング(TWR)が担当。1984年からジャガーのモータースポーツ活動を担当していたTWRは、ジャガーを使ってルマン24時間レースへの参戦にも熱心で、88年には、XJR9-LMという耐久マシンで優勝を獲得という実績も残した。

XJ220はスタイルも美しく、とくにプロファイル(側面)の眺めが私の好みだ。ロングテールと、キャブフォワード(乗員が乗るスペース=キャビンが前のほうに位置)によるプロポーションは、とても魅力的だ。私は英国のモーターショーでこのクルマのポスターをもらって、大事にとっておいた思い出を持っている。

内装はどちらかというと快適志向

内装はどちらかというと快適志向

ジャガーは、フェラーリやポルシェの市場にこのクルマを投入して、セールスを伸ばそうと目論(もくろ)んでいた。ごく限られたスポーツカー好きの富裕層をターゲットに、ジャガースポーツなる子会社を設立し、前出のTWRと組んだ。

そこが発表したのが、レーシングマシンをベースにした「XJR-15」なるスーパースポーツカーだ。レース車両なみの技術をセリングポイントにしたモデルである。

炭素素材を使ってシャシーを作り、XJR9と同じ設計のモノコックタブ(乗員が乗る部分)を使い、当時グループCと呼ばれたレーシングカーのために開発されたエンジンを搭載。サスペンションもブレーキも市販車とは大きく異なる高性能だった。発表は90年。XJ220とほぼ同じタイミングである。

エンジンはオースチンローバー(当時)のグループBマシンに使われていたドライサンプのV6ツインターボに手を入れた

エンジンはオースチンローバー(当時)のグループBマシンに使われていたドライサンプのV6ツインターボに手を入れた

ジャガーの名を冠したスーパースポーツが2台発表されたのは衝撃的だった。XJ220がV6であるのに対して、XJR-15は6リッターV12。公道を走れるレースマシンというXJR-15のイメージは、前年のXJ220の強烈な存在感をさっと上書きしてしまった。XJ220の販売計画も打撃を受けたらしい。

XJ220は、ジャガー内部の有志が休みの日に集まって、“こんなスポーツカーがあったらいいよな”と半分遊びの感覚で開発していたものが、実際のプロジェクトに昇格した経緯を持つ。最終的には、このクルマもジャガースポーツとTWRによって量産化された。

というわけで、ジャガーカーズ内部でまったく連携がとれていず、XJ220とXJR-15はバッティングしてしまったのか。それとも併存可能と判断されたのか。そこが私にはわからない。

ヘッドランプカバーが開いた状態も印象的

ヘッドランプカバーが開いた状態も印象的

88年の発表時には、“12気筒で全輪駆動で、ポルシェ959やフェラーリF40をしのぐ性能”という衝撃的な内容が喧伝(けんでん)された。しかし、その後、世の中の経済状況が思わしくなくなったのと、ジャガーへ出資していたフォードの思惑が大きく影響して、プロジェクトは縮小。6気筒の後輪駆動となってしまった。

当初の計画と、実際に作られるクルマとでスペックス(もろもろの性能)が大きく変わったため、よろこんで手付金を払っていたスポーツカーファンからのキャンセルも少なくなかったとか。果たして、生産計画の縮小が、今このクルマの希少価値を上げている。皮肉だなあと思う。

当時のジャガーはレース活動に熱心でかっこよかった

当時のジャガーはレース活動に熱心でかっこよかった

ジャガーカーズでは、ただし、XJR-15を自分たちのプロダクトとは認めていないふしがある。このクルマの最高速度は時速215マイルで、XJ220より2マイル速かった。しかし、ホームページをみると、「もっとも速いジャガー」の称号はXJ220に与えられているのだ。

 

受け手の立場としては、今だったら、違った市場を狙った2台として、ともに受けいれられる。当時は、XJR-15こそリアルスポーツカーと思った。それはそうだろう。公道で乗れる、という触れ込みだったものの、実際は高速を出していないとオーバーヒートするなど、本格的なレースカーだったようだ。

それに対してXJ220は優雅ですらある。そこがいい。今でもスタイリッシュで、輝きがある。クルマがアートに例えられることもあるのは、速さが全てだからではないからだ。

ルマン24時間レース用の耐久マシンのパーツを使って組み上げられたボディーに700馬力エンジン搭載のXJ220S(1993年)

ルマン24時間レース用の耐久マシンのパーツを使って組み上げられたボディーに700馬力エンジン搭載のXJ220S(1993年)

(写真=Jaguar Cars提供)

【スペックス】
車名 ジャガーXJ220
全長×全幅×全高 4860×2000×1150mm
3498cc V型6気筒 ミドシップ後輪駆動
最高出力 405kW(550ps)@7200rpm
最大トルク 644Nm@4500rpm

PROFILE

小川フミオ

クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。新車の試乗記をはじめ、クルマの世界をいろいろな角度から取り上げた記事を、専門誌、一般誌、そしてウェブに寄稿中。趣味としては、どちらかというとクラシックなクルマが好み。1年に1台買い替えても、生きている間に好きなクルマすべてに乗れない……のが悩み(笑)。

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