シネマコンシェルの部屋

13歳年下の既婚者に恋をしてしまいました(コンシェルジュ:FROGMAN)

読者の皆さまから寄せられた相談やお悩みに、映画を愛する様々な分野の方々が寄り添い、最適の作品を紹介する隔週連載。

コンシェルジュは映画コメンテーター/タレントのLiLiCoさん、CGクリエーター/映画監督のFROGMANさん、カラテカ・矢部太郎さん、Base Ball Bear・小出祐介さんの4人です。今回のコンシェルジュはFROGMANさんです。

<01> 疎遠になってしまった友人とあの頃のような関係に戻るには<01> 疎遠になってしまった友人とあの頃のような関係に戻るには

#02 中年になっても終わらぬ自分探しの「旅」(コンシェルジュ:FROGMAN)

FROGMAN

映像クリエイター、声優、監督。長年、実写映画・ドラマの世界に身を置く。2006年DLE入社。07年9月より取締役就任(現任)。06年に「秘密結社 鷹の爪」を地上波で発表した後、07年には劇場公開。その後、テレビ・映画シリーズを次々と公開。その他「古墳ギャルのコフィー」や「土管くん」などオリジナルIPを多数創出。独自の世界観とプロデュース手法が人気を呼び、「島耕作」シリーズ、「天才バカボン」等の有名原作のパロディー化によるリプロデュースにも従事。08年度ニューヨーク国際インディペンデント映画祭にて、「アニメーション部門 最優秀作品賞」「国際アニメーション最優秀監督賞」をダブル受賞。12年4月、しまねコンテンツ産業振興アドバイザー(しまねだんだん★メディアアドバイザー)就任。13年11月、松江市観光大使就任。

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<相談者プロフィール>

愛野ルシファー 女性 62歳

香川県在住 フィットネスインストラクター

私は今、少女の時のように恋をしています。夫も娘もいる62歳、夫と結婚してもう35年。夫をとても信頼しているし、仲のいい夫婦だと思いますが、お互いがもう空気のような存在に……。そんな日々を過ごしていたなか、3年前に13歳も年下の男性に一目惚れしました。彼の声や雰囲気が、もうたまらなく好みなのです。夫にはない色気を感じてしまうのです。いい歳をして愛してほしい、と思ってしまう……。会いたくて会いたくて……。

彼は夫が3年前肺がんになった時の主治医なんです。治療のための入院中も、夫のがんの心配よりその先生に会えるのが楽しみで、もうルンルンで夫のお見舞いに通っていました。もちろん相手も既婚だし、自分の気持ちを口にすることは絶対ありませんが、日ごとにその人への気持ちは大きくなるのです。本当に大好きなのです。

私は今まで自分は幸せで、いつも自分に満足して生きてきましたが、生まれて初めて先生の奥様を心からうらやましく思い、嫉妬してしまいました。今は夫のがんも消え、2カ月に一度の通院だけなので、私が病院に行くことはなくなってしまい、会うことができなくなってしまいました。ですが先生のことを考えるだけで切なくて、胸が苦しくて苦しくて……。先生が通勤に使う道を車で走る時は、先生の車とすれ違わないか、と対向車をひたすら気にしたり、土日にスーパーに買い物に行った時は、先生も家族と来てないかなぁと、探してみたり……そんな偶然、あるはずもないのに。

全くバカな自分だと思いますが、もうこの気持ちはどうしようもありません。頭ではわかっていても止めようがないのです。時がたって、自然とこの気持ちが収まっていくのを待つしかないと思いながら、夫のがんが再発すれば……などと悪魔のような心がたまに出てきてしまう! こんな地獄へ落ちるしかないような私にお勧めの映画をお願いします。

恋をしている気持ちをどこか他人のように楽しみませんか?

難しい問題を抱えてしまいましたね。どう考えてもこの恋は絶対に手を出してはならないし、結果として自分も含めて皆が不幸になるのが火を見るより明らかじゃないですか。

これが仮に相談者さんが30歳だったら分かります。ワンチャン狙いで当たって砕けるのもアリかなと。でも頂いた情報を見ると、100人に相談したら99人が「ダメ、絶対!」と、相談者さんを羽交い締めにしても止めることでしょうねぇ。ひょっとすると1人くらいは「不倫、大いにやりなさい!」と背中を押してくれるかもしれませんが、それは確実にケーシー高峰ですから真に受けてはいけません。ですから私も『マディソン郡の橋』なんか絶対にお勧めしませんよ。大島渚監督の『愛のコリーダ』か、『愛の亡霊』を選びたいところですが、そこであえてお勧めしたいのが、風間志織監督の傑作『火星のカノン』(2002)です。

主人公絹子(久野真紀子)はチケットストアで働く29歳のアルバイト。絹子には火曜日しか会えない恋人・公平(小日向文世)がおりました。公平は妻子持ちで、他の曜日は家庭におります。ずるくてスケベでだらしない公平は、悪く言えば絹子をもてあそんでいるんですが、とても優しい男。絹子もわかっちゃいるけどズルズルと、その関係がやめられないんです。

そんなある日、絹子は以前バイトで一緒だった聖(中村麻美)と偶然再会。聖の同居人の真鍋(渋川清彦)と3人で何かご飯を作って食べようとスーパーに出かけると、娘と一緒にいる公平とばったり出くわしてしまいます。それにショックを受ける絹子は、公平との関係を聖たちに打ち明けます。すると聖は別れろと口うるさく介入してくるではありませんか。なによ、久しぶりに再会してやかましいわねと思っているうちに、聖は隣の部屋に引っ越してきて、絹子に好きだと告白してくる! 同性からの告白に絹子は戸惑うものの、未来の無い恋に疲れた絹子は、聖の一途な気持ちを次第に受け入れていく……そんなお話です。

この映画、風間志織監督の鋭い感性が、時速40キロで向かってくる軽乗用車みたいにぶつかってくる映画でして、見たあと再起不能とまでなりませんが、2週間ばかり病院のベッドの上で、ぶつかって来たときの衝撃を思い返して色々思いを巡らすような、そんな感触の映画なんですよ。どんな監督の手にかかっても情けない三枚目としか描かれない小日向さんをここまで色気ある男に描くとは! 男の私でも思わずドキッとしてしまう濃厚な色気と既婚者のスケベさ、狡(ずる)さ。でも憎めない。この小日向さんを見るだけでも価値ありますけど、主演の久野さんのクールな美貌(びぼう)の裏に秘める脆(もろ)さを持つ危うさもイイ! 聖役の中村麻美さん、そして真鍋役の渋川さんもイイ!

そしてストーリーも繊細で、露悪的な残酷さやショックさは無いのにもかかわらず、ラストの何とも言えない終わり方。そのくせ実らぬ不毛な恋と同性愛というテーマも取り入れつつ、それをまとめて『火星のカノン』なんて題名で仕上げるセンス。火星にはセックスや戦いという意味もあるそうで、この映画、もうすべてに隙が無い。

で、何故にこの作品をお勧めするかと申しますと、相談者さんのその気持ち、世間並みに否定するのもどうかと思ったんです。だってこんな相談、前出の通りケーシー高峰くらいしか応援してくれませんよ。それでもあえて相談するには、鷹の爪のアニメなんかを作ってるようなおかしな奴なら、ひょっとして何か別なことを言ってくれるんじゃないかと期待してるんじゃないかと思うんです。

私は実らせることにはやっぱり否定的なんですが、その気持ちを少し遠くから眺めると言いますか、恋をしている気持ちをどこか他人のように楽しむってことは出来ないでしょうか? 相談者さんは私よりも年上で、それなりに人生経験も積み、大人としての自制心もおありかと思います。出来ればそれを創作に昇華するというのはどうでしょうか? 私たちストーリーメーカーは、常日頃から様々な人物の“気持ち”を想像し、架空の人物の人生を描くことに腐心しております。しかしリアルに体験し感じている人から出る言葉や行動には到底かないません。60歳過ぎてからのかなわぬ恋なんて、もしかしたら小説や音楽にしたら、この『火星のカノン』を超えるような、すごい作品が生まれるかもしれません。

今やネットを使えば、誰でもどこでも、自分の身分を隠して作品を発表できる時代です。出来ればその気持ちから距離を置きつつも否定せず、観察者のように見つめて作品にしてはいかがでしょうか? 2年後あたりには、風間志織監督が映画にしているかもしれません。印税、ガッポガッポですよ。

FROGMANさん推薦の映画

火星のカノン

監督:風間志織

PROFILE

「シネマコンシェルの部屋」ライター陣

LiLiCo、FROGMAN、小出祐介

仕事と友情、打算的になってしまう人間関係への悩み(コンシェルジュ:LiLiCo)

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自分のことを否定せず、前向きに生きていくには(コンシェルジュ:矢部太郎)

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