LONG LIFE DESIGN

人生の中心に「やるべきこと」を置く タップダンサー熊谷和徳さんが輝く理由

いよいよ冬の気配が感じられる寒い日が増えてきましたね。あんなに暑かったのに。

さて、今回も3話、書いてみました。最初は米ダンスマガジン誌より「観るべきダンサー25人」に選ばれている熊谷和徳さんのお話。うれしそうにタップを踊るカズさん。生き方の中心にダンスを据えている感じに感動したお話。

二つ目は今年で参加2回目の愛知の焼き物のコンペの審査員の話。審査員って何を大切に臨まないといけないか、思ったことを書きました。

最後は愛知県豊田市にある大好きな飲み屋の話です。ひっそりと隠れるように営業し、自分たちの世界観をしっかり持つそのスタイルは、本当に僕のこれからの参考になっています。それでは、しばしお付き合いください。

人生の中心に「やるべきこと」を置く タップダンサー熊谷和徳さんが輝く理由

京都を訪れたとき必ず食べに行く中華そばの「萬福」。先日改めて店の前を通って思ったのは、どんどん進む都市化によって、なんだか肩身が狭そうな気配。ずっとずっと残ってほしいから、ずっとずっと食べに通います

熊谷和徳さんのタップダンス

D&DEPARTMENT富山店でのタップダンサー、熊谷和徳さんとのトークとステージ。本当に感動しました。参加した方が「ダンスというよりも、音楽って感じ」と言っていたように、僕も心に響く打楽器の、太古の魂を揺さぶるような、そんな言葉で表現しきれない感動を味わえて本当に良かったです。

熊谷さんにはトークをしながら、タップを披露してもらいました。タップの歴史とかは情報ですから言葉にできますが、一緒に参加された皆さんの前で対話していて、言葉にできないことってあるなぁと、改めて思いました。印象的だったのは「トレーニングはどうしているのですか?」という質問に対する答え。「ただ、ひたすら踊っているだけで、トレーニングはしていない」と言うのです。ちょっとびっくりです。そして「先日、足の皮がむけて……」と。

僕は足の皮なんて、あんなにハードなことを繰り返していたら何回、何十回もむけているとばかり思っていたので、これまたびっくり。カズさんはトレーニングのことをこんなふうに考えていました。ずっとタップについて考えているので、踊りに関する無駄な動作や効果的な動きが自然と身につくと。皮がむけたのも、無駄な動きを繰り返していたからだと。簡単に答えていましたが、これは並大抵のことではないと思いました。

普通の人は、やらなくてもいいことや、身の丈に合わないことなど、欲によっていろいろ行動します。自分の生活の中で、一つのやるべきことに集中し続けるなんて、なかなかできません。しかし、カズさんは、タップダンスをしっかり中心においていた。だからあらゆることが「トレーニング」となり、皮がむけたりしたことも、「余計な力がそこに入っていた」と解釈する。自分に置き換えたら何かなぁと、思いました。デザインなんでしょうが……(汗)。

トークの最後は、自分が影響を受けたダンサーの映像を流して退場。グレゴリー・ハインズとサミー・デイビス・ジュニアの映像でした。タップダンスの起源の一つとして、黒人の差別問題から生まれた行為とする説があります。会話や歌など音楽表現を禁止された黒人奴隷たちが、足でリズムを刻んだことから広まったとして、そうした歴史を伝えることが、カズさんのダンサーとしてのミッションでもありました。

普通は自分のダンスを披露して拍手で退場するのでしょうけれど、最後の最後まで、黒人たちが、最終的にタップダンスを素晴らしい文化に育て明るく前向きに踊る様子、そして、その偉業を成し遂げたスターたちの映像を流し、映像の中の今は亡き二人にも大きな拍手をしたくなるような素晴らしい感慨深い時間となりました。

みんな思ったはずです。カズさんはタップが大好きなんだと。自分よりもタップダンスが大好きな人なんだと。また、いつか、カズさんのステージを見たいと思います。

人生の中心に「やるべきこと」を置く タップダンサー熊谷和徳さんが輝く理由

人生の中心に「やるべきこと」を置く タップダンサー熊谷和徳さんが輝く理由

世界で活躍するカズさん。体ひとつで勝負している人は、本当に人間のあたたかさにあふれていると感じます。カズさんのダンスへの集中は、何をしているときも感じられました。僕の店、D&DEPARTMENT富山店にて、ダンス公演をしたときの記念写真

審査員の視点

今年も愛知県で開催される「セラミック・ライフ・デザイン・アワード」の審査員をつとめることとなりました。今年はちなみにもう一つ、茨城県の焼き物のコンペの審査員もすることに。個人的にはまだ本業はグラフィックデザイナーなので、ADC(東京アートディレクターズクラブ)賞などの審査員に呼んでもらえると、超うれしいのですが、最近ではすっかり「ものづくり系」の人と認識していただいているようで。もちろん、それもうれしいのですが(笑)。

僕は「ロングライフデザイン」をテーマに活動していますから、消費されて短命に終わるものについて、様々な経験から様々な角度で見てしまいます。つまり、他の審査員の皆さんとは見方がかなり違います。もしかしたら他の審査の皆さんは、「ものを生み出そう」「産地にとっては、ものが生まれることが不可欠」という前提があって、そういう目線で「需要がありそう」「売れそう」「これを製造するには、どんな技術が必要だろう」など「作る」前提で審査されるのでしょうけれど、僕に至っては「これは、いる?」「こんなの、必要??」と一つ一つ見てしまう。今、思うのですが、ものを作り出す審査員には不適格なんじゃないかと思えてくるのでした。

もちろん、ものづくりは経済を活性化させ、生活の基盤となる収入につながる大切なこと。しかし、しかしです。

何年か前に「D&AD」というデザインコンペの審査員に指名され、ロンドンに審査にいった経験があります。このコンペもそうでしたが、審査にあたって必ず「どうやって審査していくか」という視点の共有が必要です。しかし、日本のコンペ、もっと辛口に言うと、地方の審査会にはそれがないことが結構あります。審査員長が有名というだけで、何も機能していない。つまり、「どんなものを選ぶことが、このコンペには必要か」という未来を明るくするための指針がないまま、各審査員がバラバラにそれを決めてしまうことが本当に多い。

「何のためにどんな視点で今回は審査するのか」「今回はどういう理由で、それを一位を選ぶのか」。それは時代のあるべき姿を示す、影響力のある「答え」でもあるのですから、面白半分で一位を決めるわけにはいかない。

と言うことで、もしかしたら審査員が集まり、最初の顔合わせで、僕は必要ないということになるかもしれません。だって、もう、こんなにものがあふれているのです。そして、若者を中心に時代はUSEDや新しい古道具の時代に向いていることは明らか。頭のいい審査員に煙に巻かれないよう、僕は僕なりの「もう、新しいものは、いらないんじゃないか」という視点で、臨んでいきたいと思っています。もちろん、いつの時代もそんなことを言いながら、とてつもなく素晴らしい生活道具は誕生します。そこに大きな期待を込めていることは、もちろんです。

人生の中心に「やるべきこと」を置く タップダンサー熊谷和徳さんが輝く理由

審査の様子。様々なかたちで生活道具に関わる審査員だから、視点、論点が異なる。徐々にコンペ自体の意義やセラミックの将来について思い合い、終盤は和やかな雰囲気になっていった

自分ミュージアム

愛知県豊田市に、本当に大好きな店があります。自分のブログなどでチラチラと何度か書いていますが、場所は言えません。これ以上混んで入れなくなっては困るからですが……。すみません。最近、改めてとても具体的に影響を受けています。

そこは家のリビングを居酒屋にしたような店で、僕の妄想では、「東京で一度、編集などで働いた経験のある夫婦がやっている」という感じ。充実した日本酒やウイスキー。そしてたくさんの雑誌、本。ソファ、テーブル、音楽。本はジャンル別に分かれている。旅、料理、建築、デザイン、写真、ファッション、哲学……。それぞれの近くには、それにまつわる小物や時に関連づけられた映画のDVD。小さなスタンドライトに、一人がけのソファ。おいしいつまみと焼酎のお湯割り。シメの料理は無いけれど、おいしいお漬物で、本当にちびりちびりやりながら、そのオーナーの世界観の中で、手のひらで転がされる感じ。悪くありません(笑)。

静岡の自宅をこの店に影響され、持っている本や小物をジャンル別に分け、もしかしたらこんな山奥の家ですが、会員限定にしてあの店のようにお客さんを入れようかなぁとか、妄想は膨らみます。

楽しいのは、これまでなんとなく買って、なんとなく書棚に入れていた本を、ジャンル別に分類すること。玄関すぐの、お酒のコーナーには、お酒の本を。台所には料理の本。リビングの大きな絵の近くには、アートの本……。そうしていくことで、自分という一人の人間がなんとなく浮き彫りになってきます。「あぁ、自分って、やっぱり浅めな情報が好きなんだなぁ」と。専門書や深く掘り下げるような本は、とっても少なかった。入門書ばかり……。

そして思うのですが、同じように豊田のその店は、いろんなジャンルがあるのに、一人の人物像がしっかりあらわれます。バラバラな本なのに、実は深いところで一人の人に集約しているような。例えば、宗教から音楽やアートを知るような、あの店のオーナーの場合、うっすらと「旅」が好きという人物像が出てくる。デザインのコーナーなのに、どこか旅をしているような気分になる。料理のコーナーに行っても、料理の作り方の本ではなく、世界の料理を旅しながら食べて楽しんでいる気配がある。

人って、そういういろんなジャンルが一つになっている。一つに特化した人を「オタク」と言うのでしょうけれど、多ジャンルで何を聞いても答えるような深掘りする人は、いろんな本を一つの目線で掘り下げていく。

何度かその店に行って「こんなの、絶対に再現、まねはできない」と、ため息をつくことがあります。それはやはり、一つの探究心をもとに、多ジャンルを楽しめる人ということで、僕はそれに憧れはしますが、なかなかできません。

いつか、大切な仲間に、この店の世界観を共有したいところです。

人生の中心に「やるべきこと」を置く タップダンサー熊谷和徳さんが輝く理由

こんなソファコーナーが何カ所かあり、ダイニングテーブルが三つくらいのこぢんまりとしたいい店。名前は教えられませんが、この楽しさは自宅にも採り入れられるなぁと、いつも感心するのでした

PROFILE

ナガオカケンメイ

デザイン活動家・D&DEPARTMENTディレクター
その土地に長く続くもの、ことを紹介するストア「D&DEPARTMENT」(北海道・埼玉・東京・富山・山梨・静岡・京都・鹿児島・沖縄・韓国ソウル・中国黄山)、常に47都道府県をテーマとする日本初の日本物産MUSEUM「d47MUSEUM」(渋谷ヒカリエ8F)、その土地らしさを持つ場所だけを2カ月住んで取材していく文化観光誌「d design travel」など、すでに世の中に生まれ、長く愛されているものを「デザイン」と位置づけていく活動をしています。’13年毎日デザイン賞受賞。毎週火曜夜にはメールマガジン「ナガオカケンメイのメール」www.nagaokakenmei.comを配信中。

古物の値付けはどうやって? 「言葉の鑑定」で価値を生み出していく不思議な世界

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目立たず、格好つけず、主張せず これからの「デザイン」のたたずまい

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