いしわたり淳治のWORD HUNT

森七菜『スマイル』 作詞家いしわたり淳治がうらやむ技あり歌詞

音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。この連載では、いしわたりが歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。今月は次の6本。

 1 “すぐスマイルするべきだ”(「オロナミンC」CMソング 森七菜『スマイル』/作詞:渡辺慎)
 2 “来週もまた見てくださいね〜”(サザエさん)
 3 “定番商品の豪速球化”(「月刊食堂」編集長・通山茂之)
 4 “卑下慢”(仏教の教え)
 5 “日清これ絶対うまいやつ!”(日清食品の即席麺)
 6 “au PAYってauじゃなくても使えるのー。マギラワシイー!”(「au PAY」CM)

最後に日々の雑感をつづったコラムも。そちらもぜひ楽しんでいただきたい。

いしわたり淳治 今気になる六つのフレーズ

森七菜『スマイル』 作詞家いしわたり淳治がうらやむ技あり歌詞

オロナミンCのCMソングで使われている森七菜さんの『スマイル』はカバーで、元は1996年にホフディランがリリースした曲である。歌い出しの「いつでもスマイルしようね とんでもないことがおきてもさあ」という歌詞がコロナ禍のこの時代感にマッチしていて素敵だ。

この曲のワンコーラスの終わりに「すぐスマイルするべきだ 子供じゃないならね」という歌詞が出てくる。私はこの部分を聞く度にちょっと心がざわざわする。というのも、「するべきだ」は英語で言うと「should」で、ものすごく一般的な言葉なのだけれど、これをいざ日本語で書こうとすると、「〜しなくちゃいけない」だの「〜したほうがいいよ」だのと、無駄にたくさんの音符を使ってしまうのである。作詞する者としては1音も音符を無駄にしたくないのに。英語なら「should」のたった一音で終わる、ごくごくありふれた普通の言葉なのに。

その点、この『スマイル』は、英語を直訳したかのように「スマイルするべきだ」と潔く最小の文字数で歌っている。もちろん、聴感的に不自然な感じはするのだけれど、その違和感をちゃんと曲のチャームポイントに変えている。ホフディランというアーティストのキャラクターだからこそなせる技なので、いいなあ、うらやましいなあ、と聞く度に思うのである。

森七菜『スマイル』 作詞家いしわたり淳治がうらやむ技あり歌詞

『サザエさん』の次回予告といえばジャンケンである。別にこれに勝ったからといって何かいいことがあるわけではないけれど、なぜかあのジャンケンはやってしまう。それはさておき、気になるのはそのジャンケンの直前にサザエさんが言う「来週もまた見てくださいね〜」というセリフである。

一般的にアニメの次回予告で、最後に「来週も見てくれ」的な文言を言うのはある種の常套句である。それが例えば、主人公が “強敵と戦って成長していく”というような物語のアニメであれば、来週も見てくれと頼むのは、ものすごく自然なことだろうと思う。今週の弱い俺だけを見て判断しないでくれ! 来週はもっと強くなるから!という意味で受け取れるから。

しかし、『サザエさん』はどうだろう。この番組は基本的に磯野家とフグ田家の恥ずかしい失敗談をダイジェスト形式でお届けしている。事実、劇中で登場人物たちはしょっちゅう顔を赤くしてはうつむいている。それを、サザエさんは「来週も見てほしい」のだという。彼女はいったいどういうメンタルをしているのだろう、と不思議に思うのは私だけだろうか。

森七菜『スマイル』 作詞家いしわたり淳治がうらやむ技あり歌詞
9月27日放送のTBS『がっちりマンデー!!』でのこと。坪月商30万円超の大繁盛飲食店を特集していた。京都府河原町にあるカフェ『紗織』の看板商品の一つである錦糸モンブラン紗織「絽」は一皿に国産高級和栗を11個使用しており、価格は1800円。これを客の9割が注文し、店内の30席は毎日10回転するのだそうだ。店長いわく“スイーツ業界の場合、去年のタピオカのような一過性の商品はどんどん落ちていくばかりで寿命が短いので、普遍的な要素がないといけない”のだそうで、その話を受けて「月刊食堂」編集長の通山さんは、賛同しながら「これを僕は“定番商品の豪速球化”と呼んでいる」と言った。いいネーミングだなと思った。

流行りに乗るのではなく、誰もが知っている定番にこだわりの一手間を加えることで、そこに新しい価値をつけて独自商品にしてしまう。それによって価格の比較対象がなくなり、高い価格設定も可能になる。たしかに、まだ誰も見たことも食べたこともない、味の想像もできない新しいスイーツが登場しても、それを注文するのは少しハードルが高い。その点、モンブランは昔から誰もが馴染みのあるスイーツである。そんな庶民的なモンブランの中の最高級品です、と言われると少々値が張るとしても食べてみたい気持ちにはなる。

新しさだけを求めて変化球ばかり投げるのではなく、ストレートを「豪速球化」する。これは日本においては大切な視点かもしれない。「〇〇道」や「〇〇職人」みたいなものを愛する日本人の国民性には、こういう一本気な姿勢はどんな業界であれ、好意的に受け入れられるのではないかと思う。

森七菜『スマイル』 作詞家いしわたり淳治がうらやむ技あり歌詞

9月27日放送のABCテレビ『結婚って何だっけ?〜幸せなりたガールに効く答え〜』でのこと。結婚できないことを悩んでいるフリーアナウンサーの馬場ももこさんの話を聞いていた尼さん落語家の露の団姫(まるこ)さんが「馬場さんは仏教的に言うとひげまんです」と言った。

「自分を卑下する」の“ひげ”に、「自慢」や「傲慢」といった時に使う“まん”で「卑下慢(ひげまん)」。「慢」は仏教が教える煩悩の一つで、「自分本位の思い上がりの心」という意味があるのだそうだ。つまり、馬場アナウンサーはモテないアピールをして、自分を卑下しているように見せているが、実際はそういう自分に思い上がっている状態であると指摘したあと、「例えば、お付き合いした男性がずっと“いや……、俺なんか……、俺なんか……”と言っていたらうっとうしいですよね? それは何も謙虚じゃないですし、卑下慢であることは自分も相手も誰も得をしない」と、露の団姫さんは諭すように言った。

そのときは「卑下慢」なんていう言葉が元々あるものなのか、とっさに作った言葉なのかは分からなかったけれど、とにかく今まで名前のついていなかったモヤモヤした感情にビシッと名前がついたような清々しい感動があった。

というのも私は以前から自虐を言う人が苦手で、いや、もちろんテレビで芸人さんが言うような自虐は芸になっているので手を叩いて笑えるのだけれど、とかく普通の人が言う自虐というのは非常にリアクションに困ると思っていた。突然、「私ってバカだからさ」「デブだからさ」などと言われても、「いや、いや、そんな……」と気を遣う以外になく、そんなことをしながら会話を続けるのは、まったくもって骨が折れる。おそらく相手の人は“よかれと思って”、ある種の謙遜や美徳の感覚で言っているのだろうけれど、聞かされる方は苦痛以外の何ものでもない。自虐がコミュニケーションの基礎になっている人たちのことを、ズバッと「ひげまん」と名付けてくれることで、誰も得をしない自虐を言う人が少しでも減ってくれたらうれしいと思った。

森七菜『スマイル』 作詞家いしわたり淳治がうらやむ技あり歌詞商品会議というものに出たことがないから、どんな風に商品名が決まるのかは、私には分からないけれど、想像するに、おそらく会社の会議室で、机に並べられたその商品を囲むように年齢や役職の違う社員たちが座り、かたわらのホワイトボードに挙がった候補を書いては、ああでもないこうでもないと皆で論議しながら決まっていく、みたいな感じなのかなと思う。

おそらくは「麺」という言葉をもじった言葉遊びの案なんかは相当出ると思う。また、『ラ王』みたいな真っ直ぐな案もたくさん出るだろうと思う。そこに『これ絶対うまいやつ!』なんていうトリッキーな案が挙がった時の空気というのは、どういう感じなのだろう。「おお、いいじゃん!」「面白いね!」と、すぐに皆がなるものなのだろうか。ならなかった場合、いかにこのトリッキーさが良いかを論理的にプレゼンしたりするのだろうか。このネーミングの面白みは頭で理解するよりも、体で感じるもの、みたいなところがある気がするけれど……みたいなことをこの新商品を見た時、思った。

商品名と似ているかは分からないけれど、これまで私は曲名やアルバムタイトルは数え切れないほどにつけてきた。経験上、感じるのはそのタイトルをつけた理由や経緯の説明を求められるようなタイトルは、そもそも良いタイトルではないということである。良いタイトルというのは、生まれた瞬間にもう良いタイトルで、誰かに「これにしたい」と意思を伝えた時点で、「いいじゃん!」という至極肯定的な空気がその場に生まれ、次の瞬間から皆がそのタイトルを自然に口に出している。そういうものである。

『これ絶対うまいやつ!』は、目に入ったら絶対に気になるし、一瞬で覚えてしまう。棚に並んでいても見覚えのない字づらだから明らかに新商品だと分かるし、そんなに自信があるなら一度食べてみようかしらと思う。いいネーミングである。

森七菜『スマイル』 作詞家いしわたり淳治がうらやむ技あり歌詞

動画などを見ていると、ものすごく短いCMが流れてくることがある。au PAYのCMもその一つで、フワちゃんが現れたかと思うと「おはぴよ! au PAYってauじゃなくても使えるのー。マギラワシイー!」と言って終わる。時間にして約5秒。たしかにau PAYはauを使っている人が使うものかと思っていた。インパクトもあって、伝えたい内容が簡潔に詰まっていて、なんだかものすごくいいCMだなと思った。これを見てしまうと、広告を飛ばしがちの現代において、CMは短ければ短いほどいいのではないかと思えてくる。でも現実は「続きはWebで」だの、「詳しくは〇〇で検索」だのという終わり方をするCMも多い。つまり、そもそも5秒で言えるくらいに商品の要点を絞ること自体が、ものすごく難しいということなのだろうなと思う。

<<mini column>>
卵が先か、にわとりが先か

マスクをして暮らすのが当たり前になって、「マスクをした状態でだけ何度も会ったことのある人」というのも出てきた。そして、気づいたことがひとつある。最近、何だか口元を見せるのが少し照れ臭い感じがするのである。今年の3月以前はマスクなどほぼつけておらず、自分の口元がどうだなんて何も考えたこともなかったのに、こうも隠し続けていると、マスクを取るのがだんだん恥ずかしくなってくるから不思議だ。

普段から丈の長いパンツしか穿(は)いていないとハーフパンツを穿くのは恥ずかしいし、海やプールに行く習慣がないと水着になるのは恥ずかしいし、まだ誰も入れたことのない部屋に誰かを招く時もどこか恥ずかしい感じがする。隠していたところを人前にさらすというのは、それまでまったくそこを意識していなかった分だけ、本人は過剰にあれこれ気になってしまうものだ。他人はそんなに気にしていないのに。

外見に限らずそういうのは内面も同じことが言えるのかもしれない。隠す必要がないのに自分の性格や意見を人前でいつも隠していると、どんどん恥ずかしくなって、何も自分を出せなくなっていく。シャイな人というのはそういう良くないループの中にいる状態なのかもしれない。恥ずかしいから隠すのか、隠すから恥ずかしいのか。卵が先か、にわとりが先か。その答えは何となく後者であるような気がする、今日この頃である。

PROFILE

いしわたり淳治

1997年、ロックバンドSUPERCARのメンバーとしてデビュー。全曲の作詞とギターを担当。2005年のバンド解散後は、作詞家としてSuperfly、SMAP、関ジャニ∞、布袋寅泰、今井美樹、JUJU、少女時代、私立恵比寿中学などに歌詞を提供するほか、チャットモンチー、9mm Parabellum Bullet、flumpool、ねごと、NICO Touches the Walls、GLIM SPANKYなどをプロデュース。現在オンエア中のコカ・コーラCM曲「世界はあなたに笑いかけている」(Little Glee Monster)や、情報番組『スッキリ』(日本テレビ系)のエンディングテーマ曲「Electric Kiss」(EXO)の作詞も担当するなど、さまざまな音楽ジャンルを横断しながら通算600曲以上の楽曲を手掛ける。

あえて日本語に? NiziUの親しみに満ちた素晴らしい歌詞

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直接的な表現が奏功 りりあ。『浮気されたけどまだ好きって曲。』

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