小川フミオのモーターカー

印象は「実にナチュラル」 トヨタの燃料電池車「MIRAI」新型プロトタイプに試乗

私の友人から連絡があり、「燃料電池車は、どうだろう」と尋ねられた。聞けば、東京都大田区に住む彼の家のそばに、燃料になる水素ステーションがあるそうだ。このタイミングで勧めるのはやや早すぎるかなと思っていた矢先、トヨタの「MIRAI」の新型のプロトタイプに乗る機会があり、自分でも欲しくなった。

(TOP写真:新型MIRAIのプロトタイプ車。フロントマスクは台形のロワーグリルを採用)

MIRAIは、電気でモーターを回して走るので、分類的にはEV。水素タンクを備え、水素と、外部から取り入れた酸素を電気化学反応させ電気(エレクトロン)を作り、それを使ってモーターを回す。燃料電池車とかFCV(フューエルセルビークル)と呼ばれる。

5メートル近いボディーはファストバックスタイルが特徴

5メートル近いボディーはファストバックスタイルが特徴

水素ステーションでは、ガソリンなどの化石燃料と同じぐらいの速度で充填(じゅうてん)できるため、電気自動車のような手間がかからないのがメリットだ。ただ、水素の扱いがやや難しいのと、現時点では法規制がそれなりに厳しく、水素ステーションの数が限られてしまうのがデメリット。

そんななかで、トヨタでは2014年に早くもMIRAIの現行型を発売。それにホンダが「クラリティフューエルセル」(16年)で続いた。現在、日本で乗れる燃料電池車は、メルセデス・ベンツGLC F-Cellや、正式発売はないもののカーシェアリングに提供されているヒュンダイ・ネッソなど、選択の幅が広まってきているのだ。

横一列にLEDを並べたリアコンビネーションランプを持つ

横一列にLEDを並べたリアコンビネーションランプを持つ

今回私が乗った新型は、まだ発売前の「プロトタイプ」と銘打たれたモデル。とはいえ、発売は2020年内といい、おそらくかぎりなく量産車に近いだろう。そして、運転しての印象は、実にナチュラル。速い、楽しい、というものだった。

パーソナルユースにも、と赤色のボディーカラーも設定

パーソナルユースにも、と赤色のボディーカラーも設定

実際に「(新型で)目指したのは本当に欲しいと思えるクルマ」と開発の陣頭指揮をしたトヨタ自動車のチーフエンジニア、田中義和氏は、富士スピードウェイのショートコース(小さなサーキット)を使った試乗会場で、そう語ってくれた。

「初代はFCVであることがすべて、となってしまった感があります。2代目は、なにも知らずに乗って“いいね、このクルマ”と思ってもらいたいと開発。プロポーション、走り、居住性、水素積載量、すべてにこだわりました」

現行モデルと新型、2世代のMIRAIを開発した田中義和チーフエンジニア

現行モデルと新型、2世代のMIRAIを開発した田中義和チーフエンジニア

田中さんは「新型MIRAIはドライバーズカーとして作りました」と言う。つまり、運転して楽しいクルマ、ということだ。そのため、現行型ではモーターをフロントに搭載した前輪駆動であるメカニカルレイアウトを採用しているが、驚いたことに新型ではそれを大胆に変更。モーターをリアに搭載した後輪駆動としてしまった。

水素タンクは、現行の2本から3本に増やしている。目的は配置の自由度をあげるためで、前後比で50対50というスポーツカーにとって理想的な重量配分を達成しているのだ。

高圧水素タンクを後方床下に2本、センタートンネルに1本配置したことと、モーターとバッテリーを後ろに搭載したのが新型の特徴

高圧水素タンクを後方床下に2本、センタートンネルに1本配置したことと、モーターとバッテリーを後ろに搭載したのが新型の特徴

実際に速い。走り出しは、駆動用バッテリーが電気モーターを支援するため、トルクが積み増される。速度が乗ると燃料電池のみが働く。途中、追い越し加速が必要なときなどでアクセラレーター(アクセルペダル)を強めに踏み込むと、バッテリーがモーターにパワーを供給するというシステムだ。

静かなのは電気自動車の常であり、私も、さまざまなクルマで経験して、驚かなくなったものの、コーナリングの気持ちよさは期待以上だった。

ブレーキを使ってカーブで車体が外側にふくらむのを防ぐシステムも搭載

ブレーキを使ってカーブで車体が外側にふくらむのを防ぐシステムも搭載

サーキットなのではっきりとはいえないものの、ボディーロールを抑えたフラットライドもよい。カーブを曲がっていくとき、そう大きくステアリングホイールを動かさなくても、すーっとクルマのノーズが内側に入っていく。

電気モーターゆえ、アクセラレーターの踏み込み量への反応がすばらしくよい。アクセラレーターに載せた足の力を弱めると回生ブレーキといって、バッテリーへ充電するシステムが働く。その分、車体にはブレーキがかかる。

カッパー(銅)をイメージしたアクセントが目をひくダッシュボード

カッパー(銅)をイメージしたアクセントが目をひくダッシュボード

MIRAIプロトタイプでは、回生ブレーキの利きも適度で、不自然な感じはなし。カーブがたくさんあるサーキットを走っているとき、ブレーキと加速の繰り返しのなかで、自分の思い通りの加減速ができるのも、大きな美点だと強く感じた。

カーブの出口が見えた時点で加速を始めるとき、後輪が車体を押しだしていく気持ちよさは、ドイツの後輪駆動のスポーツセダンもかくや、というもの。全長が4975ミリのファストバックスタイルのセダンで、バランスのとれたプロポーションゆえ、落ち着きすら感じさせるものの、実際はヤンチャにも走れるのだ。

PM2.5など微粒子を捕捉する特殊なフィルターにより、吸い込んだ空気よりきれいな空気を出すという

PM2.5など微粒子を捕捉する特殊なフィルターにより、吸い込んだ空気よりきれいな空気を出すという

日常的な使い勝手では、水素タンクの充填圧力が上がり、同時にFCシステムの性能アップと、モーターの出力増が謳(うた)われる。それによって、走りの性能と、航続距離とが共に向上。これも、特筆しておきたい。

新型MIRAIのモーターは134kW(現行は113kW)で、航続距離は約850キロ。関西方面は水素ステーションがある程度設置されているので、東京から大阪まで楽々行ける、と開発陣は胸を張る。もし私が冒頭の友人のように、水素ステーションの近くに住んでいたら、まさに現実的な選択として購入を考えたくなる数字なのだ。

サイドサポートの張り出しが大きいスポーティーなシート

サイドサポートの張り出しが大きいスポーティーなシート

後席もおとな3人用

後席もおとな3人用

ほかの燃料電池車もそれなりによく走るとはいえ、開発者の狙い通り、どこまでもスムーズな加速感とか、サーキットまで楽しめてしまう運動性能とかは群を抜いている。クラウンのハイブリッド車のシステムを一部共用するなど、社内のシナジーを最大限活用し、燃料電池車のあたらしいスタンダードを作りあげてしまった技術力には感心させられた。

価格は未定とのこと。まあ、安くはなさそう。燃料電池車が欲しい友人には、貯金を始めることを勧めておこう。

ハッチゲートではなく独立したトランクが設けられている

ハッチゲートではなく独立したトランクが設けられている

(写真=トヨタ自動車)

【スペックス】
車名 トヨタMIRAI(プロトタイプ)
全長×全幅×全高 4975×1885×1470mm
電気モーター(燃料電池車) 後輪駆動
最高出力 134kW
最大トルク 300Nm
価格 未定

PROFILE

小川フミオ

クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。新車の試乗記をはじめ、クルマの世界をいろいろな角度から取り上げた記事を、専門誌、一般誌、そしてウェブに寄稿中。趣味としては、どちらかというとクラシックなクルマが好み。1年に1台買い替えても、生きている間に好きなクルマすべてに乗れない……のが悩み(笑)。

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