自動車メーカーが造ったキャンピングカー 車中泊文化のすそ野広げる
文: 渡部竜生

再び感染者数が増えつつあり、先の見えないコロナ禍。安心して家族と過ごせるレクリエーションとして、アウトドアが大変なブームとなっています。閉鎖空間ではないし、不特定多数と一緒になることもないというのが人気の理由ですが、ブームの余波はキャンピングカーにも押し寄せています。
(TOP画像:バンコンのベースとしても使われる日産NV350キャラバン=日産自動車提供)
アウトドアブームのなか、車中泊利用を念頭に発売
外出自粛にリモートワーク。屋内生活が続くストレスには、大自然の中へ出かけるアウトドアでのアクティビティーは特効薬といえるかもしれません。事実、何度目かのブームが続いているアウトドア人気ですが、平時なら夏の流行であるはずが、今年はそろそろ寒くなった今でもキャンプ場は大人気です。テント泊だけでなく、キャンピングカーもますます注目されていて、関東ローカルの比較的小規模なショーも来場者でいっぱいです。
コロナの影響で生産をストップし受注を制限していたビルダーも、いまや受注をさばくのにてんてこ舞いという状況です。
そんななか、ちょっと気になる車が9月24日に日産自動車から発売されました。
「NV350キャラバン マルチベッド」。ストレートなネーミングからもわかるとおり、ズバリ車中泊利用をターゲットにした車両です。実は、日産はこれまでもセレナやNV200バネット、NV350キャラバンをベースに車中泊仕様車を発売しており、今回の「NV350キャラバン マルチベッド」は6車種目ということになります。さて今回の車両はどんな特徴があるのでしょう。
半分をベッドに、半分を荷物置き場に
ベースになっているのは、NV350キャラバンの標準ルーフロングボディー車。
荷室スペースの左右に跳ね上げ式のベッドと硬質のフロアパネルを装備したシンプルな居室です。
ベッドは荷室全面にわたって展開できるほか、左右を独立して使用できるので、スペースの半分をベッドに、半分を荷物置き場に、という使い方もできます。自転車やサーフボード、スキーなど長さのあるものも楽に積めるのが魅力です。

荷室部分を全面フラットなベッドにすることができる。大人2人+子ども1人くらいまでなら無理なく就寝可能。床下に荷物も入れられる(画像提供:日産自動車)
では、これまでの同社のNV350ベースの車中泊仕様車と比べてどう違うのか。
まずひとつ言えるのは、ベッドがコンパクトに収納されるようになって、ベッド格納時には荷室が広く使えるようになっていること。また、オプションではありますが、初めてテーブルが用意されました。従来製品よりもぐっと、車中泊時の快適性に注目したのでしょう。
しかし、居住用の装備としては、ベッドとテーブル(オプション)まで。水回りや調理用の加熱装置などはありません。

オプションで用意されるテーブル。サイズは小さめだが、あるとないとでは大違い。ぜひ備えておきたい(画像提供:日産自動車)
さて、気になる価格ですが、2WDガソリン車で340万3400円(税込)。ベース車と比較すると44万円アップということになります。床張りと跳ね上げ式ベッドで44万円ということになりますが、メーカー保証付きであることを考えれば、決して高くはないでしょう。
ベース車のグレードを下げればもう少し安くできるかもしれませんが、今回設定されているのは、上級グレードの「プレミアムGX」のみとなっています。
車中泊仕様車として限界はあるが、価格は低め
今回デビューした「NV350キャラバン マルチベッド」に限らず、日産自動車の車中泊仕様車シリーズの最大の魅力は、一般のディーラーで購入できるという利便性でしょう。いつもお話ししているように、キャンピングカービルダーはそうあちこちにあるものではありません。街で見かける自動車メーカーのお店でアクセスできるのは大きなメリットと言えます。
気軽に見にいけるというのは、キャンピングカー文化の裾野を広げるという点でも大きな意味があると思います。一方で、この装備を車中泊仕様車と呼ぶのには、私自身、若干の抵抗があります。というのは、以下の特徴があるからです。
・サブバッテリーがない!
あいにく、オプションにすらなっていません。照明や各種電化製品を使うのに必要なサブバッテリーがないのは、長時間の車内滞在にはつらいかもしれません。
・居室用のエアコンやFFヒーターがない!
こちらもオプションリストにありません。夏や冬の暑さ・寒さをしのぐ冷暖房がないということは、乗用車同様、エンジンをかけた状態にして車のカーエアコンを使うしかない、ということになります。
・断熱処理がされていない!
何より車中泊の快適性を左右する「断熱加工」。ですが、これら自動車メーカーの車中泊仕様車には、全く施されていません。
ご存じのように、真夏の炎天下、エンジンを止めて駐車しておくとあっという間に車内温度は40℃を突破します。冬の寒さも同様で、乗用車には断熱処理がまったくされていません。なぜならば、乗用車は走る(移動する)のが目的であって、走っている=エンジンがかかっている=カーエアコンが無理なく使える、という前提に立っているからです。エンジンを止めた状態の車内で長時間過ごすことなど、想定していないのです。
しかし車中泊ともなれば、短くても5~6時間は車内で睡眠をとることになりますから、暑さや寒さはテント程度と考えておく必要があるでしょう。
断熱加工をせず、居住用装備も最低限であれば、その分キャンピングカービルダーの作る車両より安価にはできるでしょう。しかし「快適に寝泊まりする」レベルにあるかと言われたら、ビルダーの作る車に軍配が上がります。
テント程度の車内環境であることを理解して、しかるべき装備を持って出かけるならかまいませんが、キャンピングカー並みの居住性を期待していると、「思ったほど快適じゃない……」という残念な評価になってしまうかもしれません。それでは自動車メーカーとしても本意ではないでしょう。

ベッドはコンパクトに収納できるので、積載能力は十分。普段は仕事用としても使えるなど、マルチパーパスも◎(画像提供:日産自動車)
せっかく車中泊仕様車を作るなら、もっと空間の快適性そのものに注目してほしかったと思います。断熱加工を施し、サブバッテリーやFFヒーターをオプションでもいいから用意する。キャンピングカーとしての基本性能を満たした車両を、自動車メーカーの強みをいかしてローコストで量産・提供してもらえれば、日本のキャンピングカー(車中泊)文化も欧米並みに成長する、よいきっかけになるのではないでしょうか。