LONG LIFE DESIGN

アップルストアの“異様さ”に見るブランドの核心

今年も残り1.5カ月。秋から冬を感じさせる風を地下鉄の出入り口付近でいつも感じます。皆さん、風邪とかひかないでくださいねー。コロナ同様、体調管理して健やかに過ごしたいものです。

さて、今回もいろいろ書きました。まずは「デザインの芽生え」と題したもので、デザインに関心のある僕は、いつもキョロキョロしながら、デザインの芽が出ていることを探すのが好きです。読んでみてください。あなたもきっとデザインの芽を見つけたくなりますよ。

2話目は会社を創業した立場でよく思うことです。何かやろうとするとき「誰がそれをやりたいと思っているのか」がとっても大切で、時にそのきっかけが見失われたり、そういう人がいなかったり……。長く続くことやものは、やはり最初に言いだした人が重要というお話。

最後はクラウドファンディング真っ盛りで、ずいぶんと社会で一般的になってきたその支援し合う関係。お願いする人から、お願いされるときの考え方をいま一度、ナガオカ的に考えてみました。ご参考に。それではしばしお付き合いくださいね。

アップルストアの“異様さ”に見るブランドの核心

京都の禅居庵副住職の上松正宗さんからお誘いを受け、参加している「はじまりの絵本」という企画の会場にあったかわいいおさい銭箱のようなもの。寄付してくれたらバッジをもらっていってね、という無人販売。なんともほほえましく、今時な感じもして入れてきました。危険回避もいいのですが、人を信じるってことは、やっぱり基本にしたいですね

デザインの芽生え

富山の善徳寺さんにお邪魔したときのことです。廊下を移動中に面白いものを発見しました。場所などの案内を表示する、いわゆるサインです。最近、全国でお寺がものの見事にデザインを導入しています。やや、やりすぎなんじゃないかと思うものもありますが、お寺が「このままではいかん、若い層を獲得するには、デザインが必要だ」と思ってのことでしょう。

それは僕もそう思います。いつまでも昔のスタイルを貫くことで、若い人たちには「お寺は私たちに関係ない場所」と認識されてしまう。若者に寄せて、例えば音楽イベントやフリーマーケットを境内などで開催しても、やはり、昔のたたずまいでは、「若者にも関心を持って欲しい」という「お寺の意思」が伝わらない。

僕個人としては、わかりやすくデザイナーや広告会社と一緒になってデザイン主導で若返らせるのは、あまり賛成しません。理由は、長らく寄り添ってきた檀家(だんか)さんや地域のつながりがあるからです。そうしたややご高齢のファン層とも言える支援者を切り捨てるようなことではなく、どちらかというと、不細工でもいいから、お寺の人がデザインを考えたりした方が健康的じゃないかと思うのです。

そんな気配、デザインの芽吹きのようなものとして、写真の表示を見ました。この「MAN WOMAN」の表示はどこからか持ってきたものでしょう。檀家さんなんかが「これ、かわいいな」とお寺の人に言ったとしたら、「あれはね、住職がやったんです」なんて話で、デザインの根っこが寺にあり、それが少しずつ大きくなってから、プロのデザイナーが入って整えていけばいいと思うのです。

この表示は、紛れもなくデザインであり、パソコンの中から書体を選んだりする行為こそ、デザインですから、これを作ったお寺側の方の中には、「善徳寺」を思ってゴシック体ではなく毛筆の書体を選んだのでしょう。

デザインがお寺にいきなり寄っていくのではなく、お寺の中からデザインが芽吹くことが、本当に大切だと思った風景でした。

アップルストアの“異様さ”に見るブランドの核心

いつもは、どこに何があるか分かっている人たちに使われていたお寺に、徐々に初めての人や外国の方々が増えてきて、こうした表示が必要になったのでしょうね。そこでどうやって場所を示すのか。まさしくデザインですね

誰がやりたかったのか

会社に所属するのであれば、その会社の根っこにつながった方が充実します。どんなことでも一緒かもしれません。街づくりやお祭りのメンバーになった時なども。何かに所属する時に意識したいこと。根っこにつながっているかどうか。そこがとっても大切だと思うのです。

例えばあなたが、みんながよく知るフライドチキンのお店で働くことになったとしましょう。配属先の店舗でその店のお客様へ何かメッセージPOPを作ることになり、「心を込めて作りましょう」と上司に指導されたとしたら。どうすると「心を込める」ことができますか。どうすることを「心がこもっている」と考えますか? もちろん、あなた個人の人生経験から導き出される、いろいろな方法があると思います。いわゆる「心を込める」的なことはできるのです。問題は「有名フライドチキン店の一員」としての「心の込め方」です。

アップルストアに行くと、なんだか異様な雰囲気に包まれます。一人一人の様子が他の店とはなんだか違う。その答えはきっと「創業者であるスティーブ・ジョブズとつながっているから」だと僕は思います。スティーブ・ジョブズと「根っこがつながっている」。だから、仮にあなたがアップルストアで働くことになり、「心を込めてね」と上司から言われたら、そこで感じることは有名フライドチキン店とは違ったものであるはずです。もちろん、両社にも「世間一般的な心の込め方」は存在します。そして、そんな人がスタッフとしてアップルストアにいたら「なんか、違うなぁ」と思うでしょう。

いい会社には「創業者が何をやりたかったのか」の共有があると思います。全スタッフが創業者が思っていたことと「根っこ」でつながっている。すると、接客時や取引先とのやりとりにおいて「心を込めたい」と思った時、「その会社らしい心の込め方」が出来る。

会社によって「何がいいことなのか」は違います。それは「創業者」の中に答えがある。ある会社なら優先しないことも、別の会社では優先したりする。前の会社では褒められなかったことを、今の会社は褒めてくれる。その価値基準という根っこ(つまり創業者とのつながり)に興味が持てなければ、「その会社らしい成長」には参加しても面白くないと感じるかもしれません。

僕の店「d」には、僕が考えた「d photo」という写真の撮り方があります。何をもって「d photo」なのかはなかなか伝えづらいですが、どうしてそんなことをしなくてはならないのか、あるいはしなくてはならなかったのか、ということに興味を持ってもらえないと、「d」というブランドを一緒に作っていけない。

僕が「d」らしい経営をすることで、お客さんは他のブランドと「d」を差別化し、特別なものと認識してくれる。それによって「あの店で買うよりも、同じものなら『d』で買った方が面白い」となる。それをみんなで日々作っていくのがブランド作りなわけで、その「ブランドらしいこと」とは、創業時に集中して存在している。そこが切り離された接客やサービスは、本当に無味乾燥なそこらへんに落ちているような当たり障りのないものになってしまうでしょう。

ショップに限らず、多くの職場において、業務の大半は雑務と呼んでもいいことばかりだと思います。単純な作業や右から左に渡すだけのこともたくさんあるでしょう。しかし、その雑務にさえ「個性」や「らしさ」を色付けすることができる。ブランドはそうやって日々、全員で作って積み上げていったもの。だからこそ大切なのです。「いらっしゃいませ」という言い方はもちろん、「どうしてそれを言わなくてはならないのか」と考えていくとき、「創業者はどうしていらっしゃいませと、言おうと考えたのか」に思いを巡らせる。そこに、その店らしい「いらっしゃいませ」があると思うのです。

「d」では「ありがとうございました」とお客さんを送ることはしませんし、お客さんを「お客様」とは呼びません。そうする理由は創業者である僕の中にあります。そして、それが「dらしさ」の一つだと思っています。

最後に誤解のないようにしておきますが、「創業者が一番」「創業者は偉い」と言っているのではありません。「創業した理由」「創業した思い」を誰よりも持っているということです。どんな会社にも創業者はいます。どんな会社にも「創業した思い」はあります。そこで働くすべての人は、その思いの上に日々、立っています。そこにお客さんや取引先担当者はやってくるのです。

アップルストアの“異様さ”に見るブランドの核心

アップルストアの“異様さ”に見るブランドの核心

僕の会社も今年で創業20年を迎えました。その記念に、名物となったカフェメニュー「d&ドライカレー」をレトルト化して商品にしました。「パッケージデザインに思いを込めたい」ということで、スタッフから発案されたのは、一つ一つに商品名をスタンプで押そうというもの。創業者である僕なら、そういうことを喜んでくれると分かってのアイデアで、もう、感動しました。20周年を記念して販売しています。よろしければ、ぜひ (ページこちら

クラウドファンディングの多様な関係

クラウドファンディングが一般的になってくると同時に、気がつくと、毎月、毎週、知人や親しい人、仕事先の関係者……といろんな関係先から案内が送られてきます。みなさんもどうですか? 僕はここで悩むのです。どの問題と真剣に向き合い、また、どんな人を応援するか、という話です。

「そんなに考えなくたって、今後ずっと付き合っていきたいと思ったら、応援すればいいのでは?」と、思われるかもしれません。それはそうなのですが、僕に限らず、このSNS時代、あったこともない「友達」の深刻なお願いや、クラウドファンディングの手軽さゆえのちょっとした応援の依頼などがどんどん増えてくると想像してください。

特に今後も関係をつなげていったほうがいいと思う人からの支援のお願いは、言い方を変えれば「その人が社会に望む改善や救済を共有すること」と言えます。きっかけは知人からのファンドの誘いであっても、のちにその知人に関係なく、親密にその問題と継続的に関わっていくことになるかもしれません。いろんな社会問題や、解決・応援したほうがいい物事が向こうからどんどんやってくる。そのときに自分はどうするか、です。

やってくるクラウドファンディングのひとつひとつが、まるで買い物のように思います。あなたが欲しいものを選択して購入していくことのひとつひとつによってあなたの生活の様子が作られていくように、あなたが応援したひとつひとつも、あなたを、ぼくを作り上げていく。そういうことはあると思うのです。

よく行く「とろろ屋さんのかやぶき屋根の修復」に一票を投じ、友達が運営する街のコミュニティースペースのリフォームに一票。友人が困っている自営配送車の修理に一票、親戚の海外留学に一票……。

みんなで社会がよりよくなるためのこうしたひとつひとつを「共有」し、解決、実行していくことは、なんだか夢のような現象に見えます。これからますます気軽に応援できるようになっていくでしょう。あなたもぼくも、そうしたことにどんな意識で向き合うか、ちょっと考えておく必要があると思うのです。

アップルストアの“異様さ”に見るブランドの核心

現在、僕もクラウドファンディングを使い、故郷である愛知県知多郡阿久比町に自分の店を作ろうと計画中。多くの知人、友人、親友に呼びかけながら、支援していただくということが、どういうことなのかをしっかり考えながら最近過ごしています。一緒に作り上げる。一緒に実現させるって、これからますますリアルな考え方になっていくと思います。ご興味のある方は、ぜひ(ページはこちら

PROFILE

ナガオカケンメイ

デザイン活動家・D&DEPARTMENTディレクター
その土地に長く続くもの、ことを紹介するストア「D&DEPARTMENT」(北海道・埼玉・東京・富山・山梨・静岡・京都・鹿児島・沖縄・韓国ソウル・中国黄山)、常に47都道府県をテーマとする日本初の日本物産MUSEUM「d47MUSEUM」(渋谷ヒカリエ8F)、その土地らしさを持つ場所だけを2カ月住んで取材していく文化観光誌「d design travel」など、すでに世の中に生まれ、長く愛されているものを「デザイン」と位置づけていく活動をしています。’13年毎日デザイン賞受賞。毎週火曜夜にはメールマガジン「ナガオカケンメイのメール」www.nagaokakenmei.comを配信中。

目立たず、格好つけず、主張せず これからの「デザイン」のたたずまい

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