クルマ好きの夢 ベントレー・コンチネンタルGTコンバーチブルに試乗
文: 小川フミオ

クルマ好きの夢は、やっぱり、コンバーチブル。さらに、多気筒で、かつキラキラしたインテリア。こういう世界はなくなってしまうのかなあと思いながら、2019年に発売された、第3世代の新型ベントレー・コンチネンタルGTコンバーチブルに乗った。ここにはその世界が健在だった。
圧倒的なのは、スタイルだ。全長4880ミリの、のびやかなボディーに、電動の幌(ほろ)が組み合わせてある。一時期は、耐候性がいいなどとメタルトップのコンバーチブルが流行したものの、やっぱり、金属や合成樹脂よりファブリックの幌、というのが昨今のトレンド。

テールランプなど楕円(だえん)形のモチーフが印象的【もっと写真を見る】
幌の美点は、軽量になって重心高が下がり、クルマの操縦性がよくなることが一つ。加えて、たたむと比較的コンパクトになるので、荷室容量が広めに確保できる。何より、薄く見えて、幌を上げた際のスタイリングが美しい。これが最大の長所ではないかなと、コンチネンタルGTコンバーチブルを見て思った。
幌を開けると、息をのむぐらいぜいたくなのが、他に類のないベントレー車の魅力だ。コンチネンタルGTコンバーチブルの内装はすごい。赤色系と白色系のレザーをふんだんに使用し、クルマの内装という常識を超越している。

リネンとホットスパーなる赤白組み合わせの内装【もっと写真を見る】
そもそも1919年に英国で創業したベントレーは、大きくて、かつ速いクルマだった。戦前から人気を集めていたルマン24時間レースに出走して、24年と27年から30年まで総合優勝したことで、世界中の自動車好きがファンになった。
そのあと31年にロールスロイス(以下RR)傘下に入り、98年までその体制が続いた。RRに買収された際は、オーナーがそれを望んだというより、世間一般でいう“買収劇”のようなやりとりもあったとか。WO(ウォルター・オーウェン)ベントレーは、吸収合併されたあと、数年して自らが創業したベントレーを去っている。

ツイード仕様の幌は閉めてもサマになる【もっと写真を見る】
RRは、とはいえ、ベントレーの個性をできる範囲で尊重した。とくに53年に登場した2ドアクーペ「Rタイプコンチネンタル」は、直列6気筒エンジンを搭載しての性能と、美しいスタイリングで、いまもクラシックカーファンのあいだで人気が衰えない。
その流れをくむといえるコンチネンタルGTは、独自の美を持つ。フェラーリやアストンマーティンが最も美しいと思う人には、ベントレー車はややもっさり感じられるかもしれない。実際に全高は1400ミリもある。アストンマーティンDB11をひきあいに出せば、こちらは1279ミリにとどまる。

21インチホイールに扁平(へんぺい)率の低いタイヤの組み合わせ【もっと写真を見る】
しかし、コンチネンタルGT(コンバーチブル)は、見た目のスタイルだけを追求していないのが、むしろ魅力的だと思う。大きなグリルと、印象的な丸型ヘッドランプのマスクをそなえたフロント部分の大きさは、大きなエンジンが載っていることを象徴しているかのようだ。
そういえば、戦前、ルマンなどで活躍していた頃のベントレーは“世界一速いトラック”などと呼ばれたそうだ。武骨に見える。でもそこに独自のスタイルがある。

クリスタルエフェクトなるカットが目を惹(ひ)く【もっと写真を見る】
スーツやアウトドア用のコートや長靴といった英国製品と、ちょっと似ているような気がする。現在のコンバーチブルも他にないスタイルだ。それゆえ富裕層から指名買いされるというのは、よくわかる。
コンバーチブルに搭載されているのは、5945ccの12気筒エンジンだ。アクセラレーター(アクセルペダル)に載せた足にほんの少し力を加えるだけで、ものすごい力で車体を押しだす感覚だ。数値を見ても、ちょっと類のない900Nmの大トルクが、1350rpmと低い回転域から発生する設定だ。

ベントレーのトップエンジンであるW12気筒【もっと写真を見る】
加速力も、静止から時速100キロに達するのに3.8秒しかかからないと、スーパースポーツカーなみ。大きなトルクは、四輪駆動によって、限界まで生かされる。すごいなあ、いいなあと思うのは、先に触れたとおり、大トルクを使って、アクセラレーターの微妙な踏みこみぐあいに対する、加減速の応答性のよさだ。
あくせくしていないと表現するのが妥当かどうか微妙である。でも、12気筒を載せたコンチネンタルGTコンバーチブルは、ごくわずかな力で、たっぷりのパワーを引き出してくれる。エンジン回転を上げてのドライブを楽しむスポーツカーとは、一線を画した独自の魅力だ。

ホイール中央にはB、その後ろに12の文字【もっと写真を見る】
乗り心地は快適。2450キロの車重を利用して、車体はゆったりと動き、路面の凹凸はていねいに吸収してくれる。ベントレー・ダイナミックライドという電子制御サスペンションが“いい仕事”をしてくれているのだろう。
ステアリングホイールを動かしたときの車体の反応も、うまく設定されている。速く動かせば、車体はそれに追随してさっと向きを変える。一方、ゆったりと高速道路を”流したい”ときは、安定した動きを味わえる。
どんな路面の上を走っているか。ステアリングホイールを通してドライバーにちゃんと情報を伝えてくれる。これは大変難しい技術である。そこもベントレーでは上手に作っている。結果、操縦して楽しいのだ。

レザーを巻いて手で縫っているという【もっと写真を見る】
エンジンもサスペンションも4WDシステムも内外装も、あらゆるところにお金がかかっているなかで、このステアリングフィールもおそらく開発費をたっぷりかけた結果だろう。高級とはこのことを言うのだと思った。
ベントレーではなにも言っていないものの、やがてプラグインハイブリッドなど、いわゆる電動化の波はここにも到達するはずだ。そうなっても、大容量バッテリーと高性能インバーターと、先述のすぐれたシャシーとの相性はいいはずで、新しい高級車が生まれる可能性は十分にある。でも、12気筒を体験すると、その“未来”がやってくるのは、もうすこし先でもいいような気がする。

ウィングドBというエンブレムに格子グリル【もっと写真を見る】
(写真=望月浩彦)
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【スペックス】
車名 ベントレー・コンチネンタルGTコンバーチブル
全長×全幅×全高 4880×1965×1400mm
5945cc W型12気筒 全輪駆動
最高出力 467kW(635ps)@5000~6000rpm
最大トルク 900Nm@1350~4500rpm
価格 2999万7000円
ベントレーモーターズジャパン https://www.bentleymotors.jp/