LONG LIFE DESIGN

トイレ掃除をしたくなる店、あなたにはいくつありますか?

いよいよ12月。2020年も残り少なくなってきました。そして、みるみる冬に。鍋の季節ですが、コロナの影響でなんだかおひとりさま鍋が流行中だそうで……。おせちも、同じものをふるさとに送ってリモートお正月だとか。

でもでも、なんだかそれもいいのではないでしょうかね。いつものことが出来なくなる人も多いですが、普段はやらなかったことを手軽に出来るようになった人もきっといますよね。ずっと会わなかった相手と、画面越しで最近、よく言葉を交わすなんてこともあったり。

さて、今回も3話書きました。最初は「地」の話。地ビールの地です。これからますます「地」の時代になっていくように思いました。

そして2話目。行きつけのトイレが少し汚れていて、つい、掃除してしまったという方、きっといるはず。僕もたまにやります。自分の行きつけの店は、きれいであってほしい……なんてお話。

最後は、年末にみんな考えている断捨離の話です。「捨てるぞ」と意気込んでいるのに、やっぱり捨てられないものってなんでしょうね。ではでは、しばしお楽しみください。

トイレ掃除をしたくなる店、あなたにはいくつありますか?

「京都喫茶文化遺産」なる団体を作り、長らく町の風景となっていたけれど事情があって閉店しそうな店を一つ一つ救って継続させる活動をする山崎三四郎裕崇さんに会いに行ってきました。場所は閉店状態だった喫茶セブンを受け継ぎ、カフェとして営業している「喫茶マドラグ」です。京都喫茶文化遺産のWebはこちら

日常や土地に根ざした価値「地」

地ビールの「地」です。先日、歌舞伎ソムリエのおくだ健太郎さんと話をしていて「地芝居」という言葉が出てきました。おくださんの専門領域の歌舞伎には、地方に行くと神社などを舞台に、農家の方や町の人たちが見よう見まねで、収穫などのよろこびを芸能で表現する世界があり、そうした芝居には「地」が付いていました。

その話を聞いていて、これからはますます「地」の時代になっていくように思いました。今月の4日より渋谷ヒカリエのd47MUSEUMで始まっている「LONG LIFE DESIGN 2 祈りのデザイン展 -47都道府県の民藝的な現代デザイン-」を企画したことで、民藝にある「作為的ではない、日常に根を下ろした健やかな量産のものづくりの中から生まれる美」ということと、この「地芝居」がなんだか重なったのです。

プロではない、そのことで生計を立てているわけではない人たちの踊りというものは、どこか野球の世界で言うプロと高校野球の違いを思わせます。年俸など何かを期待することなく、白い球を追い求める純真な気持ち。民藝で言えば、実際に使う具体的な「あの人」を思いながら、改善されていく農具に見る美しさ……。

そういえば、今では認識が変わりましたが、かつて「男の料理」なんて呼ばれていたものがありましたね。色々専門的に考えず、とにかく楽しくざっくりとした、雑だけれど、まあまあうまい……。それと「地」は似てないようで似ています。味を追求することはするのだけれど、大きなマーケット(世間一般の感覚)を追わないので、結果としてなんとなくその人や土地の個性が伝わる。プロのようなターゲットを設定したものづくりではなく、届けたい人を思い浮かべた具体的なものづくり。

銀座の歌舞伎座は、チケットはなかなか取れないし、昔、あんなに気軽にスッと入れた立ち見席も、整理券を配って仰々しくなったとうわさにもなっていますが、農民歌舞伎の地踊りにはそんなものはないのです。ヤジも投げ銭も飛び交い、ゴザに座って持ってきたものを飲み食う。そこには「頑張れよ」とか、「ずいぶんうまくなったなぁ」とか「あいつ、大丈夫かぃ」といった双方向での気持ちの行き来があります。踊っている人々はプロではなく、豊作の喜びなんかを体で示している。その一種ぎこちなく一生懸命な踊りこそ、心から感動するのではないでしょうか……。

心が地面に根を張り、しっかりそこから芽を出しているような、土地にひも付いた本来の姿。そんなことを思い浮かべながら「地」っていいな、と思いました。

トイレ掃除をしたくなる店、あなたにはいくつありますか?

今、自分のふるさとである愛知県知多郡阿久比町に新しい自分の店を作っています。それを記念して様々な文化人をゲストにお迎えして勉強会をしています。昔は地方のものを東京に集め、消費して経済は回っていました。しかし、これからの東京の役割って、地元のものを地元の地面にしっかり文化的に植え直すような感じがしています。僕のふるさとは機織りで有名な土地でした。わずかに残っている工場跡を使って店を作るプロジェクトが進んでいます。プロジェクトの様子はこちら

トイレ掃除をしたくなる店

ちょっとタイトルが変ですが、自分の店でもないのに、お手洗いに入ったらそこが少し汚れていて、自分がやる必要もないのに、掃除してしまったことってありませんか? 僕は割とあります。自分が好きな店って、そういう気持ちになりますよね。そんな店になりそうなとんかつ屋さんが、引っ越したての東神田の新事務所の近くにあります。白木のカウンターでキリッとした老夫婦が切り盛りするとてもおいしい有名店です。

ポイントはきっちりとした仕事をする主人の江戸っ子ぶり。厳しいと言うよりも、映画の車寅次郎のような、ちょっとした一言が乱暴なのに愛を感じるあのタイプで、一人で行っても、常連さんと交わされる短くてスピード感のある対話には、思わずほほえんでしまいます。

こっちの顔を見て、ウィンクこそしませんが、「なぁ、あんたもそう思うだろ」と言わんばかりに、チラッとニコッとする。そのなんとも言えないコミュニケーションがたまらない店で、老夫婦ということもあり、お客は自分の周りを拭き掃除したり、当然のように、食べ終わった食器は片付けやすい場所まで持っていったりする。それに対して、お母さんが「ありがとうね」と。これも心から感謝している気持ちが伝わってくる。そして、この店にいると、ずっとお母さんは「ありがとうね」「申し訳ありませんね」と言い続けている。そのオーラで、食べる前から幸せな気分になるのです。

この店のトイレにはまだ入ったことがありませんが、汚れていたら絶対に掃除してしまうと思います。自分の好きなよく行く場所、そんな自分の日常の店は、自分の一部。こぎれいな店に通う自分がいることで、自分の質も向上する。そんな気分にさせてくれる店、あなたはいくつありますか?

トイレ掃除をしたくなる店、あなたにはいくつありますか?

おそらく取材お断りの名店。外観だけでも(撮影はお店の承諾を得ています)。ご夫婦で切り盛りされている様子に、応援する心が芽生えてしまいます。そしておいしい。健やかな食事の時間があります

持っていたいと思えるか

デザイナーの大治将典さんと富山県高岡市の「二上(フタガミ)」さんという鋳物メーカーを訪ねました。大治さんは月一の二上さんとの定例ミーティングで、僕は自分が発刊している「小冊子d」の取材でライターの西山薫さんと伺いました。

そこで大治さんが「持っていたいなぁと思えるものって、なんでしょうね」みたいなことを言ってきました。なんだかとてもドキッとしました。つまり、「もの」の話です。そして、「もの」に何がないと、捨ててもいいや、と思い、何があると「持っていたい」と思うか。サラッと言われましたが、とてつもなく奥底が深い問答です。大治さん、さすがです。

海外で大人気の日本出身の「片付けコンサルタント」の近藤麻理恵さん(通称コンマリ)は、「ときめき(spark joy)を感じるものだけを残し生活しましょう」と推奨している。この「ときめき」と、大治さんの「持っていたい」は、一緒でしょうね。このフィルターだけでも、大掃除はできますね。

最近、国産のカメラを売って、あるカメラを分割払いでものすごく無理して買いました。写真と文章で活躍中のワタナベアニさんにこんなことを言ったら、「カメラを変えたって、何も変わらないぞ」と怒られそうですが、国産のそのカメラを「持っていたい」と思えなかったのです。

カメラの大好きなJoe suzukiさんに、買い替えたいなと思っていたあるカメラの店に連れていってもらった時のこと。「国産のカメラは超高品質でいいカメラですが、ライカはライカです」と説明され、ポルシェのCMのコピーを思い出しました。「ポルシェは誰にも似ていない」というコピーでした。

どんな要求にも応える高い機能性よりも、多少の自我が残り、少し使いづらいけれど、それで撮るんだ、と、思えるカメラだなぁと思ったわけです。国産のその最近のカメラは名機と言われていましたが、「持っていたい」と感じない、どこか魂の抜け落ちたもので、こちらの要求に応えてばかり。そのメーカーのわがままさがなくなっていたのでしょうか。

ちょっと横道にそれますが、昔の日本の家電や車、カメラには創業者のこだわりがプンプンにくっついていました。癖がありすぎてこちらのことなど考えていないくらいに思うその創造性に、付き合っていくことが楽しかったのです。今のような高品質なマーケティングがなかった「あなたのため」じゃなくて「作っているこっち側のため」というようなものづくり、どこへいっちゃったんでしょうかね。

大治さんは、最近、柳宗理のカトラリーはデザインばかりが主張しすぎて使いづらい、という僕の考えに対して「確かに、使いづらいところはある。けれど、使いこなしてやろう、と、思える何かがあります」と言っていました。さすが洞察が深いです。

部屋を大掃除するとして「ときめく」ことを重視したとして、果たして今度は何をもってそう思えるのか、「トキメキの種類」について考えてしまいそうで、結局、捨てられない僕でした。

トイレ掃除をしたくなる店、あなたにはいくつありますか?

工芸デザイナーの大治将典さんと東京の離島「利島」に行った時のスナップ

トイレ掃除をしたくなる店、あなたにはいくつありますか?

最近購入したライカQシリーズ。レンズの交換ができないタイプ。最近、僕は「いろんなことが出来ない」というキーワードに異常に反応します。そういえば、大治将典さんのものづくりにも、どこかそんな頑固さを感じ、惹(ひ)かれるのかもしれません

PROFILE

ナガオカケンメイ

デザイン活動家・D&DEPARTMENTディレクター
その土地に長く続くもの、ことを紹介するストア「D&DEPARTMENT」(北海道・埼玉・東京・富山・山梨・静岡・京都・鹿児島・沖縄・韓国ソウル・中国黄山)、常に47都道府県をテーマとする日本初の日本物産MUSEUM「d47MUSEUM」(渋谷ヒカリエ8F)、その土地らしさを持つ場所だけを2カ月住んで取材していく文化観光誌「d design travel」など、すでに世の中に生まれ、長く愛されているものを「デザイン」と位置づけていく活動をしています。’13年毎日デザイン賞受賞。毎週火曜夜にはメールマガジン「ナガオカケンメイのメール」www.nagaokakenmei.comを配信中。

アップルストアの“異様さ”に見るブランドの核心

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