20代ミュージシャンが語る“譲れない価値観”

“肯定する”ではなく“否定しない” 日向ハルが追求する「共感」のカタチ

結成5年目の2020年9月にメジャーデビューを果たしたアイドルグループ・フィロソフィーのダンス。R&Bやファンクなどのダンスミュージックを中心とした存在感のある楽曲とコミカルで個性的なパフォーマンスが人気だ。昨年11月にはAR技術を駆使したライブを成功させるなど、コロナ渦においてもアイドル界を大いに盛り上げている。そんなフィロソフィーのダンスから、ハスキーでソウルフルな歌声を武器にグループを牽引(けんいん)する日向ハル(以下、日向)が2021年1月にメジャーデビュー後初のソロ楽曲『目隠し』をリリース。本楽曲の作詞を手掛けるのはアーティストの土岐麻子。日向が自身の強い希望で土岐に作詞をオファーした。

オファーのキッカケは、土岐が2019年にリリースした楽曲『美しい顔』。「あらゆる人の持って生まれた姿を当たり前に尊重する世界が、もし100年後にあったとしたら」という意味が込められたこの曲に、日向は救われたという。

「自分の体形や顔のパーツに好きなところは一つもないんです。でも、アイドルという立場で『私なんてブスだ』と発信するのは違うとも思っています。だから、私は自分を否定しないことを選びました。好きになるって難しいかもしれないけど、『否定しない』とハードルを下げると、愛してあげやすくなると思うから。見た目で真っ向勝負はできないけど、自分にあるほかの武器で頑張ろうって。そう思っていたときに聴いた土岐さんの『美しい顔』にすごくホッとしました。“どんなあなたでもすてきだよ”と言ってもらえた気がした。この人なら私の気持ちをわかってくれるかもって直感的に思ったんです」

“肯定する”ではなく“否定しない” 日向ハルが追求する「共感」のカタチ

グループでの活動ではポジティブに明るく、その歌声で背中を押してくれる日向ハル。そんな彼女からは見ることのできない一面が垣間見えてきた。

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自身の肯定感を引き上げたフィロソフィーのダンスの存在

フィロソフィーのダンスとして活動をする前は「自分の好きなところが一つも言えなかった」という日向。自身を評価すること、そして人から評価されることに慣れていなかった。ファンとの交流イベントでは各メンバーのファンの数が可視化され、人気の高低が浮き彫りになるため、日向は自分より人気のあるメンバーの様子を見て人知れず傷ついていたこともあるという。しかし、メンバーにそのつらさを打ち明けると思いもよらない反応があり、日向の考えが変化した。

「その子に『グループの曲がいいと褒められても、私は歌もダンスも苦手だからすごく悔しい。だからほかでもっと頑張らないとって思うんだ』と言われたんです。そのとき、人気がある人はいいな……と勝手に決めつけていたなって。グループの良さはそれぞれの得意・不得意を補い合えるところなのに、ないものねだりだったなと気付いたんです。私は歌でステージを引っ張ることができるんだから、誰かを羨ましがるのはやめよう、他の人と同じにならなくても、私は私なりに頑張ろう!という気持ちになりました」

グループに入ったことで自身のさまざまな面に成長を感じていると日向は語る。周囲の目ばかりを気にし、一喜一憂していた頃からは見違えるほど、力強く地に足をつけて立っている。そして、2020年のメジャーデビューもまた、自身を見つめ直す一つのキッカケになった。

与えられた歌を自分たちなりに解釈して歌い続けてきたインディーズ時代から一変、メジャーデビュー後はレーベルより「フィロソフィーのダンスとして何を発信すれば説得力があるかを自分たちで考えること」を課せられた。

「アイドルの仕事は”ステージ上で演じること”だと思ってきた私は、正直そんなことを考えてきませんでした。だけど、アイドルは発信する仕事だからこそ、自分の中にあるやりたいことが尽きてしまったらステージ上に立つ理由はなくなってしまう。このまま続けていたら、いつか『何のためにアイドルを続けているのだろう』というフェーズに陥っていたと思います」

“肯定する”ではなく“否定しない” 日向ハルが追求する「共感」のカタチ

「何を発信したいか」に向き合ったことで導き出された一つの解、それが“フィロソフィーのダンス”というグループを背負わない“日向ハル”という一人の人間だからこそできる表現の追求につながった。

一人で生きられる人へ贈る「孤独のふたを開けたくなるような曲」

1月16日の自身の生誕ライブで発表した『目隠し』について、日向は「フィロソフィーのダンスでは扱えない曲」と形容した。ソロ活動ではグループで体現しているポジティブでハッピーな面ではなく、自身の奥底に潜む別の側面を発信したいという。

自身が感じてきた“孤独”をテーマに「はたから見たら強い人が、自分の奥底にしまっている孤独のふたを開けたくなるような曲をつくりたい」という思いで生み出された本楽曲。過去に他者と比較し“ないものねだり”をしていた自身へのメッセージのようにも受け取れる。

「自分の幸せの軸と他人の幸せの軸は別物なのに、自分より容姿が優れていたり地位が高かったり、恵まれていると感じる人を見ると『あの人は幸せなんだろう』と決めつけてしまう。でも、『何でもできてすごい!』と周りが思う人ほど孤独なんじゃないかと思ったんです。自分でできることが増えると、人に頼る行為がどんどん重たく感じて、自分で解決しようと心を開けなくなるなって。そんなことを感じて土岐さんに作詞を依頼しました」

“肯定する”ではなく“否定しない” 日向ハルが追求する「共感」のカタチ

“自ら旅立った誰かは 他人に打ち明けるくらいなら ひとりで苦しみ抜くことを 選んだのかも”

直接的な言葉で紡がれたひたすらに“孤独”を感じる歌詞は、生々しく脳裏に焼き付く。土岐の詞から受け取った「あなたの味方だよ」というメッセージをそのままに『目隠し』を歌い上げる日向の声は、バンドで奏でられるジャジーなサウンドと混ざり合う。日向の持ち味である力強さはさることながら、包み込まれるような温かさを感じる歌声が印象的だ。

「私の歌声の特徴は力強さですが今回は圧をかけすぎず、優しさを感じてもらいたかった。この曲に寄り添いたいと少しでも気持ちが動くような歌声にしたかった。歌声が一方通行にならないよう意識して歌いました」

どんな価値観もきっと誰かを救っている

メジャーデビュー後、「人に共感できるようになりたい」と度々口にしていた日向。この“共感”の中に込められているのは“否定したくない”という思いだった。

「何かにつけて『わかる』と肯定したいわけではなく、『その考え方もいいかも』と受け止められたらすてきですよね」

それはフィロソフィーのダンスとして大事にしているという「みんな違ってみんないい」「自分を認めてあげること」にも通ずるだろう。彼女は人生経験の豊かさこそが他人への寛容さを育むと考え、この先、生き方の幅を広げていきたいと話す。

「経験してきていないことは理解ができず、“否定”の対象になりやすくなると思う。例えば、学生時代にクラスの子となじめなかったときの気持ち、家族を失ったときの気持ち、恋人と別れたときの気持ち……ドラマや映画などのフィクションで描かれることもあるし、それで認識できるかもしれないけど、結局は自分の身の回りに起こらないと理解できないから」

“多様性”という言葉が盛んに叫ばれるようになって以降、さまざまな価値観を認める風潮となってきた。一方で行き過ぎた価値観の押し付け合いが、結果的に他者を否定することにつながっているようにも感じる。SNSを中心に蔓延(まんえん)するこの構造に日向は何を思うのか。

「どんな価値観でも押しつけられるとおなかいっぱいになってしまう。でも、いろんな価値観が世の中にあることで、今まで否定されてきた人が救われるのかなって。私にはわからないことかもしれないけど、誰かにとって理解できない価値観も多分誰かを救っているんだと思います」

“肯定する”ではなく“否定しない” 日向ハルが追求する「共感」のカタチ

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「私自身、多くの人が“いい”と思うから、自分も“いい”と思う、そんな考え方はしたくない。自分の言葉で“いい”を説明できる人になりたい。そしてその考えをSNSで発信するんじゃなくて、アーティストとして作品にしたいと思いました。SNSで言ったら賛否がわかれるような疑問や違和感を曲にして伝えていこうって」

最後に次に形にしたいテーマについて聞くと、「“信じること”に対する疑問」を表現していきたいと述べた。

「『裏切られた』と口にする人をよく見かけるけど、それは自分が勝手に信じているだけだと思っていて。こう思っていたのに違った、自分が言ってほしくないことを言ってきたとか。自分の見えている側面だけを信じて、違う側面が見えたときに裏切られたと言う。みんないろんな側面があるはずなのに。そこに対する違和感を作品にしたいです。次にまた作品にできるタイミングが来たとき、自分の言葉でやりたいことを伝えられるようにしておこうと思います」

(文・阿部裕華 写真・林紗記)

プロフィール

“肯定する”ではなく“否定しない” 日向ハルが追求する「共感」のカタチ

日向ハル(ひなた・はる)

アイドルグループ・フィロソフィーのダンスのメンバー。「ゴリゴリのゴリ」とファンから形容され、グループの歌を力強く引っ張る存在。ソウルフルな歌声はアイドルの枠に収まらずテレビ東京「カラオケ★バトル」(cf.テレビ朝日)への出演やテレビ朝日「関ジャム~完全燃SHOW」にて令和のアイドル界スゴいボーカリスト10人に選出される。幼少期から習っていたダンススキルも持ち合わせている。

関連リンク

◆「日向ハル生誕祭2021」配信ライブのアーカイブチケット購入は以下リンクから
https://stagecrowd.live/1568638538/

◆日向ハル『目隠し』
https://lnk.to/VHd8xK

◆日向ハル(@halu_philosophy)/Twitter
https://twitter.com/halu_philosophy

◆フィロソフィーのダンス公式サイト
https://danceforphilosophy.com/

PROFILE

  • 「20代ミュージシャンが語る“譲れない価値観”」ライター陣

    宮崎敬太、阿部裕華、張江浩司

  • 阿部裕華

    1992年生まれ、神奈川県出身。 WEBメディアのライター/編集/ディレクター/マーケターを約2年間経験。2018年12月からフリーランスとして活動開始。ビジネスからエンタメまで幅広いジャンルでインタビュー中心に記事を執筆中。アニメ/映画/音楽/コンテンツビジネス/クリエーターにお熱。

世界注目のYUKIKA 韓国・ソウルで日本生まれのシティーポップを歌うわけ

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