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“人”を描き、常に映画に新しい風を吹かせたい 『さんかく窓の外側は夜』森ガキ侑大監督

累計発行部数130万部を超える、ヤマシタトモコさんの大ヒット漫画『さんかく窓の外側は夜』(リブレ刊)が実写映画化される。霊を祓(はら)うことのできる男・冷川理人(ひやかわ・りひと、演:岡田将生)と霊を視(み)ることのできる男・三角康介(みかど・こうすけ、演:志尊淳)の二人が特殊能力で怪奇事件の謎に挑んでいく、新感覚のミステリー・エンターテインメント作品だ。

本作のメガホンを取るのは、森ガキ侑大監督。同氏はCMディレクターとして活動した経歴を持ち、「グランブルーファンタジー」やソフトバンク、資生堂など数多くのCMを手掛け国内外問わず多数の賞を受賞。2017年には自身初となる長編映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』を制作し、こちらも国内外で高い評価を得た。

祖父の死をキッカケに普遍的な「家族」という題材を描いた『おじいちゃん、死んじゃったって。』は、原作のないオリジナル作品である。一方で『さんかく窓の外側は夜』は、除霊で謎や事件を解決していくという非日常的な物語であり、原作もある。一見対照的な作品を手掛けているように感じるが、森ガキ監督の中では共通している部分があると言う。どちらも“人を描いている”のだ。

“人を描く”核をブラさずに挑んだ、新しいアプローチ

『おじいちゃん、死んじゃったって。』とは違うタイプの映画を撮りたいと思っていたタイミングで舞い込んできた『さんかく窓の外側は夜』映画化の話。森ガキ監督は原作を読んだ際の印象をこのように振り返る。

「ポップでエンターテインメント性の強い作風がとても面白いなと思って。望まない能力を持ち、今まで誰とも分かり合えず生きてきた人たちが、同じような能力を持った人と出会って成長し、これまで抱えていた気持ちが変化していく。多様な人たちが出会って成長していくというテーマは、今の時代にとても合っているとも感じました。魂の結びつきみたいなものにすごく共感を覚えたんです。『おじいちゃん、死んじゃったって。』と核は同じだけど、自分の中で新しい表現ができる作品だと思い、とてもワクワクしました」

“人”を描き、常に映画に新しい風を吹かせたい 『さんかく窓の外側は夜』森ガキ侑大監督

『おじいちゃん、死んじゃったって。』は死についての価値観の違いを分かり合いたいと望む人たちの姿が描かれていた。そして、『さんかく窓の外側は夜』は、誰とも分かり合えない能力を持った登場人物たちが同じ能力を持つ人と出会うことで変化していく姿が描かれている。

「僕の中にある一つの核、“人を描く”ことはどちらも共通しています。それがゴールだとすれば、ゴールまでのアプローチ、表現が違うだけなんです。『おじいちゃん、死んじゃったって。』を“古着”とするならば、『さんかく窓の外側は夜』は“サラ着”。明らかに違う洋服を身に纏っているけれど、ゴールは同じです」

「同じようなテイストの作品をつくってほしいという依頼がどうしても多く来てしまうのですが、今度は新しい表現をしてみたいと思っていたので、とてもいい機会でした」

ファッション的な映像から観客と登場人物を繋げる

森ガキ監督の追求する“新しい表現”とは――。本作では登場人物たちへ感情移入させるために、ストーリーや役者の演技で観客と心を繋げているのではなく、映像のクリエイティブで観客と心を繋げている。色彩・光・カメラワーク・トランジション(カットの切り替え)など視覚的な情報に創意工夫を施しているのだ。これを「ファッション的な表現」と言い表した。

「本作は人間の“穢(けが)れ”がキーワードになっています。この穢れた世界を色で表すなら“黒”だろうと考え、テーマカラーとして設定しました。一方、劇中に登場する幽霊は対照的に“白”をテーマカラーにしています。黒い世界の人たちとリンクできない存在、そして黒い世界の人たちより穢れのない存在として描きました」

劇中に登場する、人間の呪いを貯めておく場所「呪いの貯金箱」のシーンにも工夫がうかがえる。ほの暗い室内に赤いライトが照らされているのだ。登場人物たちの感情を照明の色で変化させていく手法を意識していたそう。

“人”を描き、常に映画に新しい風を吹かせたい 『さんかく窓の外側は夜』森ガキ侑大監督

本作の見どころの一つである“除霊”のシーンも、暗闇の中に冷川と三角が立ち、三角形の蛍光ランプが結界のように二人を囲っているという画だ。暗闇の中に三角形の結界をつくる表現は原作の中にもあったそうだが、「三角形の蛍光ランプを結界に見立てる」表現は森ガキ監督が海外のファッションショーからヒントを得て完成させたものだ。

「ただ、CGで半透明のような結界をつくってしまうと画的にナンセンスだと感じました。そんなとき、以前見たファッションショーの映像を思い出したんです。蛍光ランプを使った映像表現はいつかしてみたいと思っていたので、これは行ける!と。三角形の結界に蛍光ランプは面白いかもと、過去の経験が本作の表現にリンクしました」

「新しさを感じてもらえるような作品に仕上がった」

映画化が決定した当時、原作は連載中であった。そのため、冷川、三角、そして作中のもう一人のキーパーソンである呪いを操る女子高生・非浦英莉可(ひうら・えりか、演:平手友梨奈)能力を持つこの三人が出会い存在意義を確認し合う骨組みは原作のままに、ラストは映画オリジナルの終わり方となっている。

2021年1月現在で9巻まで刊行されている作品を、映画では102分に収める。

「漫画原作の作品を実写化する上で一番難しいのは、長いストーリーを短い時間に起承転結をつけてまとめること。僕はヤマシタ先生の原作が大好きだし、それは読者のみなさんも同じ気持ちですよね。ヤマシタ先生の素晴らしい作品を全て描くことができないのは、一番苦しかったです」

映画を制作するのは予算も決まっているから、削らざるを得ないシーンもあって。でも、なければないでシーンの繋ぎがおかしいよねとか。いざ脚本に落とし込むと、どこか破綻してしまうんですよ。プロデューサーやスタッフのみんなとたくさん話し合ってつくっていきました。まとめるのは本当に大変でしたね。だからこそ、ようやく公開できる日がきて良かったと感じています」

“人”を描き、常に映画に新しい風を吹かせたい 『さんかく窓の外側は夜』森ガキ侑大監督

最終的に目指すゴール“人を描く”から逸(そ)れない。この意識が完成までの糧となったのだろう。

「“人を描く”からズレていないか、そのゴールにちゃんと向かっている表現なのか、何度も話し合いました。絶対に忘れないように、自分で赤丸とゴールを見える場所に書いて。劇中で三角の放つ『幽霊より人間のほうがよっぽど怖いってことですよ』という言葉は、まさにこのゴールに結実するなと思いました」

本作について「映画に新しい風を吹かせたかった」と森ガキ監督。これまでに見たことのない映像体験ができると言っても過言ではないほど、“新感覚”な映画作品となっている。

「反省点はいっぱいあります。だけど、今までにないような、新しいことをやったと感じてもらえるような作品に仕上がったと手ごたえは感じています。冷川、三角、英莉可の三人が出会い、交差し、変化・成長していく様や人間の感情の機微を、お芝居として撮影し映像として表現しました」

「また、滝藤賢一さん演じる刑事・半澤日路輝(はんざわ・ひろき)にも注目してほしいです。映像でだけでなく、俳優の方それぞれの演技の表現も面白さがあるので。そちらもぜひ見てほしいですね」

今だからこそできる、表現の追求

森ガキ監督がインタビュー中に何度か口にしていた“新しい”というワード。なぜ、これほどまでに“新しさ”にこだわるのだろうか。

「僕が若いときから見てきた憧れの映画監督の人たちと、今は同じ土俵に立って映画をつくっている。そこで彼らのコピペ(コピー&ペースト)をしたら、僕の存在意義はないじゃないですか。彼らのやっていない表現を、今の自分だからできる表現を模索し続けていくことこそが大切であり、今後の課題でもあると思っています」

“人”を描き、常に映画に新しい風を吹かせたい 『さんかく窓の外側は夜』森ガキ侑大監督

最後に、そんな森ガキ監督が今後手掛けていきたい映画・表現について伺ったところ、いくつかの構想が語られた。そして、軸にあるのは“エンターテインメントの追求”であるのかもしれない。

「広島出身なので、広島カープの映画や村上水軍が活躍した尾道本土を舞台に時代劇の映画をつくりたいですね。他県の人たちに観に行きたいと思ってもらえるかは分からないので、実現は難しいかもしれませんが(笑)」

「ほかにも、原爆の映画もつくりたいと思っています。ドキュメンタリーではなくエンターテインメントとして。昨年(2020年)亡くなった祖父母が被爆者で、二人の戦争体験を直に聞いていました。この話を後世に伝えていくことが広島県民の宿命だと僕は思っています。そのためにも、戦争を経験していない人たちに伝わる映画をつくりたい。エンターテインメントだからこそ観て聞いてくれることもあります。アンタッチャブルだと思うけど、戦争を経験していない僕だからこそ、エンターテインメントとして昇華できると思うから。僕らだからできる表現をこれからもしていきたいです」

(取材・文=阿部裕華 写真=かさこ)

プロフィール

森ガキ侑大(もりがき・ゆきひろ)

映画監督、演出家、CMディレクター。「グランブルーファンタジー」、資生堂、ソフトバンク、日清カップヌードル、dマガジン、DAIHATSU、JRAなどのCMを手掛け、T&E(福岡のプロダクション)~THE DIRECTORS FARM、THE DIRECTORS GUILDに参加。WEBムービー「母の口紅(MOTHER’S LIPSTICK)」CANNES LIONS 2016 HEALTH部門BRONZE賞他。2018年、初の長編映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』で第39回ヨコハマ映画祭 森田芳光メモリアル新人監督賞受賞他。「坂の途中の家」(WOWOW)「時効警察はじめました」(テレビ朝日)「満島ひかり×江戸川乱歩シリーズ」(NHKBSプレミアム)などテレビドラマでも活躍。

作品情報

『さんかく窓の外側は夜』

“人”を描き、常に映画に新しい風を吹かせたい 『さんかく窓の外側は夜』森ガキ侑大監督

2021年1月22日(金)全国ロードショー

出演:岡田将生 志尊淳 平手友梨奈 滝藤賢一 マキタスポーツ 新納慎也 桜井ユキ 和久井映見 /筒井道隆
原作:ヤマシタトモコ『さんかく窓の外側は夜』(リブレ刊)
監督:森ガキ侑大
脚本:相沢友子
主題歌:ずっと真夜中でいいのに。『暗く黒く』(EMI Records / UNIVERSAL MUSIC)
配給:松竹

公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/sankakumado/

(C)2020映画「さんかく窓の外側は夜」製作委員会 
(C)Tomoko Yamashita/libre

 

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PROFILE

阿部裕華

1992年生まれ、神奈川県出身。 WEBメディアのライター/編集/ディレクター/マーケターを約2年間経験。2018年12月からフリーランスとして活動開始。ビジネスからエンタメまで幅広いジャンルでインタビュー中心に記事を執筆中。アニメ/映画/音楽/コンテンツビジネス/クリエーターにお熱。

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