オンライン開催となった米家電・技術見本市「CES」に見た可能性と限界

【TOP写真:LGディスプレーによる透明度40%の有機ELディスプレー。これは寿司(すし)レストランでの応用例(写真:LG Display)】

注目ジャンルは生活や健康 初のバーチャル会場を巡る

世界最大級の家電・エレクトロニクスショー「CES」が、2021年は新型コロナウイルス対策からオンライン形式によって1月11日から14日まで開催された。例年1月に米国ラスベガスで行われてきたこのイベントが、オールデジタルとなったのは、1967年にニューヨークで催された第1回以来、初めての試みである。

主催者の全米民生技術協会(CTA)によると、2021年は1900の出展社と100以上のコンファレンスが開催された。参考までに、2020年の出展社数は約4400であった。

年によっては、イタリア・フィレンツェのメンズモード見本市「ピッティ・イマージネ・ウオモ」と日程が重なり、二者択一をせねばならなかった筆者にとって、リアルでは不可能な立ち会い方ができた。実際、イタリア在住の筆者は中央ヨーロッパ時間11日23時に開始したソニーのプレゼンテーションで、同社渾身(こんしん)の4Kカメラ搭載ドローンを確認したあと、翌朝12日午前、こちらも今回はオンラインとなったピッティのファッションブランド「ブルネロ・クチネリ」のインビテーションに記されたライブ・ストリーミングを追った。

ソニー「Airpeak」

ソニー「Airpeak」。フルサイズ・ミラーレス一眼カメラ「α」を搭載したドローン(写真:SONY)【もっと写真を見る】

ホームアプライアンス(家電)や電子ガジェット系の話題は、リアル開催の時と同様に、韓国ブランドの元気さが目立った。LGは巻き取り式画面を備えたスマートフォン「LGローラブル」のティザー動画で、プレゼンテーション冒頭から驚かせた。巻き取り式スクリーンは、2020年11月に中国OPPOも試作品を公開している。詳細は両社ともいまだ明らかにしていないが、先に登場した折り畳み式とともにスマートフォン市場における次の起爆剤になり得る。

姿が公開された巻き取り式スマートフォン「LGローラブル」

姿が公開された巻き取り式スマートフォン「LGローラブル」。これは通常のコンパクトな状態。(LGのオンライン・プレスコンファレンスより)【もっと写真を見る】

巻き取り式スマートフォン「LGローラブル」

巻き取り式スマートフォン「LGローラブル」。上部約1/3が伸長し、タブレットの大きさに変貌(へんぼう)する。【もっと写真を見る】

そのLGは、透明度40%を達成した有機ELディスプレーも提示。業務用途の提案場面では、寿司店でデジタルメニューを見る、待っている前にスポーツ観戦する、ときおりディスプレーの向こうの職人の顔も見られる、といったシチュエーションを展開した(TOP写真)。コロナ対策になるパーティションの役目も十分果たしているのだから、次回作では、寿司の選択もディスプレー下に分離して備え付けられたタッチパネルではなく、非接触を期待したい。

技術的観点からすると、依然5Gテクノロジーの応用が目立った。いっぽうで、大小かかわらず多くの出展社がよりアピールしていたものといえば、「充実した生活スタイル」や「健康」に焦点を当てたものである。それは2020年までは自動車メーカーの果敢な出展で脚光を浴びていた「自動運転」に代わるものといっても過言ではない勢いだった。

サムスンの「ジェットボット90AI+」は、自動運転車を支える装置としてポピュラーになったLiDarと3Dセンサーを搭載したロボット掃除機。移動するペットを含む室内の障害物を、より正確に感知する。早くも2021年前半に米国で発売するというから、さらに驚く。同じくサムスンによるホームロボット「ボット・ハンディ」は、テーブルのグラスにワインを注ぐかと思えば、食後シンクに置かれた食器を自動認識して食洗機の適切な位置に挿入する作業をデモンストレーションした。

サムスン「ボット・ハンディ」

サムスン「ボット・ハンディ」。家庭内にあるさまざまなアイテムの形状を認識し、家事を助けるロボット(写真: Samsung)【もっと写真を見る】

ボッシュは、昨2020年のCESで公開したスマートグラス用モジュール「ライトドライブ」が、主催者によって2021年「イノベーション・アワード」のひとつに選定されたことを報告した。網膜に画像を直接投影する。モジュール自体は10g以下と軽く、持続時間も14時間と長い。スマートグラスがスマートフォンやスマートウォッチに代わる画面チェック用デバイスとなることに少なからず貢献しそうだ。

による「ライトドライブ」モジュールを内蔵したスマートグラスの使用イメージ

ボッシュによる「ライトドライブ」モジュールを内蔵したスマートグラスの使用イメージ。網膜に直接画像を投影する。モジュール自体の重量は10g以下(写真:Bosch)【もっと写真を見る】

フィリップスの「マスクセレクター」は、2020年夏にすでに発表したものだが、3Dスキャンを行い、クッション、フレームなど最適な医療呼吸マスクの選択を助ける。

フィリップスによる「マスクセレクター」

フィリップスによる「マスクセレクター」。医療呼吸用マスクのサイズ選択を、容易かつ的確にする(写真:Philips)【もっと写真を見る】

スタートアップが大ブランドと肩を並べられる

例年におけるリアル開催のCESは、大きく三つのゾーンに分かれていた。さらにそれら公式パビリオンとは別の会場を借りて発表を行うブランドもあり、その移動距離はとてつもないものだった。それでも筆者が毎年楽しみにしていたのは、主にスタートアップ企業が集結する「サンズ・エクスポ」という展示館である。

大メーカーが巨大なブースを設営するメイン会場「ラスベガス・コンベンションセンター」と異なり、こちらは小さい展示スタンドが縁日の屋台のごとくひしめきあっていた。その多くはクラウドファンディングを頼りに、さまざまなアイデアを提示していた。

日本の「ドン・キホーテ」店内を巡る感覚、と書きたいところだが、目当ての出展社を真面目に取材しようとすると、スタンドのコマ割りが細かすぎて到達するまで極めて苦労した。

今回のフルデジタル版でも、もしリアルであれば、そうしたサンズ・エクスポに軒を連ねていたであろう新興企業に出会うことができた。

たとえば、フランス・リヨンのYブラシは、植毛された3万5千本のナイロンをマウスピース型に並べた電動歯ブラシで、「僅(わず)か10秒間で歯磨きが完了する」としている。

「Yブラシ」

「Yブラシ」は僅か10秒で歯磨きが完了。すでに通販で販売が開始されている(写真:Y-Brush)【もっと写真を見る】

イタリアのフィレンツェを本拠とする「チェントリカ」は、クラウドアプリケーションを通じ、フィレンツェのウフィッツィ美術館やミラノのブレラ美術館の絵画群を10ギガピクセルで再現する。作品における任意の部分を拡大でき、肉眼では不可能なディテールを確認することができる。

イタリアでは2021年1月現在、新型コロナ対策により美術館の臨時休館が続いている。そうした環境下での美術教育や鑑賞には、一定の成果が期待できよう。それに関連して言及すれば、パナソニックは今回のプレゼンテーションで、トロントにおいて同社の協力のもと2020年に開催された「ファン・ゴッホ・バイ・カー」を紹介した。屋内に投影されたゴッホ作品を、なんと車の中から鑑賞するものだった。教育と娯楽を融合した「エデュテインメント」は、エレクトロニクス界で急速にキーのひとつとなると筆者は見た。

さらにユニークなのは、ミラノのスタートアップが考案したフリーダイビング用ガジェット「オクサマ・ダイビング」である。自らもダイバーである創業者によるアイデアで、血中酸素飽和度や水圧など7種の情報を自動音声で伝えることで、従来のリストバンド型計測器よりも、より確実にダイバーに伝達できるというものだ。クラウドファンディング「キックスターター」と「インディゴーゴー」で、商品化の可能性を探る予定という。

アイデアが秀逸、かつアピール力があれば展示ブースの大小に関係なく、大ブランド同様にバイヤーや出資者、ジャーナリストの注目を集める可能性があるのは、オールデジタルならではの痛快な点といえよう。

フリーダイバー用の音声式情報伝達デバイス「オクサマ・ダイビング」

フリーダイバー用の音声式情報伝達デバイス「オクサマ・ダイビング」(写真:Oxama)【もっと写真を見る】

懐かしい リアル会場の自由闊達(かったつ)な空気感

それでも振り返れば、スタートアップには、スタンドが実在することによるメリットが数々あった。それらは、大メーカーより大きかったといえる。

一つは、すぐに質問し、回答を得られたことである。フルデジタルのCESには、出展社ごとにチャットボックスが設定されていた。しかし、今回日本以外の3カ国3社に質問を投げかけてみたところ、会期終了後もいまだ返答が来ない。今回各社はそれぞれのタイムゾーンで対応し、かつ新興企業は人手が足りないことを差し引いても遅い。これがリアル会場なら、すぐに答えが引きだせるかと思うともどかしいことこの上ない。

第二は、「実物を見られる安心感」である。2018年のCESで、話題となったガジェットに「イヤホン型リアルタイム翻訳機」があった。耳に突っ込んでおいて通信環境にいると、相手の言葉が翻訳されて聞こえてくる。2021年の今日、すでに発売されている類似商品の先駆けであった。別々の言語を用いる男女が、それを介してカフェで会話するというプロモーションビデオまで作られていた。

実際にスタンドで見せてもらうと、ビデオで示された外見とは異なるベータ版だった。さらに会場内の雑音が大きすぎたこともあり、実用の域に達していなかった。

このようにリアルの会場では、製品が今日どの段階まで開発されているかが確実にわかった。すべての出展社がそれを意図しているとはけっしていわないが、開発が最終段階に達していると思わせるような映像資料に惑わされてしまうことがない。

リアル会場の良さの第三は、「作り手のムードが直に伝わること」だった。その翻訳機、完成度はそれなりであったが、出展していた若者たちは自分たちのプロダクトを紹介したい意欲に溢(あふ)れていた。彼らはガジェットに対する熱い思いを抱く、まさに英語でいうところのギーク(geek)であった。実際に、筆者のようにトレード目的以外で訪れた者に対しても、熱心に説明を続けた。

彼らが醸し出す雰囲気は、今や一流となった日本メーカーの社史に描かれた、草創期の自由闊達な空気感と重なった。

こうしたムードまでフルデジタルのイベントが伝えられるようになるまでに、あと何年を要するか。図らずも最先端技術のショーケースたるCESで考えてしまった。

ムンバイを本拠とするスタートアップによるチェス盤「スクエア・オフ」。リモート対戦相手の駒が自動で動く(写真:Square Off)

ムンバイを本拠とするスタートアップによるチェス盤「スクエア・オフ」。リモート対戦相手の駒が自動で動く(写真:Square Off)

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PROFILE

大矢アキオ Akio Lorenzo OYA

コラムニスト。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で比較芸術学を修める。イタリア・シエナ在住。NHK『ラジオ深夜便』レポーター。訳書に『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、著書に『イタリア発シアワセの秘密−笑って!愛して!トスカーナの平日』(二玄社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など

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