口福のカレー

下北沢の街と人を見守ってきた古株カレー店「茄子おやじ」(東京・下北沢)

下北沢といえば、前連載「口福のランチ」でも紹介した「般゜若(パンニャ)」や「旧ヤム邸 シモキタ荘」など、個性豊かなカレー店が目白押しだが、「茄子おやじ」も、そんな人気店のひとつだ。1990年創業の古株で、“下北とカレーとコーヒー”をコンセプトにした下北らしさが詰まった店だ。

現在は、先代から店を受け継いで5年目になる西村伸也さんが店を切り盛りしている。カレーのスタイルや店のコンセプトなど、“核”の部分は変えずに、でも、カレーもコーヒーも、音楽やインテリアも、少しずつ西村さんの色に進化させている。

店のアイコンのナスに加え、煮込まれたブロッコリー、トマトなどがおいしい「やさい」

店のアイコンのナスに加え、煮込まれたブロッコリー、トマトなどがおいしい「やさい」

とろみがあるルーは、どちらかというと色の濃い欧風カレーに近く、ただ、どこか懐かしい家庭的な味わいもある。メニューは、「ちきん(1000円税込み・以下同様)」、「やさい(1000円)」、「びーふ(1100円)」と、それらが全部入ったゆでたまご付きの「スペシャル(1300円)」、あと平日限定の「きのこ(1000円)」だ。

ルーは同じだが、具材によって味わいはかなり変わる。口に含むと甘みが先行して、後からスパイスを感じる甘辛。訪れたのは、正月三が日明けすぐだったが、おせちに飽きていた舌には、「まさにこれを求めていた!」という抜群の相性。「おせちもいいけどカレーもね」という古いCMのフレーズが脳裏に浮かんだ。

牛肉のエキスがルーに溶け込み、ほのかな甘みを感じる「びーふ」

牛肉のエキスがルーに溶け込み、ほのかな甘みを感じる「びーふ」

全部のせのスペシャルとやさいには、店名にもあるナスがたっぷりと入っている。じっくりと火を通して、とろりと柔らかくなったナスと甘辛のルーの相性は言わずもがな。硬めのライスがこれまたいい。西村さんいわく、このルーに合うように芯を残すか残さないかぐらいの硬さに炊いているとのこと。大正解だ。カレーをまとった肉もどれも柔らかく、納得の一皿だった。完食した皿からは、ユニークなイラストがお目見えして、なんだか気持ちも和む。

カレーのベースは、たっぷりの玉ねぎとフルーツをじっくり炒めるところから始まって8時間ほどかけて作る。スパイスはおよそ20種類。季節によっても調合を変える。例えば、冬場は夏より少し辛みを強調するなど、西村さん流のこだわりがある。

コーヒーの焙煎(ばいせん)をしている友人が、カレーに合う豆をセレクト

コーヒーの焙煎(ばいせん)をしている友人が、カレーに合う豆をセレクト

カレー同様にこだわりが感じられるのは、音楽だ。店には3000枚ほどのLPのストックがあり、今もレコードプレーヤーで音楽を流す。ジャンルにはこだわらず、西村さんが心惹(ひ)かれたものをかけている。実は西村さんは、プロのミュージシャンとしてバンド活動も継続していて、店のスタッフもバンド仲間や音楽、役者仲間だそう。

下北といえば、サブカルの街。音楽、演劇、アートなどを目指す人たちも多い。自分もずっと音楽に携わってきたから、そんな夢を追う人たちの通過点になれるといいなと思いながら、この街で日々カレーを作り続けているのだそう。もちろん今の時代にも対応すべく、マスクを着用、アルコール消毒も用意されている上、テイクアウトやウーバーイーツへの対応も万全だ。

下北沢駅南側の繁華街から、細い路地を一本入ったところにある

下北沢駅南側の繁華街から、細い路地を一本入ったところにある

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茄子おやじ
東京都世田谷区代沢5-36-8 アルファビル1F
03-3411-7035

PROFILE

熊野由佳

ライター&エディター。徳島県出身。外資系ジュエリーブランドのPRを10年以上経験した後にフリーエディターに。雑誌やWebを中心に、旅、食、ファッションなどをテーマに執筆中。無類の食べもの好きでもあり、おいしい店を探し当てる超(?)能力に恵まれている。自分の納得した店だけを紹介すべく、「実食主義」を貫く。酒好きが高じて「唎酒師(ききさけし)」を取得したが、おいしいワインの探索にも余念がない。

ファッションの街で12年、いつも緩やかな空気が流れるカレー店「ヨゴロウ」(東京・原宿)

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