今日からランナー

コロナに翻弄(ほんろう)された1年 今年もランニング界に逆風が吹くのか

例年なら、1月から2月にかけては日本の市民ランナーにとって最大のイベントといえる東京マラソンを控え、ランニング界が1年のうちでもっとも盛り上がりを見せる時期だったはずだ。ところが新型コロナウイルスの感染拡大は収まるどころか、ますます猛威をふるい、ついに2度目の緊急事態宣言が出るありさまだ。リアルなマラソン大会が復活するにはまだまだ時間がかかりそうだ。

(TOP写真:2020年2月16日に開催された熊本城マラソン、スタートの瞬間=熊本市、渡辺七海撮影)

2月28日開催予定だった人気レースの湘南国際マラソン(神奈川県)は、開催可否判断日の昨年12月10日に中止を決めた。感染拡大防止のために、スタート時に「密」にならないよう参加者を19グループに分けて10分おきの時間差でスタートさせ、そのためにフルマラソン(42.195km)の行程を25kmに短縮するなどの対策を講じていたが、最終的に開催を断念した。

4月18日に開催予定のかすみがうらマラソン(茨城県)は募集定員を2万3500人から1万8300人に減らし、エントリーを国内居住者に限定した。湘南国際マラソンのように、グループ分け、時間差の“ウェーブスタート”方式を導入し、参加者の動線を工夫するなどして準備を進めているが、2月5日に開催の可否を判断するという。

また、本来なら3月の第一日曜日に開催される東京マラソンは、今年は10月17日に変更された。2020年大会に当選していたランナーは、再度参加料を支払えば、出場権を今年もしくは来年(3月6日開催予定)に移行できる。どちらかへ移行するか、あるいは権利を放棄するかを1月20日までに返事しければならない。筆者は昨年、二次抽選でエントリーが確定していた。悩んだ末に、今年10月に移行した。だが、本当に開催されるかどうかはかなり微妙だと思っている。

【参考記事】
一般枠中止の東京マラソン 運営費を考えると「返金なし」もやむなし?
記念品には大満足したけれど…… 今から気になる来年以降の東京マラソン

日本陸上競技連盟(日本陸連)は今年1月15日に「ロードレース開催についてのガイダンス」の改訂第3版を発表した。それによると、大会開催の前提条件としてまず、緊急事態宣言の解除があげられている。まあ、それは当然だろう。不要不急の外出の自粛が要請されているさなかにマラソン大会などと言っていられないのは、わかる。

【参考資料】
ロードレース開催についてのガイダンス

開催するとしたら、これも当然ながらしっかりとした感染防止対策が必要だ。ガイダンス第3版の改訂部分にはこう書かれている。〈競技会主催者は、開催地や国内各地の感染状況によっては、参加競技者、競技会関係者等に対して競技会前にPCR検査を受けるよう要請することも検討する〉。検査は大会前72時間以内に受け、検査結果を書面で提出しなければならないという。けっこう厳しい。

また、参加ランナーは大会1週間前から「体調管理チェックシート」を記入し、提出しなければならない。体調管理チェックシートは、のどの痛み、せき、鼻水、頭痛、体温……など12項目について記載することになっている。なかなか大変だ。

さらに、当日はウェーブスタートが奨励され、〈(参加者を)15分以上同じ場所に滞留させない〉としている。15分以上同じ場所に滞留させないというのは、かなり難しい。

以上は、A4判8ページにおよぶ全文のほんの一部でしかない。このガイダンスを全部クリアするのは、正直至難の業だと思った。つまり、感染拡大が収束しない限り、リアルでのマラソン大会の開催は現実的ではないと言ってもよさそうだ。

それにしても、こんな状況が1年経ってもまったく改善されないどころか、かえって悪化させているとはいったいどうなっているのか。感染者が爆発的に増え、ついには医療崩壊が起きつつある。この“怒り”をどこにぶつければいいのか。とりあえず、日本政府に矛先を向けるしかないだろう。もう忘れているかもしれないが、この1年を振り返ると、いかに対応が後手後手だったかがわかるだろう。

中国湖北省武漢市で原因不明のウイルス性肺炎の発症が相次いでいると同市当局が発表したのは19年12月31日のことだった。20年1月9日には香港、台湾が検疫を強化した。しかし、日本政府はほとんど何もしなかった。北朝鮮や台湾、アメリカなどが中国からの入国制限を決めているのに、1月24日には当時の安倍晋三首相の「春節祝辞」と題した、中国からの観光客を歓迎するとの談話を外務省のウェブサイトに掲載したほどだ。

そして、同月28日には武漢市からの中国人観光客を乗せたバスの運転手が感染していたことが確認される。当時、武漢から日本への直行便は週38便も飛んでいたという。

その後も安倍政権は国内でのウイルス蔓延(まんえん)を否定し続けた。予定されていた中国の習近平主席の来日と東京オリンピックに配慮したからだとされている。当時官房長官だった菅義偉氏に至っては、日本で初めての死者が確認された2月13日の翌日段階でなお、「国内で流行していると判断するに足る疫学的な情報が集まっているわけではない」と語っていた。

結局、政府が最初の緊急事態宣言を発出したのは4月7日になってからだ。

一方、マラソン界の対応は早かった。2月16日に開催された熊本城マラソンでは、参加者の多くがマスクをつけて走っている姿が報道されたことをご記憶の読者も多いだろう。主催者がマスクを配布したからだ。この日は他にも青梅マラソン、京都マラソン、おきなわマラソン、北九州マラソンなどメジャー大会が目白押しだった。全国で約8万人のランナーがレースに参加した計算だが、マラソン大会から感染者が出たという話は聞かない。

熊本城マラソンでは新型コロナウイルスの感染拡大を受け、マスクを着けてスタートするランナーの姿も見られた=2020年2月16日、熊本市、金子淳撮影

熊本城マラソンでは新型コロナウイルスの感染拡大を受け、マスクを着けてスタートするランナーの姿も見られた=2020年2月16日、熊本市、金子淳撮影

しかし、翌週23日の日曜日以降、ほぼすべてのマラソン大会が中止を決めた。3月1日の東京マラソンはエリートランナーのみでの開催となった。あれから早、1年が経とうとしている。メジャーな大会は皆無といっていい状況だ。

安倍政権を引き継いだ菅首相は官房長官として前政権の失政を間近で見ていたにもかかわらず、同じ失敗を繰り返した。感染拡大が収まっていないにもかかわらずGoToキャンペーンを強行し、専門家が中止を提言しているのにやめなかった。イギリスをはじめとする世界各地で感染力の強い変異種が確認されているというのに、海外からのビジネスパーソンの来日を止めなかった。明らかにウイルスを甘く見ていた。

年末に東京で一日の感染者が1000人を突破したのに国会は休んだまま。1都3県の知事の要請を受けてようやく2回目の緊急事態宣言を出したのが、1月7日のことだった。各種世論調査によれば、7~8割の国民が「遅すぎた」と言っている。

菅首相は「感染拡大防止と経済の両立」を模索していると解説されているが、日本には昔から「二兎(と)を追う者は一兎をも得ず」のことわざがある。このままでは、経済も死んでしまうのではないか。マラソンどころの話ではないのはわかるが、このやり方ではいつまで経ってもレースの復活はないだろう。あ~、腹が立つ、腹が立つ。

PROFILE

山口一臣

1961年東京生まれ。ゴルフダイジェスト社を経て89年に朝日新聞社入社。週刊誌歴3誌27年。2005年11月から11年3月まで『週刊朝日』編集長。この間、テレビやラジオのコメンテーターなども務める。16年11月30日に朝日新聞社を退社。株式会社POWER NEWSを設立し、代表取締役。2010年のJALホノルルマラソン以来、フルマラソン20回完走! 自己ベストは3時間41分19秒(ネット)。

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