小川フミオのモーターカー

大きな車輪に低いノーズのミドシップカー シンプルに速そうに見えたデトマゾ・パンテーラ

名は体を表すなどというように、クルマでも時として、車名が強い“引き”を持つことがある。「パンテーラ」というなめらかな響きをもった、「デトマゾ(※)」のスーパーカーなんて、その典型ではないだろうか。そもそもパンテーラって、パンサー(ヒョウ)のイタリア語だし。意味を知れば、獰猛(どうもう)そうな感じもよく合っている。

(TOP写真:デトマゾ・パンテーラ。フェラーリやランボルギーニより買いやすかったのも人気の理由)

デトマゾ・パンテーラは、アルゼンチン出身の自動車人アレハンドロ・デトマゾが、イタリアの自動車の都モデナを本拠として作りだした、大排気量エンジンのスポーツカーだ。

※日本では「デトマソ」と書かれることが多いが、本連載では「デトマゾ」と記載する

500馬力を超えるパワーを誇ったレース仕様の「GT4」をベースに市街地で乗れるように仕立てた「GT5」(1980年)

500馬力を超えるパワーを誇ったレース仕様の「GT4」をベースに市街地で乗れるように仕立てた「GT5」(1980年)

開発の背後には、米フォードが控えていた。日本でも2020年に公開されて自動車好きにウケた映画「フォードvsフェラーリ」の“主人公”になったフォードGTでスポーツカーも作れるメーカーというイメージを獲得したフォード・モーターカンパニーが、ライバルのシボレー・コーベットに真っ向から勝負する目的で、デトマゾに出資したのだった。

私が、この1970年に発売されたパンテーラを好きだったのは、わかりやすいかたちゆえだったと思う。子どもにとって、フェラーリやランボルギーニ、あるいはコーベットと比して、大きな車輪に低いノーズ、そしてハイデッキ(キャビン後ろの部分が厚い)によるウェッジシェイプと、パンテーラのスタイリングは、まったく負けていなかった。

シルエットが美しい初期のパンテーラ

シルエットが美しい初期のパンテーラ

カロッツェリア・ギアというイタリアのカロッツェリア(車体製作会社)に在籍した米国人デザイナー、トム・ジャーダの手になるスタイリングは、複雑な曲線や、実験的なシルエットなど使っていない。シンプルに、速そうに見えた。それで、十分だったのだ。

300馬力のフォード製5.8リッターV8エンジンをミドシップ。当時のイタリア製スポーツカーのような鋼管で組んだシャシーでなく、モノコック。サスペンションシステムを含めて、設計を担当したのは、ランボルギーニから引き抜いたジャン・パオロ・ダラーラだ。スーパースポーツの最小公倍数みたいなクルマ、といってもいいだろうか。

フォード本社前で撮影されたアレハンドロ・デトマゾ(1928~2003年)のポートレート

フォード本社前で撮影されたアレハンドロ・デトマゾ(1928~2003年)のポートレート

もともとレーシングドライバーだったデトマゾの夢は、F1での活躍だ。そのためフェラーリにならって、量産車を売り、モータースポーツの活動資金を稼ぐのがビジネススキームである。パンテーラも最初はうまくいくかにみえた。実際に70年にデトマゾのチームは「505/38」なるマシンでF1に参戦している。

一方、フォードの目論見(もくろみ)は、パンテーラをリンカーンおよびマーキュリーのディーラーで販売するというものだった。しかし73年に、第1次石油ショックと大気浄化法改正法のマスキー法により、米国で自動車の排ガス規制が実施。フォードはその時点で、パンテーラ・プロジェクトに興味を失い、ドル箱と見込んでいた北米市場から、デトマゾはパンテーラを引き上げる羽目に陥ったのだった。

パンテーラは最後までほとんど手作業で組み立てられていた

パンテーラは最後までほとんど手作業で組み立てられていた

欧州では販売が続けられ、時代に応じて、エンジン出力が上がったり、大きなエアロパーツを装着したりして、93年まで生産された。かなりの長寿である。80年代には周囲のクルマがどんどん高性能化するなかで、生きた化石みたいになった。

デトマゾは、F1のほかにも、76年から93年はマセラティを傘下に収め(この時期にいまもファンが少なくない「ビトゥルボ」などが発売された)、またほぼ同時期の73年から2000年には二輪ブランドのモトグッツィも、デトマゾグループ傘下に収まっていた(こちらは大したモデルが出ていない)。

スタイリングは米国人トム・ジャーダ(写真)が担当

スタイリングは米国人トム・ジャーダ(写真)が担当

モデナでは、アレハンドロ・デトマゾは「カナルグランデ」という大きなホテルに住んでいた。というか、ホテル自体を買収して、一時期はオーナーだった。つまり、ホテルのかたちをした自宅。グランドホテルだが、陰気な感じもあり、幽霊が出ると地元の人が私に教えてくれた日は暗い曇天で……。それをつい思い出してしまう。

いや、でも、デトマゾは熱い男だった。デトマゾがいなかったら、パンテーラに限らず、魅力的なスポーツカーは生まれなかったろう。マセラティも消滅していたかもしれない。そんなあれやこれやが、デトマゾという夢追い人のイメージと重なる。いつまでも応援したくなる存在であった。

(写真=DE TOMASO AUTOMOBILI提供)

【スペックス】
車名 デトマゾ・パンテーラL
全長×全幅×全高 4270×1730×1100mm
5769ccV型8気筒 ミドシップ後輪駆動
最高出力 300ps@5400rpm
最大トルク 45.0kgm@3500rpm

PROFILE

小川フミオ

クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。新車の試乗記をはじめ、クルマの世界をいろいろな角度から取り上げた記事を、専門誌、一般誌、そしてウェブに寄稿中。趣味としては、どちらかというとクラシックなクルマが好み。1年に1台買い替えても、生きている間に好きなクルマすべてに乗れない……のが悩み(笑)。

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