小川フミオのモーターカー

胴長ボディーの個性的デザイン二輪 ダックスホンダ

ホンダの二輪といえば、レース。例えば、2021年は早くもダカールラリーでワンツーフィニッシュを飾ったのが記憶に新しい。20年のモトGP(FIMロードレース世界選手権)は振るわなかったものの、21年も参戦するとのことで、期待したい。

(TOP写真:1969年登場のダックスホンダST50)

そして、ホンダの二輪でもう一つ思い浮かぶのが、ユニークなコンセプトの市販車の数々だ。代表的なものが、1969年発売の「ダックスホンダ」。燃料タンクをボディーパネルのなかに隠してしまった胴長の個性的なデザインだ。

ダックスホンダが出た当時は、二輪は、今では想像できないぐらい、日本社会に根づいていた。若者といえば二輪。排気量が大きく、流線形のような燃料タンクと、クロームメッキが輝くエンジンとマフラーをもったモデルには、誰もが憧れた。ところがダックスホンダは、逆方向のレジャー志向。スズキのVanVanほどではないにせよ、砂漠などを走るファンバイクのイメージをタウンバイクに持ちこんだ企画モノである。本物志向ではないものの、愛玩犬ダックスフントのイメージで、ふんわりとうまく包み込んだ。

ダックスホンダのエンジンは単気筒SOHC4サイクルで、ロータリー式の4段変速機の組み合わせ。これはホンダの「スーパーカブ」と基本的に同じである。49ccの「ST50」と、輸出もされた72ccの「ST70」の2本立てのラインナップだ。

69年のST50の輸出モデルはマフラーの位置が違う

69年のST50の輸出モデルはマフラーの位置が違う

ダックスホンダで注目すべき点は、二輪車を生活のなかに溶け込ませようとした商品コンセプトだと思う。速度を楽しむための道具でなく、言ってみればエンジンを載せた二輪の乗りもの、と商品の考え方が新しかった。

面白いのは、ダックスホンダと同じ69年には、スーパーバイク「ホンダCB750FOUR」が登場している。少年たちだって、人気マンガ「ワイルドセブン」で主人公の飛葉大陸が乗るこのマシンに憧れたものだ。石油ショックもまだなく、高度成長期にふさわしいといえる高性能車である。

そこにあって、ダックスホンダのアピールポイントは余暇。実際に「レジャーバイク」を標榜(ひょうぼう)していた。メーカーでは、「乗用車のトランクにも入るコンパクトサイズ」(当時の報道資料)を謳(うた)い、折りたたみ式ハンドルを採用するなど、四輪車とともに使うことが提案されていた。現在のマーケティングの概念でいうと、今まで知らなかった楽しさを提案するライフスタイル商品である。

マイナーチェンジを繰り返したダックスホンダの78年モデル

マイナーチェンジを繰り返したダックスホンダの78年モデル

ホンダのいいところは、このアイデアをダックスホンダ(と、その前に発表したモンキー)だけで終わらせなかったことだ。“四輪プラス二輪”というコンセプトを温めつづけ、1981年の初代「シティ」登場時に、小さな荷室に収めることが出来る49cc単気筒エンジンの「モトコンポ」として、また実現させた。

モトコンポは小さすぎて乗りにくかった。一方、ダックスホンダは、ちゃんとした二輪車だった。アイデア倒れになっていない。折りたたみが前提ということもあってか、なんとなくハンドルなど剛性感が足りない気がしたものの、クッションの厚いシートといい、街中を楽チンに乗り回せるモデルだった。

欧米でもそれなりに人気があったというのもうなずけた。欧米のモノマネでない独自のデザインコンセプトが評価されたのだなあと、ホンダの関係者でない私でも、当時なんだかうれしかったものだ。

73年に登場したバリエーションの「ノーティダックス」

73年に登場したバリエーションの「ノーティダックス」

モトクロッサー風の「マイティダックスST90」(73年)や「ノーティダックスホンダCY50」(74年)は、アレンジとして面白かった。でも、79年にハーレーダビッドソンふうのエアクリーナーボックスにアップハンドルをそなえたアメリカンスタイルのダックスホンダを登場させたのは、やりすぎ。デザインポリシーよりマーケティングが勝ってしまったようで、少し失望した。

78年モデルはアップマフラーが採用されている

78年モデルはアップマフラーが採用されている

ダックスホンダは81年まで生産されたのち、95年にバッテリーを6ボルトから12ボルトにするなど、各所をモダナイズして「ホンダ・ダックス」として復活した。99年まで作られ、当時の若い世代がこのマシンを好感をもって受け入れた。聞けば、オートバイらしくないところがよいなどと言っていた。生活に溶け込む、いいプロダクトだったということだ。

95年に復活した最終型

95年に復活した最終型

(写真=ホンダ提供)

【スペックス】
車名 ダックスホンダST50
全長×全幅×全高 1565×630×960mm
49cc単気筒 後輪駆動
最高出力 4.5ps@9000rpm
最大トルク 0.37kgm@8000rpm

PROFILE

小川フミオ

クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。新車の試乗記をはじめ、クルマの世界をいろいろな角度から取り上げた記事を、専門誌、一般誌、そしてウェブに寄稿中。趣味としては、どちらかというとクラシックなクルマが好み。1年に1台買い替えても、生きている間に好きなクルマすべてに乗れない……のが悩み(笑)。

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