キネマの誘惑

若葉竜也「人間のにおいがするものに心が動くし、共感する」 映画『街の上で』

スクリーンの中で圧倒的な人間味をにおわせ、一度見たら忘れられない余韻を残す俳優がいる。映画『葛城事件』『愛がなんだ』、2020年は公開作が5作に加え、連続テレビ小説『おちょやん』にも出演していた若葉竜也さんだ。若葉さんが初主演を果たした映画『街の上で』が公開される。下北沢に住む一人の若者の日常を描いた物語で、古着屋で働く主人公・荒川青(あお)を演じている。自ら「自信作です」と語った本作への思い、30代を迎えた今俳優として思うことを聞いた。

【動画】若葉竜也さんインタビュー「惹(ひ)かれる人のタイプは……」

根底にあるのは人間の普遍的な多面性。それがより強く出ている役

下北沢の古着屋で働く主人公・荒川青は、ライブを見たり、古本屋や飲み屋に行ったりと、下北ライフを満喫する若者。恋人に振られたばかりで、1人で行動することが主だ。ある日、古着屋を訪れた美大生に誘われ、自主映画に出演することに。その過程で出会う女性たちとの交流、下北沢に住む人々との巡り合いを描いた物語だ。荒川青という人物をどう受け止め、どう演じようと思ったのか。

「どの映画をやる時もそうですが『この役はこういう人物です』とキャラクター化したくないという意識があります。安易にキャラクター化してしまうことで人間的なにおいが消えていくような気がしていて。どんな役も、根底にあるのは人間ということは念頭に置いています。あえてあげるなら、青は人間の多面的なところがより強く出ている役で、その純度が高い気がします。青に共感するとしたら、さみしさですね。さみしさは人間が持つ永遠のテーマでもあると思うし、人を犯罪に走らせることもあるほどの大きな感情で、人間が逃れられないものだと思っています」

若葉竜也さん演じる、主人公の荒川青 (C)「街の上で」フィルムパートナーズ

若葉竜也さん演じる、主人公の荒川青 (C)「街の上で」フィルムパートナーズ

荒川青の日常を切り取るドキュメンタリーのような映像が心地よく、役者それぞれが自然でフラットに映っている姿が印象的だ。ふわりと放たれた言葉は空気となじみ、セリフではないように感じるほどだ。

「僕に関しては、ほとんど台本通りしか言っていないです。アドリブはほとんど入れていないですね。セリフを覚えて現場に行く、あとは現場に入って、役者が動いて、それに(演技を)返していくだけ。普段から役作りというのをしていなくて、そもそも何が役作りかというのも分かっていなくて(笑)。どんなシーンでも、その人の話を聞く、その人に何かを伝えることだけだと思うんです。特にこの映画は、それをフラットに、新鮮にやりたかったという意識がありました」

青のまわりに現れる4人の女性

青のまわりに現れる4人の女性。左から自主映画の監督・高橋町子(萩原みのりさん)、古本屋の店員・田辺冬子(古川琴音さん)、青の恋人・川瀬雪(穂志もえかさん)、映画の衣装スタッフ・城定イハ(中田青渚さん) (C)「街の上で」フィルムパートナーズ

青のまわりに現れる4人の女性との交流。恋人役に穂志もえかさん、古本屋の店員役に古川琴音さん、自主映画の監督役に萩原みのりさん。つかず離れず、絶妙な距離を保つ人間模様が興味深い。特に、映画の衣装スタッフ役を演じる中田青渚さんとのシーンは、女性目線で言えば“胸キュン”シーンに見えたが、本人はそうでもなさそう。

「青自身で言えば、中田さん演じるイハとのシーンが一番フラットにしゃべれていた気がします。一番温度が近い人同士だったのかな。ただ僕自身は、恋バナの長話を初対面で家に行った相手と、あんな風に盛り上がるというのはないですね。照れくさいですし。20代前半ならあるかもしれないけど、僕は30過ぎてるんで(笑)。30代にもなると、色々ありますから(笑)」

「人は多面的で、色々な顔がある。僕もそう」と語る若葉竜也さん

「人は多面的で、色々な顔がある。僕もそう」と語る若葉竜也さん

ギターの弾き語りを披露「音楽は映画の中でだけ。俳優は俳優だけでいい」

人間同士がすれ違ったり出会ったり。脚本には、今泉力哉監督らしいユーモアと笑いが隅々まで詰まっている。演じる側として、最もお気に入りのシーンを聞いてみた。

「下北沢の劇場『ザ・スズナリ』の前で、漫画家コンビのルノアール兄弟の左近(洋一郎)さん演じる警察官に絡まれるシーンがとてつもなく好きです。あのシーンだけで、40分くらい見られますね。僕は撮影現場で身内笑いみたいなことがほとんどないんですけど、あのシーンは10年ぶりくらいに本番中に噴き出しそうになりましたね(笑)。ルノアール兄弟は僕が一方的に好きな漫画家で初めてお会いしたんですけど、言語化できない面白さがある方でしたね」

警察官役で登場する、ルノアール兄弟の左近洋一郎さん

警察官役で登場する、ルノアール兄弟の左近洋一郎さん (C)「街の上で」フィルムパートナーズ

劇中では、青がとある曲を披露している。若葉さんの柔らかな声と優しいメロディーがとても心地いい曲だ。

「あれは今泉さんが学生時代に作詞作曲した曲なんです。この映画の衣装合わせの日に『アカペラでしか歌えないんだけど』って、今泉さんが歌っているのを携帯に吹き込んで、そこからコードをつけていきました。むちゃ振りですよね(笑)。ギターは中学時代からやっていて、バンドを組んだりもしていたのである程度はできました。取材で『曲をフルで聴きたいんです』って言われるんですけど、あのフレーズだけなんですよね。でも、これだけは強く言っておきますけど、映画以外ではあんなことをやらないので(笑)。音楽を出したりは、絶対ないです。個人的に、あまりかっこよくないと思っていて。俳優は俳優だけやっていればいいと思っています」

簡単に泣く、映画の登場人物に違和感「人間のにおいがするものに心が動く」

『愛がなんだ』、今年2月に公開された『あの頃。』、そして本作『街の上で』。今泉力哉監督の作品を通じて、若葉さんの存在を知った人も少なくはないはず。若葉さんにとって、監督はどんな存在だろうか。

「例えば『愛がなんだ』でナカハラが演じたコンビニ前のシーンでいえば、ストレートにやるとボロボロ号泣しながらっていうアプローチができたと思うんです。でも、それを昔からやりたくなくて。もうちょっと人間の深い部分を見せたい。いききっちゃったり、涙を流したりは簡単なんです。人前で泣ける人って、僕には強く見えるんですよね。人前で簡単に怒れる人も同じで強く見える。弱い人って、人前じゃ必死に涙をこらえるし、怒りたくても怒り方が分からないという人が大半なんですよね。

でも映画の登場人物は、簡単に泣いたり、怒って叫んだり、人と触れ合ったりしていて。僕は映画館でそれを見れば見るほど、冷めていってたタイプでした。10代の時からずっと、そんな直線的ではないことをやりたいと思っていたんですけど、『もっと分かりやすく』と演出が入ったこともあって。分かるんです、ストレートにやった方が分かりやすいし、監督が言うんだったらそれが正しいとも思う。でも、僕自身はずっと違和感がありました。そこを今泉さんは『そうだよね、そんな簡単に人って泣けないよね』と、すくい取ってくれて。

『愛がなんだ』がたくさんの人に受け入れてもらえたこと、心が動いたと言ってもらえたことが、僕自身にとって大きかったし、すごくうれしかったんです。人間のにおいがするものの方が心が動くし、共感する。それを理解してくれた人なので、大きな出会いだったと思っています。今泉さんはどう思っているか分からないけれど、僕にとってこの『街の上で』は、集大成のような映画です」

(C)「街の上で」フィルムパートナーズ

(C)「街の上で」フィルムパートナーズ

「ダメな仕事をしたら仕事がなくなる」俳優としての覚悟

柔らかい物腰と優しいしゃべり口。それに反して強く感じるのが、俳優としての揺るぎない覚悟だ。

「僕は、俳優を部活みたいにやっていなくて、趣味とか、ただ好きだからやっているという意識は全くありません。それ以上のところでやっていたいんです。そうしないと飯が食えなくなって死んじゃうから(笑)。ダメな仕事したら、仕事がなくなる意識は常にあります。切実ですよ。例えば現場で、あまり何も言わないですけど、監督に何かを言ったり、例えばそれで喧嘩(けんか)になったりする時には、『この人の作品にもう呼ばれない』と思って言っています。『この前はこんなこと言ったけど、また仲良く一緒にやろうよ』っていう感覚は全くなくて。言うからには、二度と出られない、嫌われてもいいやと思って言っています。それぐらいの思いをもって監督に訴える時はありますね」

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現在31歳の若葉さん。話題作への出演も増え、30代を迎えた今、どんな心境で俳優という仕事に向かっているのか。

「抱負とか、こんな俳優になりたいというのもないし、俳優としてトップランナーになりたいという意識も全くないです。今まで通り、ちゃんとご飯を食べられるように仕事ができたらいいなと、そこが一番のテーマでもあります。ただ、コロナで世界中がこんな状況になり、エンタメや娯楽映画、それらを含めた芸術のあり方が様変わりしているなと感じています。映画が淘汰(とうた)されても困らない人がいて、もっときつい状況にある人がいると思います。だからこそ、映画が余裕を作るための娯楽になっていかなくてはいけない。『毎日きついな』とか、日常が嫌になった人が逃げ込める、最後の場所になってほしいという意識はあります。これは上から目線ではなくて、僕の切実な思いです。今一度立ち返って、娯楽のあり方について、日本の俳優、これから俳優を目指す人も含めて、考えなくてはいけないと思っています」

(文・武田由紀子/写真・和田咲子/動画・高橋敦)

『街の上で』作品情報

キャスト:若葉竜也 穂志もえか 古川琴音 萩原みのり 中田青渚 成田凌(友情出演)
監督:今泉力哉
脚本:今泉力哉 大橋裕之
音楽:入江陽
主題歌:ラッキーオールドサン「街の人」(NEW FOLK / Mastard Records)
製作:遠藤日登思 K.K.リバース 坂本麻衣
プロデューサー:髭野純 諸田創
制作プロダクション:コギトワークス
特別協力:下北沢映画祭実行委員会/下北沢商店連合会
製作幹事:アミューズ
配給:「街の上で」フィルムパートナーズ
配給協力:SPOTTED PRODUCTIONS
2019/日本/カラー/130分/ヨーロピアン・ビスタ/モノラル
(C)「街の上で」フィルムパートナーズ
2021年4月9日(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
公式サイト:https://machinouede.com/

PROFILE

  • 「キネマの誘惑」ライター陣

    奈々村久生、西森路代、阿部裕華、武田由紀子、石川智也

  • 武田由紀子

    編集者・ライター。1978年、富山県生まれ。出版社や編集プロダクション、WEBメディア運営を経てフリーに。女性誌や親子雑誌、ブランドカタログの編集・ライティングほか、映画のインタビューやコラム執筆を行う。映画館で好きな席は、中央より少し後ろの端の席

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