小川フミオのモーターカー

デジタル技術をふんだんに使い新しさをアピール 新型メルセデス・ベンツSクラスに試乗

世のなか、SUVが流行(はや)っていても、多くの自動車メーカーでは、頂点はセダンと位置づけている。ロールスロイスやベントレーはさておき、トップクラスのセダンといえば、メルセデス・ベンツSクラス。2021年1月に発売された新型は、性能もさることながら、“もてなし”がすごいのだ。

【TOP写真:精悍(せいかん)な印象が強くなった=メルセデス・ベンツ日本提供】

1972年に初代が発売されたSクラス。これまで名声を支えてきたのは、操縦安定性と高品質に負うところが大きい。そこにあって今回の7代目は、デジタル技術をふんだんに使って、新しさを強くアピール。競合と一線を画しているといってもいい。トップクラスのセダンの新しいあり方を追求しているところが、注目に値する。

サイドウィンドーの輪郭などメルセデス・ベンツの従来のデザインが守られている(写真は「S500」=メルセデス・ベンツ日本提供)

サイドウィンドーの輪郭などメルセデス・ベンツの従来のデザインが守られている(写真は「S500」=メルセデス・ベンツ日本提供)

ひとつは後席の使い勝手。「ロング」とついた3215ミリのロングホイールベース(標準モデルでも3105ミリ)を持つモデルでは、「コンフォートパッケージ」を選ぶと、助手席後ろのシートがボタン一つで43.5度もリクラインする機能がついてくる。ほとんど水平に近く、10年ほど前の航空機のビジネスクラスなみだ。

居心地のいいリアシート(写真は「S500 4MATICロング」)

居心地のいいリアシート(写真は「S500 4MATICロング」)

ヘッドレストにはオプションで「ラグジュアリーヘッドレスト」というソフトパッド装着タイプを選択することができる。まるで羽毛まくらに頭をうずめているような感覚だ。シートが倒れると同時に、サイドウィンドーのブラインドがするすると上がり日よけになる。目的地まで安眠も可能だろう。私は台場から六本木の短い区間で試して、すぐに眠たくなってしまった。

ふかふかのコンフォートヘッドレストはオプション

ふかふかのコンフォートヘッドレストはオプション

乗る人へのもてなしという点では、デジタル技術を使った「メルセデス・ベンツ・ユーザーエクスペリエンス(MBUX)」の機能が、従来型より向上しているところが特筆点だ。至る所に、Sクラスならではの“仕掛け”が施されている。

このMBUXの最大の特徴は、すでにご存じの読者もいらっしゃる通り、「ハイ、メルセデス」と言うと、車載AIが起動する対話型コマンドシステムにある。従来型でも搭載されていたものの、今回は、前後左右どこでも、AIがコマンドが発せられた席を特定し、そこからのコマンドを実行する。ここが新しい。

たとえば後席左側に座っていて「ハイ、メルセデス、シートヒーターつけて」と言えば、場所を聞き分けて、的確にその席のシートヒーター(だけ)を起動する、という具合なのだ。

ステアリングホイールはグリップ径が太くなるとともにデザインがクリーンになった

ステアリングホイールはグリップ径が太くなるとともにデザインがクリーンになった

ヘッドレストクッションには膜ヒーターが仕込まれ、乗員の頭や首を温める機能も盛り込まれた。「人間工学を考慮し、心地よく、疲労しにくい」設計と謳(うた)われるシートでは乗員の座り方に応じて、クッションを自動で調節して乗車姿勢をサポートする「エナジャイジングシートキネティクス」も組み込まれている。

照明や香りも、快適性のために重要と考えるメルセデス・ベンツでは、パフュームアトマイザー(車載のフレグランス)、音楽に合わせてシートにバイブレーションを送る「エキサイター」も搭載、そして、室内照明をさまざまな色調に変えられる「アンビエントライト」に使うLEDの数は従来の40個から263個(標準ボディーでは247個)に。室内の明るさも従来の10倍になったそうだ。

特に私が感心してしまったのは、「ハイ、メルセデス」と呼びかけて音声入力を行っているシートを、この光源が照らすこと。利便性を高めるとともに、ドライバーのコマンドに対してクルマが即座に反応していることを示すことで、新しい形のコミュニケーションを成立させているのだ。

ダッシュボードの造形はクリーン

ダッシュボードの造形はクリーン

ドライバーにとっても、MBUXによる仕掛けは多い。最たるものは、AR(拡張現実)技術を組み込んだナビゲーションシステムである。ナビに方向案内を指示している際、交差点などでは、12.8インチの大型モニターにはカメラによる前方の映像とともに、進むべき方向を指し示す矢印が現れるのだ。矢印はアニメーションで動き、なるべくドライバーがスムーズに正確な進路をとれるよう案内してくれる。

大型液晶モニターで多くの操作が可能

大型液晶モニターで多くの操作が可能

さらに、このナビゲーションシステムは、一部のコマンドを指の動きだけで指示できる「MBUXインテリアアシスタント」と連動する。車載カメラがドライバーの方に向けられていて、左手の人さし指と中指でV字を作ってセンターコンソールに差し出すと、それが“自宅へのルート案内を開始する”機能の起動コマンドになる、といった具合だ。

ARナビでは矢印がアニメーションのように動いて進路方向を指示する

ARナビでは矢印がアニメーションのように動いて進路方向を指示する

「ジェスチャーコントロール」で何を動かすかは、ドライバーが登録できる。さらに指の動きに反応して、スライディングルーフの開閉や、読書灯の点灯も。暗い所では、ドライバーが助手席の方に手を差し伸べると、そこのスポット照明が点灯する。

また目の動きも追っていて、ドアマウンテッドミラーの角度調整時には、右側なのか左側なのか、ドライバーの目線でクルマが判断する。リアウィンドーにもブラインドが装着されていて、プライバシーが欲しいときや眩(まぶ)しいときに閉められる一方、ドライバーが後退時に後ろを振り返ると、それを検知した車両が電動ブラインドを下げてくれる機能も。

こういうユーザーエクスペリエンスは今、高級車メーカーが大いに注目している機能だ。乗る人を満足させることが大変重要と、さまざまな機能を盛り込むことに心を砕いているのだ。Sクラスでは、もうひとつ、キーをもったドライバーが駐車車両から一定の距離内に近づくと、照明が灯(とも)り、ドアロックが解除され、ドアハンドルが電動でポップアップする機能もある。これも結構喜ばれるようだ。

Sクラスとして初めて格納式ドアハンドルが採用された

Sクラスとして初めて格納式ドアハンドルが採用された

乗ってはどうか。Sクラスの名声の裏付けとなった走行性能の高さには、磨きがかかっている。私が乗ったのは、「S400d 4MATIC」。2924cc直列6気筒ディーゼルエンジンにフルタイム4WDシステムを組み合わせたモデルだ。

2996cc直6ガソリンエンジン(ディーゼルとは排気量も違う)を、80ミリ長いボディーに載せた「S560 4MATICロング」も乗ったものの、自分で運転する人には、「S400d 4MATIC」はかなり魅力的だと思う。

後輪操舵(そうだ)システム搭載できついカーブや狭い道での取り回しが向上

後輪操舵(そうだ)システム搭載できついカーブや狭い道での取り回しが向上

いわゆるディーゼルとは思えない洗練ぶりがすごい。特有のノック音も振動もほぼ聞こえてこない。同時に、低回転域から大きなトルクを出すディーゼルの美点はそのままに(700Nmの最大トルクを1200~3200rpmで)、意外なほど軽快に回る。2000rpmも回せば十分。さらに、3000rpmから上までしゅんっと回るときの加速感も味わえる。そこも大きな魅力なのだ。

操舵支援やブレーキ支援など運転支援システムも機能強化

操舵支援やブレーキ支援など運転支援システムも機能強化

(写真=筆者)

【スペックス】
車名 メルセデス・ベンツS400d 4MATIC
全長×全幅×全高 5210x1930x1505mm
2924cc直列6気筒ディーゼル 全輪駆動
最高出力 243kW@3600~4200rpm
最大トルク 700Nm@1200~3200rpm
価格 1293万円

PROFILE

小川フミオ

クルマ雑誌の編集長を経て、フリーランスとして活躍中。新車の試乗記をはじめ、クルマの世界をいろいろな角度から取り上げた記事を、専門誌、一般誌、そしてウェブに寄稿中。趣味としては、どちらかというとクラシックなクルマが好み。1年に1台買い替えても、生きている間に好きなクルマすべてに乗れない……のが悩み(笑)。

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