女子アスリート応援団

素潜りで水深100メートルの海の底へ フリーダイビング・廣瀬花子さん

  • 2017年4月25日

フリーダイビング・廣瀬花子さん

  • 廣瀬さんは金髪がトレードマーク。「もう長いことずっと金髪です」

  • 今年から日本フリーダイビング協会の理事になった廣瀬さん。競技の普及活動に力を入れる一方、競技者としてはスポンサーを募る予定

  • 桜の季節は毎年海外で大きな大会があるため、ゆっくりお花見を楽しめない。「でも今年はこの取材のおかげで満開の桜を見られたのでラッキーでした」

[PR]

 すうっと息をめいっぱい吸い込んで海中へ。人魚の尾のような大きな足ひれ「モノフィン」で水をけりながら垂直に、深く深く潜っていく。その深さは99メートル。空気ボンベなしの素潜りで、どれだけ深く潜れるかを競う「コンスタントウェイト・ウィズフィン(CWT)」で、フリーダイバーの廣瀬花子さんが2016年に出した日本新記録だ。世界記録は101メートル。あとほんの少しで手が届く。

廣瀬花子さんの写真特集

 フリーダイビングには、海で行うCWTのほか、プールで平行潜水のままどれだけの距離を泳げるか競うダイナミック・ウィズフィン(DYN)を含め、全部で8種目がある。廣瀬さんは昨年、得意なCWT以外にも、DYNで197メートル、水面に浮いた状態で息止めの長さを競うスタティックアプネア(STA)でも7分3秒と、次々と日本女子記録を塗り替え、3種目で頂点に立った。

柔らかな肺と、恐怖心の無さが強み

 2007年、20歳の頃からダイビングインストラクターとして働く傍ら国内外の大会に出ては結果を積み上げ、2009年に日本代表に選出された。以来8年、代表として2年に一度行われる世界選手権の団体戦(3人一組。CWT、DYN、STAの3種目を全員が行い、その合計得点を競う)でもチームの要として奮闘し、過去3回の優勝を経験している。

 彼女の強みは、肺や胸部の筋肉の柔軟性にある。同年代の女性の平均的な肺活量は2700mlほどだが、廣瀬さんは6000ml。「水圧の変化に耐えるためには胸部の柔軟性を高める必要があるんですが、海洋での練習で目いっぱい胸部を膨らませる、へこませるを繰り返しているうちに、自然と風船のような収縮性のある肺に変わっていきました。ただ、頻繁に海に潜ることはできないので、普段からストレッチをしたり、プールで潜水練習を行ったりすることで、柔軟性をキープするようにしています」

 「海が怖くない」ということも大きなアドバンテージだ。CWTは、事前に「ここまでなら潜れる」と申告した長さまでつり下げられたロープに沿って、たった1人で何十メートルも潜っていく。光が届かないためだんだんと視界は暗くなり、水温も下がる。100メートルも潜れば地上の11倍の圧力でおなかと背中はくっつきそうになるほど。ベテランでさえ戻ってくるまでに酸欠で失神する可能性はゼロではない。だからこそダイバーは多少の不安や緊張を抱えて挑むわけだが、廣瀬さんは「不思議と、怖さを感じたことはないんです。危険な目に遭ったことも一度もないし……」とふわっと笑う。「子どものころから夏がくるたび父の実家がある御蔵島で素潜りを繰り返してきました。私にとって海は、いつだって楽しくて大好きな場所。だから恐怖心を抱かないのかもしれません」

まどろむような一瞬が恋しくて

 選手それぞれのウェートによって異なるが、廣瀬さんの場合はウェットスーツや肺の浮力にあらがうためにフィンをくねらせるのは水深50メートルほどのところまで。そこから先は浮力を感じなくなり、何もしなくてもすーっと海底へ引っ張られていく。その時の感覚は、例えて言うなら「眠りに落ちる寸前の気持ちよさ」。「99メートルだと往復で3分半ほどですが、競技中だということも忘れるくらい心地いい。体と意識が海と一体化して、溶けていくような感覚が忘れられないから、何度も潜りたくなっちゃう」

 着々と記録を伸ばす彼女の前には、CWTで101メートル、DYNで237メートル、STAで9分2秒の世界記録を持つロシアのモンスター、ナタリア・モルチャノワ選手がいる。2015年夏に海で行方不明になってしまったが、50歳を過ぎても現役で記録を更新し続けてきた。「彼女の記録は偉大ですが、まずは4月30日から行われるバハマの国際大会でCWTの世界記録を狙っています。わずか2メートルですけど、水中と陸上の2メートルは全然違う。水の中では1メートル超えるごとに未知の世界なんです。自分がまだ知らない景色を見るために、これからも挑戦を続けていくつもりです」

(文・渡部麻衣子、写真・渡徳博)

    ◇

廣瀬花子(ひろせ・はなこ) フリーダイバー。1986年7月生まれ。千葉県出身。水中モデルとしても活動している。

 海外で大会があるときは、日本からの参加者と手分けして食材を持っていく。「うどんとかしょうゆとか、みそとか。自分たちのためにも作るし、海外の選手たちと料理を持ち寄ってパーティーをすることもあるので。よくリクエストされるのはロールずしです。魚は、得意の巣潜りでモリでついて捕ります。現地調達です」

>廣瀬花子さんの写真特集

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

今、あなたにオススメ(PR)

Pickup!