ツイッターを脅かす?学生が1人で立ち上げた新SNS「マストドン」

  • 文・ライター、ブロガー 堀 E.正岳
  • 2017年5月2日

「マストドン」とは、マンモスに似た絶滅した哺乳類。ポスト・ツイッターになるかどうか注目されている新型SNSの名として使われた(写真はマンモス、Aunt_Spray /iStock/gettyimages)

 ツイッターに似ている、でも仕組みや利用の広がりかたのまったく違う、新しいソーシャルネットワークサービス「マストドン」の人気が国内でも広がっている。

 使い方は、ツイッターが投稿できる文字数が140字なのに対してマストドンが500字である以外は、ほとんど変わらない。

 ユーザーはほかのユーザーを互いにフォローし、画像や動画をふくむ短文を投稿することで交流する。また、投稿をフォロワーに拡散するリツイートのような機能も「ブースト」という名称でそろっていて、機能としての違いはほとんどない。

 しかしこのマストドンが、いま古参のネットユーザーから若いクリエーター層にいたるまで、多くの人の注目を集めているのだ。

中心をもたない、分散型のSNS

 マストドンがツイッターと違うのは、ツイッターのように一つの企業、一つのサイトが提供するサービスではなく、誰でも立ち上げられる複数のサーバーで維持される「分散型」のソーシャルネットワークである点だ。

 マストドンはドイツ在住の24歳のエンジニア、オイゲン・ロッコ氏が立ち上げたプロジェクトだが、プログラムのソースコードは誰でも無料で利用可能で、改変・改良を加えてよい、オープンソースのライセンスで提供されている。

 つまり、多少の技術的バックグラウンドがあれば、誰でも自分の管理しているサーバー上でマストドンのコピーを運営することができるのだ。こうした、マストドンが運営されている一つ一つのサーバーのことを「インスタンス」という。

ゆるやかにつながった巨大なネットワークという新しい概念が魅力 [pixelfit/E+/gettyimages]

 日本でマストドンが注目されたのは、22歳の学生が自宅のパソコン上にマストドンのインスタンスを構築して公開したのが始まりだった。学生が1人で運営していることも、自宅の普通のパソコンで稼働していることも、多くの人が驚き、注目するきっかけとなった。

 それからたった1週間で、インスタンスを立ち上げる人が増え、イラスト投稿サイトPixivのPawoo(パウー)や、ニッポン放送のTunerといったように、企業でもインスタンスを立ち上げる動きが広がり、いまもなお加速している。

 マストドンの強みは、インスタンス同士の「連合」という仕組みにある。インスタンス同士はそれぞれのサーバーに独立して存在しているものの、互いの投稿を連合関係を通して共有し、ゆるやかにつながった巨大なネットワークを作れるのだ。

 ウェブ初期の掲示板のように自分のコミュニティーや友人たちを囲む独自のインスタンスをもちながらも、より広い世界とリアルタイムにつながることができるのが、マストドンの魅力となっている。

マストドンの中の風景

 実際にマストドンを使い始めると、どのような風景が見えるのだろうか?

 世界でも有数のユーザー登録数のインスタンス、mstdn.jpにアカウントを作ってみると、連合タイムラインという、連合関係にあるインスタンスすべての投稿が流れてゆく欄が目を引く。

 自由気ままなユーザーの投稿が目にもとまらない速さで流れてゆき、人によっては混乱していると受け取るかもしれない。

 しかし多くのユーザーは、ここに初期のツイッターのような居心地のよさを見いだしている。お互いに知らないユーザー同士が共通の話題で盛り上がる温かさがあるのだ。

 マストドンを始めるなら、まずはこの空気感になじむのがよい。どんな人が、どんな会話をしているのかを眺めて、インスタンスの雰囲気になじめそうだったら、どんどんと発言してフォロー・フォロワーを増やしてゆくと良いだろう。

公式WEBサイトには「あなたのやりとりが一つの会社によって独占されるのを防ぎます」との説明がある

国内のインスタンスが海外に拒否される事件も

 個人や企業がマストドンのインスタンスを立ち上げられるということは、既存のコミュニティーの受け皿にもなるということだ。

 企業として最速級でインスタンスを立ち上げたPixiv社のPawooがその例で、活発にイラストを投稿する同社のユーザーとそのファンたちが登録して、数日で世界有数のユーザー数のインスタンスに成長した。

 ところがここで、思わぬ事件が発生する。Pawoo内でユーザーが実験的な意味もふくめて投稿していたイラストに性的な表現が多数存在するとして、海外のインスタンスがPawooとの「連合」を拒否するという事件が発生したのだ。

 そうした画像の多くは、日本国内であれば問題のない表現で、もう少し踏み込んだ表現で投稿する場合にもマストドンには画像を伏せる機能がある。

 しかし、そうした投稿が届いた先の海外のインスタンスでは、習慣や法律が違う。日本では容認できる範囲の表現でも、海外では嫌悪感をもって受け止められたり、法律に抵触したりする場合もあるのだ。

 Pawooが海外から連合拒否された背景にはそうした文化の違いがあるともに、インスタンス同士が自治をみとめられている分散型ソーシャルネットワークゆえの特色がにじみでている。

 こうした事態を、イラストレーターは前向きに受け止めている。世界全体で見ればさまざまな基準があり、そのすべてに配慮していると表現が萎縮することになりかねない。実際、ツイッターでは最近、ライトな性的表現を行っているアカウントでも凍結された事例がいくつもあり、どこまでを容認すべきなのか、その判断を一企業に任せるべきかという議論があった。

 つまり、マストドンのように独立したソーシャルネットワークを作って管理できることは、表現者には適切なゾーニングとしても機能する可能性があるのだ。

 Pixiv社ではユーザーの表現を抑制することなく、海外との連合を可能にするガイドライン作りを始めた。海外インスタンスの管理者も参加しており、議論は始まったばかりだ。

キャンプファイアを囲む小ささへの回帰

「マストドン」は、従来のソーシャルネットワークに息苦しさを感じている人々の心をつかんだ [pixelfit / iStock Unreleased / gettyimages]

 個人でインスタンスを立ち上げる動きも広がっている。

 大勢のユーザーがいる大規模なインスタンスに比べれば、こちらはこぢんまりとした、趣味や興味を同じくする仲間が集まるキャンプファイアのような雰囲気がある。

 あるユーザーは、こうしたマストドンの居心地よさを、ツイッターが大きくなりすぎた結果だと評する。

 ユーザーが増え、企業や公的機関も利用するインフラの域に達しているツイッターには、災害時の情報拡散からドラマやスポーツの実況のような楽しみという役割がすでに確立している。

 しかしそうして広がりすぎた代償として、軽い気持ちの投稿が厳しい視点の第三者から糾弾されたり、ささいなイタズラが日本全体で「炎上」して厳しすぎる社会的な制裁になってしまったりといったように、気軽につぶやくことができない息苦しさを感じていたユーザーも多い。

 マストドンのインスタンスに理想的なユーザーの数はない。数千、数万人の場合もあれば、例えば特定の趣味だけで集まることも、地域、友人だけで立ち上げるのも自由なのだ。

 世界全体を覆うツイッターやFacebookのようなソーシャルネットワークと、友人同士だけでつながるLINEグループのような閉鎖された部屋との、ちょうど中間にマストドンは位置している。

 マストドンが一般に広まり、ツイッターのようにどこでも利用されるようになるかはまだまだ未知数だ。

 しかしツイッターの誕生からちょうど10年、常に拡大し、世界中をつなぐように広がっていたソーシャルネットワークが息苦しくなり、ユーザーが暖かいたき火を囲むような小さな規模のネットワークを求めていることも次第に明らかになってきた。

 マストドンをめぐる熱狂的な支持の広がりは、従来のソーシャルネットワークが変わってゆく、重要な転機となる可能性が高いのだ。

(文・ライター、ブロガー 堀 E. 正岳)

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<筆者紹介>
堀 E. 正岳
「人生を変える小さな習慣」をテーマとしたブログ、Lifehacking.jp 管理人として、仕事術、ライフハック、テクノロジー、文具、ソーシャルメディアなどについて執筆中。2011年アルファブロガー・アワード受賞。気候学者。理学博士。

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