「500年後に友達を作りたい」 美大を3か月で中退後、街を描き続ける20代女性アーティスト

  • 2017年12月19日

  

 人体や動物に擬態したかのような住宅の集合や、髪の毛やケーブルにも見える曲線が、複雑に絡まった抽象物を描く、現代アーティスト・石井七歩さん。その作品中に、繰り返し用いられるのが「街」。そして、「生物」だ。

2011年に発表した「IDEAL WORLD」より。街と曲線によって、軟体動物を思わせるような造形を構成。

「街は本来人の手によって人工的に作られたものですが、ある一定の時間が経過すると、まるで生物のような属性を持ち始めることも多い。特に東京は、街によって大きく表情が違います。それぞれの街が密かに持つ、生物的な特徴に思わず心を惹かれてしまうんですよね」

 そう語るのは、現代アーティストの石井七歩さん。そもそも街というテーマに石井さんがこだわる理由のひとつは、幼少期の経験がベースになっているという。

「バブル崩壊時の1991年から、東京都江戸川区の団地で育ちました。私が住んでいたのは、清心町というエリアだったのですが、埋め立て地で、古い文化が何もない。どこを見ても同じような白い集合住宅が並んでいるような、画一的な街だったのが非常に印象的で。そんな場所で幼少期を過ごしたからこそ、それぞれの街が持つ個性に心を奪われているのかもしれません」

2016年「IDEAL AVENUE(ブルーの町)」より。緻密で、生物学的なリズムを持つドローイングは、SNSでも拡散されており、海外にもファンが多いとか。

 石井さんは、現在26歳。その若さながら、これまでに世界的アーティストの村上隆氏のギャラリーへの出品をはじめ、数々の展示会に参加するという華々しい経歴を持つ。だが、その過去はいわゆる「王道」とは言えないものだった。

 16歳のときに芸術系の高校に進学するも、高校3年生の3学期に「どうしても、これ以上我慢できなくなって」高校を中退。その後、美大へと進学したが、1か月ほどで授業には出席しなくなったという。

「美大の最初の授業で、担当の先生に『デザインとアートの違いとは何か』という課題を出されたんです。その時に、クラスに40人くらいいたんですが、全員の回答を見た先生が『どれも全然違う』と。『アートは自分のために作るもの、デザインは人のために作るもの』と両者の定義を明確に言い切ったんですね。肝心の回答は忘れてしまったんですが、個人的には『アートって、そんな簡単に定義できるものじゃないんじゃないの?』と違和感を抱いて。そのときに、『この場所とは相性が悪い気がする』と1か月で学校に見切りをつけ、3~4か月後には退学してました」

 退学後は、独学で「街景」をモチーフとしたドローイングを制作。その処女作を、村上隆氏のギャラリーでの公募のグループ展に応募したところ、見事に通過。その後、堂島リバービエンナーレや、青森県立美術館、上野の森美術館などの展示会に参加するなど、アーティストとしての道を歩み出し、現在も、街や生物をテーマとした作品を、随時発表し続けている。

「街を観察するのはライフワークのひとつ」と語る石井さん。好奇心が高じて、実際に街を観察するために、街の人と交流するために、秋葉原のメイド喫茶や六本木のバーなどで働いた経験もある。アグレッシブで行動的なフィールドワークから社交的な性格なのかと思いきや、実は10代くらいまでは非常におとなしく、目立たない子どもだったという。

2016年の「TOKYO PERFECT WORLD 秋葉原」より。そのほかにも、青山や東京駅、浅草など、東京の有名都市を描いたドローイングを発表。

「学生時代、友達は多いほうではありませんでした。コミュニケーションも下手で、一般平均に比べると会話力がすごく低かったんです(笑)。それを克服するために、一度20代で創作活動は中断して、会話能力を高めるため、思い切って飛び込み営業をする会社に就職しました。会社側にはとても申し訳ないのですが、『社会にはどんな人がいるのか』を見るためのフィールドワークだなと思って」

 2年間ほど、「会話力の向上」のために正社員として働いた後、2013年頃からアート活動を再開。現在は、気になった街で働くというフィールドワークと並行して、随時作品を発表。SNS時代の現代アーティストとして、数々の展示会に出品を続けている。

 最後に、そんな石井さんが、作品作りを続ける理由を聞いた。

「世代や時間を越えて、誰かと心を通わせられるような作品を残せれば……と思いますね。私自身、300年前の人が残した作品に、同じ時代を生きている人の言葉よりも、親近感を抱くことも多いんです。それって、もはや友達以上の関係ですよね。仮に、今現在、誰にも理解してもらえなかったとしても、もしかしたら500年後に生きる誰かが私の作品に共感してくれるかもしれない。500年後にも私には友達がいる。そう思うと、いまを生きるのが寂しくないような気がします」

  

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プロフィール
石井七歩
1991年東京生まれ。現代美術家。2010年秋、パリの画家モーリス・ユトリロの展覧会を見たその日に、街景をモチーフとしたドローイングを描きはじめる。2010年冬、村上隆氏のギャラリー”Hidarizingaro“にて開催のグループ展へ参加。2011年春には堂島リバービエンナーレへ参加、その後の作品発表につながる。2012年、青森県立美術館にて美術館デビュー。2017年、25歳で東京・渋谷区に自身のアトリエ兼ギャラリー「Rerearealism」を構える。尊敬するアーティストは村上隆と草間彌生。公式サイトはhttp://nahoishii.com/

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