尾原和啓・対談

「チームのために頑張ろう!」と言わない青学・原監督の若者掌握術

  • IT評論家・尾原和啓
  • 2018年1月4日

  

 AIが人間を超えていく時代における幸福とは、何か? IT評論家・尾原和啓が、“地方の若者”を切り口に、あらゆる業界のプロフェッショナルをお迎えし、議論します。今回のお相手は博報堂ブランドデザイン若者生活研究所リーダーであり、若者研究の第一人者でもある原田曜平(はらだ・ようへい)さんです。

 

尾原 原田さんは、若者の動きや世相を「マイルドヤンキー」や「さとり世代」など、誰にでもわかりやすい言葉で名付けることで、社会の中に眠っている文脈を掘り起こし、再構築する作業をやってこられた。例えば「パリピ(パーティーピープルの略)」の場合、古来からのお祭り文化がコミュニティーの意識から薄れつつあるなか、若者の祭りという“ハレの文脈”を作ることで、一つの市場が生み出されました。

 僕も先日、AIによる時代の変化という視点から、現代の若者を解体する『モチベーション革命 稼ぐために働きたくない世代の解体書』という本を出版しました。簡単にいうと、今の若い世代は生まれた時からスマホで何でも見られて、安くておいしいご飯も食べられて、身の回りには便利なものがなんでもそろっている、“ないものがない世代”。そのため、上の世代が「業績を上げれば美女とワインで乾杯できるぞ」とあおったところで、「いや、友達と安いレストランのワインでなごみたいっすわ」というのが本音。

 そもそも社会に埋めるべき空白がないのだから、上の世代と同じモチベーションでは頑張れない。特に若い世代にとって、今の社会は、過去のセオリーではすでに自己充実感を得られない構造になってきている。

 では、どうすれば若い世代と上の世代の橋渡しができるのか、来たるべきAI時代において、若い世代が活躍していくには何を生かすべきかについて、解説したんですね。

原田 「安いレストランのワインで十分な若者」というのは、まさに今の時代をすごく表していますね。本当にそのとおりだと思います。

尾原 ありがとうございます。ただ、この著書について、一部の人から「これを読むのは都市部の人だけだよ」とご指摘を受けたんです。確かに、「あらゆる仕事がAIに置き換わる」とか、「ロボットに置き換わらないのは偏愛(へんあい)だ、だから自分の“好き”を見つけて、生きがいを磨こう」と言っても、響くのは都市部で働いている若者だけなのかもしれない。

 地方では、人口減少による絶望が可視化されてきていて、もうそれどころじゃない。むしろ「ないものがない」なんて言っていられるのは、恵まれた都市部の人たちだけの話で、地方の人たちからすると「AIが人類を超える? シンギュラリティー? ナニソレ」みたいな話で。

 そんな中で、都市部の若者も、地方の若者も、誰もがもっとワクワクする未来に向かって、「なんかやりたい!」と思えるようになるにはどうすればいいんだろう、ということを最近ずっと考えているんです。

 原田さんだったら、「マイルドヤンキー」や「パリピ」のその先の、若者のあり方を何か見据えていらっしゃるのではないか。特に地方の若者には、暗い未来しか見えなくなっているのかもしれないこの何年かについて、何かしらの実感がおありなのではないかと思い、対談を設定させていただいたんです。

なぜ長距離ドライバーが減っているのか

原田 地方のお話についてですが、まさにそのとおりですね。僕は地方でよく講演をしていて、先月も宮崎県に行ってきたのですが、現地の方は「原田さん、アベノミクスというけどね、東京はどうか知らないけど、宮崎ではさすがにまだ全然実感がない」と言っていて。

 人口はどんどん減っちゃうし、大学の数が少ないから、若者が大学に入る時点で必ず(都市部に)取られる構造になっていて、県内でもさらにさびれた村では、もう人がいなくなりすぎちゃって、有効求人倍率が異常に上がってしまっているんですね。

尾原 仕事の需要はあるのに人がいないという状況になっちゃったんですね。大学も全入時代になったし。

原田 なかでも人手不足倒産の割合がものすごく多くなっている。会社の業績はいいのに、働き手がいない。宅配便の値上がりも、要は同じ構造です。

 以前、運送会社の社長さんとお話しする機会があったんですけど、「原田さん、マイルドヤンキーっていい言葉だよ。彼らは本当に地元志向が強い。トラックの運ちゃんになってくれる子は昔より減っているけど、いることはいるんだ。でも長距離トラックはヤダって言うんだ」と。

  

 つまり、長距離トラックだと地元の友達とも親とも離れちゃうから、中距離で、地元に戻って来られる範囲がいいというわけです。それで今、国交省が中継輸送をやり始めた。例えば、大阪を中間地点にして、東京から来たドライバーを交代させ、九州まで物流していく、というような具合です。これは、そもそも若い人たちが肉体労働を嫌がるという前提はあるんですけど、突き詰めていくと、「あまり遠くへ行ってまで頑張りたくない」という本音があるんですね。

尾原 なるほど。ただ、長距離ドライバーって、頑張れば深夜手当の給料をたくさんもらえて、その先には自分で運送会社を運営するとか、一つの栄光の階段が見えていたと思うんです。今はそれが見えなくなったから、若い人たちもわざわざ長距離運転をしてまで頑張ろうとしなくなったのか? 本当に、ただ純粋に、長時間働いていることよりも、友達との時間を優先したいからなのか。実際はどちらなんでしょう。

原田 やっぱり、栄光の階段が昔ほど見えなくなってきているというのもあるし、仮にあっても、全部満たされて生きてきた人たちなので。「お金が増えたところで、家族や友達との時間が減るのはなあ……」っていう感覚があるんじゃないか。

 例えばこの前、「若者の育て方」というテーマで美容雑誌の取材を受けたんです。ひと昔前まで、美容師の夢は自分の店を持つことだった。だから一刻も早く美容師になりたくて、専門学生のころからサロンで見習いをはじめるのが当たり前だった。

 ところが今は、ずっとアシスタントのままでいい、という子がすごく増えたそうです。免許を取って美容師になると、お客さんからクレームが来たり、責任がついて回ったり、残業が増えたりと面倒だから。もはや専門学校へ行って美容師免許を取らなくてもいい、ってことなんですよね、極端に言うと。

尾原 そうですよね。アシスタントだけやっているんであれば、むしろかっこいい美容サロンのアシスタントとして、ずっとやり続けたほうがいいのかもしれないし。

原田 そう。テレビ局でも同じで、制作局のADさんに話を聞くと、「局員のADもひどい扱いを受けるけど、制作会社のADなんて更にひどい扱いを受けている。それでもチクショウと思いながら、なんとかディレクターになって、自分の監督権、権限を持ちたい、と誰もが思っていた」「ところが今は、ADのままでいいって子たちがすごく増えた。責任をとるのが面倒だし、VTRの出来が悪いからと叱られるのが嫌だと。ADはその場で『お前、あれとってこい!』と言われるだけで済むから、もうそっちのほうが楽だ、というんです」って。

尾原 自分で考えなくていいから、楽ってことですか。

原田 しかも実家住まいなら月収13万円でも、日本のサラリーマンの平均お小遣いが3万円台後半であることと比較すれば、ずっと豊かな生活ができる。

尾原 ましてや地方だと、前提としてみんな持ち家(実家)がある。すると、今おっしゃったように、無理に一人暮らしをして頑張って稼ごうとするよりも、実家にいた方が自分で使えるお小遣いが増えるわけですよね。しかも家があれば、将来の不安も、「まあどうにかなるだろう」と緩和されていく。

 この状況を悲観的に見れば、一見、“若者のモチベーションが下がっている”ということになる。しかし、厳密にはそうではないと思うんです。

「ホリエモンサロン」が提供する”モチベーション”

 最近、月額会員制のオンラインサロンが結構はやっていますよね。なかでも、堀江貴文さんが運営する「ホリエモンサロン」こと「堀江貴文イノベーション大学校」が非常に興味深い。ここでは月額10,800円を払った人たちが、例えば堀江さんがプロデュースしたイベントをどうやって盛り上げるかについて、寝食忘れて考えたりしている。

 僕はこの現象を「生きがい搾取」という言い方をしたんですね。つまり、なぜ若い人たちが責任を取りたくないかというと、自分がやりたいことと、会社から言われることが、残念ながら一致できていないから。つまり、単に若い人に原因があるのではなくて、双方に問題がある。与える側も、受け取る側にも。

 その中で、若者と自分のモチベーションを一致させたものを提供できる堀江さんのような人は、給料を払うどころか、むしろユーザーさんからお金をもらって、やりがいのある労働を提供する、みたいな逆転現象が起こっている。

「もう美容師にならなくても、アシスタントでいいです」みたいな話を聞くと、これまでなら「若者はなっとらん」という話で終わっていた。けれど若者は、本当はシチュエーション次第でめちゃくちゃ頑張れる、ということもある。それならば、その引き出し方のヒントみたいなものが、どこかにあるはずではないかと思うのですが。

原田 うーん。「ホリエモンサロン」に登録するような人たちなら話は別かもしれないですが、地方も含めた全体の若者というと、かなり難しいと思いますね。基本的には、やはり低成長時代型の、成熟時代型の、マイルドヤンキー化している。

 先進国の若者も同じようになってきていると思います。例えばアメリカでも、やはり、リーマン・ショック以降、ガツガツした若者が減った。ヨーロッパは僕もこの1、2年、そこかしこを回っていろんな若者たちにインタビューしてきたんですけど、そもそもエリート・中流・下層と、はっきりした階層があるので、なんとも言い難い。

 もちろんエリートの子たちは、日本よりも上昇志向だったり、国全体を考えていたりするんですけど。まあ基本的にはワーク・ライフ・バランス重視ですね。「早く家帰ってウイニングイレブンやりたい」みたいな。

 世界の若者は共通して、かなりまったりしてきているとは思うんですよね。ただ一部、堀江さんのサロンに集まる若者みたいに、ある種の宗教のようにそこに傾倒していく人は、時代を問わず一定数いますよね。そういう意味では、堀江さんみたいなモデルはあり得るでしょうね。

尾原 確かにおっしゃるとおりですね。時代問わず、3〜5%の人たちは常に熱狂を求めていて、誰かの熱狂を支えることで生きている。

「みんなのため」では頑張れない
「自分のため」なら頑張れる

原田 ちょうど一年前くらいに、駅伝でおなじみの、青山学院大学の原晋監督と一緒に対談をして、『力を引き出す 「ゆとり世代」の伸ばし方』という本を出させてもらったんです。青学はもともと駅伝の世界では弱小だったんですけど、原監督が参加されてから10年かけて、ここ数年で素晴らしい実績を出している。

 僕は選手にもインタビューしてきて、原監督にもいろいろ話を聞いたんですけど、やはり原さん独自のやり方があって、これがなかなか面白いんです。

 もともと、青学に入学してくる選手は、強豪校に比べれば能力が劣る。一流の選手は早稲田に行っちゃうので。そこで、原監督は「準一流くらいの子のモチベーションを上げて、日本一にさせていく」というセオリーを実践されてきたんですね。

 お話を聞いていると、いくつか昔と違う発想があったんです。例えば、「もう『チームのために頑張ろう!』というのはやめた」とか。なぜなら、青学にくる選手は、そもそも本当は早稲田に行きたかった、という本音もあるわけで。

尾原 なるほど。だから「青学のために」と言われても、青学に幻想を持ってないんだから、むしろしらけるんじゃないかと。

  

原田 そう。そもそも早稲田の選手ですら、昔と違って、「チームのために」っていうマインドをもはや誰も持っていない。そうじゃなくて、主語を常に「君にとって」という言い方にしないといけないんだ、と。「こういう練習をしてこういう選手になったほうが、社会人になってからもマラソンを続けるという意味では、君にとっていいはずだ。チームにとってじゃない、君にとっていいんだ」と。本人も、納得さえすれば、結構頑張るそうなんです。

尾原 ある意味合理的なわけですよね。

原田 すごく個人主義になっている。人当たりというか、表面上では今の子たちは柔らかいですけど、一方でとても個人主義になってきていて、そこはやっぱり「みんなのため」ではなく「君のため」という文脈で話してあげないと通じない。と、強調されていましたね。

 日本一になった日本ハムファイターズの栗山英樹監督とも対談させていただいて、16年の日本ハムはすごく若い選手で、10ゲーム差くらいひっくり返して日本一になった。17年は不調ではありますが。

尾原 はい、16年はすごい快進撃でしたよね。

グローバルに広がる「若者の個人主義」

原田 栗山さんにも某誌の取材でお話を聞きに行ったら、原監督と同じ話をしていた。「原田さん、僕はもうチームの優勝をゴールに掲げるのをやめたんです」「選手各個人の、最高の成長をゴールに考えている」と。そうすると選手たちも、「あ、監督は俺のことをちゃんと考えてくれているな」と理解して頑張るようになり、結果としてチームが優勝するということですよね。

尾原 僕も最近、アメリカで同じことを実感しました。「HR Technology Conference」というイベントに参加して来たんです。“HR Technology”とは、人事による社員の評価、育成、採用や配置をAIやビッグデータ解析などの最新技術によって加速させる仕組みのことを指すのですが、これが今急速に拡大しているということで、世界最大のカンファレンスに行ってきたんですね。

 これまでは、どの会社の評価システムも、会社の目指すゴールを中心に形成されてきた。ところが今、それ以上に大きいのが「個人の成長」なんです。つまり、AIによって「あなたのスキルは今これくらいだから、この職務に就くことでこれくらい伸びる。で、このレベルまで来ると、ディベロップメントとしては、シニアマネージャー、スペシャリスト、アドボケーターになれます」と案内され、人それぞれのすごろくを選ぶことができる。

 さらに、自分の目標にとって足りないスキルがあれば、社内でそのスキルを持った人の一覧が表示され、その人達にアドバイスをもらえるよう申請をすることもできる、という具合です。完全に、個人としての設計に変わっていたんですよね。

 僕は、「これってやっぱりアメリカの超合理主義だな」と思っていたんですけど、原田さんのお話によれば、実はそうじゃなくて、世代的な傾向ということですよね。それも国内だけではなく、グローバルにおいて。

原田 そうですね。若い人と話すと、あまり「YES/NO」をはっきり言わないのでわかりにくいところはあるんですけれど。じっくり向き合いながら掘り下げていくと、そうなってきていると実感しますね。

    ◇

 国内ローカルだけでなく、グローバルレベルで広がる「若者の個人主義化」。皆さんはどう思いますか? 上の世代の方々、若い世代の方々は、日々の生活のなかでこれらをどう実感されているのでしょうか。そして、彼らの本当のモチベーションのありかはどこなのか? 思い当たるところのある方のご意見・ご感想をお待ちしています。

(イラスト・兼濱麻美 Twitter:@kanehamaasami

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プロフィル

■原田曜平(はらだ・ようへい)
博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー
1977年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。博報堂入社後、ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、現在、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを務める。多摩大学非常勤講師。
著書に『さとり世代 盗んだバイクで走り出さない若者たち』(KADOKAWA)『パリピ経済 パーティーピープルが市場を動かす』(新潮社)など多数。近著に原晋氏との共著『力を引き出す 「ゆとり世代」の伸ばし方

』(講談社)がある。Twitter:@YoheiHarada

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