いしわたり淳治のWORD HUNT

「インスタ映え」は“悪口化”? 「忖度」は音楽業界とシンクロ? いしわたり淳治、「流行語」を斬る

  • いしわたり淳治のWORD HUNT〈vol.2〉
  • 2017年12月29日

  

 Superflyの代表曲『愛をこめて花束を』をはじめ、600以上の楽曲を手がける作詞家のトップランナーであり、チャットモンチ-やGLIM SPANKYらを世に送り出した敏腕音楽プロデューサーでもある、いしわたり淳治。

 人気音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)ではロジカルな歌詞分析を披露。福山雅治は「(手の内が)バレている!」と驚嘆し、クリープハイプのフロントマン尾崎世界観は「されたくなる分析」と称賛した。

 そんな鋭い批評眼を持つ男が、世間の言葉を独自の視点で斬っていく。今回俎上(そじょう)に載せたのは、ユーキャン新語・流行語大賞の年間大賞をはじめとする5つのフレーズだ。

いしわたり淳治 いま気になる5つのフレーズ

  

(参考サイト)
はちみつきんかんのど飴@ノーベル製菓株式会社

 アン・ルイスの『六本木心中』を初めて聴いた時、Aメロの1行目「だけど…… こころなんてお天気で変わるのさ」という歌詞にものすごい衝撃を受けたのを覚えている。まだ何の歌かも分からないのに、一言目が「だけど」である。飲み会なんかで、初対面なのに「私ってぇ、辛い食べ物苦手じゃないですかぁ〜」みたいな話し方をしてくる人がたまにいるが、接続詞始まりの歌というのは、これと同じ「ご存じ、私」という謎の圧のようなものを感じる。

 そして、はちみつきんかんのど飴のCM。普段何げなく耳にしているが、これも接続詞始まりの歌詞だ。この歌にもやはり「当然、毎日面白いって思ってるよね」という圧のようなものが潜んでいる気がする。

 この曲が普通の曲であればインパクトもあってすてきな歌詞ですね、でおしまいなのだが、CMソングという特性上、この曲がもしかしたら偶然、ドラマの殺人シーンの後に流れることがあるかもしれない。その時の「だから毎日面白い、イエイ!」は、かなり面白いことになる気がするのだけれど、と思った。イエイ。

  

 サハラ砂漠で気球に乗って美しい朝日を見ながら朝食を食べるという洒落(しゃれ)たツアーが紹介されていた。サプライズのプロポーズに利用するカップルも多いという。上空500メートルに浮かぶゴンドラにはテーブルが置かれ、そこにグラスに入った飲み物やパンやらサラダやら食べ物が当たり前のように並べられる。倒れるわ、風で飛ばされるわで、さぞかし食べにくいのではないかしらと思いきや、ガイドの男性は「気球というのは風と一緒に移動しているんだ。だから風もないし静かなんだ」と言う。

 それを聞いて、ハッとした。なるほど。思えば私たちは、常に風を浴びて暮らしている。風より速く動いても、風に逆らってただその場に立っていたとしても、体は風を感じる。風と同じ方向に、同じ速度で動けば、体感としては無風になる。この番組を見て以来、今まで一度も気にしたことなどなかった、あの「気球」という超マイナーな乗り物に一度乗ってみたくて仕方がない。

  

 今年の新語・流行語大賞の「インスタ映え」。そのおかげでという訳ではないが、おそらく「インスタ映え」という言葉はこの先、ただの悪口になっていくのではないかと思う。というのも、過去には「女子力高い系」や「意識高い系」という言葉があって、それらも最初は少なからず褒め言葉の要素もあったはずなのであるが、「家事が出来る・気が利く・男を立てる」「前向き・努力家・ビジネス書で勉強している」みたいな、それまで特に名前のなかった一連の行為にズバッとネーミングがなされた途端、悪口としての使い勝手の良さのほうが本来の意味を上回ってしまうというのが、世の常なのである。現に、世の中に「インスタ映え」という言葉が出始めた頃から徐々にインスタ映えするものを必死になって探す行為は、周りから揶揄(やゆ)される風潮に変わりつつある気がする。

 もしかしたらこの先、更新が止まって放置されたインスタみたいなものが増えるかもしれない。ということは、それに名前をつけたら、今度はそれが来年の流行語大賞になる可能性もある。ならば、どんな名前が良いだろう。んー、例えばシンプルに「卒アル」なんてどうだろう。自分のことが大好きで、周りの皆よりも少しでも格好つけたかった、青い自分から卒業するまでの軌跡を刻んだアルバム。……って、あれ? 大人のスタイリッシュなフォトギャラリーのはずが、高校時代の本当の卒業アルバムとやってることが変わらない気が……。という具合に、名前をつけてしまうと悪口みたいになるから不思議。

  

 私は作詞家を生業としているので、日頃よく皆から「良い歌詞の定義は?」というような質問を受ける。そういう時は「まだ名前のついていなかった感情に名前をつけるような歌詞だと思います」と答えることが多い。やはり、人は自分でもまだよく分からないもやもやした感情を、スパッと誰かに言語化して歌にしてもらえた時、「これは私の歌だ!」と感じる気がするのだ。

 そして、もう一つの新語・流行語大賞の「忖度」という言葉。これはある意味、人々の暮らしの中の「まだ名前のついていなかった感情」に名前をつけた言葉だったのかなと思う。もちろん、忖度は昔からある言葉なのだが、ほとんどの人がその言葉の存在を知らず、ひょんなことから脚光を浴びて、ある日突然人々の生活の中で機能し始めた。かなり珍しいケースのようにも思えるが、実はこういった現象は今の時代の音楽業界にも少し通ずるところがある。

 というのも、例えば今こうしている間にもアーティストと呼ばれる職業の方々はせっせと新曲を作ってリリースしているわけだが、ストリーミングサービスで音楽を探して聴くことが主流になった昨今、聴き手にとって「誰かの新曲」と「過去の誰かの隠れた曲」は完全に並列に並んでいる。新しかろうが、古かろうが、その曲を見つけるためには曲タイトルなりアーティスト名なりを自分で打ち込んで検索しなければならない。聴くための手順・手間が同等なのだ。それゆえ「本当に新曲は必要なのだろうか?」という議論が音楽制作の現場で行われて、結果的にカバーアルバムが作られるというケースもよくある。

 というわけで、「忖度」という言葉の“ヒット”は、何だか妙に今の時代とシンクロしている感じもするのだ。

  

 ウミガメの背中で暮らす新種の甲殻類に「urashima(ウラシマ)」の表記を含む学名がつけられることになったというニュースを見た。そのユーモアがなんかいいなと思ったのと同時に、そういえば「リュウグウノツカイ」って魚もいたよね? と思い出した。

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 とはいえ、浦島太郎を迎えに「竜宮からの遣い」として来たのは紛れもなくウミガメなわけで、ならばどうしてあの魚はそんな名前になったのだろうと気になって、インターネットで調べていてびっくりしたのはその理由がよく分からなかったことの方ではなく、まさかの「リュウグウノヒメ」という名の魚も存在したという事実で、そしてまたそのヒメの姿がなかなかグロテスクなのである。名前負けしている。ただ海で泳いでいただけなのに、人間に見つかったとたん、縁もゆかりもない竜宮城という理想郷を背負わされた「リュウグウノツカイ」と「リュウグウノヒメ」がふびんでならない。

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