インタビュー

壇蜜「関係を築き、ただ寄り添うことが心の傷を癒やす」 映画『星めぐりの町』

  • 文・武田由紀子 写真・佐藤正人
  • 2018年1月22日

【動画】壇蜜さんインタビュー=高橋敦、佐藤正人撮影

役作りをしすぎない。「現場で作り上げた志保役」

 「かけがえのない、ごく普通の日常」がどれほど大切か、東日本大震災を通じて痛感した人も多いだろう。

 震災から約7年、名匠・黒土三男監督が紡ぐ『星めぐりの町』は、1人の震災孤児が再生していく姿を描いた、ささやかで心温まる物語だ。映画初主演となる小林稔侍さんが、震災孤児を引き取る豆腐屋・島田勇作を演じる。

 勇作の娘・志保役を演じるのが壇蜜さん。突然現れた震災孤児の扱いに戸惑いながらも少しずつ距離を縮め、深い愛情で彼を見守る存在になっていく。

 バイク好きで自動車整備士として働くたくましい一面、丁寧な所作が美しい日々の暮らしなど、これまでの壇蜜さんのイメージにない、新たな一面が多く見られる作品になっている。

「私自身は『志保』のように、子供を叱ることはできませんが……それができれば、もっと距離が近くなれるのかなと思います」 

 撮影前にどのような役作りをして挑んだのか、壇蜜さんに単独インタビューした。言葉をひとつひとつ選び、ゆっくりと話す姿が、知的でとても印象に残る。

 「まず脚本をしっかり読んで、状況をきちんと把握することにとどめておきました。表現する上で先入観があると、監督との意見の違いがあった時に、お互いが疲弊してしまうので。

 今回は父親の勇作がいる前提があり、それに加え志保がいる状況なので、現場で監督や(小林)稔侍さんに指導していただくのを待ちました。

 シーンごとに話をする時間が多くあり、その都度おふたりに相談しました。私のような演技がつたない者にとっては、とてもありがたい撮影現場でした」

「人生一度のドキドキを大切にしたい」と臨んだバイクのシーン

 志保は自動車整備士。修理工場にバイクで通勤し、昼食時は、つなぎの上を脱いで腰にしばってラーメンを食べる壇蜜さんの姿は新鮮だ。

映画『星めぐりの町』から (c)2018 豊田市・映画「星めぐりの町」実行委員会

 「つなぎはサイズが大きくて、衣装さんにつなぎの丈を詰めていただくところから始まりました。改めて、男性社会で普及してきた服、女性が少ない職場なんだと感じましたね。

 撮影には本物の修理工場を使ってエキストラにも整備士の方に入ってもらい、実際に使っているつなぎと同じものを使わせてもらいました。

 休憩時に上を脱いでしばるスタイルは、いつもされているそうで、ラーメンを食べるシーンで再現できたのが妙にリアルで良かったと思います」

映画『星めぐりの町』から (c)2018 豊田市・映画「星めぐりの町」実行委員会

 「バイクは見るのも乗るのも好きで、3、4年前に大型二輪の免許を取りました。免許はあったので、不自然にならないよう安全面に気をつけながら乗りました。

 (孤児の)政美を後ろに乗せるシーンは、とても緊張しましたね。撮り直しは何度もできるけれど、子どもにとって初めてバイクに乗るドキドキは人生に一度だけ。私も子どもの頃に乗せてもらったことがあり、ワクワクしたのを覚えています。

 一生の思い出が怖いものになったら大変、政美役の子にも同じようにワクワクして欲しいと思い臨みました。

 乗ってしばらくすると緊張もほぐれ、景色を見るのが楽しくうれしい顔になっていく。バイクのシーンで、表情の変化がきちんと撮れていたのは大成功だったと思います。

 これも指導員の方のおかげです」

映画『星めぐりの町』から (c)2018 豊田市・映画「星めぐりの町」実行委員会

「服や掛け軸を汚したくない」という思いから生まれた、美しい所作の数々

 男らしいシーンが多い中、対照的なのが志保の所作の美しさだ。食事を配膳するシーン、掛け軸や絵を飾ったり出したりするシーン。ゆっくりと丁寧なしぐさが印象的で、壇蜜さんがもつ自然体の美しさを引き出している。

 「ふだんは、おっちょこちょいなところがあるんです(笑)。今回志保がニットを着ているシーンが多くて、囲炉裏の前や汁物を扱う時、お茶を淹(い)れる時などに『洋服を汚さないように……』ととても気をつけていました。

 掛け軸も『畳についたら嫌だな』と思って。服や掛け軸を守るために動作を気にしていたら、自然と所作がきれいに見えるようになったのかも。ずっと日本舞踊を習っていたので、その名残もあるのかもしれませんね」

映画『星めぐりの町』から (c)2018 豊田市・映画「星めぐりの町」実行委員会

 今作では、小林稔侍さんをはじめ高島礼子さんらベテランキャストが多く登場する。撮影現場は、黒土監督が震災後に移住した愛知県・豊田市。自然豊かな環境での撮影は、とても穏やかであたたかな時間だったが、「課題も見つかった」と言う。

 「ベテランのみなさんが、私に合わせてくれているのが伝わり、とにかくありがたかったです。政美役の子に合わせる、私が演じる志保に合わせる……と、(小林)稔侍さんや高島礼子さんが自然にされているのを肌で感じました。

 一方で、『どうやって人に合わせて演技するか』が、今後の私の課題になりました。いずれ、私よりも新人の方と一緒に演技する時に、やらなくてはならないと思うので」

 「現場の雰囲気は、とても良かったです。囲炉裏の火があたたかくて、食事のいいにおいがして。春になりかけた穏やかな陽気が続いている中での撮影だったので、そんなごく普通のことが人を和やかにするのかなと思いました。良い気候の時期にお仕事できたのも貴重でした」

傷ついた人には、「何もせずにいつも通りにしてあげること」が大切

 震災孤児の再生を通じて、心の傷を癒やすことの難しさも感じる今作。壇蜜さんは、傷ついている人を前にした時、どんなふうに相手に寄り添うのだろうか。

 「政美のように、震災後に初めて会って関係を構築するのはすごく難しい。まず立場をしっかり成立させてから、その立場を乗り超えて、関係を築いていくことで深く付き合えると思います。

 急に関係を無視して向き合うことは難しい。みだりに『助けたい』『かわいそう』という言葉をかけることが、求められていることなのかどうかは、私自身もよく分かりません。

 もし友だちが心に傷を負っていたら、一度くらいは『どうしたの?』と声をかけ、何か話してくれたらうれしいとは思いますけど。私自身が傷ついた時、周りにどうして欲しいか考えたんですけど、何もして欲しいことが見当たらなかった。

 傷に触れてほしい人はいないと思うので、いつも通りに話をしてくれるまで、ふだん通りに接するのが理想かなと思います」

映画『星めぐりの町』から (c)2018 豊田市・映画「星めぐりの町」実行委員会

理想の男性像は「迷っている部分を正直に出せる“人間”を感じる人」

 最後に、壇蜜さんが考える魅力的な30~40代の男性像について聞いてみた。

 「会話が激しい否定から入らない人。話の垣根、話題の垣根が低いから、話しやすくて魅力的だと思います。『俺、猫好きで犬ダメなんだよね』でなく、『猫はもちろん一番好きなんだけど、犬もかわいいのがいるよね』のほうがいい。『じゃあ、かわいくない犬もいるの?』と話もつながっていく。

 優柔不断と紙一重とも言えますけど、あれもいい、これもいいと迷っている物語があるほうが、人として興味を持てる気がします。とはいえ、この世代は意見をちゃんと言わないと生き残れない世界だと教育されてきた世代。

 女性の前で優柔不断でいることは、ある意味リスキーだと思いますけど、迷っているところやどれもいいと思っていることを正直に言えることが、男でなく人間を感じて、すてきだと思います」

「私は風景より幾何学模様が好きなので、日本画が好きな『志保』とは絵に対する好みは違うかも」と話す壇蜜さん

 映画『星めぐりの町』は、1月27日(土)公開。東日本大震災で家族全員を失ってしまった孤独な震災孤児が、豆腐店を営む親子に引き取られ立ち直っていく姿を、あたたかく丁寧につづった感動作。

 「かけがえのない、ごく普通の日常」のありがたさ、傷ついた人にただ寄り添うことの大切さを痛感するはず。また、壇蜜さんの新たな魅力と演技にも出合える今作を、ぜひスクリーンでチェックしてみて欲しい。

【動画】映画予告編(c)2018 豊田市・映画「星めぐりの町」実行委員会

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映画『星めぐりの町』作品情報
出演:小林稔侍、壇蜜、荒井陽太、神戸浩、六平直政、平田満、高島礼子
脚本・監督:黒土三男『蝉しぐれ』
音楽:羽岡佳
エグゼクティブプロデューサー:岩城レイ子
プロデューサー:中尾幸男
製作:豊田市・映画「星めぐりの町」実行委員会
配給・宣伝:ファントム・フィルム
制作プロダクション:エース・プロダクション/ケイセブン
上映時間 :1 時間48分
カラー/ビスタサイズ/5.1ch
劇場 :2018 年1月27 日(土)より丸の内TOEI 他、全国公開
ホームページ:http://hoshimachi.jp/

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