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大島智子×泉まくらトークイベントリポート「キスするのと殴るのは一緒」

  • 2018年2月13日

この記事に添えたイラストは、すべて大島智子さんが、泉まくらさんのために描いてきたものだ

 いま、若い世代の心をつかんで離さないイラストレーター・映像作家、大島智子さん。2017年11月、GALLERY X BY PARCOで開催された初の個展「パルコでもロイホでもラブホでもいいよ」には多くの人が訪れ、SNSでも話題となった。

 その最終日の夜、これまでも大島さんとコラボレーションを重ねてきた“ソウルメイト”であり、自身も熱い支持を集めるラッパー・泉まくらさんとのトークイベントが催された。なぜ、彼女たちのイラストと歌は同世代の心に響くのか。個展開催前の大島さんへのインタビュー「『幸せ』じゃなくてもいい女の子たち。」に引き続き、トークのリポートをお届けする。

昨年11月、GALLERY X BY PARCOで開かれた大島智子さんの個展の会場風景(提供写真)

 女性限定で60人が参加したイベントは、個展会場の渋谷・スペイン坂にあるギャラリーでおこなわれた。観客たちをぐるりと取り囲む、大島さんの作品の数々。そこに描かれているのは、街の片隅に静かにたたずむ女の子たち。大島さん独自の世界観に魅(ひ)かれるファンの女性たちは、熱心に大島さんと泉さんの話に耳を傾けていた。

 5年前の泉さんのデビュー以来、コラボを重ねてきたふたり。今回の展示にあたっても、泉さんがテーマ曲を制作。泉さんが会場の渋谷を描くうえで心をこめたというフレーズ「派手なネオン/蛍光灯に虫」に象徴されるように、たゆたうように現代を生きる、その感性にあふれた楽曲となった。

泉まくら『パルコでもロイホでもラブホでもいいよ』 / 大島智子個展テーマ曲

 そんな心の“根っこ”が通じ合っているふたりのトークは和やかに進んだ。泉さんは、大島さんの描く女の子を人気キャラクター「ハローキティ」に例えた。

「大島さんの女の子って、鼻と口がほとんどないんですよね。口がないキティちゃんのように、今の自分の心境をわかってくれているような感じがする。

 大島さんは『自分は幸せな女の子を描く必要はない』と言っているけれど、かといって『不幸』だとも言ってない。だからこそ、見ているほうが、今までの自分の経験を引き出されるのかなって。

 憂鬱(ゆううつ)そうとか、アンニュイとかいわれるけど、それは見ている側が持っているものなんじゃないかなと私は思ってます」

 そして泉さんは、ギネス世界記録を持つ「キティグッズ」のコレクターの男性が、キティちゃんはいつでも自分の気持ちをわかってくれている感じがする、と語っていたエピソードを引き合いに出した。大島さんは「私は自分を投影しているわけではなくて、憧れを持ったり、いいなと思った女の子を妄想したりして描いているので、『私みたいだと思った』という感想をいただくと、また描く原動力になります」と語った。

 実際、会期中には、会場で大島さんに話しかける人がたくさんいたそうだ。これまでは主にインターネット上で活動してきた大島さんにとって、イラストが人の心に届いた結果生まれる“声”を直接聞く経験は、とても新鮮だったという。

見慣れた飲み屋の風景も大島さんが描くと、キュートでありながら儚(はかな)さが漂う

「『私が(イラストの女の子として作品のなかに)いるような気がします』『私にも物語があるんだと思った』と言ってくださる方とか……。あと、お子さんがいらっしゃるお母さまで、『いつか娘が自分から離れて、こういう私の知らない世界にいってしまうんだな』と思った、という方もいたし、『昨日、彼氏と別れてきました』という人も。イラストの世界に自分を寄り添わせている方が多かったですね」

 今回の展示に寄せたメッセージのなかで、大島作品の女の子から「『ただ在る、という強さ』を受け取っている」と語っていた泉さんは、熱を込めてその言葉の意味を語った。

「『ただ在る』ということが、“最強”だなと思っていて。大島さんの女の子は、幸せだとも不 幸だとも言わないけど、でもそこに『ただ在る』、私はここにいるという主張だけは、すごいパワーがある。

 大島さんに『この絵のここに、こんなことが描いてあるけど……?』と聞くと、『あ、ホントだー!』という反応が一番多いんですね(笑)。だから、大島さんもただ描いているんだな、って。その『ただ描く』大島さんは、すごいな、カッコイイなと思うんです」

 大島さんが「逆にまくらさんに対してそう思います。遠いところを歌うんじゃなく、ちゃんと地に足をつけて、本当に身のまわりのことを痛いくらいに見つめて書いた歌詞だと思う」と返すように、ふたりは表現手段こそ違えど、どこか同じ地点を見つめているようだ。

大島さんとしては珍しい大きなイラストの展示や、ライブペインティングもおこなわれた

 その証拠に、彼女たちが憧れ、表現の源泉のひとつとなってきたのは「ギャルとヤンキー」だと口をそろえた。

「カッコいい先輩としゃべって、流行(はや)りの曲を聞いて……、そういうのにすごく憧れたし、今も憧れていて、作品に反映されていると思います」(大島さん)

「ダサいと思う子をからかったり、人に迷惑をかけたりしながらも、そうやっていろいろ済ませた自分を肯定して、『あれは過去』と言って(彼女たちは)生きていくんだな、と高校生くらいのときから思っていた。本当に“平気”って一番いいな、って。それはずうずうしいことじゃないんです。“平気”な子に憧れているのかも」(泉さん)

 そんな“憧れ”が詰まったのが、ふたりの関係の“原点”たる楽曲「balloon」。泉さんのデビューアルバム『卒業と、それまでのうとうと』(2012年)に収録された人気曲で、大島さんがMV制作を担当した。「あの娘(こ)の毎日がやけにドラマチックに見えだしてから急に笑えなくなったの」という印象的な歌詞が胸に刺さる。

泉まくら 『balloon』 (Official Music Video)

「自分のなかでは、特定の『あの娘(こ)』がいいな――かわいくて、みんなに好かれていて、いいなあ、なんで私はあんな感じじゃない人になったんだろうっていうことを書いた曲です」という泉さん。そんな歌詞の世界に対して、大島さんはMVで主人公の寂しげな女の子と「あの娘」がキスをするシーンを描いた。

「私も当時、憧れの『あの娘』がいて。『balloon』を聞いたときにその子の顔が思い浮かんで、そのままMVに出しました。私は全然記憶にないんですけど、友だちに『なんでキスしたの』と聞かれたときに、『殴るのとキスするのは一緒だから』って答えたらしいですね……(笑)」

 この“秘話”には泉さんも驚いた様子。「あのシーンは殴っていてもよかった?」「殴っていてもよかったけど、キスを選んだという感じだったと思います」というやりとりがつづいた。

 イベントの最後、泉さんは、個展のテーマ曲『パルコでもロイホでもラブホでもいいよ』を歌った。その優しい歌声からは、トークで語られた女の子たちの強さがにじむようだった。

  

(文・宮田文久)

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