どうすれば憧れの働き方ができるのか? 小さな損得に振り回されないオトコの大きな仕事

  • 湯山玲子
  • 2018年3月1日

  

 年功序列、終身雇用などの昭和的な雇用制度が崩れ始め、従来の仕事観にとらわれない働き方が注目を集めています。若者が憧れるそれらのワークスタイルには、「現代のカッコよさ」の正体をひもとくヒントが隠されているかもしれません。

 今回、湯山玲子さんと対談していただくのは、good mornings 株式会社代表の水代優さん(39)。カフェ、レストラン、コミュニティースペースの運営や、それらに連動するイベントの企画制作など、人が集まる「場」を編集するプロフェッショナルであり、「若者が理想とする働き方の一人」と湯山さんが注目するビジネスパーソンです。

 水代さんが仕事上で大切にしているのは次の3つの視点。そこにはどんな思いが込められているのか。水代さんの仕事観に迫ります。

  

 

これから時代に評価される人の条件

湯山 私は1960年代生まれの、バブル前夜に青春を過ごした世代。大学生のころは東大を頂点とするヒエラルキーが今より強くあって、一斉採用で終身雇用。大企業に入って、滅私奉公することが出世のお約束ロード。

 男性の学生は「商社で世界を飛び回りたい」と夢見る時代でした。そして、言うまでもなく、女性の仕事は結婚までの腰かけがせいぜい。雑誌の読者モデルの肩書きに「家事手伝い」というのがあって、それがいいところに嫁に行けるお嬢様の証し、として考えられていた時代です。

  

 そのころ勝ち組と言われた大手企業に就職した同級生は今どうなっているかというと、就職当時の、あの天下を取ったような「オレ様」な輝きは皆無。ほとんどが、出世競争に疲弊し、会社以外の人間関係も貧しく、正直幸せそうには見えませんよ。

 そこに若者も気づき始めている。じゃ、今の大学生が憧れる職業は?……といったら、私の周辺での魅力的な実践者は水代さんなんです。学生のときから今の仕事につながる働き方を始めているし、イベントやコミュニティーを広くプロデュースして、地域を活性化させている。さらに海外の友達も多い。そして、ここが最大の特徴だと思うのですが、親分・子分の軍隊的ヒエラルキーや、男の子だけで盛り上がるホモソーシャル的な集団のまとめ方とも違う。そりゃ、若い人は憧れますよ。

水代 おかげさまで仕事は多方面にやらせていただいています。ブックディレクターもやれば、カフェのメニューも考える。おいしいものをつくるために日本各地の生産者にも会いに行きます。

湯山 本当に活動の幅が広い。ただ幅が広すぎて、この職業には明確な名前がつけられないですね。何をやっている人なの? といぶかしがる雰囲気はまだありますからね。

水代 それが悩み……というか諦めました(笑)。クライアントには大企業の方がたくさんいて、「○○屋さん」と名付けて腹落ちしようとする人もいます。でも、これだけ多岐にわたる活動をしていると、それをひとことで言い表すのは難しい。若い子はそこに疑問を抱かず「アシスタントになりたい」と応募してきますけどね。

  

水代 優(みずしろ・ゆう)

1978年生まれ。愛媛県出身。2002年より株式会社イデーにてカフェやライフスタイルショップの新規出店を数多く手掛ける。2012年にgood mornings株式会社を設立。東京・丸の内や神田、日本橋浜町を始め、全国各地で「場づくり」を行い、地域の課題解決や付加価値を高めるプロジェクトを数多く仕掛ける。

湯山 上の世代はそれじゃ納得できないんだよね。「楽しいことやって金を稼いでいいね」と皆が言う。しかし、その裏には、「楽しいことで金をもらえるほど世の中は甘くない」という昭和的な価値観によるやっかみが透けて見えるんですよね。仕事はそんな甘いもんじゃない、と。

 効率性より苦労したことが評価され、働いた時間の長さで会社への貢献度を測る。上の世代のモノサシは今でもこうでしょ? これじゃブラック企業はなくならないし、子育てで時短する女性がキャリアストップするのは、このシステムが変わらないからです。

水代 うちの会社では、無駄な残業は禁止です。そこには「プライベートで刺激的なインプットをしてきてほしい」という哲学があります。社員それぞれが独自のアンテナで取ってきた情報を社内に還元すれば、会社は活性化する。休養とアクティブな活動、両方に費やせる時間は与えていますし、だからこそ休み明けの話がおもしろくないと減点対象。「週末なにやってた?」「寝てました」「じゃあいい仕事できないじゃん」って。美術展、ライブ、動物園、食事……なんでもいいんです。仕事でおもしろいアウトプットをするには、インプットしないとダメですよ。

湯山 いま大企業も社長クラスは同じことを考えていて、変化の多いマーケットの情報を取ってくる人間に高い評価を与えるようにしている。それにもかかわらず、30~40代の働き盛りの男性はいまだに出世競争にシフトしてしまいがち。これからの時代は、その競争から外れても、情報通で知見が豊かであれば、つぶしも利くし、あとあと評価されて引き上げられるケースもある。それなのに、そこにみんな気づいていない。だからこそ、まもなく40歳の水代さんが、どうして前時代的な仕事観に縛られていないのか気になったんです。

人間関係を調整する極意「負けて勝つ」

  

湯山 そこでまずうかがいたいのが、09年〜14年まで一色海岸(神奈川県三浦郡葉山町)で経営していたビーチハウス「Café de Ropé La mer (カフェ ド ロペ ラ メール) 」について。

 当時、イデー(インテリアやカフェ等を通したライフスタイル提案企業)で働いていた水代さんが、なぜ会社にいながら“遊び場”をつくることになったのか。しかも、周辺住民との折衝が大変な仕事ですよ。

水代 そもそものお話をすると、あそこは僕の先輩が働いていた銀座のバーが出店した飲食施設で、バーの海の家バージョンのようなもの。そこを僕が気に入って、ルームメイトと一緒に週末限定で営業を手伝っていたんです。当時、副業はできない立場だったので、報酬ではなく、飲み物などをもらいながら。

 その後、ルームメイトが店長になって、オーナーから店の権利を譲渡され、それを機に彼と一緒に経営することになったんです。

湯山 おしゃれなビーチカフェだけど、いわゆる“海の家”ですよね。周辺の人は「よそ者が来て騒いでいる」というマイナスイメージしか持たないから、音楽を流せばすぐ文句を言いにくる。その厳しい条件下でやりきったのはすごい。

水代 海の家の交渉は比較的スムーズに進んだほうですけど、確かにこれまで僕が手がけた「場」づくりのプロジェクトの中には、交渉が難航したことは少なからずありました。

 住民、警察、消防署、保健所……相手には相手の正義がありますからね。保健所は食中毒を防ぐこと、警察は事故防止、町内会は住民の生活を守ること。そこを理解したうえで、自分たちの挑戦的な取り組みを応援してもらうにはどうすればいいかを考えなくてはいけない。

  

湯山 交渉相手の中には、全く聞き耳をもたず理不尽なことを言ってくる人もいたでしょう。それはスルーするの?

水代 理不尽なことはありますが、それぞれが自分の都合で動いている以上、10:0ということはあり得ない。以前、相手が一方的につっこんできたバイク事故に遭ったんですよ。絶対に自分は悪くない、完全に相手の過失だろうと思っていたら、保険会社は8:2で相手の過失だと言ってきた。動いているバイク同士であれば、こちらに最高レベルのジャスティスがあっても8:2になるんですね。衝撃的な経験でした。

 それ以来、どんなに理不尽でも相手の2割の言い分を探して、「あなたの意見を聞くし、納得すればこちらの意見を変える準備はある」という姿勢を示すようにしています。難しいテーマであればあるほど、そのスタンスで臨むと話が進みやすい。

湯山 海の家のケースでいえば、「生活圏を守る」というのが相手側のジャスティスだよね。それはある程度受け入れた?

  

水代 そうですね。やりたいことを続けるには「相手に負けて勝つ」という姿勢が必要で、それができない人ほど挫折しがちです。

 たとえば役所に、「その規模のイベントはだめだ」と反対されたとするでしょう。「じゃ、小さく縮小してやります」と開催する。やっているうちに、企業が「おもしろいね」と集まる。やがて、あんなに反対していた役所が「協賛になります。公園を使っていいですよ」と言ってくる。

 そこで、「あのとき反対していたくせに、うまく行きだしたら手のひら返しやがって!」とつっぱねたくなるんですけど、役所の協賛がついたほうがやれることは断然広くなるから、謹んでお墨付きをいただいたほうがトクなんです。「あのとき反対してましたよね?」なんて言う必要はない。言わなくてもいいけど、忘れずに「もっと便宜図って」とお願いしてしまえばいい。

湯山 それが「負けて勝つ」ということか。

水代 そうです。それがみんな意外とできない。当初の目的はなんだったのか。自分をむげにした役所の担当者に仕返しすることではないでしょ。イベントに来てくれたみんなを喜ばせることじゃなかったのって。本来の目的を見失わなければ、どちらがトクかは明らかです。

湯山 小さい損得にこだわって、でかい損得が飛んじゃうわけね。確かに、そういった場面での感情のコントロールは重要なスキルですよね。

上司の引っ越しは手伝うべき? 後々生きる“種まき”

湯山 ほかに「場の編集」をするうえで、人間関係をうまく調整するコツはある?

水代 最終的に行き着いたのは、挨拶と掃除です(笑)。社名を「グットモーニングス」としたのは、1年365回、相手をリスペクトして気持ちよく「おはようございます」と言うことが最も大切だと思ったから。

 掃除については、近所の神社の清掃を担当社員の最優先の仕事としています。地域のみなさんにとってのアイデンティティーとなる場所ですからね。海の家でも店の前だけでなく、バス停までピカピカにしていました。

  

湯山 日本人は「礼儀正しい」と自認しているのだけど、挨拶の本質を理解できていないと思うんですよね。

 欧米では、見知らぬ人間同士が会ったときに、「ハロー」のあとにちょっとした会話を続けるのがマナーとなっている。服をほめるとかなんでもいい。「私は敵じゃないよ」と積極的に示すことが挨拶なので、けっこう意味は重い。それに対して日本人は、名刺の力にモノを言わせることが多くて、今までの経験上、その会社の価値によって、挨拶の態度を違えてくる人も多い。全方位に同じ「グッドモーニング」ができないんだよね。

水代 人間関係の築き方でいうと、もうひとつ大事なことがあって、「与えたら戻ってくる」という考え方も必要だと思っています。

 たとえば湯山さんにボールペンを貸したら、それが巡り巡って、最終的に誰かが自転車をくれた、といった想像がまったく及ばない数珠つなぎのようなことが起こりうる。ただし、決して短期的な回転ではない。これを頭に留めておくと、人に与えることが気持ちよくなると思います。

湯山 わかります。若い子と話していて思うんだけど、働き方が時給感覚なんですね。「これだけ働いたから、これだけもらわないと」「これしかもらえないなら手を抜く」という近視眼的な考え方にとらわれている。すぐには利益が得られなくても後に100倍になって返ってくることってあるじゃないですか。そこがわかってない。

 昔は休日に上司の引っ越しを手伝うことが普通にありましたよね。今はパワハラに厳しい世の中ですから、そういうこともなかなかできなくなっていますが、それこそ「人に与える」という視点から見れば、進んでやったほうが長い目で見てトクなんですよね。良い意味でも、悪い意味でも「出し抜く」とはそういう気構え。

水代 それはすごく感じますね。時を経て縁が大きくなればなるほど返ってくるものは大きくなりますから。それが“種をまく”ということなんだけど、若い人ほど損得や人間関係を四半期ベースで評価してしまう。10月にお貸ししたもの、3月なんでそろそろお返しください、と。

 そうした小さい損得にこだわることは自分の可能性を狭めてしまう。やはりさっきの「負けて勝つ」ではないけど、どんな状況であっても、物事を大局的な視点で受け止められる人ほど、結果的に大きなリターンを得られるものだと思います。

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(文・ライター 安楽由紀子、撮影・小島マサヒロ)

【取材協力】

good mornings株式会社

水代優氏が代表を務める企画運営会社good mornings。地域おこしをはじめ、人が集まる「場」の編集を広く手がける。直近の大型事例は、日本橋浜町の新拠点「HAMA HOUSE」のプロデュース。メンバーは20名。「場」づくりを一緒にやっていく仲間を現在募集中とのこと。詳しくは企業の公式ページにて。

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PROFILE

湯山玲子(ゆやま・れいこ)

プロデューサー。現場主義をモットーに、クラブカルチャー、映画、音楽、食、ファッション等、文化全般を独特の筆致で横断する執筆を展開。NHK『ごごナマ』、MXテレビ『ばらいろダンディー』レギュラー、TBS『情報7daysニュースキャスター』などにコメンテーターとしても出演。著作に『女ひとり寿司』(幻冬舍文庫) 、『クラブカルチャー ! 』(毎日新聞社)、『女装する女』(新潮新書) 、『四十路越え ! 』(角川文庫)、上野千鶴子との対談集『快楽上等 ! 3.11以降を生きる』(幻冬舎) 、『文化系女子という生き方』(大和書房)、『男をこじらせる前に』(角川文庫)等。月一回のペースで、爆音でクラシックを聴くイベント「爆クラ」を開催中。日本大学藝術学部文藝学科非常勤講師。

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