湯山玲子の“現代メンズ解析”

これからの時代の最重要スキルは「遊び」? 水代優氏に学ぶ「仕事×遊び」の思考術

  • 湯山玲子
  • 2018年3月6日

  

 いま若者がもっとも憧れる働き方をしている人――。著述家の湯山玲子さんがそう絶賛するのは、good mornings株式会社代表の水代優さん。

 大人のための市民大学「丸の内朝大学」や、浅草のランドマーク「まるごとにっぽん」など、数々のコミュニティーの創出を手がける気鋭のプロデューサーです。

 クリエーティブな「場」の編集を生業とし、その軸となっているのが「遊び」の精神。自らもクラブをよく知る音楽通で、人が楽しめるアイデアが仕事の源泉だとか。

 職種によっては「仕事」と「プライベート」は地続きになりつつある時代に、「遊び」はどう考えるべきなのか。白熱した「遊び論」をお届けします。

「遊び」を軸にした問題解決

湯山 「遊び」という言葉は、取り扱い注意ワードなんですよね。なぜならば、1980年代から、時代の先端企業の社長達がビジネス論を語るときに、必ずといっていいほどこの言葉が出てきた。しかし、そういった企業の実情は、遊びとはほど遠い、旧態依然としたシステムで運営されていて、たとえ「遊び」的な企画があったとしても、それを実行する社員は、遊びと正反対の態度を要求されたものでした。

 しかし、水代さんの会社は、遊びのポジティブな感覚を仕事に裏表なく取り入れているなあ、といつも思います。そもそも、水代さんは「遊び」をどう考えているんですか。遊びがお金を生み出しているから、仕事と切り離せないとは思いますが、そのポリシーを詳しく聞きたい。

  

水代 「遊び」っていろんな意味合いがありますよね。仕事に対する遊びとか、受け身で面白いことを体験できたりする時間の過ごし方とか。けれど、今、シンプルにそう尋ねられたら浮かんできた言葉が、「問題解決」なんです。

 問題解決というと、だいたいみんな「どうしたら解決できるだろうか」とまじめに考えますよね。それはすでに「詰んでる」状態だと思っています。ワクワクドキドキすることから始めないと、解決できない。

湯山 のっけから、核心に迫るワードが出てきましたね。そう、仕事はすべて「問題解決」が基本。しかし、仕事の現場では「問題はなるべく起こってほしくないもの」と思われていて、そこには「謝っとけばいいじゃないか」というような回避姿勢しかない。そこにこそ遊びの態度、つまり、ワクワクを持ち込んじゃえ、という発想ですね。

水代 そうですね。もちろん、自分たちは「遊び」のセンスがある空間や機会をつくっているのですが、その根本は思考の転換。「問題解決」を遊び感覚でやってしまえ、と。

湯山 水代さんが数年来、手がけてこられた一色海岸の海の家「カフェ ド ロペ ラ メール」の運営を支えたのは、そのモードだったんですね。とはいえ、周囲との軋轢(あつれき)もあるなか、もちろん、売り上げを確保しなければならない。設備投資や人件費もかかるし、こういうハードな現状だとそこで疲れてしまって、現場は萎縮するものです。しかし、そこに限らず水代プロジェクトは、いつも現場が生き生きとしていて、ホスピタリティーにあふれている。

水代 僕の方針としては、目標金額のつじつまを合わせるような解決方法を探るのではなく、「夕日に映える富士山を多くの人に見せたいな」「こんな美しいところにDJブースをつくったら、ノーギャラでDJを呼べるかな」といったところからプランを設計します。もちろんお金は大事だから、自分のネットワークをどう絡めていけば楽しいコンテンツをつくれるか、広告をどう取るか、といったことはよく考えます。

 たとえば、土日に営業すると売るものが全部なくなるので、月曜日は休業にして仕込みに当てるケースが多いのですが、だったらその状況を生かして面白いことをしたいと考える。大規模な仕込みのいらないバーベキュー企画だったらできるんじゃないか、とか。

 そこで、近所の海女さんや農家から素材を仕入れて、いくらか会費をとってイベントを開く。そこに大物DJが「月曜日だったら時間が空いてるからやってやるよ」と来る。そうなると「あそこ月曜日面白いらしいぜ」とウワサになる。そこまでいくと代理店が動いて広告がつきます。閑散としていたはずの月曜日がにぎわうようになる。最初の「面白いことしたいね」というワクワクがお金になるとはこういうことです。

  

水代 優(みずしろ・ゆう)

1978年生まれ。愛媛県出身。2002年より株式会社イデーにてカフェやライフスタイルショップの新規出店を数多く手がける。2012年にgood mornings株式会社を設立。東京・丸の内や神田、日本橋浜町を始め、全国各地で「場づくり」を行い、地域の課題解決や付加価値を高めるプロジェクトを数多く仕掛ける。

フラットな人間関係こそ「遊び」で得られる財産

湯山 まあ、「遊び」ってこの国では旗色が悪い。なぜならば、遊びとは、散財して世の中にある快楽的なサービスを受けること、としか理解されていないからなんですよ。バブル世代は「遊びまくりの世代」と思われていますが、その最年長世代としての実情は「おカネがないけど工夫して遊んだ」というもの。いい大人が公園で缶蹴りとかしてましたらね。

 本来、遊びってお金を払えば誰でもできるようなことではないと思うんですね。「遊びはサービスを受けるという受動的なものではない」ということがわかっていない。

  

水代 そう、まさに消費サービスがもたらす「受け身の“遊び”」からは、「問題解決を思考するよろこび」は育たないんですよ。こうすれば、もっと面白いというワクワク感よりも、めんどうくさいから、やめとけ、という思考回路になってしまう。 

湯山 もうひとつの水代さんの仕事全般に感じるのは、日本のサービスや企画にはあまり現実化していない、クラブカルチャー的なセンスです。クラブのなかでは人種も所属も年齢も関係なく、みんなが同格。楽しみ方もインディペンデント。

 日本だと友達と一緒に行ったらそのグループだけで楽しむけれど、クラブでのトーン&マナーはそうではなくて、いっしょに友達と入ったとしても、勝手に帰ってしまうこともある。その自立と自由な感じ、また、クラブでしか会わないけれど、その人の素性を詮索(せんさく)しない。つまり、名刺交換しない人のゆるやかなつながり、などの人間関係などは、水代仕事のいろんなところに顔を出していると思う。

水代 そうそう。今もナイトクラブは通っています。あそこは扉を開けたらフラットな場所。いつ行ってもいいし、帰ってもいい。そういう自由なコミュニティーのなかに身を置けることは心地いい。フラットにいられる場所はたくさんあったほうが楽しいですよね。

 何もそれはクラブだけじゃない。本社がある日本橋浜町の町内会もクラブと同じくらい面白い。掃除のお手伝いをして、夏祭りには100円のかき氷の出店を手伝って……ってこれはボランティアですけど、そういうところで信用経済が発生して、いい人たちが集まってくる。

湯山 とはいえ、日本ではクラブが居場所になってしまうキライがありますね。わかってないヤツらを疎外する、という態度は今のネットカルチャーも含め、文化系にはありがちなんだけど、オープンを標榜(ひょうぼう)しつつ、ムラ的なメンタリティーが支配してしまう。誰がいつ行っても離れてもいい。行ったら行ったで、その場の信頼関係ができる。それを支えているのは、人それぞれの価値観を尊重するという個人主義なのですが、それが備わっている人といない人が今、大きく分かれている。

水代 リテラシーが高い人ほど、「あらゆるカルチャーはマニアがつぶす」と感覚的にわかっていますよ。自分もこの年齢(39歳)になったからこそ、人が集まる場で偏った価値観を押しつけないよう、チューニングしていかなければと思っています。「クラブって、おじさんたちが幅を利かせて遊ぶところでしょ」と言われないようにしないと。でも実は今、なぜか20代の子たちがフラットな環境を求めず、権威主義、名刺主義に戻っている感じがするんですよね。

  

湯山 ホント、その通りです。

水代 丸の内でイベントを開いたときに、せっかくフラットなコミュニティーづくりをしようと設けた場なのに、同じ会社の人が群れて選民意識のようなものを感じてしまって。特に男子に多いですね。

湯山 なるほど。女の子はどうですか。一定の傾向を感じたりしますか?

水代 うちのスタッフは半分ほど女子ですが、男子に比べて圧倒的にさぼらないなとは思います(笑)。でも、それが逆に弱点。まじめすぎるんです。さぼりから魅力的なアイデアが生まれることも多いんだけど。

湯山 なぜならば、「遊び」は最も女性に望ましくない態度なんですよ。女子がまじめなのはそういった無言の教育を周囲から受け続けているから。「自分のために遊ぶおかあさん」なんかは言語道断と思われてきたでしょ? このことにざわつく心や空気がすなわち、水代さんの会社の女性社員の「まじめさ」の原因なんですよ。

  

水代 会社のウェブサイトには、「遊食住にとことん向き合う」と書いています。遊びはそれくらい大事なもの。ドイツ人は日本人より残業をしないけれど生産性は1.5倍だそうです。8月には3週間もバカンスを取ります。その代わり、クリスマス休暇までの9、10、11月の集中力はものすごい。その間、日本では体育の日、文化の日……とばらばら休むから、まとまった休みがとれないばかりか、グローバル時代なのに他国とペースが合わず仕事もしにくい状況。

 「祝日に仕事をしてもいいから、旦那さんや奥さんの誕生日は休みたい」という人はたくさんいると思うんですよ。クラブだって海の家だって、土日に600人もの来場者で混み合っているなかで遊ぶよりは、分散して250人程度の規模になるほうが、遊ぶ人も働く人もちょうどいい。それぞれのライフスタイルに合わせてフレキシブルに休みを取れる社会になったほうがいいと思います。

湯山 会社単位でも社員単位でもいいけど、それぞれが独自のルールで休みを決めていく。それがこれからの社会にフィットしたシステムということですよね。最後にひとつ、こういう時代において、どんな生き方の人がかっこいいと思いますか。

水代 どれだけ年下の人とでも「最近の若いやつは……」ではなく「今後は彼らの時代だから」というテンションで話せる人ですかね。クライアントの担当者も20代の子が多いので、そういう気持ちを大切にしています。あとはツッコみやすい人かな(笑)。

  

湯山 ツッコみやすい?

水代 全くスキがない人っているじゃないですか。芸能人にしたって、完璧でかっこよすぎる人だとつっこみにくい。一昔前はそれが憧れの対象になっていたけど、SNS全盛の今は、周りからああしたほうがいい、こうしたほうがいいとアドバイスを受けながら個性を伸ばしていく時代だと思う。自己分析なんて、往々にして間違えていることが多いですからね。やっぱり周りの意見に真摯(しんし)に耳を傾けられる人のほうがカッコいい。僕も気軽につっこんでもらったほうがうれしいですね。

湯山玲子の取材後記

“遊びの心”に宿る突破力

湯山玲子

 政府の「働き方改革」の諸法律が制定され、厳密に適用されると「日本的雇用」は根底からダメージを食らうと予想される。そうなったときに人々はシビアに、自分はどういう働き方をしたいのか、どういう会社が人生の多くの時間を費やすのにふさわしいか、という問いに向き合わなくてはならない。

 世界の一流DJがお忍びでプレーし、地元民も都会からの客も音楽と自然を心から楽しんでいるような海の家や、丸の内の女性ワーカーたちの社外ネットワークづくりに寄与した丸の内朝大学などの現場で見かける社長・水代さんは、常に現場の最前線で自ら客とコミュニケーションを楽しみ、従業員達を引き立てたりするムードメーカー。今回のインタビューでは、その非常に魅力的な会社組織とそこでの仕事ぶりを支える哲学を語ってもらった。

 私たちの現実社会では、それぞれの既得権益を守ったり、今はもう時代遅れになっているものの前例がないゆえ致し方なく継続中といった様々なシステムや関係性がある。

 新しいアイデアや企画を実現するためには、そこを変えていく必要があるが、その壁はそうとう固くて、厚い。その大変さにほとんどの人や組織が挫折をするが、水代さんが今回語ったそこを突破するための「秘訣(ひけつ)」は、実際、彼の仕事の成果を見ても、かなりの実用性の高いノウハウといえる。仕事上でも、我々の生活上のコミュニケーションとしても、目からウロコの知見なのであった。

 「遊び」という、本質的に日本人が罪悪感やマイナス感情を抱いてしまうワードについての水代さんの見解は秀逸。「事無かれ主義」はすでにサラリーマンの極意ですが、そこから「問題解決はワクワクの遊び気分で」という発想の転換ができるかどうか!?  うーん、実はこれ、相当重要なアドバイスであり、「仕事上のすべての悩みや不安はこのメンタル改革で解決」くらいの強度がある心得だと思いましたよ!

(文・ライター安楽由紀子、撮影・小島マサヒロ)

【取材協力】

good mornings株式会社

水代優氏が代表を務める企画運営会社good mornings。地域おこしをはじめ、人が集まる「場」の編集を広く手がける。直近の大型事例は、日本橋浜町の新拠点「HAMA HOUSE」のプロデュース。メンバーは20名。「場」づくりを一緒にやっていく仲間を現在募集中とのこと。

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PROFILE

湯山玲子(ゆやま・れいこ)

プロデューサー。現場主義をモットーに、クラブカルチャー、映画、音楽、食、ファッション等、文化全般を独特の筆致で横断する執筆を展開。NHK『ごごナマ』、MXテレビ『ばらいろダンディー』レギュラー、TBS『情報7daysニュースキャスター』などにコメンテーターとしても出演。著作に『女ひとり寿司』(幻冬舍文庫) 、『クラブカルチャー ! 』(毎日新聞社)、『女装する女』(新潮新書) 、『四十路越え ! 』(角川文庫)、上野千鶴子との対談集『快楽上等 ! 3.11以降を生きる』(幻冬舎) 、『文化系女子という生き方』(大和書房)、『男をこじらせる前に』(角川文庫)等。月一回のペースで、爆音でクラシックを聴くイベント「爆クラ」を開催中。日本大学藝術学部文藝学科非常勤講師。

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