変化の時代の生存戦略論

「Googleの先を目指す」型破りな授業で話題の小学校教諭・ぬまっち先生が、これからの教育を語る

  • 尾原和啓×沼田晶弘
  • 2018年3月7日

「自立性」「成長する力」を引き出す授業を行う沼田先生(2016年、東京都世田谷区、早坂元興撮影)

 AIが人間を超えていく時代における幸福とは、何か? IT評論家・尾原和啓が、“地方の若者”を切り口に、あらゆる業界のプロフェッショナルをお迎えし、議論する対談連載です。

今回のお相手:小学校教諭 沼田晶弘さん

尾原和啓:以下尾原 仕事で海外へよく行くのですが、ベトナムのハノイの大学生や、ウクライナの高校生と話すと、テクノロジーを駆使して、「海外にある大学の、先端の授業を無料でYouTubeで見てます」、とか、「Github(エンジニアのコミュニティーサイト)でプログラムのコードをアップしたら、たくさんの人に評価してもらえた」とか、そういう機会をすっごく謳歌(おうか)しているんです。

 けど、なかなか日本はそういう状況にならない。今後、テクノロジーによって変化していく時代において、教育現場はどうあるべきなのでしょうか。

 そこで、「MC型教師」「アクティブラーニングを採用した授業」など、教育界だけでなくビジネスシーンでも注目されている「ぬまっち先生」こと沼田先生に、ぜひリアルな現場の声を伺いたいと思いました。その型破りな授業風景を描いた『「変」なクラスが世界を変える! ぬまっち先生と6年1組の挑戦』(中央公論新社)などの著書も非常に話題になっています。

 沼田先生は東京学芸大学付属世田谷小学校に勤められており、子どもたちがAIに負けない人になるよう育てるべく「OK Googleの先へ」という標語を掲げるなど、子どもたちの自立性や成長する力を引き出すユニークな教育を行ってらっしゃいます。

沼田晶弘:以下沼田 よろしくお願いします。まずは僕が関わっている教育分野でのテクノロジーについてお話ししますね。今やっている沖縄の仕事で、株式会社カルティベイトという地域コンサルティング会社と一緒にやっている離島プロジェクトがあります。

 そこでは、離島の子たちを別の離島に集合させ、民泊をしながら交流を深め、離島の魅力を再発見する4日間のプログラムをやっているんです。毎晩2〜3時間くらい講演をしたり、子どもたちを指導したりするときは、先生たちにインカムをつけてもらって同時に僕からも指示させてもらうこともある、という感じです。

motion_imaging/gettyimages

 このプロジェクトに参加して面白いなと思ったのが、東京の僕と、那覇の株式会社カルティベイトの社員と、あとは西表島、与那国島、伊江島の先生方で集まって、Zoomとかでオンライン会議をするんですよ。

尾原 なるほど、つまり不便な場所だからこそ、テクノロジーを有効利用しはじめていると。

ものごとを“自分ごと化”させる重要性

尾原 沼田先生は、例えば織田信長について学ぶ時に、“みんなで芝居をしてみよう”など、一つの授業をプロジェクト型で学ぶような、自分が主人公になって、学ぶスタイルの教育を実践されています。このようなスタイルは、離島の生徒たちとすごく相性がいいんだなと思いました。つまりこれは、ものごとを「自分ごと化する課題」ですものね。

沼田 そうですね、「自分ごと化する課題」で、子どもたちを揺さぶりまくっています。

 離島の人たちと関われば関わるほど、本当に多くの人から「自分の島をよくしたい」と聞く。そこで「じゃあ、あなたの離島のいいところは何?」と質問すると、どの島でも同じ答えなんです。「きれいな海がある」「人が優しい」。

 北大東島のキャリア支援で離島フェアというのがあって、各離島が集まって物産展みたいのをやっているんです。例えば津堅島はニンジンの栽培で有名。そこで「なんでニンジンにしたんですか」と聞くと、「よく育つからさ」と。それではPRにはならないですよね。

 でも実は、津堅島(沖縄県)のニンジンは、含まれるカロチンが2倍らしいんです。でも現地の人は、それがアピールポイントになることに気づいていない。

尾原 なんて、もったいない……。

沼田 ブースをよく見たら、大事な情報が、手書きのメモみたいなやつに書かれ、隅っこに貼ってある。「ちょっと、これでしょ! 重要な情報は」って。観光客から見たときに、何が優れているのかは、外部の目線を取り入れないとわからないものなんですね。島内の人が違う文化に触れないとわからない。

尾原 つい最近、僕も似たような体験をしたんです。昨年の秋に「モチベーション革命」という本を書かせていただいたことで、若い方から、「自分をどうやって生かすか」などというテーマでリモート講演をして欲しいというお話をいただくようになりました。

 そこで、同じテーマについて2カ所でお話ししたんです。1カ所めは、渋谷にある“朝活”コミュニティー「朝渋」。朝7時半から会場に集まって、たくさんの人が画面越しにバリにいる僕の話を聞いてくれたんです。非常に意識が高いですよね。だいたい、高校生から社会人3〜4年目という層の人たちでした。

 もう1カ所は、早稲田や慶應レベルの大学生が集まる就職塾でした。そこで興味深かったのが、自己アピールをするときに面白いことを言える人は、前者のグループに多かったんですよ。

 さっき沼田さんがおっしゃった「このニンジンはカロチン2倍です」というように、「僕の魅力は〇〇です」みたいなことを言える人は、一見、平均学歴が低いはずの前者のグループ。残念ながら、後者の慶應や早稲田の学生グループは、あまり自己アピールが上手とは言えなかった。

 つまりそれって、結局、自分が住んでいる世界の外側にいる人との交流がないから、「自分の何がすごいか」ということを相対的に見られていない。だから自覚できていないんです。

沼田 そうでしょうね。

尾原 就職塾を行っている責任者の方は、「彼らにはぶつかり稽古が必要だ」と言ってました。価値観の違う人とぶつかり稽古をしていかないと、自分の中にある良さがわからない。

 日常の中でちょっとした衝突があると、ここにひらめきが生まれる。だからいかに意識的に、異なる人に自分を話す機会をつくるか、というのが大事。僕が以前勤めていたGoogleでは、このことを「カジュアルコリジョン」と呼んで、重要視していました。

 Googleがなぜランチを無料にするか、ランチメニューのクオリティーに気合を入れているか。それは、ランチカフェの場こそ、カジュアルコリジョンが起きる環境だから。それを意識して設計しているんですね。

Rawpixel/gettyimages

沼田 なるほど。でもそれを学校教育現場に置き換えると、実は子どもの中に混じって給食を食べている先生って、非常に少ないらしいんですよ。

尾原 え! そうなんですか!

沼田 僕はそういうのが一番チャンスだと思っているので、もったいない。

尾原 やっぱり忙しいからなんですか。

沼田 一概に言えることではないですし、実際先生方もそれぞれ尽力されていることなので簡単に言うのはちょっと難しいのですが……。

 例えば先生たちの仕事が多いというのは、子どもにやらせたら子どもの経験になるはずのことも、先生が引き受けすぎてしまっているのではないかな、という気がするんです。僕は、どう教えるかよりも、“どう学んでもらうか”を大事に考えているので、余計にそう見えてしまうのかもしれないのですが。

尾原 そうですね。子どもたちが自主的に学ぶためには、教えないことや教える範囲を調整していくこともきっと大事なのでしょうし。主人公にしてあげることも大事だし、主人公にするためには、カジュアルコリジョンをどれだけつくってあげて、自分たちの中にどんな才能が眠っているのかということを経験する場もつくってあげたほうがいいし。

沼田 あとは僕の持論で、教室の壁にも貼っていることですが、「OK Googleの先へ」という標語を掲げています。つまり、これからどんどんテクノロジーが進化していくと、知識を学ぶなら学校に来るよりプロの授業をYouTubeで見たほうが効率がいい、ということになってくるでしょう。

尾原 おっしゃる通りです。

沼田 そうなると、学校にくる理由は何か? ひとつのテーマについて、みんなで、いろんな見方、生き方、感じ方を共有して、社会を知る場であるべきではないか。時には意見が通らないこともある、ということを知ったりできる場にすることが、学校に残された唯一の道なので。

 つまり学校で勉強を教えるんじゃなくて、勉強の深みとか味わいを学んでもらう場、くらいじゃないといけないのではないか。と僕は思っているので、だから「OK Googleの先へ」と書いているんです。

  

尾原 ほんとその通りなんですよね。

沼田 昔なら、織田信長の人生を自主的に図書館で調べて、レポートを書いてきたら、それだけで「すごいね」と言われたじゃないですか。でも今後は、調べるだけではOK Googleの勝ちなんですよ。

尾原 「Wikipediaコピペで終了」ですもんね。

沼田 だから、それを踏まえて何が言えるか? ということを小学校4年生に毎日やってもらっているんです。

 例えば子どもたちに、新聞のなかから好きな記事を選んで、サマリーを書いてもらって、さらに自分の意見を加えてもらう。この前の選挙のときも、小学校4年生に「僕だったらこの党に入れる」というところまでしっかりと自分の意見を書いてきた子もいました。

 そういう話をすればするほど、子どもたちは自らニュースを見るようになる。うちのクラスでは、本年度の一つの取り組みテーマとして生徒たちに“勝手に東京観光大使”になってもらっていて、最後は小池都知事に自分たちのプレゼンを聞いてもらいに行きたいんですけど、これについて子どもたちはっきりと「チャンス!」って言っていましたね。

尾原 おお、素晴らしい。それをチャンスというところがいいですよね。

沼田 失礼な話ですが、小池さん、ちょっとピンチじゃないですか。新聞を読んだりニュースに興味を持ち始めた子どもたちはそのことも知ってるので、「小学生の取り組みに参加したってニュースになったら小池さんのイメージアップにならないかな」「僕らにとってだけじゃなくて、お互いにとっていいよね、きっと!」とか言ってる。

尾原 そこまで考えているんですね、すごい。学生さんはつい「自分には何もない」と自己完結して、学生であることの武器を社会で生かせていないケースが多い。

 でも、仮に「ゲーム会社のえらい人に話を聞いてみたい」となったときに、社会人から見て自分が若いことや、ゲームユーザーに近い感覚を持っている存在だということを、いかに自覚して、面会にこぎつけるチャンスに変えていくかがすごく大事だと思っているんです。僕はこれを「打算的ないい人の時代」と言っています。

 だから、「今なら、小池さんが僕らに会ってくれるかもしれない!」と、子どものうちから自分たちを相対的に見て、チャンスに変える力を持つことは、後々とても役立つ能力になると思いました。

まとめ
 AIに負けない教育として「OK Googleの先へ」を掲げる沼田先生。子どもたちの自主性を促すための、まるでプロジェクトのような授業風景には、私たち大人が見ても、AI時代を乗り越えていくためのヒントが数多く詰まっています。皆さんはAI時代の学校教育をどう考えますか?

沼田晶弘(ぬまた・あきひろ)
小学校教諭
1975年東京生まれ。東京学芸大学付属世田谷小学校教諭、学校図書生活科教科書著者、ハハトコのグリーンパワー教室講師。東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院で学び、インディアナ州マンシー市名誉市民賞を受賞。スポーツ経営学の修士課程を修了後、同大学職員などを経て、2006年から東京学芸大学付属世田谷小学校へ。児童の自主性・自立性を引き出す斬新でユニークな授業が読売新聞「教育ルネサンス」に取り上げられて話題に。教育関係のイベント企画を多数実施するほか、企業向けに「信頼関係構築プログラム」などの講演も精力的に行っている。著書に『「やる気」を引き出す黄金ルール』(幻冬舎)、『ぬまっちのクラスが「世界一」の理由』(中央公論新社)、近著に『「変」なクラスが世界を変える!』(中央公論新社)。Twitter:@88834

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PROFILE

尾原和啓(おばら・かずひろ)

IT評論家/Catalyst(紡ぎ屋) シンクル事業長、執筆・IT批評家、Professional Connector、経産省 対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザー。京都大大学院で人工知能論を研究。マッキンゼー、Google、iモード、楽天執行役員、2回のリクルートなどで事業立ち上げ・投資を歴任。13職目を経て、バリ島をベースに人・事業を紡いでいる。ボランティアでTED日本オーディション、Burning Man Japanに従事するなど、西海岸文化事情にも詳しい。著書に「ザ・プラットフォーム」(NHK出版新書)「ITビジネスの原理」(NHK出版)。近著に「モチベーション革命 稼ぐために働きたくない世代の解体書」(幻冬舎)。Twitter:@kazobara

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