東京都の公園面積は全国○位!! 「Googleの先」を目指す先生が行う小学校の授業内容

  • 尾原和啓×沼田晶弘
  • 2018年3月9日

eli_asenova/gettyimages

前回のおさらい:
 AIに負けない人を育てるための教育として「OK Googleの先へ」を掲げる沼田先生。前回(人工知能)は、生徒の自主性を促すアクティブラーニング(能動的学修)式の授業や、プロジェクト型の授業など、斬新な試みについてお話を伺いました。後編では引き続き、より具体的な授業風景についての話が展開されていきます。

“学び”に年齢制限は必要か?

沼田 学校の朝の会で、子どもたちにフランス大統領選の「ルペンとマクロンの戦い」の話をしたんです。要するに、池上彰さんみたいなことをちょっとやるわけです。子どもたちに、「みんなならどっちに投票する?」と聞くと、最初はみんな「マクロン」って言うんですよ。「移民を受け入れないのはかわいそうだから」って。

尾原 まずは感情論で動くわけですね。

ferrantraite/gettyimages

沼田 そうそう。で、「じゃあ、移民とはどういうことか知っているか?」と聞くんです。移民が入ってきたら、仕事をするから、自分たちの仕事が減るかもしれないし、文化やコミュニケーションの違いからトラブルが増えるかもしれない。すると今度は、票が半分に割れるんですよね。

尾原 いいですね。

沼田 で、これがフランス大統領選で今まさに起きていることなんだよ、と説明します。もちろん、「子どもにそんなことやらせるなんて早い」という意見もあります。でも子どもは10歳なら10歳なりの考えをちゃんと持っているんですよ。

 50歳の人の考えが、必ずしも正しいわけではないじゃないですか。10歳なりの考えで大統領選を捉えて話をしてもいいはずですよね。日本は学ぶことに対して対象年齢を設けすぎちゃっている気がします。「何歳だからこれはまだダメ」みたいに。

尾原 どんどん検索エンジンが発達してくるにつれて、知識については、検索一つで年齢に関係なく得られるようになってきている。それなら、むしろ活用したほうがいいわけですよね。それに、ただ知識レベルだけで戦っていたら、結局AIに置き換わってしまう

 AIによってもたらされる社会の変化は大きいですよね。仕事そのものや働き方だけじゃなくて、教育もどんどん変わっていくと思います。

沼田 「先生」という名称も、変わるかもしれないですね。“エデュケーショナルコーディネーター”、とか、“アンカー”とか。

尾原 そうですね。学びの舞台をどう設定してあげるかがどんどん大事になってくるでしょうね。

 ところで、沼田先生が掲げている「OK Googleの先へ」は、本当に素晴らしいコピーだと思います。子どもたちはこれを聞いてどういう反応をするんですか?

沼田 たとえば“勝手に東京観光大使”という授業の一環で、公園について調べたことがあります。ここからご紹介するデータはあくまで僕らが授業で調べた上でのデータなのですが、実は、東京都は公園の数が全国一位なんですよ。みんな驚くけど、その情報だけなら「OK Google ,公園数 日本」ですぐに出てくる。

 だから「これでは君たち、勝てないんだよ」と教えるんです。すると、子どもたちはさらに調べて、すごいことを見つけてきたんです。東京都の公園数ランキングは日本一だった。なら東京都の公園面積をランキングにしてみるとどうなるだろう?と。何位だと思われますか。

shih-wei/gettyimages

尾原 数は多いんだけど、東京都は狭いから面積が小さいだろうし……。30位くらいですか?

沼田 と思いますよね。なんと3位ですよ。

尾原 え、うそ! 面積も広いんですね。

沼田 はい。で、東京都自体の土地の面積ランキングでは、45位なんですよ。

尾原 てことは、全体の面積に対する比率ナンバーワン!

沼田 ぶっちぎりです。子どもたちは「東京都は公園だらけ」というキャッチコピーをつけていました。都市の売りになりますよね。これが「OK Googleの先へ」だよ、と教えているんです。「OK Googleは、聞かれたことには答えてくれるけど、3つも4つも情報をひらめいて出せないから、それをひらめいて出せた君たちはすごかった!」と褒めるんです。

 最後に、子どもたちは「なんで公園の面積が東京に多く感じないのか?」と疑問を持ちます。そこで気づいたのは、「東京には、ジャイアンが歌える場所がない」ということです。

尾原 要は、東京は土地が狭いし人目をはばかるから、自由なことができないと?

沼田 ちがうんです。ジャイアンが歌っているのは空き地なんですよ。つまり他県のほうが公園が多いように見えるのは、空き地があるからなんです。

尾原 なるほど。子どもにとって、公園と空き地は同じ「遊び場」ですもんね。

沼田 そうなんです。だけど、東京だと「公園」と名前をつけて整備して管理しないと、土地が埋まっちゃうんですよ。

尾原 おもしろい。確かに、そう考えると“意味合い”まで出すことができますね。

沼田 だから、地方のほうが公園が多く見えるんですよね。

尾原 ちなみに、沼田先生はこの一連の流れをどうやってコーディネートするんですか? それとも、特に意図せずにやっているうちに、自然と生徒がたどり着いたんですか?

生徒の「なんで?」を促していく

沼田 まず、子どもたちが全国の公園数のランキングを調べてきて、「東京は1位だ」と発表します。そこで僕が「でもどうせ、小さい公園がいっぱいあるってことなんじゃないの?」と言ってみる。すると子どもがしたり顔で、「東京はさすがに北海道には負けてるけど、長野に勝っちゃってる」という。さらに僕が「そうなんだ。……てことは?」とみんなを見回すと誰かが「東京は、そもそも面積が小さいから、公園だらけだね」と気づき、「おお!」とみんな喜ぶ。

 そのとき僕は「東京は公園だらけなのに、公園がたくさんある気がしないね? なんでだろう」と促すんです。そもそも、学校のすぐ近くが駒沢公園なんですよ。「ってことは大きい公園が集中的にあるだけじゃないか?」となる。そこでさらに調べると、東京都の公園面積ランキングでは、駒沢公園が23位だったんです。

Laurent Watanabe/gettyimages

尾原 ええ! あれだけ大きいのに結構下なんですね。

沼田 そう。「どうなってるの?」と言うと、子どもたちもすぐ気がつくんですよ。「多摩に面積の大きい公園が集中してるんじゃない?」って。そこで、今度は23区内に絞って、ランキングを調べたんです。それでも駒沢公園はまだ8位なんですよ。

尾原 上に何かいるぞと。

沼田 つまり、東京の大きな公園は、葛西臨海公園とか、代々木公園とか、いわゆる遊具がある公園じゃなくて、運動場や森林やテニス場などをまとめた土地を「公園」としている。だから、「それだとどこからどこまでが公園なのかよくわからないよね」となる。そうしたら、「でも地方にある空き地も、子どもにとっては公園みたいなものだよね」という話になってくる。

尾原 ああ、そこで“ジャイアンが歌う場所がない”という発想がでてくるんですね。つまり、子どもたちにとって沼田先生は「世間の思い込み代表」みたいな立ち位置で、さりげなく疑問を投げかけていく。子どもたちは先生の鼻をあかすのが楽しいから、新しい観点をどんどん思いつく。

沼田 そうそう、「なんでなんで?」と聞くんですよ。そうするとそれに答えてくれる。ちょっと子どもたちが作った表を見せますね。

  

沼田 これが教室中に貼られたデータ表です。23区の公園ランキングとか、全国の公園数ランキングとか、全部調べて貼っていくんです。いつでもぱっと見比べられるように。

尾原 つまりそれが「OK Googleの先へ」で、まずはGoogleで調べられるデータみたいなものをちゃんと可視化する。つまり情報をきちんと整理して並べ変えていくと、俯瞰したときに“気づき”が生まれやすくなる。そして、“気づき”を元に、もう一度、データを深掘りしていく。やがて、なにがしかのメッセージが生まれてくる。

沼田 そういうことです。子どもたちの「これってなんだろう?」「どうして?」という感覚を頼りにデータを深掘りしていくことで、裏付けが取れている状態で答えが返ってくるので、みんなちゃんと納得できるんですよね。

尾原 そうですね。そこは沼田さんが「世間はこう思うよね」とフィードバックしたりするし、子どもたちが「どうして?」となる感覚や感情は、さっきのフランスの大統領選の話と同じですよね。まず感情的な反応を起こしたあとに、情報をつけたすと、別の考えが生まれていく。この差をちゃんと理解したうえで、新しいアイデアが生まれる、ということですね。

学びたい欲求をいかに刺激するか

尾原 沼田先生がそれほど授業の仕方を工夫されているのは、子どもたちが、どうやったら喉が渇くようになるか、つまり”学びたい欲求を刺激し、ハングリーさを引き出すか”ということをすごく考えてらっしゃるからなんですよね。

沼田 そうですね。僕はそれしか考えてないです。たとえば会社の後輩と食事に行く場合。多くの人は「お寿司をカウンターでご馳走すれば喜ぶかな」って思うかもしれません。もちろんそういう方もいるでしょうが、でも本当は焼肉が食べたいことだってありますよね。

尾原 そうですね。

沼田 だとしたら、高級じゃなくてもいい、セブン‐イレブンのカルビ弁当でもよかった、なんてこともあるかもしれない。この場合、値段を労力として捉えるなら、僕は決して高級なものは食べさせないけど、食べたいものはわたしているんですよ。だってカルビ弁当を食べた人は、次は、一度でいいから高級ビーフを食べてみたいなと思って、頑張っていくんです。それが狙いです。

 それも僕が昔から言っているコーチング論なんですよ。要はいいものをすぐ与えようとしちゃダメなんです。免許を取ったら事故らないようにベンツを与えるんじゃなくて、最初はヴィッツがいい。で、そこら中にゴツゴツ当てながら、「車ってやっぱり大きくて安定感があるのがいいな」と本人が気づいたときにベンツを与えれば、効果は絶大なんです。

尾原 うれしいですよね。絶対大事に乗ろうと思います。

沼田 ありがたみも知らないうちにベンツを買い与えると、「なんかもうこんなでかい車乗りにくい」とかいって、逆に文句を言わせてしまうことになるんです。

尾原 そうですよね。今の話がすごく大事だと思います。これからは子どもだけじゃなくて、大人も自分の魅力をちゃんと人にわかるように伝えないと、生き残れない社会になっていきます。

 ましてや時代の変化がどんどん加速しているから、会社の中にいる大人も、新しい時代に合わせた自分の強みを鍛えていかないと、新しいチャンスをつかめなくなってきている。

沼田 先日、ある講演でもその話をしたんです。やっぱり自分の伝え方が下手になっているなと思っていて。そのたとえ話として、ツイッターの紹介文を挙げたんですよ。あれを読んでいると「楽しいことが大好きです」とか、書いている人がいるじゃないですか。

 「逆にきらいな人いるの?」って思うんです。すごく違和感がある。だからそういう話をお客さんにしたらウケていたので、「みんな同じことを思ってるんだな」と思いました。

尾原 ただ、ツイッターで色んな人と交流していくことで、「楽しいことが好きです」と言うんじゃなくて、”ほかの人がなかなか楽しいと思わないことを、楽しいと言ったほうが自己紹介としては強みになる”と気づけることもありますよね。

沼田 そうですね。まさに。

尾原 だから、他者とのいいぶつかり稽古をどれだけ増やすかですよね。外側の人とどんどん関わって、自分を相対化していくことが大事なんだと思います。沼田先生、ありがとうございます!

沼田晶弘(ぬまた・あきひろ)
小学校教諭
1975年東京生まれ。東京学芸大学付属世田谷小学校教諭、学校図書生活科教科書著者、ハハトコのグリーンパワー教室講師。東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院で学び、インディアナ州マンシー市名誉市民賞を受賞。スポーツ経営学の修士課程を修了後、同大学職員などを経て、2006年から東京学芸大学付属世田谷小学校へ。児童の自主性・自立性を引き出す斬新でユニークな授業が読売新聞「教育ルネサンス」に取り上げられて話題に。教育関係のイベント企画を多数実施するほか、企業向けに「信頼関係構築プログラム」などの講演も精力的に行っている。著書に『「やる気」を引き出す黄金ルール』(幻冬舎)、『ぬまっちのクラスが「世界一」の理由』(中央公論新社)、近著に『「変」なクラスが世界を変える!』(中央公論新社)。Twitter:@88834

尾原和啓(おばら・かずひろ)
IT評論家/Catalyst(紡ぎ屋)
シンクル事業長、執筆・IT批評家、Professional Connector、経産省 対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザー。
京都大大学院で人口知能論を研究。マッキンゼー、Google、iモード、楽天執行役員、2回のリクルートなど事業立上げ・投資を歴任。13職目を経て、バリ島をベースに人・事業を紡いでいる。ボランティアでTED日本オーディション、Burning Man Japanに従事するなど、西海岸文化事情にも詳しい。
著書に「ザ・プラットフォーム」(NHK出版新書)「ITビジネスの原理」(NHK出版)。近著に「モチベーション革命 稼ぐために働きたくない世代の解体書」(幻冬舎)。Twitter:@kazobara

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