インタビュー

「絵梨子は私自身。あの時出会わなければ、演じられなかった」 映画『見栄を張る』久保陽香さんインタビュー

  • 文・武田由紀子 写真・花田龍之介
  • 2018年3月19日

【動画】映画『見栄を張る』主演・久保陽香さんインタビュー=高橋敦、佐藤正人撮影

 葬式で泣くために呼ばれる“泣き屋”という仕事がある。かつて日本にもあったという“泣き屋”が主人公の映画『見栄を張る』が、3月24日から公開される。主人公でアラサーの売れない女優・絵梨子を演じたのが久保陽香さん。「絵梨子は私そのものだった」と撮影時を振り返りながら、和やかな雰囲気でインタビューに答えてくれた。まるでふわりとたたずむ一輪の花、久保さんがそこにいるだけで、その場は明るく優しい空気に包まれた。

俳優・久保陽香さん

 「脚本を読んだ時に、絵梨子は私そのものだと思いました。ちょうど仕事で悩んでいたり、家のことでもめていたりした時期だったんです。だから『絶対に絵梨子を演じたい!』と思いました。でもオーディションは散々な結果でした。オーディションの最後に、突然『今から泣いてください』と言われたんですが全然泣けなくって。2回のオーディションで両方泣けず、絶対にダメと思ったら、まさかの結果で驚きました。泣けない売れない女優、そこも絵梨子と重なって選んでもらえたのかな。あの時期に出会えて本当に良かった役。今の私では、演じられなかった気がします」

作中に登場する『スーパーラビットビール』など、小道具のこだわりも楽しい作品。映画『見栄を張る』より (C)Akiyo Fujimura

セリフが胸に突き刺さる。「私自身のリアクションがそのまま演技になった」

 28歳の売れない女優・絵梨子は、オーディションを受けるが鳴かず飛ばず。まわりには「仕事が忙しい」と見えを張りながら日々を過ごしている。ある日、姉の訃報(ふほう)が入り、急きょ帰省する。姉は、葬式で参列者の涙を誘うプロの“泣き屋”の仕事をしていた。残された甥(おい)・和馬の面倒を見ながら絵梨子も泣き屋を始めるが、その難しさを痛感する――。

「藤村監督の作品には、今後も携わらせてもらえたらうれしいですし、今回メッセージを寄せてくださった是枝監督とも、いつかご一緒できたらと思います」

 泣き屋の苦労やリアルな人間模様がユーモラスに描かれ、心地良いストーリーを紡ぐ。セリフも少なく空気感が命ともいえるシーンの数々は、どんなふうに生み出されたのか。

 「撮影の1週間前から稽古に入り、その時に和馬役の子役・岡田くんとも仲良くなりました。最初は、目も合わせてくれない感じだったけど(笑)。リアルに距離を縮められ、おかげでいい雰囲気で撮影に入れましたね。役作り……というのはあまりなく、途中で絵梨子なのか久保陽香なのか分からなくなる時が度々あって。『女優がダメだから、泣き屋になるんじゃダメ』『泣くフリじゃダメ。泣くことで存在を知らしめなきゃ』とか、泣き屋の先輩・花恵さんのセリフがグサグサ突き刺さるんです(笑)。その時の反応も、私自身なんじゃないかと思うことがたくさんありました」

撮影ロケ地は和歌山県海南市や紀美野町、有田川町など、美しい風景が印象的。しっかりした生活を営む地元の人たちと、見えを張って生きる絵梨子との対比も面白い。映画『見栄を張る』より (C)Akiyo Fujimura

 劇中では、カップ焼きそばを食べるシーンが印象的だ。『ペヤング』にチューブ入りのショウガをたっぷり絞って食べるのが絵梨子流。少し辛めで大人の味、このショウガ入り焼きそばは、監督の空想から生まれたものだったという。

 「私は関西人なのでカップ焼きそばは『UFO』派、実は『ペヤング』を食べたのは初めてでした。撮影前に、『ペヤング』にショウガをかけて食べたんですよ。監督に『意外とおいしいですね!』と感想を送ったら、『本当ですか?』と返事がきて。まだ試したことがなかったの? と拍子抜けでした(笑)。

 撮影では、何度も『ペヤング』を食べて、現場中が『ペヤング』のにおいになりました。子役の岡田くんにも焼きそばをすすめるシーンがあるのですが、子供には辛すぎるので、ショウガがないところを食べてもらいました。辛いのが好きな方にはおすすめ、ぜひ試して欲しいです」

チューブ入りのしょうがをたっぷり入れる「絵梨子風カップ焼きそば」。クセになる味だ。映画『見栄を張る』より (C)Akiyo Fujimura

3種類の涙を流し分ける難しさ。「無我夢中で、その時の記憶はありません」

 藤村明世監督は、27歳の新鋭。是枝裕和監督製作総指揮のオムニバス作品の一編を手がける、これからの活躍が期待される女性監督だ。撮影当時25歳、久保さん自身も当時28歳で同世代だが、現場では適度な距離を保ちつつ、互いを信頼しながら撮影が進められた。

撮影現場で映像を確認する藤村明世監督 (C)Akiyo Fujimura

 「稽古の時は、監督がそばにいて話すことが多かったのですが、撮影になると共演者と過ごす時間が多くなり、あまりに近くにいることがなくなりました。監督が唯一近くに来たのが、電車のシーンを撮る時。『ここは大事なシーンなので』と言われ、話をしました。普段はそばにいない監督が横に来て、監督の思いを自然に感じるというか。言葉は少なかったですが、気持ちは同じだったと思います。電車が動く駅と駅の間でしか撮れないので、チャンスも数回だけ。一般の方も乗っている中で、みんなで集中して一気に撮りました」

タバコを吸うシーンに初挑戦。「何度も練習しましたが、『吸い方は大丈夫?』『違和感ないかな?』と今でも気になっているので、そこもチェックしてもらえるとうれしいです」

 「初めて“泣き屋”として泣くシーンでは、『久保さん、涙を3種類お願いします。1つは涙をためているパターン、2つ目は涙を“ツーっ”と流すパターン、3つ目は涙をポロポロ流すパターン。それぞれお願いします』と言われ、監督はすごく“S”だなと思いました(笑)。集中しなくちゃいけないシーンの前に、さらりとそう言われ、『なんとか応えなくてはいけない』と無我夢中でした。正直、その時の記憶はありませんが、監督は『全部やってくれましたよ』と言ってくれたので、ホッとしました」

 オーディションでは泣けずに苦労したが、本番では難なくクリア。泣き屋として立派に仕事をこなし、絵梨子の成長と旅立ちを感じさせるエンディングで締めくくる。涙は「自然と出てくるもの」と当時を振り返る。

 「作品にすっかり入り込んでいたので、それまでが走馬灯のようにフラッシュバックして。『あの時こうだったな』『こういう会話したな』とか思い出すと、思わず涙が出てきました。全然苦しくもないんですよね。自然とあふれ出てきて、こんなに出るんだ!と、自分でもびっくりしました。ちょうど電車から海が見えて、それがあまりにすがすがしくて気持ち良かったのもあります。涙は置かれた状況から自然と生まれるんだと感じました」

悪人役、コメディーにも挑戦したい。「色んな経験をして、演技を楽しめたら」

 クラシックな美しさと現代女子らしい抜け感を携える、注目の女優・久保陽香さん。今後やってみたい役を聞いてみると、意外な答えが返ってきた。

映画『たまゆら』主演や『相棒season16』第4話などTVドラマ、TVCMへの出演、モデルとして活躍中

 「めちゃくちゃ悪い役をやってみたいです。嫌な人、嫌われ者の役とかやったことがないので。あとは、コメディー的な楽しくて笑える作品もやってみたいですね。演じることが好きなので、ずっと長く女優を続けていきたいです。結婚や出産など、いろんな経験をして、その都度、味や芝居の雰囲気も変化していくのかなと。その瞬間ごとに演技を楽しんでいけたら幸せですね」

 映画『見栄を張る』は、今を生きる多くの人に響く物語。見えを張ることで見失ってしまった、生きる真の意味や人との絆の大切さに改めて気づかされる。

 「見た後は、とにかくすがすがしい気持ちになる。そしてポンと背中を押してくれるような作品です。見た人に少しでも何かを感じてもらえたり、背中を押してあげられる映画になればと願っています」

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【動画】映画『見栄を張る』予告編 (C)Akiyo Fujimura

映画『見栄を張る』作品情報
出演:久保陽香、岡田篤哉、似鳥美貴、辰寿広美、真弓、倉沢涼央(旧:齋藤雅弘)、時光睦、小栁圭子(特別出演)
監督・脚本:藤村明世
プロデューサー:今井太郎
エグゼクティブ・プロデューサー:Aldo Andriani
撮影:長田勇市
録音・整音:杉本崇志
主題歌:ayU tokiO「恋する団地」
配給:太秦
2017/日本/カラー/DCP/93分/(C)Akiyo Fujimura
第12回シネアスト・オーガニゼーション大阪助成作品
2018年3月24日渋谷ユーロスペース他全国順次公開
ウェブサイト: http://miewoharu.com/

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