今日からランナー

記録を伸ばす革命的シューズ「ヴェイパーフライ4%」 ナイキが明かした「厚底」の秘密

  • 山口一臣
  • 2018年3月23日

ナイキ ズーム ヴェイパーフライ4%(画像提供:ナイキジャパン)

 記録が伸びるマラソンシューズとして、今やトップアスリートから市民ランナーまでが注目する「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4%」。本稿ではその驚異的なパフォーマンスを引き出す秘密に迫りたい。

 前回の原稿を書いた直後にスポーツ専門サイトの「Onyourmark」が設楽悠太選手のインタビュー記事を載せているのを発見した。そこに、思わず「ホォ〜」と身を乗り出したくなるようなコメントが出ていた。

 日本新記録を出した東京マラソンを始め、ハイペースで結果を出し続けられる理由を問われて開口一番、こう語ったのだ。「靴(ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4%)の影響ですね。勝手に足が動くという感覚です」。サラッと言っているが、これはなかなか聞けないコメントだ。アスリートにここまで言わせる“秘密”はどこにあるのか。まずはメーカー側の“荒い鼻息”を聞くため、東京・六本木にあるナイキジャパンを訪れた。

 知りたいことはたくさんあった。ナイキジャパンのシューズ担当者に素人おやじランナーとしてあれこれ思いつく限りの質問をぶつけてみた。そこで見えてきたのは、このシューズに関してこれまであまり語られていなかった二つの大きな事実だった。それを説明する前に、マニア以外の人のためにもこの「ヴェイパーフライ」シリーズの全体像について触れておきたい。

 そもそもナイキ ズーム ヴェイパーフライ4%とは何なのか? ランナーの間では、ナイキが挑戦しているフルマラソン2時間切りプロジェクト“Breaking2”のために開発された「ヴェイパーフライ エリート」(非売品)の市販モデルとして知られている。ヴェイパーフライ4%は、エリートとは使用素材が一部異なるが、基本設計や構造は同じだ。

 Breaking2は2017年5月6日にイタリアのレーシングサーキット、モンツァ・サーキットで行われた。ニュースで取り上げられたこともあって知っている人も多いと思うが、「人類の壁」を打ち破るために複数のペーサーが交代で風よけになって走るなど特殊な条件下で“サブ2”に挑むという企てだ。

 ここで、ケニアのエリウド・キプチョゲ選手がヴェイパーフライ エリートを履いて2時間00分25秒という驚異の記録を打ち立てた。1時間台には26秒およばなかったが、フルマラソンにおける人類最速のタイムといっていいだろう。

サーキットを使った「人類最速」への挑戦に世界中のランナーが熱狂した(画像提供:ナイキジャパン)

 ナイキはこの見事なマーケティングキャンペーンで世界中のランナーの目を引きつけ、満を持する形でズーム ヴェイパーフライ4%(2万5920円)とその普及版であるズームフライ(1万6200円)を市場に投入した。

 ヴェイパーフライ4%は上級者、具体的にはサブ3(編注:フルマラソンで3時間を切ること)をめざすランナー向け、ズームフライはより一般的なランナー向けと位置づけられている。コンセプトは同じだが、ソールの素材やアッパーのデザインが少し違う。

 ヴェイパーフライ4%は軽さを極限まで追求しているため、ズームフライより値段は高いが耐久性は低いとされる。私を含め「今日からランナー」の読者には、ヴェイパーフライ4%より普及版のズームフライの方が気になるところだろう。

ナイキ ズーム フライ(画像提供:ナイキジャパン)

特殊素材を使用 ナイキが挑んだ業界初の試み

 以上がこのシューズについて知っておきたい基礎知識だが、ここから先、いよいよ知られざる事実に迫る。ナイキジャパンへの取材でまずわかったのは、このシューズのデビューがBreaking2だったことやナイキ自身が「史上最速シューズ」と宣伝していることから“速さ”にばかり目を向けられがちだが、実は“速さ”は結果としてついてくるものだということだった。

 一般に、ランニングシューズに必要とされる機能は「軽さ」と「接地感」(クッション性)と「推進力」(反発性)だ。各メーカーともこれを追求するため、開発にしのぎを削っている。

 ナイキはヴェイパーフライシリーズの開発のため、前出のキプチョゲ選手をはじめ多くのアスリートから意見を聞いた。その結果、軽さや推進力は当然のこととして、「クッショニング」に対する要望がとくに強かったという。選手生命を長く維持するためにも「脚への負担が少ない」シューズが求められていたというのである。

 しかし、クッション性と軽さの両立は従来のソールの素材では実現がむずかしかった。この課題を解決したのが航空宇宙産業で使う特殊素材だ。クッション性に優れてなおかつ軽い素材が見つかったのだ。

 ナイキジャパンによると、これは業界では初の試みだという(ちなみに、この特殊素材の生産が追いつかず品薄状態になっているとも)。さらに、「スパイクで前に進むような」押し出す推進力をつけるため、特殊素材の間に反発力のあるスプーン状のカーボンプレートを挟みこんだ。つまり、これまで軽さや推進力の犠牲になりがちだったクッション性をまず先に確保し、そこに軽さと推進力を付け加えていったという順番だ。

クッション性の高い素材にカーボンプレート(赤い部分)を挟みこんだ(画像提供:ナイキジャパン)

 レース中の脚への負担が少ないということは、フルマラソンの後半で威力を発揮することになるだろう。さらに、レースとレースの間のリカバリー(回復)も早くなる。前出の設楽選手が毎週のように大会に出られるのもこのためだ。本人も「疲労感が全然違う。僕の中で毎週ハーフマラソンを走れるくらいのシューズ」「今はあのシューズがないと走れない。ダメージもないので、結果に結びついている」とコメントしている。

 さて、ここまで読んでもう一つの秘密というか事実に気づいた読者も少なくないはずだ。そう、ヴェイパーフライ4%はいまや「厚底シューズ」の代表のような見られ方をしているが、ナイキは厚底をめざしてつくったわけではないということだ。クッション性と軽さと推進力のすべてを追求した結果、ソールにさまざまな工夫が詰め込まれ、結果として厚底になったということなのだ。

 ナイキジャパンの担当者も「どうも厚底だけが強調され過ぎてしまっている」と語っていた(しかし、宣伝では「厚さは速さだ。」というコピーを使っているのだが……)。いずれにせよ、現在のブームを「厚底vs.薄底」対決のように捉えるのはちょっと違う感じがする。

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 問題は、このはやりのシューズを着用すれば誰でも結果が出せるかということだ。正直、このシューズには「履き手を選ぶ」という側面がある。ナイキジャパンの担当者も、それは認めていた。では、どんな走りをする人に向いているのか? 我々レベルのランナーが手を出しても大丈夫なのか? 気になるところはいろいろある。以下、次回。

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PROFILE

山口一臣(やまぐち・かずおみ)

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1961年東京生まれ。ゴルフダイジェスト社を経て89年に朝日新聞社入社。週刊誌歴3誌27年。2005年11月から11年3月まで『週刊朝日』編集長。この間、テレビやラジオのコメンテーターなども務める。16年11月30日に朝日新聞社を退社。株式会社POWER NEWSを設立し、代表取締役。2010年のJALホノルルマラソン以来、フルマラソン20回完走! 自己ベストは3時間41分19秒(ネット)。

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