今日からランナー

本当に記録は伸びるのか? 革命的シューズ「ナイキ ズームフライ」で走ってみたところ……

  • 山口一臣
  • 2018年4月6日

(画像:ナイキジャパン)

 設楽悠太選手や大迫傑選手といったトップアスリートが履いて次々と記録を塗り替えているナイキ ズームヴェイパーフライ4%を一般ランナー向けに調整した普及版モデルが「ナイキ ズームフライ」だ。基本コンセプトは同じだが、ソールの素材が違うほか、ズームフライは普段のトレーニングにも使える耐久性を備えている。

 ヴェイパーフライ4%はサブ3(フルマラソン3時間切り)をめざす上級ランナー向けといわれているので、私を含めたこの連載の読者が狙うとすればズームフライの方だと思う。だが、初中級者にとって普及モデルとはいえトップアスリートが履いているのと同じコンセプトのシューズに手を出すのはちゅうちょがあるだろう。

 これまでの“常識”では、シューズには初心者向け、中級者向け、上級者向けという区分が厳然とあって、初心者が背伸びをして上級者向けシューズを履くと、脚への負担が大きく故障につながるおそれがあると言われたり、パフォーマンスがかえって落ちると言われたりしていた。

 ヴェイパーフライ4%はもちろん、ズームフライも“上級者向け”のカテゴリーに入る。でも、これだけ話題になると気になる。とにかく一度、履いてみたい……。

 そんなランナーに耳寄りの情報を見つけた。うわさのシューズ、ズームフライを試着できるところがあるのである。3月29日にオープンしたばかりの東京ミッドタウン日比谷の地下にあるランニングステーション「ラフィネランニングスタイルNeo」だ。

 シューズレンタル料はたったの110円(しかも、他に何かレンタルすると無料に!)。さっそく、ラフィネランニングアドバイザーでRun Revo代表の平山光典コーチにアレコレ話を聞きに行った。

取材者情報

平山光典

平山光典(ひらやま・みつのり)

ラフィネランニングアドバイザー、Run Revo代表。1975年栃木県生まれ。中央大学陸上部で長距離に所属。卒業後は実業団で活躍し、数々の個人タイトルを獲得した。フルマラソンベストは2時間12分25秒。

自然と体が前に押し出される? ズームフライの構造の秘密

 ズームフライシリーズは「履き手を選ぶ」と言われている。走りに合わせて靴を選ぶのではなく、靴に合わせた走りが必要だという。どういうことか? 平山コーチがわかりやすく解説してくれた。まずは下の写真を見てほしい。

(撮影:筆者)

 これまでのシューズは踏み込むと靴の前足部がググッと曲がった。平山コーチによると、この反発を推進力にしているという。ところが、ズームフライは上から力を入れて押さえ込んでも曲がらないのだ。

(撮影:筆者)

 理由は、前回説明したようにソールにカーボンナイロン製(ヴェイパーフライ4%はカーボンファイバー製)のプレートが挟み込まれているからだ。

 横から見ると、つま先がせり上がり、床との高さの差が45mm以上ある。これを履いて重心を前へ傾けると、船底の上に乗っているような感じで自然と体が前に押し出される。

(撮影:筆者)

 「秘密はコレか!?」と思わずひざを打った。昨年のシカゴマラソンの優勝者ゲーレン・ラップ選手が言っていた「まるで下り坂を走っているみたいだ」という感覚だ。平山コーチもこう話した。

 「つまり、重心移動で走るということなんですね。それを意識して、脚の使い方を変えないとダメなんです。うまくできるとスイスイ進む感じ、走らされている感じが得られる。逆にいうと、それができないと余計なところに力が入って、背中や太ももの前側への負担になる。重心移動で走るフォームを身につけるのは、ちょっとしたコツが必要です」

 コツのひとつが着地点だ。ランニングの着地には「ヒールストライク」(かかと着地)と「ミッドフット」「フォアフット」の3つがある。

 ミッドフットは足裏全体もしくは中足部から接地する走り方でフラット着地ともいう。フォアフットは、つま先から着地する走法で、アフリカ系エリート選手の多くがとりいれている。ズームフライシリーズはフォアフットもしくはミッドフットで走ると最大のパフォーマンスが引き出せるという。

 ただ、完全なフォアフット走法は日本人には骨格の関係などで習得が難しいともいわれる。なので、ドラマ「陸王」で茂木裕人選手もとりいれていたミッドフット走法がおすすめだ。平山コーチは、これに加えて脚のスイング(振り)を意識的に速くするといいとアドバイスする。尻と背中の筋力を強化すると、よりいっそうシューズに合った走りができるという。

 私のようなレベルの者が履いていいものかという当初からの疑問については、初心者とか上級者といったことよりも、このシューズの特性を理解し、シューズに合った走り方ができるかどうかが重要だと話してくれた。それができればサブ4〜4.5狙いのランナーでも、あるいはもっと遅いランナーが履いても大丈夫なようだ。

シューズの効果? 試走で1kmあたり30秒ほどペースアップ!

 さて、いよいよ試し履きだ。私は普段からミッドフットに近い走り方をしているが、いつもより前足部に意識をおいて走ることにした。

 走り始めて最初に「エッ」と思ったのは、なんとも言えない“やさしさ”だった。やわらかい。そして、足全体が守られている感じがする。しばらくすると、それがクッション性によるものだとわかった。

 私もランニング業界の“常識”を信じて、初心者のころはショップの店員に言われるままに厚底シューズを購入し、走力がつくにしたがい薄底に移行してきた。

 最近は、練習も本番も上級者(中級者?)を気どって薄底シューズオンリーだった。だから、なおさらその“やさしさ”が新鮮だった。アスファルトの上を走っているのに突き上げがない。まるで芝生の上を走っているような感じなのだ。

 もうひとつ、見た目の印象より軽いことにも驚かされる。聞けば、片方約248グラム(メンズ28cm)で、私レベルのランナーには十分な軽さだ。ちなみにヴェイパーフライ4%は特殊素材のソールを使っているため、片方約184グラム(同)を実現している。

 軽く皇居を一周(約5km)する。重心を少し前に移すと「スイスイ進む」感じは比較的容易に体感できた。肝心の“速さ”については、正直、私の体験だけで結論づけるのは難しい。ただ、1km6分前後のペースで走っているつもりだったが、後でガーミン(GPS付きランニングウォッチ)の記録を見るとキロ5分半、つまり1kmあたり30秒ほどペースが上がっているのがわかった。

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 気分が高揚していたからなのか、ズームフライの効能なのかはわからない。だが、前述の“やさしさ”のおかげでいつもより楽に走り切れる感じはした。

 これでフルマラソンを走ったらどうなるか? ますます興味がわいてくる。このクッション性がレース後半(35km過ぎ)でプラスに作用するか、あるいはペースが上がり過ぎて失速するか(ペースが上がり気味になるということは、それに合わせた心肺機能や脚力を向上させるトレーニングをした方がいいのは言うまでもない)。

 ネット通販を見る限り、ヴェイパーフライ4%もズームフライもあいかわらず品薄が続いているが、次のレース(ロンドンマラソン/4月22日)までにはなんとかゲットして、このシューズで42.195kmにトライしてみたいと思った。

 なお、前述のラフィネランニングスタイルは、神田、日比谷、日比谷ミッドタウンと都内に3店舗あり、いずれもズームフライのレンタルをしている。シューズの合う/合わないは個人差があるので、まずはレンタルで試してみるのもいいだろう。

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PROFILE

山口一臣(やまぐち・かずおみ)

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1961年東京生まれ。ゴルフダイジェスト社を経て89年に朝日新聞社入社。週刊誌歴3誌27年。2005年11月から11年3月まで『週刊朝日』編集長。この間、テレビやラジオのコメンテーターなども務める。16年11月30日に朝日新聞社を退社。株式会社POWER NEWSを設立し、代表取締役。2010年のJALホノルルマラソン以来、フルマラソン20回完走! 自己ベストは3時間41分19秒(ネット)。

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