小川フミオのモーターカー

これがクルマの伝説「ランチア・フルビアクーペ」

  • 世界の名車<第207回>
  • 2018年4月9日

写真のラリー仕様は「ファナローネ」と通称される大型ヘッドランプを備える(画像:FCA提供)

 かわいい。しかも、速い。この二つの性格を備えた稀有(けう)なクルマが、伊のランチア・フルビアクーペだ。なかには1966年に発表されてラリーで活躍した「HF」という伝説的なモデルもある。

 ランチアはいまも存在するブランドだが、1969年にフィアットに買収されるまで、ユニークな設計のクルマを作り続けてきた。フルビアクーペは純粋なランチアとしてほぼ最後のモデルである。

 横からみると小さなキャビンと大きなタイヤの組み合わせがなんだかアンバランスで、それがキュートさにつながっている。

市販車は全長3975ミリと比較的コンパクトだが低いノーズや小さなキャビンなどスポーティな雰囲気(画像:FCA提供)

 いっぽうで、ノーズは低く、ヘッドランプの存在感がきわだつ4灯式のフロントマスクには、ある種のすごみを感じる。

 エンジンはランチアが得意とした狭角V型4気筒。通常のV型といえば60度か90度のバンク角がメインであるのに対して、このときのランチアのエンジンは11度から12度だった。

 超狭角のV型にすることで、DOHCでありながらカムシャフトは4本でなく2本、シリンダーヘッドも一つ。結果、コンパクトで軽量というメリットにつながった。

 かつエンジンを左に45度も傾けて搭載。重心を低くするとともに、前車軸の前にオーバーハングさせることで前輪駆動の駆動力を確保していた。

前輪駆動は雪道などすべりやすい路面で強さを発揮した(画像:FCA提供)

 サスペンションは前後独立式で、前はダブルウィッシュボーン式。ブレーキは60年代の量産車としては珍しく4輪ディスク式だった。

 フルビア(クーペ)は60年代のランチアのラインナップではボトムラインに位置するクルマだが、このように理想的なクルマづくりを追求。ランチアが多くのひとを惹(ひ)きつけた理由だ。

これは現在のクラシックカーレースでのひとコマだけれど、当時は様々なイベントで走った(画像:FCA提供)

 ランチアの創業者はもとレースドライバーだったこともあり、戦前から一貫してモータースポーツ活動をさかんに行っていた。

 ミッレミリアやタルガフローリオ、それに北米のカレラ・パナメリカーナメヒコという公道レースで好成績をおさめ、1950年代にはF1にも参戦した。

 F1は途中で資金がなくなって撤退の憂き目にあったが、マシンの性能の高さに目をつけたフェラーリがそれを買い取りレースを続けたという逸話もある。

 フルビアクーペはベースになったセダンのホイールベースを150ミリも短縮。コンパクトできびきびと走るハンドリングの良さを持つモデルだ。

1.3リッターと1.6リッターのV型4気筒エンジンを搭載(画像:FCA提供)

 さらに上をいくスポーツモデルのHFはオリジナルと同じ排気量の1216ccを搭載して、馬力は80馬力から88馬力に引き上げられていた。

 さらなる特徴は軽量化だ。アルミニウム製ボンネットやドアやトランクリッド。さらにプレクシグラス(合成樹脂)製のサイドおよびリアのウィンドーが採用されていた。

 軽さこそが速く走るために必要な条件なのである。加えてエンジン排気量は拡大していった。当初のエンジンでは“戦闘力”が低いため、101馬力のラリー1.3HFが登場。続いて、115馬力の1.6HFと続いた。

 1.6リッター版はさらに132馬力のパワフルなモデルも限定生産された。規則で、ラリー出場の資格をとるため、一定数以上の生産が義務づけられているからだ。

デザイナーは社内のピエロ・カスタニェロというが、キャビンのCピラーが後輪の上にくるようにするなどデザインの定石に忠実(画像:FCA提供)

 はたしてラリーを中心に数多くのイベントで勝利を重ねるようになり、きわめつきは72年にモンテカルロラリーで優勝したことだ。4位も5位もフルビアクーペHFだった。

 ラリーにはランチアはフィアットと開発したストラトスを投入していたが、翌73年も74年もフルビアクーペHFはさまざまなイベントで好成績を残した。

 フルビアクーペHFがユニークなのは、ラリー仕様も量産車とほぼ同じ内装を持つなど、街で走っているクルマがそのまま戦っているようだったことだ。ラリー仕様では、エンジンの出力だけは160馬力に上げられていた。

 速さだけだったら、歴史に残るクルマにならなかったかもしれない。スタイリングを含めてすべてがみごとに調和している、貴重な魅力を持ったモデルなのだ。

フィアットのデザインチームが2003年に発表した、フルビアクーペを現代的にリデザインしたコンセプトモデル(画像:FCA提供)

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