いしわたり淳治のWORD HUNT

新曲のタイトルがもはや事件!? 星野源に宿る“無敵感”

  • いしわたり淳治のWORD HUNT〈vol.6〉
  • 2018年4月20日

  

 音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。その鋭い批評眼で、今日も世間の言葉を斬っていく。

 今回は、星野源の新譜のタイトル、有吉弘行の一言など、5つの言葉がいしわたりの標的となった。

いしわたり淳治 いま気になる5つのフレーズ

  

 星野源のニューシングルのタイトルが「ドラえもん」である。すごい。これはすごい。私もこれまでにたくさんのドラマ・映画・アニメ・CMのタイアップ曲を書かせて頂いたけれども、そのものズバリの歌詞は書かせてもらったことがない。むしろ、レーベルサイドからのオーダーでいちばん多いのは「ストーリーに寄せすぎないでください」というものだったような気がする。

 その意図をわざわざ確認したことはないけれど、おそらくアーティスト自身がこの先長く歌うことを考えると、ドラマなり映画なりの作品イメージを強く付けすぎたくない、ということなのだろうと思う。もちろん、その気持ちもよく分かるし、タイアップというのはそういうものだと思っていた。

 そこへ来て、星野源のニューシングルが「ドラえもん」である。映画「ドラえもん のび太の宝島」の主題歌に「ドラえもん」とつけられる、星野源というアーティストの今の時代における無敵感、余裕、ある種のすごみのようなものを感じる。ちょっとした事件だなと思った。長い歴史のある「ドラえもん」という作品をこれほどまで真正面から背負うのはかなり勇気が要ることだからだ。サビのパンチライン、「どどどどどどどどど ドラえもん」というフレーズもシンプルかつキャッチーで素晴らしかった。

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 3月7日放送の「マツコ&有吉 かりそめ天国」(テレビ朝日系)でのこと。ANAのファーストクラスを体験するVTRが流れる中、座席というよりもはや部屋と言うべき広いスペースを見た有吉さんが、「漫画喫茶だ」とつぶやいた。

 たしかにサービスも食事も素晴らしいし、フラットに寝ることもできて機能的な席だけれど、冷静に考えたらこれは漫画喫茶と大差ないのだと思うと、少しむなしい気分がした。この先、おそらくファーストクラスに乗ることはないだろうから、逆に漫画喫茶に行ったら、「これ、ファーストクラスと同じくらいの広さなんだよなあ……」と思い返すことになるのだろうなと思った。

 価値と価格について考える時、いつも思うことがある。例えば3000円で何か食べようと思った時、3000円の懐石料理のコースなんてのはおそらくそれなりだと思うけれど、一杯3000円のうどんとなれば、なかなかの高級品だろう。どちらを選ぶかと言われたら、後者を選ぶべきだと思う。

 後者ならば当然、味も良いだろうし、食べた後も「この前、一杯3000円もするうどん食べてさあ……」なんて話もカジュアルにできて、費用対効果を考えたら十分に価値があると思うのだ。

 その意味で考えると、往復で数百万円もするファーストクラスに乗って、その出費の元をとろうとしたら、「ファーストクラスに乗ったときさ……」なんて自慢話を向こう10年くらい毎日しないといけない気がする。「うわぁ、あいつまたあの話してるね……」と、後ろ指をさされるに違いないから、間違っても庶民は乗ってはいけない席だとあらためて思った。

  

 子供を託児エリアに預けて、隣のオフィスでママたちがデスク仕事をするという託児機能付きオフィスを展開する株式会社ママスクエア。同社代表の藤代聡氏はリクルートの元社員だそうで、そこで学んだ「“不”があるところにビジネスチャンスがある」という理念が事業の発想の源になっているのだそう。藤代氏いわく、リクルートという会社は、結婚・就職・引っ越しなどやったことがなくて「不安」や、情報がなくて「不満」というジャンルにおいて成功を収めた会社なのだという。

 なるほど。そういう目線であらためて“不”のつく言葉を探してみると、「不便」は“便利グッズ”に、「不運」は“占い”に、「不精」は“各種代行サービス”に、「不機嫌」は“飲み屋やカラオケ”に、「不遇」は“転職サイト”に、「不健康」は“フィットネスジム”に、「不測」は“各種保険”に……という具合に、たしかに様々な“不”がビジネスに転換されていることに気がつく。まだ誰も気づいていない“不”を見つけたら、そこにはチャンスがあるのかもしれない。

  

 3月14日放送の「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ系)でのこと。「奥さんに“俺がこういう価値観だ”って言って押し付けて、奥さんもその価値観になったらもう、それは俺じゃん。俺は俺と結婚しないもん。俺と全然価値観違っている人と結婚したんだから」と、所さんが言っていた。

 好みのタイプを問われたとき、多くの人は「価値観が一緒の人」と答えると思う。「価値観が違う人」とはなかなか答えないだろう。私も価値観が違うよりは同じほうが暮らしやすいだろうとは思う。

 でも同時に、自分の価値観は一体いつ出来上がるのだろう? と思う。もうすでに出来上がっているとは到底思えないし、この先完全に出来上がることなんてあるのだろうか? とさえ思う。

 たぶん、価値観なんてものは移ろいやすいもので、日々刻々と変化しているような気がするのだ。そうでなければ、一度買おうかどうか迷った服を、2日後に買ったりしないはずだ。価値観が変わっていなければ、2日後も買うかどうかは「保留」だろう。

 買うと決めたということは、おそらく、自分の中で何かが少し変わっているに違いない。そう考えると、自分の一時的な価値観を誰かに押し付けるなんて、何とも無意味で、むしろ申し訳ないことのようにも思えてくる。

 おそらく、相手が誰であれ、長く一緒にいれば、互いに干渉しあって、価値観なんてものは互いに変わっていくものだと思う。大事なのは、価値観がどうこうなんて考えなくても一緒にいたいと思える関係で、もし知らないうちに相手の価値観がこちらに入り込んでいても気づきもしない、気づいたとしても嫌じゃない、そういう関係なのだと思った。

  

 4月4日放送「トコトン掘り下げ隊!生き物にサンキュー!!」(TBS系)の特番でのこと。飼い主が「トントントントンヒノノニトン」という日野自動車のCMソングを口ずさむと飼い猫が寄ってくる、という映像が流れた。また、別の猫は「チュール チュール チャオチュール」(編注:いなばペットフードの商品『CIAO ちゅ~る』のCM)という曲をくちずさむと寄ってくるらしい。

 なんだろう。この、商品名の語尾を数回繰り返した後に商品名を歌うと猫の心に響く、というルールは。そう思ったところで、もしかしたらこれは猫に限らず、人間にも当てはまるルールなのかも、と思った。

 というのも、映画「リング」の「来る~ きっと来る~」という歌も、語尾を先に言ってから、主題を言うのだが、おそらく誰もが一回聞いただけで、歌詞もメロディーもしっかり覚えた曲なのではないかと思う。

 だが、あの歌は、実際は「Oooh きっと来る~」と歌っている。それでもほとんどの人は「来る~ きっと来る~」と聞いていた。これはつまり、人間の心の中に潜在的に「語尾を繰り返して欲しい」という気持ちがあるから起きた現象かもしれない、と思ったのだ。

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 サビは「まずキーワードの語尾を繰り返してから、キーワードを言う」。これはもしかしたら、使える作詞技術なのかもしれない。

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