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音と静寂を堪能し、音楽の将来を垣間見ることができた日曜日

  • 『耳で聴かない音楽会』体験記
  • 2018年4月24日

サウンドハグは、演奏に合わせて振動して光る。その光自体がコンサートの演出のようにも見える

どこで最初に目にしたのかは覚えていない。ただ、『耳で聴かない音楽会 SOUND-FREE CONCERT』というタイトルを見て、詳細を読み、まだ実現までに資金が足りていないと知った時、支援するためのクリックをしていた。かっこいいロゴに惹かれた部分もある。

そんなことは初めてだった。テクノロジーを活用して、聴覚に障害のある方も楽しめるコンサートをしようというコンセプトがどうしようもなく気になったのだ。

この記事では、4月22日に東京国際フォーラムで開かれた音楽会そのものに加えて、クラウドファンディングの特典として体験できたことについても説明したい。もちろん、主催者も快く許可してくださった。

リハーサルで体験したサウンドハグ

サウンドハグを抱き、オンテナを髪の毛につけて演奏に聴き入る

支援者になると、リハーサルの際に、実際の演奏で使われる装置を体験させてもらえた。

今回の演奏会を主催し、演奏するのは日本フィルハーモニー交響楽団。テクノロジーで音を”感じる”ための装置「サウンドハグ(SOUND HUG)」は、筑波大准教授の落合陽一さんの会社とゼミが用意したものだ。舞台上でリハーサルが進む中、案内された席に着いてサウンドハグを抱き、さらに、富士通が開発している装置「オンテナ(Ontenna)」を髪の毛につける。こちらも、振動と光で音の特徴を伝えてくれる装置だ。

クラウドファンディングでリハーサルを見学できる権利をもらった30人ほどが席に着き、サウンドハグを抱える。サウンドハグは、楽器の音をマイクで拾うと、コンピューターで解析して振動に変えてくれる。司会者が言葉を発するだけで、抱えた球形の装置がブルブルと震えることに驚いた。

会場の全景

リハーサルは、第2部のサン=サーンス作曲の組曲『動物の謝肉祭』を中心に進んだ。音の高低に合わせてサウンドハグの色が変わるので、視覚的にもとてもきれいだった。通常のコンサートよりもまぢかで演奏を聴くことができたため、すでにお得な感じがする。

『4分33秒』の一体感

 

そして、コンサート本番。 聴覚に障害のある人も、ない人も、一緒になってモーツァルトの『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』の第1楽章を振動と光とともに楽しむ。

続いて、こちらも今回のために制作された、服の内側に数十の超小型スピーカーが仕込まれた服型デバイス「オーケストラ・ジャケット」を何人かが試着して、行進曲の指揮を体験する場面もあった。体験者の中には聴覚障害のある方もいたが、身体に響く低音や振動を頼りに、両手を振り上げて指揮していた。そのうちの一人は「これで初の聴覚障害者の指揮者が誕生しました」とうれしそうに話していた。

今回のコンサートで、耳の聴こえる、聴こえないにかかわらず、全く同じ“聴き方”ができた曲があった。

それはジョン・ケージの『4分33秒』。このタイトルにあるように、4分33秒間、誰もなんの楽器も弾かずただ楽譜をめくる音と、カメラで撮影する音だけが会場に響いた。

事前に曲名はアナウンスされなかったので、最初は少し戸惑っていた客席の人たちも、やがて気づいたのか、全員で静寂を聴く、そんな時間が出来上がっていった。

筆者もこの曲は知っていたが、実際に「演奏」された場にいたことは初めてだ。得難い体験だった。

オーケストラ・ジャケットは、内部に数十の超小型スピーカーが組み込まれていて、個々に音を再生してミックスさせて体感させる仕組みだ

コンサート後には関係者のトークイベントも

コンサートは大成功で終わり、クラウドファンディングの支援者は、余韻に浸りつつ、すぐに始まった落合陽一さんやOntenna開発者の本多達也さんら関係者によるトークイベントに参加できる。

落合さんの言葉が印象的だったので、そのまま書いておきたい。

「ドレミファソラシドで聴かない音が、身体を通じて出てくる時に感じられる深みというものがおそらくあって、それを感じたがっているから、人は恐らくコンサートホールに足を運ぶのでしょう。ホールには、ステージの振動のように、かならず倍音成分や共鳴成分があって、それはスピーカーからは出てこない生の音。それを振動体で感じさせてやると、さらにリッチな体験になる。それは耳が聞こえる、聞こえないとは関係がない。この『聞こえる、聞こえない』というのも、我々がしゃべる際に使う周波数域に限られた話で、でもそういうことじゃないんだろうなと思います。もっと複雑で広大な音の波の世界があって、その中の一部だけを使って言葉を発している。その言葉という一部だけを切り出して、『耳が聞こえる、聞こえない』と区別することは、あまり良くないと思っています。例えば、超音波域は聴こえないと思っているけど、骨を伝えれば聴こえるとか、まだみんなで楽しめることは色々あると思ってます。今日も、みんなで『4分33秒』の渋みを味わっていましたよね」

オーケストラ・ジャケットを着て指揮者体験 写真は仲井健人さん

最後は、関係者全員で食事をしながらの打ち上げにも参加させてもらった。試行錯誤を繰り返して、なんとか実現させた苦労話が聞けて楽しい。また、コンサートに参加していた子供達が通う筑波大学付属聴覚特別支援学校教諭の山本カヨ子さんと話すことができた。実現に向けたリハーサルを行った際、めてサウンドハグを体験してした子供たちはずっと楽しそうで、実験が終わっても、なかなか手放したがらなかったそうだ。

この日、本番でオーケストラジャケットを着ていたうちの何人かも同校の子供たちだった。「本当に楽しそうな笑顔で、見ていて嬉しかった。素晴らしい企画だったと思います」と山本さんも笑顔だった。どんな技術も、トライアンドエラーを繰り返さなければ進歩しない。こうした企画に理解を示してくれる人が増えていけば、きっともっと色々な新技術が生まれるのではないだろうか。

8月27日には、『落合陽一×日本フィル プロジェクト VOL.2」が開催されることが決まっている。指揮は海老原光さんで、演出が落合陽一さん。日本フィルの平井俊邦理事長は「まだ落合さんの頭の中にしか計画のイメージはないんですけど、今度はフルオケで、ラヴェルの『ボレロ』などをやります。300年の歴史があるオーケストラも、まだまだ新しい可能性を持っていると思っているんです。楽しみにしていてください」と話してくれた。

開場前には、ヴァイオリンの演奏体験も行われた

今回のプロジェクトは、もしかすると音楽体験の新しい形の第一歩だったかもしれない。プログラムの片隅に、支援者として自分の名前が記されていることが、ちょっと誇らしく思えてきた。

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(文・&マガジン編集部 久土地亮、写真はすべて提供・日本フィルⒸ山口敦)

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