変化の時代の生存戦略論

シルク・ドゥ・ソレイユの舞台に出演しTEDにも登壇! 元“ダメ社員”の「好き」を仕事にする秘訣

  • 尾原和啓・対談連載〈Vol.7〉
  • 2018年5月7日

  

AIが人間を超えていく時代における幸福とは、何か? IT評論家・尾原和啓が、”変化の時代の生存戦略”をテーマに、あらゆる業界のプロフェッショナルを迎え、議論します。

今回のお相手

ヨーヨーパフォーマー・BLACKさん

1982年生まれ。東京都出身。2001年、米国フロリダ州のヨーヨー世界大会で優勝。会社員として一般企業に就職するも、2007年、プロパフォーマーとして独立。ヨーヨー技術だけでなく、バレエやジャズダンス、アクロバットを学び、振り付けにはアニメ、ゲームキャラクターの動きなどを取り入れた。2013年には日本人初のスピーカーとして、『TED』に登壇。2014年、シルク・ドゥ・ソレイユ『KURIOS』に、シルク史上初のヨーヨーアーティストとして出演。

対談の趣旨
「AIやロボットが、人の仕事を代替する」と、うたわれる昨今。その影響からか、「好きなことを仕事にしよう」という風潮が強くなる一方、その具体的なステップや方法が、しっかり議論されていないのではないかと感じます。そこで今回は、実際に「“好き”を仕事に」して活躍するゲストを迎え、誰とも重ならない強みをどう磨けばいいのかについて、お伺いします。

自ら高いハードルを設定し、諦める人たち

尾原 今回のゲストは、ヨーヨー世界大会で優勝、シルク・ドゥ・ソレイユに史上初のヨーヨーパフォーマーとして出演し、さらに日本人初のTEDスピーカーでもあるBLACKさん。次のステージに進むために潔くシルク・ドゥ・ソレイユを辞めるなど、好きなことをやり続ける生き方について表裏を語れる方です。今日は「“好き”を仕事にする秘訣(ひけつ)」をお聞きします。

BLACK ポイントは二つあります。一つは、好きなことを実現するためのハードルを高く見積もりすぎないこと。シルク・ドゥ・ソレイユやTEDに出ることは、実は皆さんが思うほどすごいことじゃありません。確かに、シルク・ドゥ・ソレイユは世界有数のエンターテインメント集団で、同僚にも世界トップクラスのアスリートが大勢いました。だから「人生をかけて努力をしないとたどり着けない場所」と思って、みんなやる前に諦めちゃうんですね。でも、別に仙人レベルまで努力をしないとたどり着けない場所ではありません。僕自身、世間のイメージほど努力をせずに入れた実感がある。だからこそ、やる前に諦めるほどの高いハードルを設定しないことも重要です。

もう一つは、僕に“ある程度の努力”ができたのは、かなり追い込まれていたから。僕は一度、普通の会社員として2年働いたけど、かなりのダメ社員だった。誰にとっても本当にプラスがないことを毎日しているのが非常に苦しかったんです。それで会社を辞めたら、自分には持ち札がヨーヨーしかなかった、というだけです。

尾原 だとしても、シルク・ドゥ・ソレイユ出演やTED登壇とは、会社員時代とのギャップが大きすぎませんか。さらにBLACKさんにとっては、予想を下回る努力でシルク・ドゥ・ソレイユに出演できた。どうして、そこまで跳ね上がることができたのでしょう。

BLACK  初めから「いける」と思っていたわけではないんです。ただターニングポイントがあって。僕が尊敬していたシルク・ドゥ・ソレイユのジャグラーが来日したとき、一緒に食事をすることになったんです。彼はジャグリング界では神様みたいな人。だけど食事の場では、鍋料理も食べるし、トイレにも行くし、この人、神様じゃなくて人間だなと。それで、もしかしたら自分にも、彼と同等とまではいかずとも、ある程度近づけるのかもって思ったんですよ。

さらに、彼に「ダンスを習ったほうがいいよ」と言われて、パフォーマーとしての基礎能力を高めるためにもバレエを始めました。当時25歳。バレエを始めるにはかなり遅いし、運動神経も悪かったのでなかなか踏み切れなかった。でも尊敬していた彼に言われたら、もうやるしかない。翌週にはバレエ教室に入会を申し込んで習い始めました。そしてレッスンに通ううちに、特に背中の柔軟性があるということがわかったんです。

尾原 それであのイナバウアのようなヨーヨーの技が生まれたんですね。

BLACK はい。そんな風に、偶然の産物を見逃さないように拾い集めて、どうにかつくっていった、というのが正直なところです。あとは持ち札が少ないので、少ない資源を最大限に有効活用することは意識しているかもしれません。

尾原 今、アメリカのビジネスシーンでは、BLACKさんのような戦略の作り方をエマージング・ストラテジーと呼んでいます。変化する時代では、何が決め手になるかわからない。だから、もし今いる場所でうまくいかなくても、「自分はダメなんだ」と思考にふたをせず、合わないなら逃げたほうがいいと言われている。そうやって逃げている間に、「この札なら勝てる」ということがわかったら、それを戦略の柱にしたほうが、結果的に時代に柔軟に対応できるようになる。

BLACKさんの持ち技に、ヨーヨーとテーブルクロス引きを掛け合わせたものがあるじゃないですか。あれもまさに持ち札の中から異なる要素をどんどん採り入れ、独自のパフォーマンスを切り開いた事例といえますよね。

BLACK テーブルクロス引きも、なぜか急にぽんと思いついたんですよ。ヨーヨーは細かい技が多いわりに、派手さがなかったりもする。だから一般のお客様にもわかりやすい技ができないかというのは常に考えていて、あるときふと「テーブルクロス引きをやったら面白いかも」と思った。すぐに椅子とペットボトル、薄いスカーフで試したら、なんとか引き抜けて、これはイケると。この組み合わせを技にしたのは、おそらく僕が初めて。そういう実験に対する抵抗感を捨てて、いろんなことを試してきたのが、成功の秘訣かなと。

尾原 オンリーワンの人間になっていくことで、BLACKさんの価値が上がっていくわけですよね。まさに、これからの時代はオンリーワンの人間が一番強い。著述家で奈良市の高校で校長も務めた藤原和博さんは、世の中の0.1%の人になれば、どんな時代でも食っていけるというんですね。単独の技で0.1%になれるのは天才だけ。でも何か異質なものを組み合わせれば1%の人にはなれるかもしれない。さらにその1%同士を組み合わせれば0.01%の人に、三つ組み合わせれば、0.0001%の人にもなれる。それに伴って年収も激増していくと。

BLACK 今の話で言うと、僕の場合はヨーヨーでチャンピオンになるために1万時間を割いて、そのあとにパフォーマーとしての努力に1万時間を割いた、みたいな流れだったかもしれない。

尾原 自分の個性や、オリジナルな要素を掛け算したから実現できたことですよね。

BLACK そうですね。例えばTEDでは、オーディションで“日本人らしさ”を前面に押し出しました。和楽器による音楽や和服でのヨーヨー演技。「日本人初」のスピーカーが選ばれるかもしれない場所で、日本人らしさを出し、かつパフォーマンスを織り交ぜたのは僕だけでした。

TED出演時のBLACKさん

シルク・ドゥ・ソレイユにおいてもそれは同じ。ヨーヨー枠がまだない中で、シルク・ドゥ・ソレイユのクオリティーに達するものを、初めて提供できたのが評価されたのかな、と思いますね。戦略を立てるときに気にしている指針は二つ。一つは法に触れない。もう一つは人に迷惑をかけない。この二つさえ守れば、何をやってもいいと。それくらいの思い切りがないと、弱い札では勝てないと思っています。

「幸せ」の定義は変化し続ける

尾原 そこまでして高みに登ったのに、シルク・ドゥ・ソレイユを簡単に捨てて次のステップに進まれています。なぜ辞めようと?

BLACK 在籍当時を振り返ると、ハードスケジュールの中でも出演に耐えられる体調管理が最優先になり、さらなる成長のための練習時間の確保が難しい状況でした。その状況下でシルク・ドゥ・ソレイユに残留することは、「パフォーマーとしてのピークはここです」と宣言するも同然と感じてしまった。もっと高みを目指したいと思ったのも辞めた大きな理由のひとつです。

尾原 それがBLACKさんにとっての変化の時代を生きていくための決断だったと。

BLACK 物事を選択するとき、「自分にとっての幸せとは何なのか」という基準を持っていくと人生はいい方向にいくと強く思います。僕の場合、シルク・ドゥ・ソレイユを辞めることは、一般的にはもったいないことだったかもしれません。でもそこを離れるのは、自分にとって幸せだ、という答えを見つけたからこそ決断できた。そういう指針があると、人生の転機や時代の変化がきても強いと思う。

それに加えて、自分にとっての幸せの定義は、常に問い続けてほしい。「自分とは?」「幸せとは?」に対する答えは、変化し続ける。だから、自分なりに見つけた幸せ観に違和感を覚えたら、新たに再定義するということも忘れないでほしいですね。

尾原 あとは、弱者の戦法としての、「逃げながらも個性を集め、掛け算していく」ですよね。実はそれが、一番効率がいい。

BLACK そうですね。「逃げる」って、言葉の響きだけだとネガティブな印象もあるかもしれないけど、全然悪いことではない。合わない環境で、無駄に苦しむ必要はないです。

尾原 それは本当に勇気づけられる言葉です。ありがとうございました。

(対談終了)

■プロフィール

BLACK(ぶらっく)
ヨーヨーパフォーマー、シリアルドリーマー
1982年12月20日生まれ。東京都出身。青山学院大学卒業。2001年、米国フロリダ州のヨーヨー世界大会で優勝。会社員として一般企業に就職するも、2007年、プロパフォーマーとして独立。ヨーヨー技術だけでなく身体操作や舞台演出を向上させるべく、バレエやジャズダンス、アクロバットを学び、振り付けにはアニメ、ゲームキャラクターの動きなどを取り入れた。2013年には日本人初スピーカーとして、『TED』に登壇。2014年より、シルク・ドゥ・ソレイユ『KURIOS』に、シルク史上初のヨーヨーアーティストとして出演。ソロ演目を担当し、500回以上のショーに出演。2016年に契約満了。著書に「『好き』をつらぬこう」(PHP研究所)、「TEDスピーカーに学ぶ『伝える力』 魂を揺さぶるプレゼンテーション」(角川学芸出版)。Twitter:@officeBLACK

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PROFILE

尾原和啓(おばら・かずひろ)

IT評論家/Catalyst(紡ぎ屋) シンクル事業長、執筆・IT批評家、Professional Connector、経産省 対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザー。 京都大大学院で人工知能論を研究。マッキンゼー、Google、iモード、楽天執行役員、2回のリクルートなどで事業立ち上げ・投資を歴任。13職目を経て、バリ島をベースに人・事業を紡いでいる。ボランティアでTED日本オーディション、Burning Man Japanに従事するなど、西海岸文化事情にも詳しい。著書に「ザ・プラットフォーム」(NHK出版新書)「ITビジネスの原理」(NHK出版)。近著に「モチベーション革命 稼ぐために働きたくない世代の解体書」(幻冬舎)。Twitter:@kazobara

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