本を連れて行きたくなるお店

ジャズ喫茶はジャズそのもの! 横浜の老舗「ダウンビート」に通う理由

  • 文・写真 笹山美波
  • 2018年4月26日

カフェや居酒屋で、ふと目にとまる、ひとり本を読んでいる人。あの人はどんな本を読んでいるのだろうか……。本とお酒を愛する編集者の笹山美波さんが、お気に入りのお店に連れていってくれます。

  

ネットで音楽を聴くようになってから、CDを買うことやCDショップへ行くことはほとんどなくなった。イケてる音楽について、誰かと議論する機会も滅多にない。

学生の頃は、CDショップの試聴コーナーで足がクタクタになるまで新作を聴いて、音楽好きの友達と曲を流しながら感想や解説を熱く語り合うのが大好きだった。にもかかわらず、いつしか、音楽は1人で楽しむ趣味に変わっていた。

最近、その寂しさを埋められる新たな居場所を見つけた。ジャズ喫茶だ。

  

 

ジャズ喫茶とは、上質な音でジャズを聴きながらコーヒーを飲める素晴らしいお店

ジャズ喫茶は、ジャズのレコードを鑑賞するためのお店。その機能と役割から、存在意義と歴史的変遷までを解説する、日本文化研究者のマイク・モラスキー早稲田大学教授の著書『ジャズ喫茶論』を参考に、ジャズ喫茶とは何かをまず説明しよう。

同著によれば、ジャズ喫茶とは

・最低数百枚のレコード・コレクション
・高音質・高価格なオーディオ・システムが設置されている
・店主・店員がジャズ、とりわけジャズ・レコードに対してかなり詳しい
・ジャズレコードだけを営業時間中、絶えずかけ続ける
・昼間も営業しており、コーヒー一杯だけを注文し、約2時間座っていてもヒンシュクを買うことのないような店

といった条件を満たすお店のこと。

簡単に言えば、上質な音のジャズを浴びながら、のんびりコーヒーやビールを飲むことができる。なんて素晴らしいのだろう! レコードを交換する間の静寂にすら、耳をすましてしまうほどたまらない空間だ。

かかっているレコードはレジ横で確認できる。ダウンビートのターンテーブルはSony TTS-4000とDenon DP-80

 

ダウンビートは、ジャズ初心者も楽しめる”軟派”な老舗

ジャズ喫茶を「居場所」のように感じるのは、音楽友達と集まっていた学生時代の追体験が出来るからかもしれない。色んな人が出入りする環境なのに、絶えず音楽が流れ、同じジャズを通してつながっている感覚がとても心地よい。

ダウンビートは他のどのお店よりも「爆音」で知られており、低音のビートをおなかの底から感じられる。フロアのスピーカーが近くに設置されているテーブル側では、存分にその音を浴びることができる。ゆっくり聴きたい方はこちらへ

特に横浜市中区にある「ダウンビート」には、そんな居心地の良さを強く感じる。1956年創業と歴史ある店だが、3代目店主の吉久さんは32歳と若くフレンドリーであることや、アルバイトの方が皆近隣大学のジャズ研究会に所属しているので、気軽にマニアックな会話ができるお陰もあるだろう。私はまだまだジャズ初心者だが、特にハードルの高さも感じない。

カウンターに座り、流れているジャズが知らない曲だと伝えれば、気軽にお店の方や隣のお客さんが教えてくれる。気に入れば、どんな点が良く感じたかを掘り下げてくれたうえで、関連した楽曲やアーティストも解説付きでお勧めしてくれる。スピーカーが近くにあるテーブル席側へ行けば、1人で曲に浸ることもできる。

ジャズ喫茶といえば、「私語禁止」といった厳格さも有名だが、ダウンビートは創業当時から今までこのように会話が楽しめる「どちらかというと軟派な」ジャズ喫茶として親しまれてきた。一方で、『ジャズ喫茶論』によると「私語禁止」を含む、5つの暗黙のルールが一部の「硬派」なお店にはあったそうだ。

具体的には、「全体としてクールにふるまう」「一生懸命聴いているというボディ・ランゲージをはっきり伝える」「許されるなら、レコード(なるべく珍しくて渋いものが好ましい)をリクエストしたりすること」。守らないと頑固親父のような店主に怒られてしまう。ジャズを若者に教える厳しい「学校」のような場所だったそうだ。

過去形にしたのは、時代が変わったことや、店主も客も歳をとったことで、厳しいルールを設けるお店がほとんどなくなったため。ジャズ喫茶に足を運ぶ人の平均年齢は高くなっている。

  

ジャズのポスターや、ジャズマガジン「ダウンビート」が壁や天井いっぱいに貼られている。ジャズ画家として著名な久保幸造さんの絵も

 

文化が衰退した今も頑張る老舗

「今さらジャズ喫茶って」と感じた人も少なくないかもしれない。『ジャズ喫茶論』によれば、全盛期の50年代末期から70年代半ばには全国に700店もあったが、80年代以降には衰退し始めていた。

当時は「高価なため所有困難なレコード・コレクションと音源をもって異文化の音を聴かせる場」として機能していたが、今やネットの音楽サブスクリプションサービスを使えば、月額1000円ほどで何曲でも聴くことができる。下り調子が加速しても仕方のない時代だ。

それでも、現在もダウンビートのように営業し続けている老舗はいくつもある。常連客によって開かれた新しいお店や、ジャズ喫茶の「定義」には当てはまらないバーや飲食店も含めれば、全国約500店以上はあると聞く。

カウンター側はスピーカーから距離があるため話しやすい。壮観のレコード棚も見ることができる

 

サブスクリプションサービスでは味わえない現場の魅力

話をダウンビートに戻すと、店には約3600枚のレコードがそろっている。リクエストも可能だが、基本は吉久さんやアルバイトの方が客に合わせて曲をかけている。また、吉久さんは「頭に思い浮かべたお客さんが好きそうな、まだ出会っていない曲を聴かせたい」との思いから、日に何枚も新しくレコードを購入しているそう。思えば、足を運ぶたびに聴ける曲が違うのが面白いなと感じていた。見えない努力に頭が下がる。

閉店間際になると、少し好みの分かれる曲や、吉久さんがその日に購入したレコードを試しに流してくれたりする。そんなラフな接し方が嬉しい。他のお客さん持ち込みのレコードがかけられることもある。そんな夜はビールが進んで仕方がない。

サブスクリプションサービスも、システムが曲をお勧めしてくれたり、フォローしている友人の聴いた曲を見たり出来るので、色んな新しい音楽に出会える。けれども、ジャズ喫茶には、その日出会った誰かと曲を勧め合い、それを良質な音で聴く。そんな現場ならではの魅力がある。

最近始めたというホットサンドは750円。店主こだわりのコーヒーにも、キリンラガー・アサヒ・ギネスと取り揃えている3種のビールにも合う

 

ジャズ喫茶はジャズそのものだ!

マイク・モラスキー教授は、かつてのジャズ喫茶が客にジャズを広めるという意味で、“メディア”としても機能したと評していた。老舗ダウンビートは、店と客が一体になってジャズを楽しむコミュニケーション・メディアへ、とその役割を昇華させているのではないだろうか。

そんなことを考えていると、隣りに座っていた常連の方が話してくれた。「ジャズ喫茶はジャズそのものなんです。店主と客が即興で良い空間を一緒に作る。音楽を流し合ったり会話したりして。まさにジャズみたいでしょう?」――。音楽でもあり、コミュニケーションでもある。その両方を楽しめるのがジャズ喫茶だ。

    ◇

ダウンビート
16:00~23:30
月曜定休
http://www.yokohama-downbeat.com/

筆者プロフィール

笹山美波

笹山美波

「東京右半分」に生まれ育つ。編集記者を経て、外資マーケティングサービスのWebプロデューサー、マーケター。ライター。鰻オタク。東京と食に関連する歴史/文化/文学/お店を調べるのがライフワーク。
・ブログ
http://minamii.hatenablog.com/
・Twitter
https://twitter.com/mimi373mimi

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